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18、永遠を継ぐ者
お使い
「私にミカエラのところに行けと?」
あからさまに不機嫌そうに言うシウリンに、アデライードはだが、眉尻を下げて困ったような態度を崩さない。
「ミカエラ様のところではなく、生まれた皇子殿下の元です」
「同じだ! 私はあの女にも、生まれた子供にも二度と会いたくないと以前から――」
「ミカエラ様はともかく、御子に会わないとか、無責任すぎます。御子には罪はないのですから」
シウリンの眉が思いっきり歪められる。
「子供ができた経緯は知っているだろう。それでも私に責任を負わすのか?」
「どんな経緯であれ、認知もなさった以上、ちゃんとお顔を見て、責任と向き合うべきです」
正論を吐かれて、シウリンはわざとらしい溜息をつく。
「……私の妻までが、この件で私を追い詰めるとは……」
シウリンが味方を求めて止まり木のエールライヒに視線を遣るが、「クエー」と馬鹿にされたように鳴かれただけだった。
アデライードがまっすぐにシウリンを見つめて言う。
「シウリン。わたしは、あなたの愛を疑ったりはしませんから、わたしへの愛を証明するために、他の方たちに冷たく接する必要はないんです」
シウリンが、虚を衝かれたようにアデライードを見る。
「それは……私は別に、そういうつもりでは……」
アデライードが困ったように小首を傾げてみせる。
「わかっています。でも、この件はあなたにとって不本意かも知れませんが、天と陰陽にとっては必要だったのでしょう。我々には伺い知れない理由で、金の〈王気〉を持つ西南辺境伯が必要だったのよ。――かつて、金の〈王気〉を持つ見習い僧侶が必要だったように」
「あの子が、何かの使命を負っていると?」
胡散臭そうなシウリンに向かい、アデライードがうっとりするような微笑みを浮かべた。
「その子なのか、あるいはその末なのか、それはわかりません。十年後かもしれないし、数百年後かもしれない。でも、全て必要のあることなのよ。……きっと」
妻の言葉はシウリンにはさっぱり意味がわからなくて、ただ、戸惑うしかない。
「……それで、私にどうしろと言うのだ。何も話すことなんかないぞ」
「これを、渡していただきたいのです」
アデライードが手渡したのは、辺境伯位をミカエラと、後にはその子に継承させる特許状であった。
女王国では爵位は原則として男性しか継ぐことはできず、女性が爵位を継ぐには女王の特別な許可が必要だった。
「まだ正式にはお渡ししていなかったはずです。女性が幼子を抱えて一人で領地を経営するのは、とても大変でしょう。こんな紙切れ一枚でも、ないよりはマシでしょうから」
「そんなもの、別に私が持っていかなくても……」
まだブツブツ言っていたシウリンだが、するり寄ってきたアデライードが、白い腕を伸ばしてシウリンのうなじに手をかけ、耳元に唇を寄せる。
「アデライード?」
囁かれた言葉に、シウリンの黒曜石の瞳が見開かれ、アデライードを見た。
「本当か?」
にっこり微笑んだアデライードが、ちらりとメイローズを見る。メイローズもまた微笑んで頭を下げ、事実であると無言で認めた。
「そうか……まあ、そういうことであれば――」
そうしてアデライードに口づけして、シウリンはミカエラの元に赴くことを了承した。
あからさまに不機嫌そうに言うシウリンに、アデライードはだが、眉尻を下げて困ったような態度を崩さない。
「ミカエラ様のところではなく、生まれた皇子殿下の元です」
「同じだ! 私はあの女にも、生まれた子供にも二度と会いたくないと以前から――」
「ミカエラ様はともかく、御子に会わないとか、無責任すぎます。御子には罪はないのですから」
シウリンの眉が思いっきり歪められる。
「子供ができた経緯は知っているだろう。それでも私に責任を負わすのか?」
「どんな経緯であれ、認知もなさった以上、ちゃんとお顔を見て、責任と向き合うべきです」
正論を吐かれて、シウリンはわざとらしい溜息をつく。
「……私の妻までが、この件で私を追い詰めるとは……」
シウリンが味方を求めて止まり木のエールライヒに視線を遣るが、「クエー」と馬鹿にされたように鳴かれただけだった。
アデライードがまっすぐにシウリンを見つめて言う。
「シウリン。わたしは、あなたの愛を疑ったりはしませんから、わたしへの愛を証明するために、他の方たちに冷たく接する必要はないんです」
シウリンが、虚を衝かれたようにアデライードを見る。
「それは……私は別に、そういうつもりでは……」
アデライードが困ったように小首を傾げてみせる。
「わかっています。でも、この件はあなたにとって不本意かも知れませんが、天と陰陽にとっては必要だったのでしょう。我々には伺い知れない理由で、金の〈王気〉を持つ西南辺境伯が必要だったのよ。――かつて、金の〈王気〉を持つ見習い僧侶が必要だったように」
「あの子が、何かの使命を負っていると?」
胡散臭そうなシウリンに向かい、アデライードがうっとりするような微笑みを浮かべた。
「その子なのか、あるいはその末なのか、それはわかりません。十年後かもしれないし、数百年後かもしれない。でも、全て必要のあることなのよ。……きっと」
妻の言葉はシウリンにはさっぱり意味がわからなくて、ただ、戸惑うしかない。
「……それで、私にどうしろと言うのだ。何も話すことなんかないぞ」
「これを、渡していただきたいのです」
アデライードが手渡したのは、辺境伯位をミカエラと、後にはその子に継承させる特許状であった。
女王国では爵位は原則として男性しか継ぐことはできず、女性が爵位を継ぐには女王の特別な許可が必要だった。
「まだ正式にはお渡ししていなかったはずです。女性が幼子を抱えて一人で領地を経営するのは、とても大変でしょう。こんな紙切れ一枚でも、ないよりはマシでしょうから」
「そんなもの、別に私が持っていかなくても……」
まだブツブツ言っていたシウリンだが、するり寄ってきたアデライードが、白い腕を伸ばしてシウリンのうなじに手をかけ、耳元に唇を寄せる。
「アデライード?」
囁かれた言葉に、シウリンの黒曜石の瞳が見開かれ、アデライードを見た。
「本当か?」
にっこり微笑んだアデライードが、ちらりとメイローズを見る。メイローズもまた微笑んで頭を下げ、事実であると無言で認めた。
「そうか……まあ、そういうことであれば――」
そうしてアデライードに口づけして、シウリンはミカエラの元に赴くことを了承した。
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