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アカミミガメ

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途中入社の新人

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「先輩、コーヒー買ってきました。」

後部座席に乗り込んだ新人から、運転席の俺と助手席の夜空によく冷えた缶コーヒーが手渡された。お礼を言って受け取る俺の隣で、無言で受け取った夜空が、盛大にため息をついた。

「あ、コーヒーの銘柄間違ってます?それか微糖じゃない奴でした?」
「......いえ、あってます。」

気を遣う新人に、夜空はそう返した後、小声で小さくお礼を言って缶コーヒーを開ける。

今日は途中入社の彼と3人で、不倫の尾行調査をしていた。

「あ、あの車ですね。」

新人くんは非常に優秀で、今朝、写真で見せただけの車を目ざとく見つけた。後部座席からこっそり撮った写真を確認させてもらうと、ターゲットとその相手がしっかり収まっていた。

「完璧。」
「......ですね。」
「ありがとうございます。」

入社して日が浅く、まだ見習いの時点でそつなく一通りの仕事をこなし、人当たりも良く、ハキハキとものを喋る。稀に見る好人物なのに夜空は初対面からずっと渋い態度だ。

「じゃあ、あとはこのままここで待ち伏せて帰りの写真撮ったら事務所に一旦戻ります。」
「はい!」
「......はい。」

この温度差。
仕方ないっちゃ仕方ないんだが。

地獄のような車内の沈黙をなんとかやり過ごし、ようやく戻ってきたのは午後3時近かった。




1週間前、新人が入職した。
朝、所長から簡単に説明されて、事務所の奥から出てきた人物を見て夜空が固まった。

「父さん?!」

驚いて指で指し示していたので、その手を掴んでそっとおろす。

闇乃夜風ヤミノヨカゼです。今日からこちらで働かせていただくことになりました。新人ですので遠慮なくご指導ください。どうぞよろしくお願いいたします。」

長身を腰から折り曲げ、深々とお辞儀したのは夜空のお父さんである夜風その人だ。

「じゃあみんな、そのうち指導がてら一緒に回ってもらうからよろしく。」

所長の鶴の一声で、全員口々にお願いしますなどと声をかけて、各自の仕事に戻っていった。その日、夜風さんは谷さんと出かけていった。

出かけたのを見届けたあと、夜空が所長に詰め寄った。

「所長、なんでうちの父を雇ったんですか?!」
「商店街の雑貨屋の森さんに相談されたんだよね。」

所長は、森さんの家の隣の小さい公園のベンチで寝泊まりしている人がいる、と相談を受けたらしい。

「夜しかいないって話だったから、猫の捜索に行くついでに見にいったら、ちょうどベンチで寝てたから拾ってきた。」
「公園に寝泊まりってどんだけ困窮してんだよ!」
「保証人が見つからないんだって。」

夜風さんは家を売り払った後、しばらく田舎の実家に帰っていた。少しして落ち着いたので仕事を探そうとしたが、田舎では仕事の内容も求人の数も限られている。

再び都心部に出てきたもののアパートを借りるには保証人が必要だった。田舎の両親は年金暮らしで保証人にはなれなかった。

ウィークリーや漫画喫茶なんかを転々としていたが、だんだん資金が底を尽きかけてきたので
ここ数日は公園で寝泊まりしてたそうだ。

「夜空くんが保証人になってくれたらアパート借りられるんだけど。」
「嫌です。」
「だよねー。」

「で、今どこに住んでるんですか?」

俺が尋ねると、所長が

「とりあえず、うちの事務所で寝泊まりしてもらってる。」

と返事をした。

そこから1週間。
夜風さんはどのスタッフからも受け入れの感触はいい。

「おはようございます!」

朝一番の挨拶もいつも笑顔で爽やかだ。
自分が新人の頃こんなにフレッシュだったかどうにも思い出せない。

「いつも出勤早いですね。」
「ここに住んでますからね。」

そうだった。

夜風さんが給料を手にするまで、まだあと3週間ほどある。

「お風呂はどうしてるんですか?」
「ああ、所長に、大きな銀色のシンク使っていいって言われて、そこで済ませてます。」

それ保護した犬猫用のお風呂!

「お湯のシャワーが浴びられるんで助かってます。」

ニコニコと返事をされて複雑な気持ちになった。この人うちの事務所のせいで人生が狂ったことどう思ってんだろ。

あまり深く考えないよう、目の前の仕事に専念する。夜風さんにその日の仕事内容を伝え、具体的な業務をレクチャーした。不倫の証拠を抑えるために出かけようと夜空に声をかけた。

「え?3人で行くんですか?」
「あ、夜空、お父さんと2人が良かった?」
「絶対嫌です。」

だよね。
生憎今日はついてあげられるのが俺しかない。
改めて3人で行動することを夜空に伝えると、眉間に皺がよった。

「俺が夜風さんと2人で行ってもいいけど。その間夜空、事務処理でもしてる?」
「それも嫌です。」

そう言うと思った。
だからこの3人行動なんだけど。

そんなわけで超絶気まずい時間を散々過ごして、ようやく事務所に戻ってきたのが午後3時。お腹がすいた気がしない。

夜風さんは所長にお昼ご飯を誘われて食べに出かけた。正直助かった。これ以上気まずい時間を過ごしたら俺の胃が死ぬ。

「俺たちもなんか食いにいくか。」
「はい。」

元気のない夜空を引っ張って外に出た。
まだまだ日中は日差しも強く気温も高い。
心身共に疲れていたので蕎麦屋を選んだら混んでいた。同じ考えの人が多かったようだ。
相席へと案内されて、店員について行ったら
所長と夜風さんと同じテーブルになった。







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