何もしたくないって言ったのが叶ったのに、どうやら何かしないといけないようです。

十四年生

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11話

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 ハーピー族は雄叫びをあげて空を進んでいく。

 先頭を切っているのは若いハーピー族の者だ。

 雄叫びと物々しさに気づいたのか、クロウ族の者たちが山の巣から出てくる。



「お嬢様……必ず私がお助けしますから……」



 アナは山のほうを見て翼にあるかぎ爪で槍を強く握る。



『早くお助けしなければ……』



 万が一にでも、お嬢様が汚されてしまったら……。

 それは想像したくないもので、巫女としての力を失うだけでなく、その先に良い未来はないのだから。



「突撃ぃいいいいいい!!」



 アナは強い掛け声とともに他の者の後へと続いて行った。



 空の下、山の中腹に異なる色の鳥族達が集まっている。

 理由は様々ある。だが、これは戦いだ。誰かが傷つき誰かが命を落とす。





 ※



 空の遠く彼方から地上を見る少年が悲しそうに顔を歪ませる。なぜこうなってしまうのだろう……。僕が神ならばアレも神なはずなのに……。彼はどう動くだろうか……だいぶ無理を言ってこの世界に持ってきた彼。すまない彼を動かすにはもう少し足りないかもしれない。頃合いを見て手を打とう。彼とたまたま縁を結んだ彼女が手遅れにならないうちに。



 ※



 お嬢様を助ける……。

 ただそれだけにこれだけの者が動く。



 今回の事は自分の失態でもある。

 唯一お嬢様の側に入れるはずであった私がお嬢様の側を離れたからだ。アナは自分を責めていた。



 あの人族であれば問題ない、それは確かにそうだった。その考えに問題はなかった。

 ただクロウ族が、まさかあのような凶行に出るとは思わなかった……それが失態だ。



 お嬢様は恐らくあの人族に対して淡い恋心のようなものを抱いているのだろう。ならば、それを邪魔するのはいくら何でも酷だろうと思った。人の恋路を邪魔するものはグリフォンに蹴られて……という話もある。



 あの人族と会って戻ってくる度にお嬢様は元気になり、綺麗になってくき。

 私はそれが微笑ましかった。



 私は巫女の力を失うまで結局、恋愛というものはしなかった。巫女の力を失ったのも良くない形でのものだった。せめてお嬢様には良い形でソレをどうするか選んでほしい。そう思った。



 早く助けなければ……。

 もしもは許されない……気が焦る、焦って仕方ない。



 クロウ族の者たちを鉤爪で切り裂いていき、槍を突き立てていく。

 この者たちもまだ若いというのに、なぜこうなる前に何とかできなかったのだろうか。

 クロウ族の長への怒りが募っていく。



 やりきれない思いを抱えつつも槍をふるっていると、先頭の者たちが何かに吹きとばされてこちらへ飛んでくる。



「大丈夫か!」

「アナ様! 奴です! グヤツが出ました」



 グヤツ……クロウ族の長の名前。そいつが全ての元凶!



「分かった私が行く! 巫女でなくなったとはいえ、幾許かの奇跡は使える。お前たちは長へこのことを伝えてほしい」

「ご武運を!」



 若い者たちを後ろに下がらせて私は前へ出た。

 目の前に赤い目の強い気配を放つ者がいる。これがクロウ族の長か。



「ぬははは、我はグヤツ、クロウの長である。そこのメス、お前はなぜここにいる? ここはメスの来る場所ではない! 早々に立ち去れ!!!」



 強い……間違いなく強いのだろう。

 強者であることは間違いない、だが私は退けない、退けない理由がある。

 メスであるとかは些細なことなのだ、お嬢様の救出をする。

 そして今グヤツの後ろにある篭。そこにお嬢様がいる!

 ならばすることは決まっている。



「私の名はアナ! 戦士です! メスではなくな。クロウの長、グヤツ! お嬢様は返してもらう! 」

「ほう……戦士と言ったか……ならば仕方あるまい。その言い様、この娘……ただの娘ではなかったか……あの馬鹿め……」



 私は槍の穂先をグヤツへ向け、風をのせる。風の巫女であった私には幾許かの奇跡が使える。これは風の女神の加護を武器にのせる奇跡。力で劣る私は巫女でなくなった後、戦士の道を選んだ。



 強さが欲しかった、それがあれば自分が巫女の能力を失うことはなかった。そう思っていた。そんな私に与えられた役目は長の娘のお守だった。



 何か自分が軽んじられているようで苦痛だった、むしろ惨めにすら感じていた。

 ましてその娘が次代の巫女だとわかったとき……。それは何かの罰にしか思えなかった。

 だが、お嬢様と触れ合ううちに、私の心は違う強さに気づいた。

 今の私に不満はない、私はお嬢様の為にこの身を捧げている。今私はそのためにここに居るのだから。



「さぁ、クロウの長、グヤツ! 尋常に勝負!」

「来るがいい戦士よ!」



 戦いは壮絶なモノだった。グヤツはまさに強敵。何度も穂先が当たろうとも後ろに退くことはなかった。一つ一つ羽ばたきを止めずに前へ前へと出てくる。心配していた篭への攻撃はなかったし、盾にもとることはなかった。一撃一撃がこの男の強さと高潔さを物語る。本当にこの男がこんな卑劣なことをするのだろうか……? アナはどうにもそこだけが合点がいかなかった。



「やるのぉ、アナとやら! うちの若い者に見習わせたいほどだ! だがここは戦場悪く思うな」

「余計な情けなど不要、私はあなたを倒し、後ろのお嬢様を救う!」



 幾重にも交わす打と撃、繰り返し当たるたびに互いの何かが流れこんでくる。グヤツからは時折後悔のような苦悩のようなものが流れてくることがある。アナはそれを違った意識で振り払い戦う。



 たまに篭になにか当たりそうになると弾けてきていく。これは恐らく篭にはなんらかしらの結界のようなものがかかっているのだろう。お嬢様は無事だろうか……。



 声が聞こえないところを見ると、声封じでもかけられているのだろうか。

 心配してもしつくせないほど心配だ。



「他所を見ていると死ぬぞ!」



 グヤツの羽がそばを掠めていく。グヤツの攻撃はいくつかあった。鋭い嘴、爪、それと羽である。

 その黒羽を空に浮かしてナイフのように打ち込んでくる。遠近どちらにも対応できるオールラウンドタイプなのだろう。



 互いに消耗戦のようになっている。ただこのままだと恐らくアナが負ける。そんなことがアナの脳裏をかすめているときだった。突然大きな音とともに空がうめき声をあげて、グヤツに稲妻が落ちた。



「な!」



 アナがその光景を見て動きが止まる。稲妻は止まらずに何度も何度もグヤツを撃つ。

 辺りに焦げたにおいが立ち込めた時、それは姿を見せた。
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