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8、神器の在処
暗部
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息をつく暇もなく壊れた鎧戸に次なる刺客が取りついて、剣を突き立てようとするところに、外から飛来した手裏剣が賊のうなじに刺さって、顎の下から切っ先が飛び出す。
「ぐわあっ!」
ぶわっと鮮血が飛び散り、男の口からも血が溢れ出す。
「ひっ!!」
またもやたまたま見てしまったのだろう、アデライードが声にならない悲鳴をあげるのを、恭親王は「あーあ」と思いながら剣の先っぽで事切れた刺客を押して馬車から振り落とす。次にもう一人、横から首筋を手裏剣で貫かれ、激しい血しぶきをあげながらスローモーションのように馬車から転がり落ちていく。その手裏剣の柄を見て、それが恭親王の配下の暗部の者の持ち物だと悟る。
「カイトか――」
恭親王が呟くと、ひそやかな声がした。
「申し訳ありません。あの例の女の動向に気を取られ過ぎて、こちらの襲撃に気づくのが遅れました。後はすべて我々で。殿下はこのまま別邸まで走ってください」
「わかった」
遠くで微かな剣撃の交わる音と、押し殺した悲鳴が聞こえてくる。カイトがこちらについたのなら、勝負あったのだろう。
恭親王は血糊のついた愛用の剣を軽く振るってから素早く鞘に収め、蒼白な顔で震えている婚約者の肩を抱きしめる。
「もう大丈夫だ、怖い思いをさせて悪かった――。もう、撃退した」
抱き寄せて身体ごと引っ張り上げて膝の上に座らせると、甘い香りのする肩口に頭を埋める。狭い馬車の中のことでかなりの返り血を浴びていたが、それがアデライードを汚すのも構わず抱きしめなければ、儚くなってしまうのではと、不安に駆られたためだ。力を入れれば容易く折れそうな華奢な肩を抱き寄せ、髪の香りを吸い込み、流れ込む〈王気〉を堪能する。甘い――。
流れるように艶やかな白金色の髪を撫でながら、しばらく抱きしめていると、強張っていたアデライードもようやく息を吐き、肩の力を抜いたようだ。細い顎に指をかけて上を向かせ、顔を見る。まだ頬は引き攣り、顔色は青白く、瞳は怯えたように見開いたままだ。
無理もない。六歳からの十年を、修道院に閉じ込められて過ごしたのだ。命を狙われていたとはいえ、あれほどの荒事は初めてだろう。恭親王とて、あそこまでの力技で本気で殺しにかかってくるとは予想していなかった。
コンコン、と御者台のゾラが扉を叩く。
「どうやら撃退できたみたいっす。さすがにこの後は襲撃ないと思いたいっすけど、とりあえず全速力で突っ走るっすよ!」
「こちらの損害は?」
「護衛数名軽傷っす。数騎、馬に酸をかけられて使いものにならねぇ。マジ許せねぇっすよ!」
ゾラは馬と娼婦には優しいと評判だ。
「馬をやられた奴等を現場に残し、賊の死体を検分させておけ。別邸に着いたらすぐに応援を送らせる」
「りょーかいっ!」
「このまま速度を落とさず別邸まで走れ」
「へーい。こっから別邸まで、あと一刻(二時間)ってところっす。お楽しみはほどほどにしてくださいよ」
アデライードといちゃついていたことなど、ゾラはとっくにお見通しなのだろう。メイローズに密告される前に、何等かの交換条件でもつけて口止めしておかねばならない。
それでも、腕の中にいるアデライードの発散する甘い〈王気〉の誘惑には打ち勝てず、恭親王は唇で再び彼女の唇を覆う。わずかに開いた唇の間から舌を強引に捩じ込み、歯列をなぞり、口蓋の裏を嬲り、舌を絡めとり、唾液を吸い上げる。唾液を通して流れ込む〈王気〉の刺激は強烈で、脳が直接冒されるようだ。貪るように唇を蹂躙し、溜息をついて唇を離すと、アデライードは翡翠色の瞳が、放心したような表情で恭親王を見ていた。顔が上気し、白い肌が薄桃色に色づき、零れるような色香に溢れている。
先ほどの襲撃の衝撃が強すぎたためか、今は無駄な抵抗をしないで身を任せていて、そのしどけない様子がまた恭親王を煽った。
「さっきの、恐ろしい思いを忘れさせてやろう……」
そう耳元で囁いて、また唇を合わせる。角度を変えて深く口づけながら、男は片方の腕でがっちりと背中を抱え、もう片方の手で服の上からそっと体の線を撫でる。腰から太ももを通って膝に降り、またゆっくりと撫で上げて脇腹から胸へと上り始める。唇はアデライードの唇を離れ、顎から首筋へと伝い、白い喉を食むようにゆっくりと滑りおりて、浮き出た鎖骨の上あたりをきつく吸い上げる。
「!!」
痛みを感じたのか、アデライードの身体がぶるりと震える。鎖骨の上に赤い鬱血痕が花弁のように咲いたのを見て、つい口元に笑みが浮かぶ。そこにまた口づけ、そこから開いた襟元を辿って、真っ白な胸元に顔を埋め、わずかに覗く白い胸の谷間にも唇を寄せ、もう一つ強く吸いあげて花弁を散らす。服の上から身体を撫でていた手が、胸の膨らみをそっと覆う。そこでアデライードも我に返ったのか、急に暴れて恭親王の肩口を押して必死に身体を捩ろうとするが、背中に回された力強い腕がそれを許さない。首を振り、両手を突っ張って抵抗の意を示すアデライードに、恭親王は悪魔めいた微笑みを浮かべて言った。
「さっきも言ったが、口で言わないとやめてやらないぞ?」
片方の胸を優しく揉まれ、涙目でいやいやと首を振って拒むのを、唇を胸にあてたまま下から見上げ、尋ねる。
「嫌か――?」
羞恥に真っ赤になって、荒い息の下でこくこくと必死で訴えるその姿に、むしろ一層劣情を刺激される。
「急には無理でも、少しずつでいいから話せ。嫌だと一言言えばやめてやる」
優しく揉みこまれ立ち上がった胸の先端を二本の指で挟んでくりくりと刺激してやると、アデライードが悲鳴のような声を上げた。
「あぁあ!……はっあぁ!……い、……やぁ!」
その声に最後の理性が砕かれそうで、全く逆効果だと思ったが、ここで無理強いすれば完全に信頼を失いかねない。ぐっと踏みとどまって名残惜しそうに胸から手を離した。
「上出来だ――」
男は溜息をつくと、アデライードの肩口に額を乗せるようにして、言った。
「今日のところは許してやろう。――どうせ、あなたはもう、私のものだ」
その宣告に、アデライードの身体が少し震えた。
「ぐわあっ!」
ぶわっと鮮血が飛び散り、男の口からも血が溢れ出す。
「ひっ!!」
またもやたまたま見てしまったのだろう、アデライードが声にならない悲鳴をあげるのを、恭親王は「あーあ」と思いながら剣の先っぽで事切れた刺客を押して馬車から振り落とす。次にもう一人、横から首筋を手裏剣で貫かれ、激しい血しぶきをあげながらスローモーションのように馬車から転がり落ちていく。その手裏剣の柄を見て、それが恭親王の配下の暗部の者の持ち物だと悟る。
「カイトか――」
恭親王が呟くと、ひそやかな声がした。
「申し訳ありません。あの例の女の動向に気を取られ過ぎて、こちらの襲撃に気づくのが遅れました。後はすべて我々で。殿下はこのまま別邸まで走ってください」
「わかった」
遠くで微かな剣撃の交わる音と、押し殺した悲鳴が聞こえてくる。カイトがこちらについたのなら、勝負あったのだろう。
恭親王は血糊のついた愛用の剣を軽く振るってから素早く鞘に収め、蒼白な顔で震えている婚約者の肩を抱きしめる。
「もう大丈夫だ、怖い思いをさせて悪かった――。もう、撃退した」
抱き寄せて身体ごと引っ張り上げて膝の上に座らせると、甘い香りのする肩口に頭を埋める。狭い馬車の中のことでかなりの返り血を浴びていたが、それがアデライードを汚すのも構わず抱きしめなければ、儚くなってしまうのではと、不安に駆られたためだ。力を入れれば容易く折れそうな華奢な肩を抱き寄せ、髪の香りを吸い込み、流れ込む〈王気〉を堪能する。甘い――。
流れるように艶やかな白金色の髪を撫でながら、しばらく抱きしめていると、強張っていたアデライードもようやく息を吐き、肩の力を抜いたようだ。細い顎に指をかけて上を向かせ、顔を見る。まだ頬は引き攣り、顔色は青白く、瞳は怯えたように見開いたままだ。
無理もない。六歳からの十年を、修道院に閉じ込められて過ごしたのだ。命を狙われていたとはいえ、あれほどの荒事は初めてだろう。恭親王とて、あそこまでの力技で本気で殺しにかかってくるとは予想していなかった。
コンコン、と御者台のゾラが扉を叩く。
「どうやら撃退できたみたいっす。さすがにこの後は襲撃ないと思いたいっすけど、とりあえず全速力で突っ走るっすよ!」
「こちらの損害は?」
「護衛数名軽傷っす。数騎、馬に酸をかけられて使いものにならねぇ。マジ許せねぇっすよ!」
ゾラは馬と娼婦には優しいと評判だ。
「馬をやられた奴等を現場に残し、賊の死体を検分させておけ。別邸に着いたらすぐに応援を送らせる」
「りょーかいっ!」
「このまま速度を落とさず別邸まで走れ」
「へーい。こっから別邸まで、あと一刻(二時間)ってところっす。お楽しみはほどほどにしてくださいよ」
アデライードといちゃついていたことなど、ゾラはとっくにお見通しなのだろう。メイローズに密告される前に、何等かの交換条件でもつけて口止めしておかねばならない。
それでも、腕の中にいるアデライードの発散する甘い〈王気〉の誘惑には打ち勝てず、恭親王は唇で再び彼女の唇を覆う。わずかに開いた唇の間から舌を強引に捩じ込み、歯列をなぞり、口蓋の裏を嬲り、舌を絡めとり、唾液を吸い上げる。唾液を通して流れ込む〈王気〉の刺激は強烈で、脳が直接冒されるようだ。貪るように唇を蹂躙し、溜息をついて唇を離すと、アデライードは翡翠色の瞳が、放心したような表情で恭親王を見ていた。顔が上気し、白い肌が薄桃色に色づき、零れるような色香に溢れている。
先ほどの襲撃の衝撃が強すぎたためか、今は無駄な抵抗をしないで身を任せていて、そのしどけない様子がまた恭親王を煽った。
「さっきの、恐ろしい思いを忘れさせてやろう……」
そう耳元で囁いて、また唇を合わせる。角度を変えて深く口づけながら、男は片方の腕でがっちりと背中を抱え、もう片方の手で服の上からそっと体の線を撫でる。腰から太ももを通って膝に降り、またゆっくりと撫で上げて脇腹から胸へと上り始める。唇はアデライードの唇を離れ、顎から首筋へと伝い、白い喉を食むようにゆっくりと滑りおりて、浮き出た鎖骨の上あたりをきつく吸い上げる。
「!!」
痛みを感じたのか、アデライードの身体がぶるりと震える。鎖骨の上に赤い鬱血痕が花弁のように咲いたのを見て、つい口元に笑みが浮かぶ。そこにまた口づけ、そこから開いた襟元を辿って、真っ白な胸元に顔を埋め、わずかに覗く白い胸の谷間にも唇を寄せ、もう一つ強く吸いあげて花弁を散らす。服の上から身体を撫でていた手が、胸の膨らみをそっと覆う。そこでアデライードも我に返ったのか、急に暴れて恭親王の肩口を押して必死に身体を捩ろうとするが、背中に回された力強い腕がそれを許さない。首を振り、両手を突っ張って抵抗の意を示すアデライードに、恭親王は悪魔めいた微笑みを浮かべて言った。
「さっきも言ったが、口で言わないとやめてやらないぞ?」
片方の胸を優しく揉まれ、涙目でいやいやと首を振って拒むのを、唇を胸にあてたまま下から見上げ、尋ねる。
「嫌か――?」
羞恥に真っ赤になって、荒い息の下でこくこくと必死で訴えるその姿に、むしろ一層劣情を刺激される。
「急には無理でも、少しずつでいいから話せ。嫌だと一言言えばやめてやる」
優しく揉みこまれ立ち上がった胸の先端を二本の指で挟んでくりくりと刺激してやると、アデライードが悲鳴のような声を上げた。
「あぁあ!……はっあぁ!……い、……やぁ!」
その声に最後の理性が砕かれそうで、全く逆効果だと思ったが、ここで無理強いすれば完全に信頼を失いかねない。ぐっと踏みとどまって名残惜しそうに胸から手を離した。
「上出来だ――」
男は溜息をつくと、アデライードの肩口に額を乗せるようにして、言った。
「今日のところは許してやろう。――どうせ、あなたはもう、私のものだ」
その宣告に、アデライードの身体が少し震えた。
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