前世知識は最強!異世界改革!

namisan

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第69話 数字の姫君と、最強の共同出資(ジョイント・ベンチャー)

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 ベルナルド議員の失脚は、ヴェネル共和国に激震を走らせた。
 氷と塩。生活必需品の価格破壊は市民を熱狂させたが、同時に市場のバランスを大きく崩したからだ。
 数日後。
 俺はシルヴィオ邸の一室で、大量の羊皮紙と格闘していた。
「……塩の価格が暴落しすぎて、他の食料品の相場まで乱れている。急激すぎる変化は毒だ」
 破壊するのは簡単だが、新しい秩序を作るのは難しい。
 俺が頭を抱えていると、扉がノックされずに開いた。
「計算が合わない顔をしてるわね、神童様」
 入ってきたのは、深紅のドレスを纏ったカテリーナだ。
 彼女は俺のデスクの前に立つと、一枚の書類をバンと叩きつけた。
「これを見て。塩の適正価格への戻し案と、失業者が出たベルナルド派の運送業者を、あなたの『製氷・製塩工場』で雇用するための再配置計画よ」
 俺は書類に目を通した。
 完璧だ。
 需要予測、人件費、輸送コスト……全てが緻密な計算式で導き出されている。俺が半日かけてやろうとしていたことを、彼女はすでに終わらせていた。
「……すごいな。君がやったのか?」
「当たり前でしょ。私はロレンツォ総督の孫娘よ。この国の数字は全て頭に入っているわ」
 カテリーナはふんぞり返ったが、すぐにその表情を曇らせた。
「でも……悔しいわ」
「え?」
「あの『廃熱利用』のシステム。……言われてみれば単純な熱力学の応用よ。どうして私は気づかなかったのかしら。私の負けよ」
 彼女は唇を噛み締めている。
 プライドの高い天才少女にとって、自分の庭(ヴェネル)で他国の少年に知恵比べで負けたことが許せないらしい。
 俺は苦笑し、椅子から立ち上がった。
「勝ち負けじゃないさ。それに、この計画書を見れば分かる。君は『守り』と『運営』の天才だ。……俺は新しいものを作るのは得意だが、それを維持管理するのは苦手でね」
 俺は右手を差し出した。
「カテリーナ。俺と組まないか?」
「……はあ? どういう意味?」
「エルガレアとヴェネル。二つの国を跨ぐ巨大な『貿易商社』を作る。俺が商品を開発し、君がそれを売り、管理する。……世界を相手にしたビジネスだ」
 カテリーナの瞳が大きく見開かれた。
 世界。
 その言葉の響きに、彼女の商魂(および野心)が反応したのが分かった。
「……条件は?」
「出資比率は50対50。利益は折半。ただし、ヴェネル支部の経営権は君に任せる。……どうだ?」
 彼女は俺の手を見つめ、少し考えてから……ニヤリと、小悪魔的な笑みを浮かべた。
「乗ったわ。ただし、条件が一つ」
「なんだい?」
「私のことは『カテリーナ』と呼び捨てにすること。それと……週に一度は、私と『数学の難問』で勝負すること。退屈させたら契約破棄よ?」
「……手厳しいパートナーだね。分かったよ、カテリーナ」
 ガシッ。
 俺たちは強く手を握り合った。
 ここに、エルガレアの技術力と、ヴェネルの商才が融合した『エルガレア・ヴェネル通商連合(EV商会)』が誕生した。
 ***
 それから数週間。
 カテリーナの手腕は凄まじかった。
 彼女は混乱していた市場をわずか数日で鎮静化させ、リック印の冷蔵庫や鏡、塩の流通ルートを確立。
 さらに、シルヴィオ議員をうまく使い、議会の承認まで取り付けてしまった。
 アリアからの定期便も到着し、ヴェネルの港はエルガレア製品で溢れかえっている。
 全ては順風満帆に見えた。
 だが。
 ある日の夕方、EV商会のオフィスに、顔色の悪い船乗りが駆け込んできた。
「た、大変です! カテリーナお嬢様、リック代表!」
「騒々しいわね。どうしたの?」
 船乗りは、息を切らせて報告した。
「東の航路が……『海賊』に封鎖されました!」
「海賊? ヴェネルの海軍がいる海域で?」
「ただの海賊じゃありません! 奴ら、見たこともない『黒い火を吐く船』を使って……護衛艦を一瞬で沈めちまったんです!」
 俺とカテリーナは顔を見合わせた。
 黒い火を吐く船。
 それは、ただの盗賊の仕業ではない。
 その背後に、高度な技術を持つ「国家」か「組織」の影を感じさせた。
「……来たか」
 俺は窓の外、東の水平線を見つめた。
 ヴェネルでの成功は、世界中の注目を集める。それは、新たな敵を呼び寄せるということだ。
「カテリーナ。……数字合わせの時間は終わりだ。次は『戦争(防衛戦)』の準備が必要かもしれない」
「……上等よ。私の商売の邪魔をする奴は、海賊だろうが帝国だろうが、一銭残らずむしり取ってやるわ」
 天才少女の目が、危険な光を帯びて輝いた。
 外交編は、ここから海を舞台にした、より大きな争乱へと突入していく。
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