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少年期・学園編
2-1 魔王様、入試に行く
しおりを挟む「き、緊張してきた」
「エルリック様、お身体の具合が優れませんか!?」
今日はいよいよ、レクレイスター王立魔法学園の入学試験の日だ。
ペーパーテストと、魔法実技と、武術実技。
どれか一つでも受かれば合格とはいえ、流石にドキドキしてしまうな。
「プリュムは緊張しないのか?」
「私はこの日のために、エルリック様と一緒に勉強致しましたから。自信をお持ちください、エルリック様!」
「そうは言われても、まだまだ俺は知識が足りない気がするし、覚えたことだってド忘れするかもしれないし!」
「落ち着いてくださいエルリック様! リラックスするために、ハーブティーをお持ちしましょうか?」
「ああ。頼むよ」
ダメだ。緊張すると思考が全てネガティブになってしまう。
「ニャー」
「お、カレノ・・・カレン。心配してくれるのかー、可愛いやつめー」
この子供なのにどことなくエレガントな印象の猫は、カレンだ。
あの王都襲撃の日に、道端で俺が拾ってきたペットだ。
正確には、拾ってきたなのかどうかは怪しいところだが。
「ンニャ!ニャニャ!(魔王様! ファイトですわよ!)」
な、中に人なんていないのだ。
真相は、闇の中に葬っちゃえ。
ぽいっとね。
「応援してくれてありがとな、カレン。よし、気合い入れるか!」
バタン! と、ノックも無しに扉が勢いよく開かれた。
「エル君! 緊張してないかい? お姉ちゃんがエル君の緊張をほぐしに来てあげたよ!」
手をわきわきさせながら近づくのはやめなさい、アイリス。
「アイリス、一足遅い。既に緊張は無くなった」
「な、エル君は流石だな~。あたしも負けていられないね。剣技でトップの成績を取って、カッコいいところ見せちゃうんだから!」
「あーはいはい、頑張ってな。アイリス」
「あふん。いつにも増して、エル君の冷たい視線がたまらないよ!」
姉のアイリスは十歳になり、変な性癖に目覚めつつあるようだ。
多分俺のせいだが、気づかないふりをしておこう。
姉の性癖に責任は持たない。
タイミングを見計らったように、次の姉が来たようだ。
「おはようエル君。今日はいよいよ魔法学園の入学試験ですね! メリーナお姉ちゃんも頑張るから、エル君もベストを尽くしてくださいね!」
「おはようメリーナ姉様。うん、俺もメリーナ姉様に負けないように、全力で試験に挑みます!」
今日もメリーナ姉様は、しっかりとしたお姉ちゃんだ。
たまにヤンデレ化するが、普段は誰もが羨む完璧で最高の姉だ。ヤンデレ化は怖いが。
八歳になってより一層可愛らしさが増したな。
アイリスも元気印って感じで愛嬌満点だ。
しかしメリーナは既に姉のアイリスより大きいのだ。
どこが、とは言わないが、目覚ましい成長を遂げているのだ。
チラッと、扉が開いていることを確認して入って来る可愛い子がいた。
「兄さま! ボクもがんばるからね! まほうで入学してみせるよ!」
「ミルシャは魔法が得意だから大丈夫だ! お兄ちゃんが教えたこと、ちゃんとできるよな?」
「うん! ボクは兄さまの言いなりだよ!」
違う、そうじゃない。意味を間違って使ってるだろ。いや、間違ってないのか?
おぅ、分からなくなってきた。
「エル君。こんな純情な子を・・・いじめるならあたしだけにして!」
「エル君のロリコン、エル君のロリコン、エル君のロリコン・・・」
「アイリス。マゾ発言はやめてくれ。違うからな。メリーナ姉様、そもそもミルシャと俺は同い年です。ロリコンじゃないですから」
「あたしはマゾじゃないよ! ちょっとエル君に冷たくされたり、いじられたりするのが好きなだけなんだから!」
それがマゾなんだよ、アイリス。
「でもエル君、例え同い年でも歳上でも、相手の幼いと感じる部分が好きだったらロリコンですよ?」
なかなか勉強しておるな、メリーナ。
「まあまあ、俺はメリーナ姉様もミルシャも好きですから」
「はぅぅ! あ、ありがとです。エル君」
「ボクも兄さま大好き! 両思いだね!」
「エル君、あたしは? ねぇあたしは?」
「正直に言うとアイリスは調子に乗るからなぁ。きらーい」
「エル君ったら、ツ・ン・デ・レ! お姉ちゃんのこと好きなくせに!」
ああ。こいつ絶対母さんの子供だわ。
これ以上は成長して欲しくないところだ。
こんなところも可愛いとか思ってる自分がいるけどな。結局は普通に好きなんだよな。
「エルリック様、お茶を用意致しました。お嬢様方もいらっしゃると思い、皆様のお好みのお茶をご用意しておりますよ」
「お、悪いな。ありがとな」
「さっすがプリュム! ありがと!」
「プリュム、どうもありがとう。エル君も一緒に飲みましょう」
「ボクね、プリュムのお茶、好き! いつもありがとね!」
「はい。どういたしまして」
プリュムは十一歳になって、少しずつ色気が出てきたからな。
悪い虫が寄り付かないようにしっかりガードしないと。って、何を考えてるだ俺は。
「うふふ。美味しいですか? エルリック様」
「あ、ああ。いつも通り、めちゃくちゃ美味いよ」
なんか仕草の一つ一つまでドキッとさせられる。ほんと、成長してるよなー。
だが、残念なことに、成長していない部位もあるんだが。ま、まあ、これから大きくなるだろう。無論、どこが、とは言わないが。
「エルリック様? 私のどこを見ていらっしゃるんですかね?」
おっと、危ない。地雷を踏むところだった。
プリュムは一度悲観的になったら、なかなか立ち直りが遅いから気をつけないといけない。
「それでは、そろそろ学園に向かうとしましょう。エルリック様、お嬢様方、忘れ物はございませんか?」
「大丈夫だ。うー、また緊張してきたなー」
「バッチリだよ!」
「問題ありません」
「忘れものナシ!」
さあ、いよいよ試験会場へと向かうとするか!
◇
レクレイスター王立魔法学園。
毎年恒例となっている入学試験の風景を眺める町の人々の目はあたたかい。
もうかなり成長してきて入学試験の年齢ギリギリの者もいれば、その横を自信満々の顔で通り過ぎる八歳くらいの少女も見られる。
ボロボロの衣服を着ている貧乏そうな庶民もいれば、豪華な服を着て腰には輝かんばかりの剣を下げた貴族も同じ道を歩く。
お付きのメイドや執事を連れ立って歩く者もいれば、中には侍女の付いた王族だって同じ場所に向かっているのだ。
学園に身分差はなく、年齢も関係ない。
ここで求められるのは、知力と武力と魔力。
つまりは実力だけだ。
だが様々な学生候補の中でも、目立ってしまう者がいる。
先ほどの王族もそうだが、今回の噂の種になりそうなのは、入学年齢を達しているのか疑問に思えるくらいの受験生だ。
その集団の中で、二人は十歳前後であり、妥当な年齢だ。
もう一人は八歳くらいで少し幼いまでも、その年齢の受験生は例年で二十人ほどはいるので、目立つことはない。
だが、明らかに幼児が混じっていては、それは目立ってしょうがないだろう。
最低受験可能な年齢は五歳だが、それはお試しで受けさせるにしても幼い年齢だ。
お試しは七、八歳くらいのときが妥当であり、まだ勉強を始めたばかりの子供が、正式な試験を受けるのは早すぎると親が笑ってしまうだろう。
だが、受かる自信満々に歩く女の子が、隣の男の子と手を繋ぎながら、堂々と闊歩している。
加えてその女の子と同い年に見える男の子も、緊張して吐きそうな顔をしながら学園に向かっている。
「可愛らしい仲良しさんだこと。もし受かっちゃったら、私と同級生になっちゃうのかしら。少し楽しみね」
「姫様。男の子に手を出してはいけませんよ」
「あのねぇ、そんくらい分かってるわよ! ちょっと可愛いなって思っただけじゃない!」
「失礼致しました、姫様」
それぞれの思いを胸に、試験はいよいよ開始される。
だが、ここにいる誰もが、この中に化け物が潜んでいることなど考えてもみなかっただろう。
自重を忘れた化け物がやらかすまで・・・あと三時間。
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