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第24話 教会への強襲と雷鳴の回廊
しおりを挟む帝都北区の外れ、朽ちかけた廃教会。
夜闇に沈むその建物は、一見するとただの廃墟だ。だが、アレクの【魔導偵察機(ドローン)】が捉えた映像によれば、祭壇の裏に地下への隠し階段が存在する。
静寂を破ったのは、闇を切り裂くヘッドライトの光束だった。
ブオォォォォォンッ!!
V型八気筒エンジンの咆哮と共に、黒塗りの巨体――【魔導乗用車(リムジン)】ファントムが、トップスピードで石畳を滑走してくる。
「アレク!? ブレーキ踏んでないわよ!?」
助手席のエレノアが悲鳴を上げる。
「踏むわけないだろう。……ここは『入り口』だ!」
アレクはハンドルを強く握りしめた。
教会の正面にある、厚さ十センチはあるオーク材の扉。魔力による強化が施されているはずだが、今のファントムの運動エネルギー(質量×速度の二乗)の前には紙屑同然だ。
「――衝撃吸収(ショック・アブソーブ)最大出力!」
ドガァァァァァァンッ!!
轟音と共に、教会の扉が蝶番(ちょうつがい)ごと吹き飛んだ。
ファントムは瓦礫を跳ね飛ばしながら聖堂内へ突入し、祭壇へ向かって直進する。
「祭壇の裏だ! 隠し扉ごとブチ抜くぞ!」
アレクが叫ぶと、車体前面に展開した【多重魔力障壁(シールド)】が青く発光した。
ズドォォン!
石造りの祭壇が粉々に砕け散り、その背後に隠されていた鉄の扉が飴細工のようにひしゃげて吹き飛んだ。
車体は勢いを殺さず、地下へと続くスロープを滑り落ちていく。
キィィィィィッ!
地下広場に到達した瞬間、アレクはサイドブレーキを引き、ステアリングを一気に切った。
ファントムが横滑り(ドリフト)しながら百八十度回転し、敵の増援部隊の目の前でピタリと停止する。
「な、なんだ!? 敵襲か!?」
「車だ! いや、鉄の塊が降ってきたぞ!」
地下を守っていた私兵たちと、数体のキメラ・ソルジャーが混乱に陥る。
「……総員、下車! 制圧射撃開始!」
アレクの号令と共に、四つのドアが一斉に開いた。
降り立ったのは、黒い魔導繊維のスーツに身を包んだ美女たち。その手には、不気味なコイルが巻かれた長銃『雷牙(ライガ)』が握られている。
「撃てぇッ!」
私兵の一人が号令をかけ、キメラたちが咆哮を上げて突っ込んでくる。
だが、それよりも速く、女たちの指が引き金を引いた。
パシュッ! ズドンッ!!
発砲音は小さい。だが、着弾音が異常だった。
シルヴィアが放った一撃は、先頭のキメラの胸部を貫通し、背後の石壁まで吹き飛ばした。
火薬の爆発ではない。電磁力で加速されたミスリル弾が、音速の三倍で空気を切り裂く衝撃波(ソニックブーム)だ。
「なっ……魔法障壁が効かない!?」
魔導兵が展開した防御魔法ごと、弾丸は兵士の肩をえぐり取った。
物理的な質量弾による超高速貫通攻撃。魔力抵抗など関係ない。
「あら、これ凄いですわね! 狙ったところに吸い込まれるようですわ!」
ベアトリスが嗜虐的な笑みを浮かべ、次々とトリガーを引く。
彼女の射撃は正確無比。逃げ惑う研究員の足元を撃ち抜き、あるいは武器を持つ手だけを弾き飛ばす。
「ひいぃっ! あ、悪魔だ!」
「あら失礼ね。侯爵夫人ですわよ?」
ベアトリスは優雅にリロード(魔力充填)を行いながら、戦場を支配していく。
「セシリア、エレノア! 右翼を頼む! 俺とシルヴィアで中央を突破する!」
「了解ですわ、アレク様」
セシリアは銃を構えつつ、左手で氷魔法を放つ。
カチリ。
通路の床が一瞬で凍結し、増援の兵士たちが足を滑らせて転倒する。そこへ、エレノアが目を瞑りながら乱射する弾丸が雨あられと降り注ぐ。
「きゃああっ! 当たって! 当たんなさいよ!」
エレノアの射撃は粗いが、コイル・ライフルの連射性能と破壊力がそれを補う。転倒した兵士たちの武器や鎧が次々と粉砕されていく。
アレクはシルヴィアと共に、最短距離で最奥の制御室を目指して走った。
前方から、大型のキメラ――オーガベースの巨体が立ちはだかる。
「グォォォォッ!!」
丸太のような腕を振り上げるキメラ。
だが、アレクは足を止めない。
「シルヴィア、合わせろ!」
「はいッ!」
二人は同時に銃口を向けた。
狙うのは一点。キメラの眉間、魔石が埋め込まれている制御核だ。
ドシュッ!
二発の弾丸が、全く同時に同じ一点に着弾した。
硬質な頭蓋骨と装甲皮膚が、二重の衝撃で粉砕される。
キメラは悲鳴を上げる間もなく、頭部を破裂させて崩れ落ちた。
「……見えたぞ。あの扉の奥だ」
アレクは廊下の突き当たりにある、分厚い鉄扉を指差した。ドローンの映像で見た場所だ。
その時、鉄扉のスピーカーから、聞き覚えのある男の声が響いた。
『……よく来たな、ドブネズミ共。まさか正面から突っ込んでくるとは思わなかったぞ』
第一王子カイザーの声だ。余裕ぶってはいるが、その声には焦りが混じっている。
『だが、ここまでだ。……余の最高傑作の餌食となるがいい』
ゴゴゴゴゴ……ッ。
通路の天井が開き、巨大なカプセルが投下された。
ガラスが割れ、緑色の液体と共に現れたのは、異形の怪物だった。
身長三メートル。全身が黒光りする甲殻に覆われ、四本の腕にはそれぞれ違う武器(剣、斧、槍、鉄球)が握られている。背中からは無数の触手が生え、先端からは毒液が滴っている。
【殺戮兵器(タイプ・ベルセルク)】。
カイザーが誇る、対軍殲滅用の生体兵器だ。
「グルルルル……」
ベルセルクが低い唸り声を上げ、四つの赤い複眼でアレクたちを睨む。
そのプレッシャーは、これまでのキメラとは桁違いだった。
「……硬そうですね」
シルヴィアが冷や汗を流しながら銃を構える。
「ああ。ミスリル弾でも、あの甲殻を貫通するのは骨が折れそうだ」
アレクは銃を背中に回し、代わりに腰の高周波ブレードを抜いた。
「だが、切れないものはない。……シルヴィア、援護を頼む。俺が懐(ふところ)に入って解体する」
「了解しました。……ご武運を」
アレクが地面を蹴ったのと同時に、ベルセルクの四本の腕が一斉に襲いかかってきた。
物理法則を無視した多重攻撃。
だが、アレクの瞳は青く輝いていた。
――構造解析・予測演算。
敵の筋肉の動き、魔力の流れから、攻撃の軌道を瞬時に読み取る。
ヒュン!
鉄球を紙一重でかわし、槍を剣で受け流す。
ここからが、アインハルト領の技術の見せ所だ。
アレクは、スーツのポケットから小さな金属球を取り出し、敵の足元へ投げつけた。
カッ!
強烈な閃光(スタングレネード)が炸裂し、ベルセルクの動きが一瞬止まる。
「そこだッ!」
アレクは踏み込み、振動する剣を逆手に持ち替えた。
狙うは、甲殻の隙間。関節部だ。
ブォォォォォ……!
高周波の刃が、硬い甲殻をバターのように切り裂き、右腕の腱(けん)を断ち切る。
「グギャァァァッ!?」
怪物が悲鳴を上げる。
その隙に、後方からシルヴィア、エレノア、セシリア、ベアトリスの一斉射撃が襲う。
関節を失って動きの鈍った巨体に、四方八方から弾丸が突き刺さる。
「トドメだ!」
アレクは跳躍し、ベルセルクの頭上を取った。
剣を両手で構え、魔力を最大出力で流し込む。
「――超振動・断罪斬り(ギルティ・ブレイク)!!」
振り下ろされた刃は、ベルセルクの硬い頭蓋を、脳天から股下まで一刀両断にした。
ズンッ。
左右に分かれた巨体が、左右に倒れ伏す。
アレクは着地し、剣の血糊(ちのり)を振って納刀した。
「……最高傑作が聞いて呆れるな」
彼は静かに、震える鉄扉へと歩み寄った。
「さあ、カイザー殿下。……年貢の納め時ですよ」
アレクが手をかざすと、扉のロック機構が内側から破壊され、重い音が響いて開き始めた。
その奥には、顔面蒼白でへたり込む第一王子の姿があった。
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