嵌められ勇者のRedo LifeⅡ

綾部 響

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11.エピローグ

仄暗い劣情

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 ジメジメと湿気の立ち込める薄暗い洞窟の中。
 それでも、全く中の様子が分からないという事は無い。
 何故なら、により必要な光量が確保出来ていたからだ。

「……もう死んでいる。いい加減にしたらどうだ、グローイヤ」

 その光を確保しているのは、魔法使いであるシラヌスだった。
 彼は、先ほどからぐったりとして動かない人型の魔物……緋毛狼頭牙人ライカンスロープを執拗に攻撃しているグローイヤに向けて声を掛けた。
 高い個体でレベルが20はあるライカンスロープを相手に、グローイヤに怪我を負った様子は伺えなかった。
 返り血を浴びた小麦色の肌から蒸気を上げ、グチャグチャとなったその魔物の頭部を攻撃する彼女の姿は、正しく鬼女のそれだ。
 グローイヤは、シラヌスに声を掛けられて漸く動きを止めた。

「……ヨウ、お前もだ。動かない魔物をどれだけ殴っても、時間の無駄だろう」

 そしてシラヌスは、もう一つの影に向けても声を掛けたのだった。
 その人影は、シラヌスが口にした通り武闘家のヨウ・ムージ。
 彼もまたその表情に狂気の色を浮かべて、それはもう楽しそうに攻撃を続けていたのだ。
 彼の拳が振るわれる度に、もはや命の宿っていないライカンスロープの肉体がビクンと反応する。
 それが面白いのかヨウは攻撃を続けていたのだが、それもシラヌスの言葉で止めたみたいだった。

「ちぃっ! 全く歯応えのない奴らだぜぇっ! これじゃあ、いくらやっても気が晴れやしないぜっ! ……なぁ、グローイヤッ!」

 最後にその物言わぬ肉体に蹴りを加えて、ヨウはグローイヤへと声を掛けた。
 もっともその言い様は話し掛けるというよりも、どこか怒鳴り散らしているとしか思えないのだが。

「……そうだねぇ。こんな奴らじゃあ、どれだけ倒しても満足出来やしない。もっと……殺り甲斐のある相手でないとね」

 先ほどまでの鬼女ぶりからは想像もつかない程、ヨウに答えるグローイヤの口ぶりは低く暗く静かなものだった。
 2人のやり取りを聞いて、シラヌスは小さく嘆息していた。

「……手応えのある相手……とは、あいつ等の事か? グローイヤ」

 グローイヤが何を望み何を言いたいのか、シラヌスには全てお見通しであったのだ。

「……そう……そうだねぇ。あいつ等……あいつ等なら、あたいの不満を解消してくれそうだねぇ」

 喉の奥で笑い声を鳴らし、グローイヤはシラヌスの問いに答えた。
 彼女の浮かべている表情は先ほどまでの怨鬼のそれではなく、今は冷徹な笑みを浮かべる凍鬼の如きだ。

「……おい、シラヌス。調べはついているんだろう?」

 手に付いた魔物の血を振り払いながら、ヨウがシラヌスへと問い掛けた。
 ヨウの方も、少なからずグローイヤと同意見な風であった。

「……ふん。金髪のマリーシェ=オルトランゼのレベルは11だったろうが、今はもっと上がっているだろうな。魔法使いのサリシュ=ノスタルジアはLv12……だった」

 その時、シラヌスがギリッと歯噛みをする。
 先日戦った時点でも、サリシュはシラヌスよりレベルが低かったのだ。
 それにも拘らず、彼はサリシュに完全に抑え込まれた。
 これには、少なからずシラヌスのプライドも傷つけられようと言うものだ。

「そして、紫の髪のカミーラ=真宮寺は、Lv14ながら随分とやり手だったな」

 カミーラの名が上がると、今度はグローイヤの表情が凶悪に歪む。
 カミーラのレベルは、当時のグローイヤよりも低い。
 それでも彼女は、グローイヤと互角以上に渡り合って見せたのだ。
 彼女の血が騒ぎ出すのも、それは仕方のない事だった。

「……ったく。どんな魔法を使ったってぇんだい」

 シラヌスの言葉を遮らない程度の小声で、それでもグローイヤは面白くて仕方がないという声音で呟いていた。

「……そして、奴らのリーダーのアレックス=レンブランド。レベルは9と取るに足らなかったが、その判断力と幾つかの技能であのパーティをまとめ上げているんだろう」

 そしてアレクの名が挙がったとたんに、グローイヤの気が一気に膨れ上がる。
 彼女にとっては剣を交えたマリーシェやカミーラよりも、だったという事だろう。

「そう、そいつだっ! 奴の気配の消し方は完璧だったぜぇっ! ありゃあ、あの年で習得出来るような代物しろもんじゃあねぇっ! 奴ぁ一体何者なにもんなんだっ!」

 それは、ヨウ・ムージも同じであった。
 特に彼は、直にアレクと拳を交えている。
 それだけに、アレクのに何かを感じていたのだろう。
 グローイヤの言う「殺り甲斐のある相手」とは、明らかにアレクたちを指してのものだった。
 そして彼女は、アレクたちとの再戦……再会を望んでいる素振りが伺えたのだ。その気配は、ヨウ・ムージからも感じ取れる。

「……なぁ、グローイヤ。……もう、あいつ等に関わるのは止めた方が良いんじゃないか?」

 だからシラヌスは、グローイヤにそう進言したのだ。
 得体の知れない相手と言うのは、いつ自分たちの足元を掬う存在となるのか知れたものでは無い。
 シラヌスたちの方から積極的に関わらなければ、アレクたちが彼らに近づいて来る事は殆ど無いだろう。
 それを考えれば、シラヌスの提案も強ち間違いではない……のだが。

「……いいや……駄目だね。あたいは、あいつ等ともう一回やり合いたいんだよ。これは理屈じゃあない。あたいの、だ。……いいね、シラヌス」

 グローイヤの返答に、ヨウは拳を鳴らして賛同した。
 そして彼女のこの言い方は、ものでもあったのだ。
 シラヌスが……グローイヤの知らない処でアレクたちを害さない様に……と言う。
 先制攻撃を受けてしまっては、シラヌスも天を仰いで閉口するより他は無い。

「次に会った時には、あたいの方が……あたい等の方が強いんだって事を、キッチリと分からせてやるよ! いいね、シラヌス! ヨウ! ……それに、スークワヌ!」

 グローイヤの激に、シラヌスは何も答えない。
 そしてヨウは、ニッと笑みを浮かべてそれに応じ。
 最後に問い掛けられたもまた、ニヤリと笑みを浮かべて応じていたのだった。

「…‥そぉんなに歯ごたえのある相手なのかい? ……グローイヤァ?」

 妖艶と言って良い声音で、スークワヌがグローイヤへと問い掛ける。
 灰色の長い髪が顔の半分を隠し、彼女の見た目を妖しくする。
 遠目で見れば、間違いなく老女と間違ってしまうだろうか。
 そこから覗く濃緑の瞳は胡乱で、仲間であるのだろうグローイヤに対しても友好的とは思えない視線を投げかけていた。
 髪の色に反した黒い肌には艶があり、肉欲的な印象を助長している。
 声音には色気が宿り、一目見ただけならばこの場の誰よりも年上に思えただろう。
 だが良く見るとその顔には幼さが未だ残っており、なんともその実年齢を掴ませない不思議な女性だったのだ。

「……ああ。……良い。……良いよ。あいつ等は、あたいの気を昂らせる。あたいを、より強くしてくれる存在なんだ」

 まるでの様な台詞を聞いて、スークワヌは思わず嘆息していた。
 彼女がこのパーティに合流して、この様なグローイヤを目にするのは始めてなのだからそれも仕方が無いだろう。

「……ふぅん。それは、わたしも楽しみだねぇ。これは……

 ペロリと舌なめずりをして、スークワヌも更に怪しい気配を発しだしていた。
 女性陣2人の放つ異様な気配に、さしもの男性陣もやや気圧され気味だ。

「……それで? あいつらは、次は何処へ向かうって言うんだい?」

 そしてグローイヤは、アレクたちの動向をシラヌスに問い掛けたのだった。
 このパーティのブレーンである彼に抜かりはなく、グローイヤを落胆させた事は一度として無かったのだ。
 そして今回も、その期待に応える返答を彼はした。

「……西だ。奴らはどうやら、西へ向かうみたいだな」

 それを聞いたグローイヤ、ヨウ・ムージ、スークワヌに、これまでにない凶悪な表情が浮かび上がる。

「それじゃあ、次の目的地は決まったねぇ。……西だよ」

 熱狂的な返事は無くとも、グローイヤの号令にヨウとスークワヌはその意気でもって応え、シラヌスは動き出す事で返事としていた。
 そしてグローイヤ達は、無数のライカンスロープのむくろが転がり血にせるその洞窟を後にしたのだった。

                                            了
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