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3 町とギルド

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遺跡に向かう準備を、とはいえ、何も情報がないままに向かうのはあまりに無謀。
家を出たティオは、まず情報を得るために慣れた街道を歩き出した。

ディールの町の周囲には、北にある城から石壁が円形になって築かれている。
東西と南には出入り口となる大きな門が設置されており、それぞれの門と城を繋ぐようにして、整備された街道が伸びる。
道と道がぶつかる町の中心には大きな円形の広場が作られていて、出店も出て昼間は人の行き交いが多い。
広場から北へ行けば城が、東には普通の家々が、西には一般の商店が。
そして最も人通りの多い南は、冒険者の集う店が多く軒を連ねている。
もちろん店の数やにぎやかさは、王都や王都近隣の町と比べられるほどではない。
だが、この町で生まれ育ったティオには楽しいにぎわいだ。

(たとえ田舎のにぎわいだとしても!)

ディールのあるフィールドールは他国に見劣らず歴史ある大きな国である。
広く雄大な土地は遥か昔の遺跡も多々残る。
周囲に広がる豊かな自然には精霊の力が満ち、また闇ある所に他を害する魔物も潜む。
それらに挑むは何も学者や魔術師だけではなく、冒険者と名乗る者も立ち上がる。
勇敢に未知へと進む彼ら冒険者は、ある時は遺跡の謎を解き、ある時は魔物の群れを打ち倒し、数々の伝説が語られた。
フィールドールも冒険者がその時代に大地を駆け、この時代でも各地で勇姿を見せつけている。
ディールの町にも多くの冒険者が――かつては足を運んでいた。
町があるのは国の隅、つまり王都から見れば辺境の片田舎。
領主家があるディールは近隣の町よりは整備され、店も一通り揃っている。
だが、王都から勇んで足を運び続けるにはほど遠く、目的とされるものがないに等しい。
今ではぽつりぽつりと、思い出したように立ち寄ることがほとんどとなってしまった。

(片田舎の弱みだよな……秘境ってわけでもなく、都会ってわけでもなく)
「おう、ティオじゃねぇか! 帰ってきてたのか?」

ティオが町並みを眺めながら考えていると、街道に点在する露店のひとつから声が飛ぶ。
馴染みの店主の笑顔を見つけて、ティオは町に帰ってきたことを実感する。
すぐに軽く手をあげて応えた。

「ああ。ようやく昨日な」
「遅いんで心配してたんだが、無事で良かった」
「この通り怪我はひとつもないよ」
「朝っぱらから出歩いてるってことは、まだ飯食ってないんだろ? ほれ」

厚紙に挟んで押し付けられたのは、軽く焼いたパンに野菜と厚切りの肉を挟んだ軽食だった。
落とさないようにティオは慌てて受け取る。
この店のパンは軽くつまめるものから、ボリュームたっぷりのパンまでそろっている。
美味しい上に値段も手頃で、ティオはこれまで何度も世話になっていた。

「っとと、いいのか?」
「おうよ! 大変だったんだろ。遠慮なく食ってくれ」
「サンキュー!」

ありがたい心遣いに、ティオは遠慮なくパンにかぶりついた。
食べ慣れた味だというのに、今日はなおさら美味く感じてならない。

「お代なら、また俺がギルドに依頼した時にちゃちゃっと片付けてくれや」
「任せとけ! ……と言いたいが、俺に振り分けられたらの話だな」

ティオの言葉に、それもそうだと店主は豪快に笑う。
軽く手を振って店主と別れ、パンを食べながらティオはまた歩き出す。

ディールに限らず、辺境の町には悩みがある。
外からの客足が遠のいたり過疎が進むこともそうだが、何より問題は王都から離れていること。
王都の騎士団に要請するような、大きな懸案が届くのに時間がかかりすぎるのだ。
賊や魔物退治などの要請が王都で受理され次第、要請の内容に応じての団員が派遣される。
だが、名の知れた騎士団には各地から絶え間なく要請が送られてくるのだ。
騎士団の任務は何より王都を護ることが第一。
どんな要請であろうとも、膨大な声の中では取りこぼされてしまうのだろう。
辺境の町は何かと後回しにされてしまう事例が多い。
故に王都から離れた辺境の地は自分たちの力で何事にも奮起するしかならず、切迫した状況から発足し、各地でそれぞれ自由に、独自に発展していった組織が生まれた。
それがティオが属するギルドである。

各地での特色こそあるが、主に傭兵をまとめて管理し、集まってくる要請を振り分けて解決する組織が、ギルドと言える。
特にこの辺境ではディールの町が中心であり、唯一のギルド、その上領主家に仕える兵士や術師も腕がたつ。
そのため、ギルドの人手が足りなくなった時には人員を要請出来るようになっている。
各地では騎士団とギルドが睨み合うといった諍いもあるようだが、ディールのギルドでは協力体勢がきちんと作られていた。

(たとえ近隣住民の依頼しかなくても! その他の依頼が少なくても! 身内ギルドみたいになっていても、うちは成り立ってるんだ! ……それもこれも、領主が俺たちのこと考えてくれてるからだしな)

ディールの町のギルドは、数年代前の領主自らが立ち上げた。
領主家に仕える者や、賛同した者たちで運営して成り立っている。
用心棒から護衛、魔物や盗賊退治はもとより、農作業の手伝いから専門的な学術指南など幅広く依頼を受けていて、近隣からの依頼も多い。
他にも旅人や冒険者に対してのサポートとして、情報提供や簡易的な寝食もギルドで提供しており、町の商店が皆々協力している。
ギルドとしての存在意義と、町の活性化を繋がらせているのだ。

最後の一口を飲み込んだ時、ティオの足は広場へ踏み入った。
横手に伸びる道の先にある領主家を見やる。
城と言える大きさや造りではないが、石造りの荘厳な雰囲気は遠目にも感じ取れる。
それでも人を遠ざけるような所に見えないのは、やはり領主の人柄が出ているのだろうか。
ふと考えたことにティオは苦笑を浮かべ、肩をすくめた。

(うちの領主は好かれてるしな)

領主家に背を向け、ティオは広場を突っ切っていく。
目線の先にあるのは、南門へ続く街道の角。
悠然とある建物の門につけられた看板には見慣れた文字が彫られている。
この町の者なら誰もが知っている名前。
――ギルド・ディール。


 
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