【R18】渾沌の七竅

無憂

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五竅

20、火遊び*

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 デュクトの未亡人であるクリスタと恭親王の関係は、どうしたって側近たちにはすぐに知れてしまう。十一も年上の女、ということに側近たちはやや驚いたものの、未亡人との関係はのめり込みさえしなければ、却って後腐れがなくていい、というのが彼らの辿りついた結論であった。どこかの未婚の令嬢とか、人妻と関係ができてしまうより、百万倍マシである。むしろ、これで皇后を悩ます男色疑惑が払拭できるというので、ゲルなどはほっとしたくらいであった。

 だが頻繁に帝都のソアレス家の訪れるというのも、人の目が多くて具合が悪い。そこで、ゾラが見つけてきた帝都の高級連れ込み茶屋を逢引の場所にして、二人は逢瀬を重ねた。

 どこが超高級なのかというと、一言でいえば皇族が利用できるという点に凝縮される。

 側近たちが最も腐心するのは、彼ら皇子が迂闊な場所で迂闊な女と関係しないようにすることである。何しろ、彼ら龍種の精は魔力耐性のない女にとっては猛毒なのである。交接する相手はもちろんだが、精がついた敷布その他に触れるだけで、耐性の弱い女は皮膚が爛れてしまう。普通に高級程度の連れ込み宿では、部屋の掃除や敷布の回収・洗濯などは魔力耐性のない平民の女たちが担うので、側近にしてみれば、そういう場所に皇子を放り込むわけにはいかない。高級連れ込み茶屋は皇族の特殊なニーズにも対応するために、客室掛を含め、風呂掃除まで見目よい少年たちが担っているのだ。
 離れになってプライベートが守られた全個室に高雅な浴室が備えられ、抱えている料理人は超一流。もちろん、高額の心付けチップを含めてそれだけの支払いが求められるが、現金に触れるのを嫌がる恭親王は、それら全て、護衛のゾラとトルフィンにお任せであった。

 週に一、二度、恭親王はクリスタを呼び出して昼前に超高級連れ込み茶屋〈連理枝〉で落ち合い、一緒に食事を取ったりして寛いだ後、広い寝台の上でクリスタの柔らかな身体を思う存分味わい、コトが終われば檜の香りのする風呂を二人で浴びて、(時には風呂場でもう一戦して)、夕食前には後宮内の自室に戻る。クリスタとて三人の子供を持つ身の上、夕刻から夜にかけては貞淑な母の顔に戻らねばならない。

 その茶屋には少しばかり格の落ちる部屋も用意されており、契約している娼妓を呼ぶこともでき、主人の恭親王がクリスタとしっぽりやっている間、お付のゾラやトルフィンもそれぞれに楽しむことができるという、至れり尽くせりのサービスまで付いていたので、お付の者としても文句はない。

 故に、二人の関係は、意外にも恭親王の周囲では好意的に受け止められていた。ただ一人を除いては。

「十一も年上とか、マジで意味がわかんねぇ!」

 自他ともに認める女狂いの廉郡王だけは、恭親王とデュクトの未亡人との関係を知って、露骨に眉を顰めた。

「よくそんなババアにつよな?」
「ババアじゃないし。全然綺麗だよ。失礼な」
「子供三人も生んでるんだろう? アソコとか緩くねーの?」
「そんなことないってば」

 ダヤン皇子の邸で〈清談〉しながら、最近ダヤンが引っ掛けた女の話や、廉郡王の新しい秀女の話などをしながら、獣人たちとの果てしない痴技が続く。東方で好まれるのは黒髪を肩のあたりで切り揃え、黄緑色の瞳をした蛇女で、艶めかしい肢体と独特の舌の形態が得も言われぬ快楽をもたらすとされる。一人の皇子に三人程の蛇女が取りつき、嬲るのに任せながら、絹のクッションに凭れて水煙管を吸い、強い酒を呷って、とりとめのない話が続く。

「そっかー。未亡人かー。意外なセンだよねー。ユエリンは結構、年上平気なんだ!」
「僕たちより年下っつったら子供じゃん! 慣れてて甘えられる女の方がいいよ」
「マダムの火遊び会のお誘いが来ているんだけど、行く?」
「なんだよそれは」

 どういう伝手つてがあるのか、ダヤンの元にはその手のいかがわしいお誘いが山のように来るらしい。

「貴族の奥様たちの秘密のお遊びだよ。仮面をつけ、身分を隠して一夜の逢瀬を楽しむってわけ。伯爵クラス以上の貴族しか招待されないから、俺たちの精にも耐えるし、火遊びだから後腐れもないし」
「奥様の年齢にも依るな」
「うーん……平均して二十歳から五十歳以下、くらい?」
「却下」

 若い女至上主義の廉郡王により、にべもなく却下されるが、恭親王としても火遊びはあまり気が進まなかった。

「要するにそれはヤりに来てるってことでしょ?そういう女はちょっとなー」
「ヤる気のない女を口説くの面倒くさいじゃん」

 恭親王の言葉に、ダヤンが言う。ナンパは面倒くさい、と。

「ヤる気のないのを口説いてその気にさせるのがいいんじゃない。最初からヤる気に溢れている女は風情がない」
「なるほど、ユエリンは恋愛の過程を楽しむタイプなんだ」
「デュクトの女房もそうやって口説いたのかよ?」

 廉郡王の問いかけに、恭親王がこともなげに言った。

「いや、母乳飲ませて欲しい、って頼んだら、そういうことになっちゃったんだよね?」

 ぶほっと廉郡王が飲みかけの焼酎を盛大に噴き出した。

「ユエリン、てめぇ、マジ、変態だろ」
「え? でも、母乳って飲んでみたくない?」
「俺も前から飲んでみたいって思ってた! 今度俺にも飲ませてくれないかな?」
「だめだよ、複数は嫌がるよ! 貞淑な未亡人なんだから!」
「てめーら、何爽やかな笑顔でキモい会話してんだよっ!」

 やがて媚薬成分を含む香と強い酒に酩酊した皇子たち三人は、それぞれ獣人の身体に猛った自身を埋め込んで、快楽の淵に堕ち込んでいく――。
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