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少年期・ギルド編
3-2 魔王様、SSS?
しおりを挟む「レクレイスター王都、冒険者ギルド長のエーリンテです。君が冒険者のエルさんで間違いないでしょうか?」
「はい、そうです」
冒険者名がエルのエルリックは、素直に返事をして軽く頷いた。
冒険者ギルド長と名乗ったエーリンテは、いつぞやの深紅の髪をしたお姉さんであった。
確か王都がカレノアのアンデッドに襲われかけていたときに話しかけられたな。
優しい冒険者だなー、くらいに思っていたのだが、まさかギルド長だったとは考えてもみなかった。
「君とは一度会ったことがありましたね。あの時は子供扱いしてしまって申し訳ありませんでした」
「え、頭を上げてください。俺はまだ五歳ですから子供扱いされても普通ですよ!」
それに俺も子供だと思われていたから、適当に子供っぽく受け答えした気がする。
しかしエーリンテさんのこの反応、まさか俺が元魔王だということがバレたとか?
平和的解決が望めないなら、行方をくらます準備もしないといけないかもな。
「五歳? え、五歳でガイツさん倒したの? あ、倒したんですか?」
「ガイツ? 誰ですかそれ? あと俺まだ子供ですから、無理に敬語を使わなくてもいいですよ」
「あ、ありがとう。じゃあ敬語はやめるね。で、ガイツさんって勝手に試験官やったムキムキの筋肉馬鹿なんだけど分からないかな? 君が彼を氷漬けにしたと、報告を受けたんだけどな」
はっ、しまった。
氷漬けにしたまま放置して受付まで戻ったんだった。
となるとガイツという人が、俺のことを訴えてきているのかもしれない。
あのときは急いでダンジョンに向かいたかったから、試験官への配慮まで考えが及ばなかったな。
これは反省しないといけない。
「あの、ガイツさんって人が怒ってるんでしょうか? その人が『お前なら頑張ればBランクスタートできるかも』とか、そんな感じのことを言ってたので、ついついやり過ぎてしまったんですよ。申し訳ありません」
「ぷっ、ふふふ、あははははは!! はぁはぁ、お腹いたいよぉ!」
机をバンバン叩いて笑い出してしまったエーリンテを見て、急にどうしたと思うエルリック。
ソファーの両隣に座っているカレノアとエルビナも、不思議そうにエーリンテを見てポカンとしている。
一人だけ座らずにエルリックの斜め後ろくらいで待機しているリラシャまで、怪訝な顔つきになってしまった。
「あ、ごめんなさい。ついつい面白くて笑っちゃった。Bランク、うんうんそうかー、Bランクにねー」
爆笑し終わったら、次はニヤニヤし始めたエーリンテ。
エルリックはエーリンテの変わりっぷりを見て、優しく綺麗で大人っぽいというイメージが崩れてしまいちょっとだけがっかりしていた。
「ねえエルさん、ガイツさんが約束したみたいだからBランクになれるけど、なりたい?」
「うーん・・・はい。高ランク冒険者とか憧れるところはあるので、なれるならなりたいです」
「うん、じゃあ君、今日からSランクね。君が倒したガイツさん、Sランク冒険者だから」
「へ? いやいやいやいや、ないないないない。そこそこ強い人だとは思いましたけど、そんな強いと思えませんよ。からかわないでください。嘘ですよね?」
「ぶはっ! あははははは! 五歳の子供に『そこそこ』だって! もうお腹いたいよぉぉぉ!」
マジか、マジなのか?
あの人、近衛騎士団長のモールより弱いぞ。
そんなんでいいのか、Sランク冒険者。
もっと強いものだと思ってたんだが、これじゃあこの国で最強は(うちの家族を除いて)モールということになってしまう。
この国、ドラゴンに襲われたら簡単に滅びるんじゃないか?
最高戦力が弱過ぎだ。
いや、ガイツがたまたまSランクの中でも弱いならまだ救いがあるのか。
「はあ、はあ。ウチ、久しぶりにこんな大笑いしたよ。エルさん面白いね。じゃあ、勝負しようか? 私がエルさんの強さを見極めさせてもらう。一応私、これでも現役でSランクだから。あ、ガイツさんよりはちょっと強いよ」
「試験追加ですか? 遠慮しておきますよ。もうBランクでも今のランクでも構わないので、モンスターの解体と買取をしてもらえませんか? 今日はそのためにギルドに来たんですよ」
「そうだったんだ。すぐに呼び出したから受付も聞いてなかったんだと思う。ごめんなさいね。じゃあ先に買取をさせてもらうよ。解体と言ってたけど、モンスターの死体はあるかな?」
俺のは空間収納にばっちり入ってる。リラシャたちも同じように空間収納が使えるんだよな。
まあ、まずはリラシャたちが狩ってきたモンスターを先に出そうか。
「はい、どこで出したら良いですか? みんなも出す用意しておいて」
「では解体場で出してもらえる? あそこは倉庫の役割も兼ねているから、どんなに大きい魔物でも、量が多くとも大丈夫よ」
解体場に移動した俺たちは、早速モンスターを取り出すことにした。
いい肉がいっぱい手に入ればいいな。
お肉をたっぷり入れたカレーというのも、素晴らしいからな。
ララに頼んで贅沢に何種類も入れてもらおうか。
あーもう、待ちきれないな!
「まずはリラシャから成果を発表してくれ」
「分かりました、ご主人様!」
リラシャが狼やら鳥やらのモンスターを出していった。
「ちょちょちょ、ストップ! いったいどれだけ狩ったの!? なんかコカトリスとか混ざってるんだけど・・・」
「まだ半分も出していないのですが・・・」
リラシャは数を多めに狩った感じか。
ランクは分からないけど、弱くはなさそうなモンスターが山のように積もっていた。
「解体したお肉だけこちらにもらえますか? 料理に使いたいんで」
俺が平然とお肉欲しい発言をしたら、エーリンテに「こいつ頭大丈夫か」とでも言ってそうな表情で見つめられた。
なんだ? どした?
「あのですね、エルさん。見た感じこのモンスターの山にはSランクモンスターがかなり混ざっているんですよ。それをポイポイ出されて平静を保てますか? おかしいですよ」
敬語に戻ってるんだが。まあいいか。
「うちのリラシャは強いので、それくらいは当たり前じゃないですか?」
「エルさん、これだけで金貨何枚いくと思いますか? 肉の買取を抜きにしても素材だけで白金貨いきますよ。このモンスターたちが全部攻めてきたらレクレイスター王都が100回くらい滅びます」
レクレイスター王都は一つしかないから一回しか滅びないと思うんだが。
まあ、大袈裟に例えているんだろうな。
「お金はたくさん貰えるなら貰っておきたいですが、今求めているのは肉です。とにかく肉が欲しいんですよ」
決して食いしん坊キャラではないが、無性に食べたくなっているのは事実だ。
よって、早くミートプリーズ!
「もう何を言っても理解してもらえませんか。これで半分いかないって、あと半分以上も同じ感じなんですか?」
「あ、これはリラシャだけですよ。もう二人も同じように強いモンスターを狩ってくるように言っておきましたから」
「パーティー全員がインベントリ持ちなんですか!? はあ、他にもSランクうじゃうじゃ持ってきたということですね?」
「ランクは知りませんが、多分それくらいのはみんな狩ってきたんじゃないですかね。カレノア、なんか出してみて」
「はいですわ! まずは最初に倒したコレですわ!」
ドン、と蛇のような魔物が取り出された。
デカイなー。何十メートルあるんだ?
下手したら全長100メートルを超えちゃってるな。
「なんてもの狩って来たんですか!? SSランクのモンスターですよ!? 人間じゃ勝てないですよ!?」
いやいや、勇者ならこれくらい余裕だったぞ。
勇者は人間だったから、エーリンテの今の 発言嘘だな。
「これより強いのをいっぱい持ってきていますわよ。まだまだ前菜ですわ」
「心臓が止まりそうです。エルさん助けてください」
「俺に助けを求められても困るんですが」
それからエルビナも混ざって成果発表会になったが、ギルド長は終始白目になっていた。
解体の職員さんは顔を引きつらせながら「今夜と明日も徹夜かよ」とこぼしていたが、俺が「素材とかは時間かかってもいいのでとりあえず美味しい肉だけ先にください」と言ったら、少し顔色が回復した。
その場で高速解体を見せてくれて、職員さんオススメのモンスターの肉だけ先に渡してくれた。
「では、ありがとうございましたー。また来ますねー」
「SSSが・・・SSSがぁ・・・」
「おう。久々の大仕事だぜ。他の魔物の肉も素材も一週間くらいで解体し終わると思うから、そんくらいに来てくれ。壊れたギルド長は俺が何とか叩き起こして説明しとくぜ」
解体の職員さんはいい人だったなー、と思いながら俺は家に帰った。
ちなみに俺が取ってきたモンスターは出さなかった。
エンシェントドラゴンごときをSSSランクと言って驚いていたからな。
俺が狩ってきたちょっと強めのモンスターなんて出したら、心臓が止まっちゃってチーンだろう。
◇
「ただいまー」
「ご主人様とのお買い物からただいま帰りました」
「ニャーニャー(ただいまですわー)」
「みゅん(帰還した)」
家についたら、ララが出迎えてくれた。
その表情は、どこか不機嫌そうである。
まあ、さすがに包丁は持っていないが。
「お兄ちゃん、お帰りなさい。リラシャさんもお疲れ様です。さてお兄ちゃん、メリーナさんとアイリスさんが怒っています。二人が怒っている同じ理由で、私もお兄ちゃんに聞きたいことがあります」
俺が何をしたかさっぱり分からないが、これはあかんやつだ。
妹が俺に対して他人行儀な敬語を使っているときは、かなり機嫌が悪いときだ。
「俺、怒られるようなことしたか?」
「ギルドにリラシャさんにそっくりな使い魔と、美女と美少女を連れた男の子が来たという噂が流れていました。お兄ちゃん、どこの女を連れていたんですか?」
これはあれだ、カレノアとエルビナだな。
俺は二人を「子猫」と「子兎」ということでペットにして飼っているんだが、その正体はプリュム以外に教えていない。
プリュムには口が滑って話してしまった。口止めはバッチリであるので心配はいらないが。エルビナが俺を魔王様って言っていたから、いつかは俺が魔王をしていたと話さないといけなかったからな。
ちなみに神という設定はそのまま残しておいた。面白いから。
暇だった神が遊びで魔王をやっていたという設定にしておいた。プリュムは盲目的に信じてくれたみたいだ。
そういえば、動物に変身させたエルビナは子兎になったな。名前は「エリン」と名付けた。
「みゅん」て鳴く兎とか、ファンタジーもいいところだ。普通「ぶーぶー」とかだろ、と最初の方は何度も頭の中でツッコミを入れていたが、今はもうそこそこ慣れた。
それはさておき、この状況をどう弁解したものだろうか。
噂は本当のことだから誤魔化せない。
カレノアとエルビナのことを、プリュムのように話してしまうかどうかだな。
それか、たまたま知り合った女冒険者と意気投合したという話に持っていくか。
しかしそれだと姉たちが嫉妬しそうだ。後でめちゃくちゃ言われそう。
「お兄ちゃん、私には本当のこと話してください。話してくれないと、二度と料理を作ってあげません。もちろんカレーも無しです」
「全て自白します」
「うん、よろしい」
食欲には抗えず、俺は妹に屈してしまうのであった。
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