月と魔女と異世界と

カラスウリ

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第三章

29.狂信

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 対峙する魔女とシスター。ミェルさんの問いかけに、服の埃ほこりを払いながらシスターは静かに告げる。

 「ご説明願いたいのはこちらのほうです。窓からの侵入に器物損壊、そして何より……」
 
 そこで一度言葉を区切る。
 変化に乏しかった彼女の顔は、明確に憎悪に歪んで眼前のミェルさんを睨み据えた。

 「なぜ、なぜ“魔女”がここにいる……!!お前のような!!汚らわしい魔女が!!」

 豹変した態度でがなり立てる彼女の剣幕に、私は思わずミェルさんの背中に隠れるように後ずさる。純粋な怒りや憎しみだけじゃない、もはや狂気に近いほどの何かがそこにあった。

 「この教会にあるはずの月水晶に用があるから来たんだ。そしたらどうだ、魔術と魔女を迫害してきたお前達自身が魔術を使っているとは!……一体なんの冗談だ」

 一触即発の雰囲気。ともすれば今すぐにでも戦いに発展しそうな中で、私はようやくある点に気づいた。こんなにも危険な状況なのに、祈っていた他数名の信者達はまるで無関心だった。それどころか、なおも祈り続ける声すら聞こえる。……だがそんな疑問を塗りつぶすように、自責の念が溢れ出た。

 「ミェルさん、ごめんなさい。私のせいで……」

 「いいさ。……今は自分の身を守る立ち回りだけ考えて動いてくれ」

 普段の飄々とした態度はかけ離れた様子のミェルさんに、より緊張感と恐怖が高まっていく。

 ――そして戦いの火蓋は、唐突に切って落とされた。

 「はッ!!」

 「おっと……取り込み中だぞ、行儀が悪いな」

 私との会話によってほんの少し意識が逸れたミェルさんの頬を掠め裂き、何かが高速で空を切る。シスターが放ったそれが十字架を模したナイフだと、壁に刺さってから初めて気づいた。
 
 「主の御名において、お前をここで葬る。覚悟しろ」

 修道服の袖口から、鈍い光を放って十字架ナイフが取り出される。……来る。

 「君らの言う主ってのは……ああ、教皇サマのことか。すごいな、すっかり神様気取りか!!」

 その一言で激昂へと至り、弾丸のように無数のナイフを乱射しシスターが迫り来る。
 自らの頬から流れ落ちた鮮血を舐め、不敵に微笑んだミェルさんは――その刃全てを大鎌で切り落とし、眼前のシスターを迎え撃つ。

 「魔女風情が……!!主を語るなァ!!」

 「ははっ!随分と野蛮なシスターだな!」

 至近距離で振り抜かれた十字架を巧みに大鎌の柄で受け止め、鍔迫り合いの状態でギリギリと押し合う。 巻き込まれる寸前で私は何とか長椅子を飛び越え、入り口の扉へと全速力で疾走する。とにかく、自分の身を守らなくちゃいけない。

 「そうだ月音ちゃん、それでいい……っ、はぁっ!!」

 拮抗した押し合いから梯子を外すように脱力し、体勢を崩したシスターの腹部を蹴り上げ、その勢いのまま宙返りして大鎌を構え直す。鮮やか極まりない体術だった。

 「どうだー月音ちゃん!!開いたかー!?」

 「あ、あれ……ダメです!!外から閉められてます!!」

 「ああ、外にいた連中か……!!面倒だな、どうあってもここで殺す気か!」

 入口の大扉に辿り着き、必死に取っ手を引く……が、まるでビクともしなかった。

 「ぐ……ぁ、魔女め……殺す、殺してやる……!」

 怒りと苦しみに震える声に思わず振り返る。
 蹴りの一撃ではまだ浅い。シスターが立ち上がっていた。

 その様に軽くため息をついたミェルさんは、パチンと指を鳴らしてとんがり帽子を……魔女の象徴を掌に出し、深々と被り直す。

 「隠れていろ月音ちゃん。……はどうあっても私を殺す気だ」

 何もできない、状況に振り回されっぱなしの自分の無力さを痛感しながら、今はただ彼女の身を案じながら、石像の裏で身を屈めることしかできなかった。

 再度ナイフを構え直し、呼吸を整えるシスターを煽るようにミェルさんが声を張り上げる。――もう止められない。

 「さあ来い修道女シスター、お前の憎む魔女はここに居るぞ!!」

 「魔女……!!私の命に代えてでも……!!ここで討つ!!」

 信者の祈りの声を背景に、魔女とシスターの刃は再び交わった。
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