前世知識は最強!異世界改革!

namisan

文字の大きさ
71 / 71

第71話 炎を喰らう白き泡――対焼夷弾・防火戦艦『ネプチューン改』

しおりを挟む



 ヴェネル海軍工廠(こうしょう)。
 そこには、ヴェネルが誇る最新鋭ガレオン船『海神(ネプチューン)号』がドック入りしていた。
 全長50メートル、3本マストの美しい船だ。

 だが今、その優美な姿は、無骨な配管とタンクによって変貌を遂げつつあった。

「……おいおい、正気か? 船体に穴を開けてパイプを通すなんて」
「これじゃあ美学が台無しだぞ!」

 船大工たちが悲鳴を上げる中、リックは図面を片手に指示を飛ばしていた。

「美学で飯は食えませんよ。……急いで! 船首と船尾、そして両舷(りょうげん)に『ミスリル製・高圧放水砲(ウォーター・キャノン)』を設置だ!」

 リックが持ち込んだのは、アリアの農業用水路建設で活躍した「魔導ポンプ」の改良型だ。
 これを船の心臓部に据え付け、海水を汲み上げ、圧縮して噴射する。

 ***

「いいか、相手の武器は『油』だ」

 リックは、集まった船員とカテリーナに説明した。

「水をかければ消えると思うな。油は水より軽い。水をかければ、燃えたまま油が広がり、かえって火の海になる」

「じゃあ、どうするのよ? 燃やされるのを待つだけ?」
 カテリーナが不安げに尋ねる。

「そこで、これを使う」

 リックが指差したのは、甲板に設置された巨大なタンクだ。中には、ドロリとした白い液体が入っている。

「名付けて**『消火用魔法泡(ケミカル・フォーム)』**だ」

 中身は、アリアで量産した石鹸(界面活性剤)をベースに、重曹(炭酸水素ナトリウム)と、ある種の植物エキス(起泡剤)を混合した特製液だ。

「こいつを海水と混ぜて放射すると、空気に触れて猛烈に泡立つ。……この泡が油の表面を覆い、空気を遮断するんだ」

 『窒息消火』。
 酸素を断てば、どんな猛火も消える。
 リックは、現代の空港やコンビナートで使われる「泡消火設備」を、この木造船に実装しようとしていた。

 ***

 さらに、リックはもう一つの防御策を用意していた。

「セバス、『ウォーター・カーテン』のテストだ」
「御意」

 セバスがポンプの出力を上げた。
 すると、船のへり(舷側)に取り付けられた無数のノズルから、霧状の水が噴き出し、船体全体を水の膜で包み込んだ。

「すげえ……! 船が水の鎧を着たみたいだ!」

「常に船体を濡らしておけば、ナフサが付着しても木材まで熱が伝わらない。……これで防御は完璧だ」

 攻撃用の高圧放水砲。
 防御用のウォーター・カーテン。
 そして切り札のケミカル・フォーム。

 美しいガレオン船は、無数のパイプが張り巡らされた、異形の『消防戦艦』へと生まれ変わった。

 ***

 翌朝。
 出撃の時が来た。
 港には、不安げな表情の市民と、ロレンツォ総督が見送りに来ていた。

「リック殿。……頼んだぞ。ヴェネルの未来は、その船にかかっている」
「お任せを。……カテリーナ、計算は済んでいるな?」

 隣に立つカテリーナは、航海図と計算尺を握りしめていた。

「ええ。敵の出現予測ポイント、風向き、海流……全て頭に入っているわ。私たちが負ける確率は、計算上ゼロよ」
「頼もしいね」

 リックは操舵輪を握った。
 隣には、戦闘指揮を執るセバスが控える。

「総員、配置につけ! 魔導エンジン、始動!」
「アイアイサー!!」

 ブオオオオオオッ……!!

 魔導ポンプの重低音が響き、スクリュー(帆走とのハイブリッドだ)が水を噛む。
 『ネプチューン改』は、白波を立てて港を出た。

 目指すは東の海域。
 そこには、無敗を誇る「黒い海賊」艦隊が待ち受けている。

「……さあ、掃除の時間だ。海を汚す害虫どもを、泡と一緒に洗い流してやる」

 リックの瞳が、静かに燃え上がった。
 科学と魔法の融合艦隊、最初で最後の海戦が始まろうとしていた。

しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

中島友利奈
2026.01.31 中島友利奈

セバスめちゃくちゃかっこいい♡
素敵すぎるヾ( 〃∇〃)ツ キャーーーッ❤

解除
ぴ~助
2026.01.25 ぴ~助

セバスさん…かっこいい(*´>ω<`*)

解除

あなたにおすすめの小説

転生貴族の領地経営〜現代知識で領地を豊かにして成り上がる

ファンタジー
ネーデル王国の北のリーディア辺境伯家には天才的な少年レイトがいた。しかしその少年の正体は現代日本から転生してきた転生者だった。 レイトが洗礼を受けた際、圧倒的な量の魔力やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のレイトを辺境伯領の北の異種族の住むハーデミア領を治める領主とした。しかしハーデミア領は貧困に喘いだ貧乏領地だった。 これはそんなレイトが異世界の領地を経営し、領地を豊かにして成り上がる物語である。

異世界転生した女子高校生は辺境伯令嬢になりましたが

ファンタジー
車に轢かれそうだった少女を庇って死んだ女性主人公、優華は異世界の辺境伯の三女、ミュカナとして転生する。ミュカナはこのスキルや魔法、剣のありふれた異世界で多くの仲間と出会う。そんなミュカナの異世界生活はどうなるのか。

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

近未来の魔法世界に転生して最強ハーレムを作る

こうたろ
ファンタジー
トラックの直撃で死亡。「君は選ばれた。異世界へ行く資格を得たのだ」とか言われてとりあえず転生させられたクルト。公爵家だけど四男だし魔術があるけど魔力量判定Eでほぼほぼ使い物にならないし……魔物1体倒すのも一苦労。俺の転生後生活、大丈夫か?

転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚

熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。 しかし職業は最強!? 自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!? ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。

没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~

namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。 かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。 海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。 そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。 それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。 そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。 対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。 「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」 アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。 ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。 やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。 揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。