魔王やめて人間始めました

とやっき

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少年期・ギルド編

3-4 魔王様、連行される

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「はーい、今週の授業はこれで終わりです! 皆さん、週末から国民の休日が続くけど、気を抜かないようにしましょう!」

「「「 はーい 」」」

 終業のチャイムが鳴り、学園は連休に入った。
 日本で言うところのゴールデンなウィークだな。

 休みの内訳は明日明後日が土日で、月曜が建国記念日、火曜が全種族同盟記念日、水曜が国王誕生日だ。

 ちなみに全種族同盟という名称だが、魔族は含まれていない。
 名前が詐欺だ。魔族も立派な種族なんだがなぁ。

 そんなこんなで、学園は五連休である。
 こういう連休ではみんな寮を出て実家に帰省したり、王都を満喫したりするらしいが、俺は生まれも育ちも王都だ。

 特に何もすることがない、ただの連休だ。
 遊ぼうとか考えてはないが、休みの日まで勉強するのもちょっとな。


「エル君、休日何か予定ある? 良かったらあたしとお出かけしない?」

「予定は無いけど、アイリスと出かけるのはなぁ・・・」

「あん! もう、エル君のその冷たい視線がス・テ・キ!」

「アイリス、頼むから変な性癖にだけは目覚めないでくれよ」

 俺はアイリスの将来に危惧の念を抱いてしまうのであった。

 そろそろ教室を出ようかと思い始めていたときに、教室のドアがノックされた。
 
 現在1年Sクラスの教室には、あの交流戦でのメンバーしか残っていないのだが、誰かに用があるのかなー、くらいにエルリックは考えていた。
 
「失礼します。エルリック君、ちょっと良いでしょうか。学長が君を呼んでいます。学長室に付いて来て下さい」

「あ、どうも会長さん。それ行かなきゃダメですか?」

 教室に入って来たのは学生会長のリビィだった。

「会長ではなくオリヴィア、もしくはリビィと呼んで頂いて結構です。私は一応負けましましたから。しかし、我々学生会が負けたのはエルリック君以外のメンバーにであって、私が君に負けたわけではありませんよ。そこは重要です。あ、これは強制連行です。大人しく付いて来て下さい。退学にしますよ」

 ほう、退学か。
 それにしてもリビィは負けた割に態度が大きいな。

 ちょっと殺気を込めて返事してやるか。
 殺気スキル、レベル2くらいでいこう。

「分かったよ、これからリビィだな。まあ退学はやだから行くけど、後で学長を職権濫用で訴えてやるか。それとリビィ、負けたのが納得できないならいつでも再戦は受け付けるぞ。今度は俺一人でも構わないぞ? どうする?」

「すみませんでした。会長の体面を保ちたくて調子に乗りました。学長ならいくらでも訴えて良いですから、ウチは見逃して下さい」

 高速土下座を決め込んで身内切りまで提案してきたリビィ。

 学長に文句を言うのは既に確定事項だったが、リビィにも何か罰を与えるべきだろうか。
 徹底的に鍛えあげても良いのだが、第二のイリシアのようになってしまう可能性もあるからな。他に何か考えておこうか。





「エルリック君、単刀直入にお願いしたいんじゃ。ちょっと王城まで来てくれんかのう?」

「は?」

 学長のレイブンの第一声は予想外の内容であった。

 職務質問されて「ちょっと署まで来てくれる?」くらいの感覚で言われてしまい、思わず身構えてしまった。
 学長室に来たのも嫌々だったのに、次は王城なのか?

「そう身構えずとも悪い内容では無いんじゃよ。モールを覚えておるかの? エルリック君が倒しちゃったやつじゃ」

 あー、モールか。
 強い人だとは知らず、つい試験で倒してしまったんだよな。

「なんかもうその人の名前が出てきただけで悪い話にしか思えないんですが。俺の身の安全は保証されますよね?」

 王城に行ったらいきなり国家反逆罪とか言われて犯罪者扱いされるのは嫌だからな。

「安心せい、悪い話では無いと言っておるであろう。国王陛下が直々にエルリック君に会いたいと申しておるのじゃよ。この国の王様に謁見できるのじゃぞ? 凄いと思わんかの?」

 確かに一国の君主と会える機会なんてそうそうないだろうな。日本だったら首相、いや天皇陛下と話せる機会があるとなったら、超緊張して心臓バクバクものだと思う。

 とは言え一応だが俺は魔王だったし、一度王になったことある身としてあんまり緊張感が湧いてこないんだよな。

 国王は凄い人かもしれないが、王の娘があのココレラだし、近衛騎士団長があのモールだし、なんか俺の中で間接的にイメージダウンしちゃっているんだよな。

「そうですねー。凄いですねー。で、断ることできませんか?」

「なぬ!? すまんが断ることはできんのう。国を敵にまわすと言っているようなものじゃから、流石に困るであろう?」

 まあ王命は絶対といった感じなんだろうな。
 これはもう選択肢として、「はい」か「行く」しかないやつだ。いわゆる強制イベントで、残念ながら俺に選ぶ権利は無さそうだな。

「分かりました。王城には行きますよ。不安だなー」

「すまないの。では、馬車を用意しておるから早速行こうかの」

 学生会長リビィによって学長室に連行されたエルリックは、次はレイブン学長に王城に連れて行かれるのであった。





「国王陛下。エルリック・マクシュガルをお連れ致しました」

「ご苦労だったなレイブン。下がって良いぞ」

「はい。失礼致しました」

 謁見の間にたどり着いたエルリックは、辺りをキョロキョロ見回したい衝動を抑え、取り敢えず片膝を立てて頭を下げておいた。

 ちなみにエルリックは謁見のときの作法とかは知らなくて思いつきでやったことであったが、少なくともこの国ではこの行動は正解のようであった。

「面を上げよ。今回は正式な謁見というわけではない。堅苦しいのは抜きで行こう、エルリック殿」

「はっ、ありがとうございます。初めまして、エルリック・マクシュガルです」

 俺はすっくと立ち上がって、軽くお辞儀しながら名前を告げた。

「うむ。はレクレイスター王国、二十九代国王デクスター・レクレイスターである。学園では娘が世話になっていると聞いている。娘に学園の話を聞いたら、いつも貴殿の名前を挙げるのでな。どんな人物かと会うのを楽しみにしておったぞ」

 ココレラの父親にしては、結構いい人そうな感じが出ている。
 しかし雰囲気に惑わされてはいけない。心の中ではどんなことを考えているか分からないからな。注意深く話そう。

「ココレラさんとはクラスメイトとして何度かお話したことがあります」

「ほう。娘を鍛えてくれたと聞いていたがな。何度か話をした仲以上の関係にあると思うのだが、違うのかね?」

 ま、まさか、ココレラと俺が親密な仲にあるとか思われて呼び出されたパターンか?
 それは想定していなかった。父親として娘に寄る虫をぶっ飛ばしたいとか考えていたらどうしよう。

「確かに鍛錬の都合上、もう少し話をしたような気もしますが、娘さんのことはどうとも思っておりません。ただのクラスメイトです」

「ほう。あのココレラの欺瞞を見抜き、あの心の浅ましさに気付いたというのか。上っ面だけは良いココレラだが、それを見破るとは中々の炯眼の持ち主であるな。余は貴殿のことを気に入ったぞ」

 ココレラ、お父さんにバレてるぞ。

 しかしここは変に気に入られないように、ココレラをフォローしといてあげるか。

「いえ、彼女は良い人だと思いますよー。人当たりが良くてー、外見も良くてー」

「で、外見は良いが本性は?」

「腹黒いと思います。かなり真っ黒です」

「はっはっは。正直でいいではないか」

 すまんココレラ。フォローできなかったわ。

「あのー、娘さんの話をされたくて俺を呼び出したのでしょうか?」

「いや、本題は別だ。貴殿に見て欲しいものがあるのだ。モール、エルリック殿にあれを」

「はっ。エルリック殿、こちらをご覧下さい」

 俺にモンスターの爪を見せて来たモール。

 これはドラゴンの爪だな。どこかで見覚えがあるような気もしなくもない。

「これは王都の冒険者ギルドから国に贈呈されたものでな、国宝級の素材である。これを持ってきた冒険者は幼い男の子と、その仲間の美女たちであったそうだ。そうそう、幼い男の子の冒険者名は『エル』だったな。エル・・リック殿はご存知ないか?」

「記憶にございません」

 即答したエルリック。

 うん、身に覚えがあり過ぎる。
 名前くらいちょっとひねれば良かった。

「記憶に無いか。ではエーリンテ殿に伺うとしよう。彼が冒険者のエル殿で間違いないか?」

 そう言われて柱の影に隠れていた女性がすっと現れた。
 誰かいるとは思っていたが、冒険者ギルド長のエーリンテが隠れていたのか。普通に王の護衛の人だと思ってた。

「はい、陛下。彼が冒険者エルさんです。すみませんエルさん」

 もう誤魔化すのは無理そうだ。
 どうしたものかなー。

「もう一度聞こう。エルリック殿、君がSSSクラスの古代龍エンシェントドラゴンを討伐した冒険者エル殿か?」

「まあそうです。訂正したいのはそれを討伐したのはうちの仲間です。俺じゃありません」

 エルビナが狩ってきたモンスターを、俺の手柄のように言いたくはない。
 結局のところ俺が取ってきたモンスターは、空間収納魔法の肥やしになっているからな。

 あれ? 俺だけ稼いでないような?
 き、きっと気のせいだ。

「なるほど。では次の質問だが、君はSSSクラスのモンスターを倒せるか?」

「ランクによるモンスターの強さを理解していませんので、お答えしかねます」

「では、このエンシェントドラゴンは倒せるか?」

 そう言ってドラゴンの爪を指差す王。

 いや、倒せるけどさ。倒せるって言ったら何をされるか分からないからどうしよう。

「倒せないんじゃないですかねー」

「ネリネン、どうだ?」

 王の座る玉座の横でエルリックをじーっと見ていた少女に対し、話しかけたデクスター。
 ネリネンと呼ばれた彼女は話しかけられてから数秒後に大きく目を見開いて、少し怯えた表情になりながらデクスターの方を向いた。

「お父様、わたくしの看破のスキルが隠蔽スキルで打ち消されました。少なくともエルリック様は、わたくしが嘘をついているか分からないほどの実力をお持ちの殿方です。お気をつけ下さいませ」

「ほう。ネリネンのスキルレベル7の看破でも見破れないなら、隠蔽スキルはレベル7以上。何をそんなに隠そうとしているか是非知りたいところだが、話す気はないかエルリック殿?」

 あー、嘘を見破ることができる看破のスキルを使われたか。

 真偽をつけようとしたらスキルを弾かれ、俺が見破れなくさせるだけの実力を持っていると、逆に証明されてしまったようだな。

 一度ココレラに鑑定されて以来、隠蔽スキルを常時発動させていたのは失敗だったか?
 いや、どっちにしろ詰みだった気がするから考えるだけ無駄かな。

 それにしても姉妹そろって良いスキル持っているな。
 流石王族と言ったところか。


「うーん、それなら頑張れば倒せると思います。これで良いですか?」

「頑張れば倒せるのだな。よく分かった。質問に答えてくれたこと感謝する。では、今日はもう帰ってもらっても良い。ご足労、感謝する」

「はい、失礼しましたー」


 帰り際にギルド長エーリンテに向かって少しだけ殺気を送りながら、エルリックは退室してのんびり王城の中を見学しつつ、帰路に着いたのであった。

 蛇足だが、エーリンテは殺気にやられて一時間ほど気絶したそうだ。
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