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第三章
王家の欺瞞*
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その夜、夕食を終えたら、殿下は即座に、わたしを寝室に連れ込んだ。
「まだ、お兄様の喪中なのでしょう?」
殿下はわたしをベッドの上に投げだし、自らもベッドに上がって、圧し掛かるようにして衣服を脱がせにかかる。乱暴な行為を押しとどめようとわたしが言えば、殿下の金色の瞳が、ベッドヘッドの壁付け電灯の光を反射して、ギラリと光った。
「お前が本当に怪我をしていないか、確かめないと。不安なんだ。熱い紅茶の話を聞いた時は、本当に心臓が止まるかと思った。もう二度と、ああいうのはやめてくれ」
「すみません……王妃陛下があんなに早くキレるとは、想定していなくて……」
そんなにキツイことを言ったつもりはないのに、王妃は突然、紅茶のカップを投げつけてきた。……お盆で防がなかったら、火傷していただろう。
「エルシー……俺の命を握っているのはお前だと、いい加減気づいてくれ。お前に何かあったら、俺は生きていけない」
「リジー……」
殿下はわたしのブラウスのボタンを全て外し、ぐいっとはだけさせる。光沢のある、薄い絹のスリップが露わになり、殿下はその飾りレースの少し上、剥き出しの鎖骨に唇を這わせる。
「……は……ふ、んん……」
そのままブラウスを両腕から抜き去り、ベッドの下に投げ捨てると、ウエストのホックを外し、スカートを脱がしにかかる。絹のスリップは滑りがいいので、するりとスカートを引きずり降ろすと、足元に蟠ったそれを剥ぎ取り、これまたベッドから叩き落す。殿下はわたしをベッドに押し倒して、絹のスリップの上から身体のラインを唇で辿る。裾にレースのついた繊細なスリップをたくし上げ、やはり絹地のドロワースの紐を解き、一気にずり下げる。露わになった太ももに、大きな掌を這わせ、ガーターベルトから続くリボンをぱちんと弾く一方で、つるりとした絹地のスリップの上を唇が這い上り、臍から再び胸へと至って、二つの丘の間に顔を埋める。
「はあ……エルシー……愛してる……」
「んん……くすぐった……」
遠い刺激にわたしが身を捩れば、殿下は揺れる胸の先端を、布地の上から唇で咥える。じゅっと布地ごと吸われ、わたしが思わず、びくんと身を震わせる。即座に反対側の頂点も吸われ、背筋を這い上る快感に、甘い吐息が漏れる。
「ああ……」
ほんのわずかな刺激でピンと立ち上がった先端が、絹の薄い布地を押し上げている。
「ああ、すごいな、エルシー……」
殿下はするするとスリップを捲り上げ、瞬く間にわたしからそれを剥ぎ取った。
「や……恥ずかしい……見ない……で……」
動くたびに揺れる二つの胸の、先端で揺れる赤い尖りを見たくなくて、わたしが顔を背けるのと、殿下がわたしの胸に顔を埋めるのがほぼ同時だった。
「ふう……んん……」
「傷がないか確かめないと……ああ、綺麗だエルシー……この肌に傷一つつけられてみろ、俺はこの国を亡ぼす自信があるぞ?」
「やめて……そん、な、あ……ああ!」
今度は直に先端を咥えて吸われ、私は悲鳴を上げる。そのまま舌で押し潰され、転がすように愛撫されて、つい腰が動いてしまう。
「んん……ん……リジー……リジーも、脱いで……」
裸に近いわたしと、まだネクタイもしたままの殿下の差が恥ずかしくて、わたしは殿下のシャツを引っ張る。殿下が胸から顔を上げ、少しだけ眉を寄せてわたしを見下ろした。
「わかった、ちょっと待て……」
殿下はカフリンクスを外してベッド脇のサイドテーブルに置き、ネクタイピンも外し、タイをしゅるりと抜き取る。シャツの開いた襟から覗く喉ぼとけがごくっと動くのが色っぽくて、わたしはつい目を逸らす。
殿下がウェストコートのボタンを外し、脱ぎ捨て、トラウザーズの吊りベルトを肩から下ろす。わたしは両手を伸ばして、殿下のシャツのボタンを外していく。トラウザーズの前を寛げて脱ぎ捨てると、ドレスシャツの下では、もう、欲望が鎌首をもたげている。わたしが殿下のシャツを引き剥がすように脱がせると、鍛えられた肉体が目に飛び込んできた。
「……綺麗……」
わたしが無意識に呟いて、殿下の胸から縦に割れた腹筋へと指を滑らせると、殿下は金色の瞳を見開いてわたしを見た。
「エルシー?」
「男の人の身体がこんなに綺麗だなんて、知らなかった……」
「知っていたらヤバイだろう。アタクシはそんなアバズレに育てた覚えはないよ!っておばあ様が嘆くぞ」
妙な声色まで作って、全然似ていない、おばあ様のモノマネ。あまりの似ていなくて、つい、吹き出してしまう。
「なにそれ……」
「体は鍛えたんだ。……士官学校で、拳闘を始めて。初めはクラブで一番、弱かった」
殿下はわたしのガーターベルトと絹のストッキングを剥ぎ取り、生まれたままの姿で抱き合う。
「……マックスに、強くならないとエルシーと結婚はさせないって言われたから」
「お父様に?!」
殿下の逞しい肩に腕を回した状態で、至近距離から目を合わせる。彼の金色の瞳が電灯の光を受けて煌いた。
「ああ。だから必死だった。素手で相手を殴り倒せる拳闘が一番強いだろうと思ったけど、最近、ラルフがはまっている、東洋の武術がすごい。武器を持つのを禁じられた民衆が、貴族への反抗のために編み出したものとか、梃子の原理を応用して、身体が小さく、力の弱い者が、大きくて強力な奴らを投げ飛ばすものとか。暇になったら俺もやってみようと思って」
「……今でも十分強いでしょう? これ以上強くなってどうなさるの」
世の中、武器や新兵器がどんどん、進歩している。個人の、それも生身の強さには限界があるだろうに。
殿下はわたしの唇を塞ぎ、少しだけ貪ってから、それを離し、額に額をくっつけて言った。
「……俺はまだ、王妃が怖い。――数年ぶりにあの人に再会して、膝が震えているのを悟られないようにするのが、精一杯だった。俺の方がはるかに強いとわかっていても、子供の頃に刷り込まれた恐怖は消えない。それを乗り越えるためには、金を儲けて、武力を蓄えて……もっともっと強くならないと、きっとエルシーを守れない」
「リジー……」
「だから、オーランド邸に王妃が向かったと聞いて、俺は――」
殿下がわたしを両腕で強く抱きしめ、耳元に顔を寄せて、囁く。
「本当に、お前に何かあったとしたら、俺は――」
わたしはリジーの両頬を掌で挟んで、真正面から目を見て言った。
「わたしは、平気よ。もっと怖いかと思ったけど、実物を見たら、ただのつまらないお婆さんにしか見えなかった。……息子が病に倒れたのは、辛かったでしょうね。そして夫に裏切られて……でも、ローズはともかく、幼いリジーを虐待するのは筋が違うし、やってはいけないこと。憎しみや恨みを向ける相手を間違えてしまったのね。……わざわざ、わたしのところまでやってきて、下賤な愛人だの、あたしを誰だと思っているのだの、すごくみっともなかった。滑稽過ぎて、気の毒になってしまったくらい」
「……エルシーは、強いな?」
「違うわ。辛辣なだけよ」
わたしは殿下の肩に顔を預け、彼の背中に腕を回す。
「……わたしね、おばあ様が何に怒っていたのか、王妃を見ていてわかったの。確かに、わたしたちの社会には身分の上下がある。共産主義者のように、すべての人を平等にしろだなんて、無茶は言わない。でも、身分差があるからって、上の者が下の者を蔑み、踏みつけにしていいわけはない。王族だから貴族だからって、暴力を振るっても許されるなんて、絶対におかしいわ。国が彼らを守るのは、あくまでも国のためで、罪が無くなるわけではない。自分が守られる理由すら理解できない人を、命懸けで守るなんて、理不尽だわ」
「エルシー……」
殿下がわたしの背中を大きな掌で撫で、背骨を指で辿る。
「……王妃の罪は、表沙汰にすることができない」
「なぜ?」
「俺一人を殺すために巻き込んだ人間が多過ぎる。大きすぎる罪は裁くことができない。理由を辿れば俺の出生と王家の欺瞞が暴かれ、王家の威信は地に堕ち、革命が起こるから」
わたしは殿下から身体を離し、無言で彼の顔を見つめる。彼はわたしをまっすぐに見た。
「三年前、シャルローの事件の直前に、義姉上は三人目の子を産んだ。今度こそ、男だろうと誰もが信じていた。兄上に男児さえ生まれれば、俺はお役御免だ。庶子が偽りの玉座に座ることもなく、正統な血筋に王位は受け継がれるはずだった。だが――生まれてきたアイリーンに罪はないけれど、王家や周辺の落胆は大きかった」
「でも……ますますリジーのせいではないわ?」
「そうだ。でも、真実を知る者は法と国民を欺いていることを、苦々しく思っている。念のためと思ってスペアと作ったものの、いざ、スペアを王として戴く未来に怯えている」
殿下がもう一度わたしを抱きしめ、首筋に唇を這わせる。
「ん……リ、ジー……」
「……王家の中枢は今、決断を迫られている。……俺が、缶詰になっているのはそのせいだ」
「決断?」
「父上の譲位は確定事項。兄上が即位したのち、次の王太子をどうするか。このまま、国民も法も欺いて、庶子の俺を王太弟にするか、あるいは法を改正して女児の継承を認めるか」
わたしは目を瞠った。
「……でも、ブリジット妃殿下はまだ……」
「流産の後、体調が芳しくない。だから、王妃に逆らえなくて、協力させられてしまった。――気の毒な人だ」
殿下はさらに続ける。
「俺の愛人スキャンダルはハートネルが撒いたものだけれど、俺の評判を下げ、継承法の改正を狙う者がそれに便乗しているからだ。ステファニーの一件も含め、このままだとたぶん、俺は議会に証人として出廷させられる。……王太子としての資質を問われるのは間違いないな」
「リジー……」
殿下はわたしを抱き締めたまま、寝台に倒れ込む。わたしの上に圧し掛かり至近距離から見下ろして言った。
「エルシー、俺は欺瞞と不名誉に塗れた王子として断罪されるかもしれない。それでも、俺はお前を愛している。継承権や王族の籍だけじゃなく、名誉も奪われるかもしれない。でも――お前がいてくれるなら、俺はそれだけで――」
「まだ、お兄様の喪中なのでしょう?」
殿下はわたしをベッドの上に投げだし、自らもベッドに上がって、圧し掛かるようにして衣服を脱がせにかかる。乱暴な行為を押しとどめようとわたしが言えば、殿下の金色の瞳が、ベッドヘッドの壁付け電灯の光を反射して、ギラリと光った。
「お前が本当に怪我をしていないか、確かめないと。不安なんだ。熱い紅茶の話を聞いた時は、本当に心臓が止まるかと思った。もう二度と、ああいうのはやめてくれ」
「すみません……王妃陛下があんなに早くキレるとは、想定していなくて……」
そんなにキツイことを言ったつもりはないのに、王妃は突然、紅茶のカップを投げつけてきた。……お盆で防がなかったら、火傷していただろう。
「エルシー……俺の命を握っているのはお前だと、いい加減気づいてくれ。お前に何かあったら、俺は生きていけない」
「リジー……」
殿下はわたしのブラウスのボタンを全て外し、ぐいっとはだけさせる。光沢のある、薄い絹のスリップが露わになり、殿下はその飾りレースの少し上、剥き出しの鎖骨に唇を這わせる。
「……は……ふ、んん……」
そのままブラウスを両腕から抜き去り、ベッドの下に投げ捨てると、ウエストのホックを外し、スカートを脱がしにかかる。絹のスリップは滑りがいいので、するりとスカートを引きずり降ろすと、足元に蟠ったそれを剥ぎ取り、これまたベッドから叩き落す。殿下はわたしをベッドに押し倒して、絹のスリップの上から身体のラインを唇で辿る。裾にレースのついた繊細なスリップをたくし上げ、やはり絹地のドロワースの紐を解き、一気にずり下げる。露わになった太ももに、大きな掌を這わせ、ガーターベルトから続くリボンをぱちんと弾く一方で、つるりとした絹地のスリップの上を唇が這い上り、臍から再び胸へと至って、二つの丘の間に顔を埋める。
「はあ……エルシー……愛してる……」
「んん……くすぐった……」
遠い刺激にわたしが身を捩れば、殿下は揺れる胸の先端を、布地の上から唇で咥える。じゅっと布地ごと吸われ、わたしが思わず、びくんと身を震わせる。即座に反対側の頂点も吸われ、背筋を這い上る快感に、甘い吐息が漏れる。
「ああ……」
ほんのわずかな刺激でピンと立ち上がった先端が、絹の薄い布地を押し上げている。
「ああ、すごいな、エルシー……」
殿下はするするとスリップを捲り上げ、瞬く間にわたしからそれを剥ぎ取った。
「や……恥ずかしい……見ない……で……」
動くたびに揺れる二つの胸の、先端で揺れる赤い尖りを見たくなくて、わたしが顔を背けるのと、殿下がわたしの胸に顔を埋めるのがほぼ同時だった。
「ふう……んん……」
「傷がないか確かめないと……ああ、綺麗だエルシー……この肌に傷一つつけられてみろ、俺はこの国を亡ぼす自信があるぞ?」
「やめて……そん、な、あ……ああ!」
今度は直に先端を咥えて吸われ、私は悲鳴を上げる。そのまま舌で押し潰され、転がすように愛撫されて、つい腰が動いてしまう。
「んん……ん……リジー……リジーも、脱いで……」
裸に近いわたしと、まだネクタイもしたままの殿下の差が恥ずかしくて、わたしは殿下のシャツを引っ張る。殿下が胸から顔を上げ、少しだけ眉を寄せてわたしを見下ろした。
「わかった、ちょっと待て……」
殿下はカフリンクスを外してベッド脇のサイドテーブルに置き、ネクタイピンも外し、タイをしゅるりと抜き取る。シャツの開いた襟から覗く喉ぼとけがごくっと動くのが色っぽくて、わたしはつい目を逸らす。
殿下がウェストコートのボタンを外し、脱ぎ捨て、トラウザーズの吊りベルトを肩から下ろす。わたしは両手を伸ばして、殿下のシャツのボタンを外していく。トラウザーズの前を寛げて脱ぎ捨てると、ドレスシャツの下では、もう、欲望が鎌首をもたげている。わたしが殿下のシャツを引き剥がすように脱がせると、鍛えられた肉体が目に飛び込んできた。
「……綺麗……」
わたしが無意識に呟いて、殿下の胸から縦に割れた腹筋へと指を滑らせると、殿下は金色の瞳を見開いてわたしを見た。
「エルシー?」
「男の人の身体がこんなに綺麗だなんて、知らなかった……」
「知っていたらヤバイだろう。アタクシはそんなアバズレに育てた覚えはないよ!っておばあ様が嘆くぞ」
妙な声色まで作って、全然似ていない、おばあ様のモノマネ。あまりの似ていなくて、つい、吹き出してしまう。
「なにそれ……」
「体は鍛えたんだ。……士官学校で、拳闘を始めて。初めはクラブで一番、弱かった」
殿下はわたしのガーターベルトと絹のストッキングを剥ぎ取り、生まれたままの姿で抱き合う。
「……マックスに、強くならないとエルシーと結婚はさせないって言われたから」
「お父様に?!」
殿下の逞しい肩に腕を回した状態で、至近距離から目を合わせる。彼の金色の瞳が電灯の光を受けて煌いた。
「ああ。だから必死だった。素手で相手を殴り倒せる拳闘が一番強いだろうと思ったけど、最近、ラルフがはまっている、東洋の武術がすごい。武器を持つのを禁じられた民衆が、貴族への反抗のために編み出したものとか、梃子の原理を応用して、身体が小さく、力の弱い者が、大きくて強力な奴らを投げ飛ばすものとか。暇になったら俺もやってみようと思って」
「……今でも十分強いでしょう? これ以上強くなってどうなさるの」
世の中、武器や新兵器がどんどん、進歩している。個人の、それも生身の強さには限界があるだろうに。
殿下はわたしの唇を塞ぎ、少しだけ貪ってから、それを離し、額に額をくっつけて言った。
「……俺はまだ、王妃が怖い。――数年ぶりにあの人に再会して、膝が震えているのを悟られないようにするのが、精一杯だった。俺の方がはるかに強いとわかっていても、子供の頃に刷り込まれた恐怖は消えない。それを乗り越えるためには、金を儲けて、武力を蓄えて……もっともっと強くならないと、きっとエルシーを守れない」
「リジー……」
「だから、オーランド邸に王妃が向かったと聞いて、俺は――」
殿下がわたしを両腕で強く抱きしめ、耳元に顔を寄せて、囁く。
「本当に、お前に何かあったとしたら、俺は――」
わたしはリジーの両頬を掌で挟んで、真正面から目を見て言った。
「わたしは、平気よ。もっと怖いかと思ったけど、実物を見たら、ただのつまらないお婆さんにしか見えなかった。……息子が病に倒れたのは、辛かったでしょうね。そして夫に裏切られて……でも、ローズはともかく、幼いリジーを虐待するのは筋が違うし、やってはいけないこと。憎しみや恨みを向ける相手を間違えてしまったのね。……わざわざ、わたしのところまでやってきて、下賤な愛人だの、あたしを誰だと思っているのだの、すごくみっともなかった。滑稽過ぎて、気の毒になってしまったくらい」
「……エルシーは、強いな?」
「違うわ。辛辣なだけよ」
わたしは殿下の肩に顔を預け、彼の背中に腕を回す。
「……わたしね、おばあ様が何に怒っていたのか、王妃を見ていてわかったの。確かに、わたしたちの社会には身分の上下がある。共産主義者のように、すべての人を平等にしろだなんて、無茶は言わない。でも、身分差があるからって、上の者が下の者を蔑み、踏みつけにしていいわけはない。王族だから貴族だからって、暴力を振るっても許されるなんて、絶対におかしいわ。国が彼らを守るのは、あくまでも国のためで、罪が無くなるわけではない。自分が守られる理由すら理解できない人を、命懸けで守るなんて、理不尽だわ」
「エルシー……」
殿下がわたしの背中を大きな掌で撫で、背骨を指で辿る。
「……王妃の罪は、表沙汰にすることができない」
「なぜ?」
「俺一人を殺すために巻き込んだ人間が多過ぎる。大きすぎる罪は裁くことができない。理由を辿れば俺の出生と王家の欺瞞が暴かれ、王家の威信は地に堕ち、革命が起こるから」
わたしは殿下から身体を離し、無言で彼の顔を見つめる。彼はわたしをまっすぐに見た。
「三年前、シャルローの事件の直前に、義姉上は三人目の子を産んだ。今度こそ、男だろうと誰もが信じていた。兄上に男児さえ生まれれば、俺はお役御免だ。庶子が偽りの玉座に座ることもなく、正統な血筋に王位は受け継がれるはずだった。だが――生まれてきたアイリーンに罪はないけれど、王家や周辺の落胆は大きかった」
「でも……ますますリジーのせいではないわ?」
「そうだ。でも、真実を知る者は法と国民を欺いていることを、苦々しく思っている。念のためと思ってスペアと作ったものの、いざ、スペアを王として戴く未来に怯えている」
殿下がもう一度わたしを抱きしめ、首筋に唇を這わせる。
「ん……リ、ジー……」
「……王家の中枢は今、決断を迫られている。……俺が、缶詰になっているのはそのせいだ」
「決断?」
「父上の譲位は確定事項。兄上が即位したのち、次の王太子をどうするか。このまま、国民も法も欺いて、庶子の俺を王太弟にするか、あるいは法を改正して女児の継承を認めるか」
わたしは目を瞠った。
「……でも、ブリジット妃殿下はまだ……」
「流産の後、体調が芳しくない。だから、王妃に逆らえなくて、協力させられてしまった。――気の毒な人だ」
殿下はさらに続ける。
「俺の愛人スキャンダルはハートネルが撒いたものだけれど、俺の評判を下げ、継承法の改正を狙う者がそれに便乗しているからだ。ステファニーの一件も含め、このままだとたぶん、俺は議会に証人として出廷させられる。……王太子としての資質を問われるのは間違いないな」
「リジー……」
殿下はわたしを抱き締めたまま、寝台に倒れ込む。わたしの上に圧し掛かり至近距離から見下ろして言った。
「エルシー、俺は欺瞞と不名誉に塗れた王子として断罪されるかもしれない。それでも、俺はお前を愛している。継承権や王族の籍だけじゃなく、名誉も奪われるかもしれない。でも――お前がいてくれるなら、俺はそれだけで――」
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