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アカミミガメ

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浮気調査

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浮気調査の後、お約束のように落ち込む夜空ヨゾラを自宅に連れ込む。
今日の夕飯はクリーム明太パスタだ。

キッチンに立つと、なぜか夜空が後をついてきて、両手を俺の腰にまわした。
時々、耳に吐息がかかってくすぐったい。

じゃれつく大型犬を無視して鍋に湯を沸かしパスタを茹でる。

ソースづくりのために右手で菜箸を持ち、フライパンの中身をかき回すたび、夜空の右手も俺の手に添えられる。
左手でフライパンを支えると、夜空の左手が重なる。

、、、二人羽織かな?

フライパンの中のソースの味見をする。
こんなもんか。

夜空にもスプーンを口に入れてやると「美味しい」と返ってきた。

影斗エイトさん、料理うまいですね。」
「そうか。」

口に合ったなら何よりだ。
味はともかく、一人暮らしは長いので、そこそこ自炊はできる方だ。
大の男に絡みつかれて料理をするのは、ここ最近始めたことだが、、、。

絡めたパスタを一本拾い上げて自分の口に運ぶ。ソースの絡み具合もちょうどいい。
夜空の口にもそっと差し出しながら、ふと思った。

――これって、いわゆる『あ~ん』ってやつじゃね?

いやいやいやいや。
頭の中の不穏な単語を打ち消す。

「夜空って、いつもこんな料理のしかたしてんの?!」

自分の思いつきに耐えきれなくなって思わず夜空に問いかけたら、質問返しがきた。

「影斗さんはしないんですか?」

なんでそんな意外そうなんだよ。
え、何? これって普通なの?!
今時の子のスタンダードなの?!

「いや、普通はもっと離れてるけど。」
「そうですか。俺もこんなに近いの初めてです。」
「お前もか!!」

この距離感にあまりに手慣れていたから、てっきりこれが夜空のデフォかと戦慄した。
違ってて、本当に良かった。

「お互い初めてのコト、しちゃいましたね。」

そう言って嬉しそうに笑う。
紛らわしい言葉遣いはやめろ。

赤面しながらパスタを皿に盛りつけた。手伝ってんだか邪魔してるんだからわからない夜空をあしらいつつ配膳する。思ったよりも手間取ったせいでクリームはやや冷えて固まりだしている。仕方なく、箸を使ってなんとか口に運んだ。





翌朝。目を覚ますと、安定のプロテクターだった。何から守ってくれてるんだろうか。

後ろからきっちり抱き込まれ、片手は俺の中心をしっかりと覆っている。

「おら、離せ。」
「んん、、、。」

夜空を引きはがし、ベッドから降り立った。




今、うちの事務所が引き受けている不貞調査はざっと30件ほど。
そのうちメインで2件を俺は請け負っている。
メインでないものも含めれば、6件だ。

お盛んな人は毎日のように証拠が集まるが、そうでない人は延々日常生活を送った挙句、配偶者とホテルへ、なんて事もある。

不貞行為がないに越したことはないんだが、あれ?これってただの惚気?なんて苦い思いで記録写真を撮るハメになる。

今回の2件のうち1件は、とてもお盛んな方で証拠は面白いように集まった。
対照的に、もう1件はほぼ動きがない。

毎日同じ時間に出勤して同じ時間に帰宅する。
依頼者も、あやしいと思える日が不定期に月1、2回の頻度だと言っていたので気長に追っているが、、、。

「夜空。夜空くん?」

浮気のそぶりがないターゲットを、調査のカモフラも忘れ一心に見つめる夜空に声をかけるが反応がない。

こんなにガン見してたら、さすがにまずい。
腕にそっと触れると、夜空は一瞬肩をビクッと震わせそれから俺に気づいた。

「見過ぎだ。」
「すみません。」

ターゲットが家に入るのを見届けたので、引き返すことにした。
幸い夜遅い時間で、暗い夜道を誰かとすれ違う事もなく車を動かす。

「あ~~~、これホントに浮気か?」

話しかけても夜空は上の空だった。

車を返し、一旦事務所で諸々の後始末を済ませて帰宅する。
もちろん夜空も一緒だ。

――もう、いっそのこと一緒に住む?

その言葉を飲み込み、先に風呂を勧める。
待つ間に夕飯の支度をした。
食事の後は夜空に片付けを任せ、俺は風呂につかりながら、とりとめもなく考え事をした。



動きの少ないターゲットの調査は意外な結果となった。
浮気をしていたのは依頼者本人だ。
俺たちも、調査途中から気がついた。せっかくなので、ターゲットを調査するついでに、依頼者の逢瀬現場の写真も大量に入手する。

ターゲットにそれとなく交渉したところ、すんなりとうちとの契約に至った。
おかげで1度の調査で、2倍の売り上げとなった。

事務所で元ターゲットの依頼人に証拠の書類一式を渡した。所長が1番愛想良く、丁重に見送っていた。

ホクホク顔で席に戻り書類を作成する所長を横目に、夜空が俺に聞いてきた。

「影斗さんは、この仕事、何のためにしてるんですか?」
「金だよ、金。」

生きていくのに、金は絶対必要だ。

俺のシンプルな答えに、夜空はフッと笑みを漏らす。思ったより柔らかい笑顔だ。

「がっかりしたか?」
「いえ、安心しました。」

今の事務所、非常にホワイトな職場だ。
基本給保証、完全週休2日制。祝日勤務の時は必ず代休があるし勤務時間は8時間。仕事の性質上、夜間などの勤務時間帯での残業割り増しは低いが分けのわからんフレックスとかではないし、歩合制でもない。

さらには評価が加算式。先日の犬10頭の件では正式な契約は1頭だけだったが、他も業績評価の対象になっている。しかも俺と夜空それぞれに、だ。、、、事務所の経営大丈夫か?

まぁ所長も俺も「金のために働く」ってスタンスだから収支が成り立ってると信じている。

「夜空は?なんでこの仕事?」
「不倫撲滅。」

目からハイライトが消えてる。
夜空がそれ以上話す気がなさそうなので、深追いはやめた。

書類仕事を片付け、もう1件のお盛んなターゲットの証拠を押さえに出かける。
「徹底的に追い詰めるか」と言うと夜空はいつも以上の働きを見せた。

こちらの存在を全く気取らせず短時間で決定的な証拠をいくつも押さえる。

事務所に帰っていつもの後処理を済ませてもまだ定時。
そこから俺は谷さんの、夜空はナオちゃんの仕事をフォローしても、帰宅したのはかなり早い時間だった。

夜空と当然のように向かい合って夕飯をつつく。今日は惣菜を買ってきた。帰宅途中に2人でスーパーに寄り、相談して選んだものだ。

「もう一緒に住む?」
「え?付き合ってもないのに?」

夜空の驚いた表情と返しに俺も驚く。

お前の頭ん中どうなってんの?!
付き合う以外に一緒に住む選択肢はないのか?!

「お前、ここんとこ自宅に帰ってないけど冷蔵庫とか大丈夫?」

違う切り口で話題を振れば、夜空はバツの悪そうな顔をしてみせた。
確か一人暮らしのはずだ。

「今日、帰ります。」

その方がいい。
そこそこ散らかってるのは問題ないが、ナマモノ腐ってるのはキツいぞ。

あからさまにしょんぼりしている夜空を見て、テーブルに紙を1枚差し出した。
プリントされているのは、うちに同居した場合の家賃や一か月の光熱費と食費の目安だ。

夜空はそれを受け取り、記載内容をじっと見つめた。

「同居するならそれくらいの金額で。夜空のアパートの契約切れるまで、ゆっくり考えなよ。」

夜空は大事そうに紙を折りたたみ、カバンにしまった。





結局その日、夜空は泊まっていった。

玄関先で靴を履いて立ったまま、長い事冷蔵庫の中身を思い出そうとしている。そして同じセリフを口にする。

「たぶん大丈夫だと思うんです。」

それ聞くの何回め?

「もう泊まってけば?」

諦めて誘えば、夜空は足取りも軽く家の中に戻っていった。
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