【R18】渾沌の七竅

無憂

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四竅

23、獣人奴隷

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 恭親王は初めて、その生き物を目にした。
 北方の砦で過ごして早、一月程経った時。ゲルフィンが手配した獣人たちが宿舎についたのだ。

 女たちはいずれも赤い髪を肩にかからぬ長さで真っ直ぐに切り揃え、似たような薄物の衣裳を身に着けている。衣裳の丈が短く、すらりとした太ももから伸びる脚が露出していて、恭親王は目を瞬いた。およそ膝小僧を出している女など、見たこともない。足首が見えることさえ稀である。まず恭親王は、その珍妙な姿に驚いた。
 
 女たちが特殊な、隷属的な扱いを受けている存在であることは、そのあられもない服装と、短く切られた髪によって明らかではあった。切り揃えられた髪は奴婢――つまり奴隷――の証である。
 そして彼女たちがなぜ、そのような扱いを受けている理由は、彼女たちの髪型ではなく、その髪の間から見える、明らかに人とは異なる尖ったり、あるいはぺたりと垂れている耳――そう、ちょうどイヌの耳のような――によって明かされていた。

 年は十代の半ばから二十代初めごろか、くりっとした黒い目をしていて、顔つきはそこそこ可愛らしい。だが全員、似たような化粧を施されて見分けがつき難く、さらに口元は締まりなく開いて、白い歯の間から赤い舌が覗いていた。
 薄い透けそうな衣裳は豊満な胸とくびれた腰つきを強調し、短い裾からふさふさした尻尾がはみ出ているもの、巻いた尻尾が短い衣裳を押し上げているもの、さらに尻尾の無い者とあるらしい。

「狗の獣人だ、懐かしいな」

 女たちをみて、ダヤンが言った。西方大都督の郡王の嫡男であるダヤンは、西方辺境のダルバンダルで育っているから、西方では一般的な狗の獣人を見たことがあった。

「親父が二十匹ばかし飼っているんだ。何匹か貸してもらったこともある」

 早熟なダヤンは十歳になるかならぬころから性的に目覚めてしまい、もっぱら獣人に相手してもらっていたらしい。閨女のいないダルバンダルでは皇子の閨房教育もできないし、西方辺境には皇子の精に耐えられるような貴族の女も少ないのだ。

「俺は尻尾のあるのが好きだ。十匹だから、一人二匹か……尻尾のある奴もらっていいか?」
「これは期間限定のレンタル品ですので、大事に使ってくださいよ。壊したら弁償しなければなりません」

 ゲルフィンが表情の乏しい顔で言った。

「あと、この宿舎から出すのも禁止。この、風呂のとなりの部屋だけです。自分の部屋に連れて行くのもダメです。後、獣人の話を外でするのも禁止です。……砦の兵士たちに見つかるとまずいですから。彼らの多くは獣人を忌み嫌います。それだけ約束してください」

 廉郡王グインは暫し精悍な眉の間に皺を寄せて、獣人たちの顔を見回していたが、こくんと頷いて言った。

「わかった。俺は、その耳の垂れた尻尾付きと、その胸のデカいのに決めた。……兄貴はどれにする?」
「いや、僕はあまりもので……」
「ユエリンとアイリンはどれとどれを使う?」

 ダヤンにも言われ、恭親王は意味が分からずぽかんとした。

「は? 何が、二人? 使う?」

 恭親王の言葉に、他の四人の皇子が驚いたように言った。

「ユエリン、獣人遊びを知らないの?」

 ユエリンが首を振ると、ダヤン皇子と廉郡王が呆れたように溜息をついた。

「前から思ってたけどよ、お前のとこの傅役、アホなんじゃねぇの?」
「可哀想に。獣人遊びもさせてもらえないなんて。……ねえ、ユエリンの傅役さん、そんなやり方だと、ユエリンいつかグレちゃうよ」

 ダヤンは真実を知っているわけではないが、実際にユエリン皇子(本物)をグレさせた経験のあるデュクトは、苦み走った顔を不愉快げに歪めた。
 どうやら恭親王は、相変わらずデュクトの偏狭した教育のおかげで、皇子であれば当然知っている遊びすら教えられずにきたらしい。

「獣人遊びって……何?」

 思わずデュクトを睨みながら尋ねる恭親王の肩を、ダヤンがはっしと掴んで言った。

「いいからいいから、俺たちで教えてやるよ、箱入り皇子様!……じゃ、ユエリン借りるよ~、堅物の傅役さん!」
「せっかくだから香も焚こうぜ!〈清談〉だ〈清談〉!」

 廉郡王が嬉しそうにゲルフィンに言うと、ゲルフィンが眉を顰めて懐から紙に包んだ香を出した。

「焚きすぎないでくださいよ。……恭親王殿下は香の匂いが嫌いなんですから」
「わーってるって!」

 明らかに浮かれた様子で、獣人たちと歩いていく廉郡王と、恭親王の肩をがっしり掴んで引きずるように連れていくダヤン皇子の後を、年上の二皇子が遠慮そうに着いていく。その様子を、デュクトやゼクトらの傅役と、ゾーイら侍従たちが不安げな眼差しで見送る。

「大丈夫なのか……?」

 ゾーイの言葉に、ゲルフィンが肩を竦めた。

「まあ、しょうがないだろう。辺境の巡検で、皇子たちの欲望を発散させようと思ったら、これ以外に手がない」

 デュクトの従兄にあたるゼクトも忌々し気に頷き、デュクトはいかにも汚らわしいと言う風に、ただでさえ苦み走った表情をさらに苦くする。妓楼で娼妓を抱けない皇子たちは、長い巡検になると獣人奴隷を引き込んで〈清談〉と呼ばれる獣人遊びをして、その溜まった欲望を吐き出すしかない。とにかく皇族の精に耐える女を調達しようとなると、辺境では獣人に頼る以外にないのだ。デュクトもわかっているからこそ、あえて普段は獣人を近づけなかったのだ。もちろん、彼自身が獣人嫌いだという理由が一番だけれど。
 デュクトは、彼の愛する皇子が、獣人奴隷の汚らわしい舌で汚されるのかと思うと、胃の腑が焼けるような嫉妬と嫌悪感に苦しめられた。
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