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プロローグ
許せない罪、終わらない罰
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―――ある少女の告解。
今となっては、あの日あんな話をしてしまった事をとても後悔している。
でも当時の私にとってそれは、とても嬉しい事だったんだ。
私しか知らないと思っていた世界、私以外の人には話してはいけないと思い込んでいた世界の話を、皆は嬉しそうに聞きたがったから。
私には普通に見えている当たり前な……日常の一部となっている世界の事を。
あの物陰で悲しそうに蹲っている少女も。
あの空を気持ちよさそうに、悠々と泳いでいる巨大な羽を持つ蛇も。
何かに取り憑かれたように、あの女性にピッタリと張り付いて離れないおじさんも。
その他にも色んな所に、色んな〝人や生き物〟が居る事も。
みんなみんな……私には見えている。
その人達と上手くやっていく事が、私には当たり前の日常だ。
でも、他の人には見えていないのかも知れない。
そもそもそんな話題にならないから、話して良いのかどうかも私には分からなかった。
お母さんも妹も、そんな話は一切しなかった。
実は皆な見えていて、それが当たり前で、気にする私が少しおかしいのかも知れない。
そう考えると、やっぱり聞けなくなってしまう。
だって……変だと思われたくないから。
「え? そんな当たり前の事……何言ってんの?」
そんな風に言われたら、きっと悲しくなってしまう。
その時の友達が私に向ける視線を想像すると、それを聞く事が躊躇われてしまった。
だから私は聞かなかったし、その事について話さずにいた。
そして、それが不都合だった事は無かった。
(なんだ。やっぱり話さなくて正解だったんだ)
小学生になる頃には、幼いながらにそう結論付けていたんだ。
「ねぇねぇ、沙耶ちゃんってお化け……信じる?」
小学校に入学してすぐ。
なんでそんな話になったのかは覚えていないけれど、何故かそんな話題になっていた。
最初はどう答えるべきか、すぐには思い当たらなかった。
信じるも何も、私にはそう言う霊が見えている。それと共存している世界が当たり前だった。
でも、それをそのまま言って良いのだろうか……・どう答えるのが正解なんだろう……。
私が答えあぐねていると、その娘が言葉を続けてこう言った。
「私はねぇ……いると思うんだぁ……。だってこの間だってねぇ……」
「いると思う」と言う言葉にホッとして、その後の話は殆ど覚えていない。
見える見えないは別にして、そう言った存在を信じている子がいる……それが嬉しかった。
私が抱えていた問題の半分を、今の言葉が解消してくれた様な気がした。
「お、俺も俺も! 俺も信じてるんだ! あれって絶対いるよな!」
その娘の言葉に同調する声が2、3と聞こえて来る。
(なんだ……。皆、あの人達の事……知ってるんだ)
何故そんな曲解をしてしまったのかは分からない。
きっと、無性に嬉しかったんだと思う。
彼女達は、あの人達がいると信じている……もしくはいれば良いと興味本位で思っているだけで、本当にいると確信して言った訳じゃなかった。
その場限りの話題にただ拍車を掛けただけだったのに、私にとっては胸の痞えが取れるくらい、待ち望んでいた言葉だったんだ。
「うん。私も信じてるよ」
だから私も便乗した。
すごく気持ち良かった。
ひょっとしたら、結構な重荷だったのかも知れない。
だけど、そう言って同調する事が出来る素晴らしさに、私は安心しきってしまったのだろう。
「じゃあさ、本物のお化け……見た事ある?」
自然とそうなる流れ。
だけど、実際見たかどうかとなると、周囲の言葉が濁りだす。
私は浮かれていた……と思う。
ちょっと考えれば、彼女達があの人達を見る事が出来ない……見た事がないのは分かる話だったのし。
私が6年かけて結論付けた事なんて、その時にはあっさり瓦解していたんだ。
「沙耶ちゃんは? 見た事ある?」
運命の言葉が投げ掛けられた。勿論……今にして思えばだけど。
「うん、あるよ」
特に考えも無く、私はその問い掛けに即答した。
思いも掛けない言葉が返って来た事に、その娘は少し驚いていた様に思う。
すぐに返答出来ないその娘に代わり、近くに居た男の子が私の言葉を拾い上げた。
「えぇっ! 武藤、見た事あるのかよ!」
わざとらしく大きめの声で騒がれた事によって、ほぼクラス中がこちらを注目する事になった。
ザワザワと騒めく教室。
それは恐怖でも、憎悪でも、嫌悪でもない。
純粋に好奇心の目だった。
「どんなヤツを見た事あるんだよ!?」
その男の子は、やっぱり大きめの声で私に聞いて来た。私の回答を、クラス中が息を飲んで待っている。
この時私は、間違いなくクラスの注目を一身に集める存在だった。
私は、小学生が考えるレベルで比較的内容の軽いエピソードを話して聞かせた。
皆が興味津々で、私の話を聞いている。
当時の私は特に目立ったところも無く、話題性に富んでいる訳でも無く、スポーツも苦手な、どちらかと言うと……いいえ、間違いなく地味な女の子だった。
別にそれが嫌だった訳じゃない。
コンプレックスでも無かったし、何とかしたいとも考えていなかった。
だけど、皆の視線を集めて話をするのはやっぱり嫌な事じゃなかった。
私の話す、普通の人が過ごす普通の世界とは違った場所での出来事を、皆は食い入る様に聞き、更に好奇心を刺激されていったのだろう。
そして私は、その時有頂天だった。
何よりも今まで抱え込んでいた事を皆が楽しそうに、興味津々で聞き入ってくれている。
今まで深刻に考えていた事がバカバカしい程、私の中でも色んなものが晴れて行った。
(なんだ……なんだ! 別に隠す様な事じゃなかったんだ! 話しても良かったんだ!)
安堵と興奮の中で、私の話す言葉は加速していく。
思考も興奮状態の中で、冷静とは言い難かったと思う。
だけど、皆の楽しいという気持ちは感じる事が出来た。
そして……私も楽しかった。
―――でも。
ここで止めておけば良かったんだ。
今なら分かる。
何事にも、程々と言う事がある。
行きつく所まで行ってしまったら、もう進む事も戻る事も出来ないのに。
そしてその行きついた先が、必ずしも自分の望む場所とは限らないと言うのに。
「じゃあさ、ここにもお化けっているの?」
そうなる……わよね。
散々もっともらしい事を話した私に、彼は証拠を示せと言ったのだ。
勿論そう言われるのは自然な流れで、子供の話には確証のない事が多い。
持ち上げて落とす、と言う事を意図して狙っている訳では無いだろうけど、彼も好奇心の延長で聞いたに違いなかった。
そして、その答えも想像していたに違いない。
居ない……と言えば嘘つき扱いになる。でも居る……と言っても、彼等には見えないのだ。
どっちにしろ、こう言われた時点で私に退路は無かった。どう転んでも嘘つき呼ばわりされてそれで……終わり。
ただ、その流れに悪意はない。
言うなれば、子供の世界での予定調和。私は、今回のやり玉に挙がっただけ。
少し……それも急激に目立ち過ぎたのかも知れない。
ただ、嘘つき呼ばわりされた所で、そんなものは数日で霧散する程度の事だ。
彼等の好奇心は、十分に満たされた。彼等も、嫌な気持ちにはなっていないだろう。
私がここで嘘つき呼ばわりされて話が終わった所で、私も含めて誰も傷つかない。
―――本来ならば。
ただ、私には否定する事が出来なかった。
興奮していたからだろうか。
明らかに証明出来ないだろうと踏んで投げ掛けられた彼の質問に、どうしても立ち向かいたかったのかも知れない。
程々と言う事に……思い至る事も……無く。
「いるよ」
断言する私に、彼はニヤリと笑みを浮かべてお決まりの文句を告げた。
「えぇ!? どこに居るんだよ!? そんなのどこにも見えないじゃん!」
彼は、殊更に大きめの声でそう言った。
見えないものを、実証する事なんか不可能だ。
彼の中ではその時すでに嘘つきの女の子が一人出来上がり、その子をクラス皆で囃し立てて盛り上がり楽しくなって終わり。そんな流れが出来上がっていたのかも知れない。
「いるよ」
だから私の様に、いつまでも意地を張って食い下がってくれるのは願ったり叶ったりだったと思う。
―――ほら……そこに。
一点をスッと指差す私の行動が一瞬……教室は勿論、その男の子の時間を奪った。
ゆっくりと……クラス全員の視線は……私の指し示した教室の隅に集まる。
勿論、彼等の目にはそこに何も無い。
そして、何も無い事を見て取った男の子は、安堵のため息を小さくついて再起動した。
「なんだよぉ。やっぱり何もないじゃ……」
「うわぁ――――っ!」
再度、私に口撃を加えようとしていた彼の言葉は、違う男の子の悲鳴に遮られた。
その男の子は携帯端末に付いたカメラ機能を使って、その一角を撮影したんだ。
そしてそこに映っていたものは。
―――首の無い、鎧武者の姿だった。
彼の写真を見た者から、順番に悲鳴が伝播していった。
私には何故そうなって行くのか、すぐに理解出来なかった。
何故なら私は、その霊をもうずっと以前から知っていたから。
その首の無い鎧武者の霊は、生前から子供が大好きだったんだと思う。
その姿から恐らく戦で命を失ったのだろうけど、子供好きな想いがこの世に残って、子供の声が常に響き渡るこの小学校に引き寄せられていたのだろう。
彼は子供が好きでそれを見守るだけの、全く無害な霊だった。
それどころか、他の悪さをする霊を近づけない様にしてくれていたのを知っていた。
しかしそんな事は、それを知る事が出来ない者には理解出来る筈がない。
瞬く間に伝播した恐怖の悲鳴は、教室をパニック状態に陥れた。
この教室の生徒達にとって、それは居てはいけないものだったんだ。
見えてはいけないものだったんだ。
でももう……もう遅い。
例え彼らが知る事を望んだのだとしても、本当の事は言うべきでは無かったのに。
彼等に、霊を見る事は出来ない。
しかし見えなくったってそこに居ると分かってしまっては……見えているのと変わらない。
―――そして、周囲の空気は一変した。
その時から私は、化け物扱いとなった。
霊が見えた教室の隅にある席は私の指定席となった。
私の隣や前の席に座る子は、少しでも私から離れようと席を離して座るようになった。
席替えの時なんかは本当に大変で、私の隣に決まった子等は泣き叫び、引付を起こしたぐらいだった。
誰が手配したのか盛大なお払いが行われ、あの鎧武者はどこかに消えてしまった。
私はそれが悔しくて悲しかったんだけど、それを言う訳にもそして……態度に示す事さえ出来なかった。
―――言わなければ良かった……いえ、言ってはいけない事だったんだ。
―――話さなければ良かった……いえ、話してはいけない事だったんだ。
―――だけど、全てがもう遅かった。
その時から、私の歩むべき道は決められてしまった。
小学校を卒業するまで、誰も私と話したがらなくなった事も。
中学校を卒業するまで、気持ち悪がられてイジメにあった事も。
この「私立真砂角高等学校」に入学出来たのに、未だに友達が出来ない事も。
陰では「嘘つき」「気持ち悪い」と陰口を言われ続けている事も。
―――決められてしまった事なんだ。
今となっては、あの日あんな話をしてしまった事をとても後悔している。
でも当時の私にとってそれは、とても嬉しい事だったんだ。
私しか知らないと思っていた世界、私以外の人には話してはいけないと思い込んでいた世界の話を、皆は嬉しそうに聞きたがったから。
私には普通に見えている当たり前な……日常の一部となっている世界の事を。
あの物陰で悲しそうに蹲っている少女も。
あの空を気持ちよさそうに、悠々と泳いでいる巨大な羽を持つ蛇も。
何かに取り憑かれたように、あの女性にピッタリと張り付いて離れないおじさんも。
その他にも色んな所に、色んな〝人や生き物〟が居る事も。
みんなみんな……私には見えている。
その人達と上手くやっていく事が、私には当たり前の日常だ。
でも、他の人には見えていないのかも知れない。
そもそもそんな話題にならないから、話して良いのかどうかも私には分からなかった。
お母さんも妹も、そんな話は一切しなかった。
実は皆な見えていて、それが当たり前で、気にする私が少しおかしいのかも知れない。
そう考えると、やっぱり聞けなくなってしまう。
だって……変だと思われたくないから。
「え? そんな当たり前の事……何言ってんの?」
そんな風に言われたら、きっと悲しくなってしまう。
その時の友達が私に向ける視線を想像すると、それを聞く事が躊躇われてしまった。
だから私は聞かなかったし、その事について話さずにいた。
そして、それが不都合だった事は無かった。
(なんだ。やっぱり話さなくて正解だったんだ)
小学生になる頃には、幼いながらにそう結論付けていたんだ。
「ねぇねぇ、沙耶ちゃんってお化け……信じる?」
小学校に入学してすぐ。
なんでそんな話になったのかは覚えていないけれど、何故かそんな話題になっていた。
最初はどう答えるべきか、すぐには思い当たらなかった。
信じるも何も、私にはそう言う霊が見えている。それと共存している世界が当たり前だった。
でも、それをそのまま言って良いのだろうか……・どう答えるのが正解なんだろう……。
私が答えあぐねていると、その娘が言葉を続けてこう言った。
「私はねぇ……いると思うんだぁ……。だってこの間だってねぇ……」
「いると思う」と言う言葉にホッとして、その後の話は殆ど覚えていない。
見える見えないは別にして、そう言った存在を信じている子がいる……それが嬉しかった。
私が抱えていた問題の半分を、今の言葉が解消してくれた様な気がした。
「お、俺も俺も! 俺も信じてるんだ! あれって絶対いるよな!」
その娘の言葉に同調する声が2、3と聞こえて来る。
(なんだ……。皆、あの人達の事……知ってるんだ)
何故そんな曲解をしてしまったのかは分からない。
きっと、無性に嬉しかったんだと思う。
彼女達は、あの人達がいると信じている……もしくはいれば良いと興味本位で思っているだけで、本当にいると確信して言った訳じゃなかった。
その場限りの話題にただ拍車を掛けただけだったのに、私にとっては胸の痞えが取れるくらい、待ち望んでいた言葉だったんだ。
「うん。私も信じてるよ」
だから私も便乗した。
すごく気持ち良かった。
ひょっとしたら、結構な重荷だったのかも知れない。
だけど、そう言って同調する事が出来る素晴らしさに、私は安心しきってしまったのだろう。
「じゃあさ、本物のお化け……見た事ある?」
自然とそうなる流れ。
だけど、実際見たかどうかとなると、周囲の言葉が濁りだす。
私は浮かれていた……と思う。
ちょっと考えれば、彼女達があの人達を見る事が出来ない……見た事がないのは分かる話だったのし。
私が6年かけて結論付けた事なんて、その時にはあっさり瓦解していたんだ。
「沙耶ちゃんは? 見た事ある?」
運命の言葉が投げ掛けられた。勿論……今にして思えばだけど。
「うん、あるよ」
特に考えも無く、私はその問い掛けに即答した。
思いも掛けない言葉が返って来た事に、その娘は少し驚いていた様に思う。
すぐに返答出来ないその娘に代わり、近くに居た男の子が私の言葉を拾い上げた。
「えぇっ! 武藤、見た事あるのかよ!」
わざとらしく大きめの声で騒がれた事によって、ほぼクラス中がこちらを注目する事になった。
ザワザワと騒めく教室。
それは恐怖でも、憎悪でも、嫌悪でもない。
純粋に好奇心の目だった。
「どんなヤツを見た事あるんだよ!?」
その男の子は、やっぱり大きめの声で私に聞いて来た。私の回答を、クラス中が息を飲んで待っている。
この時私は、間違いなくクラスの注目を一身に集める存在だった。
私は、小学生が考えるレベルで比較的内容の軽いエピソードを話して聞かせた。
皆が興味津々で、私の話を聞いている。
当時の私は特に目立ったところも無く、話題性に富んでいる訳でも無く、スポーツも苦手な、どちらかと言うと……いいえ、間違いなく地味な女の子だった。
別にそれが嫌だった訳じゃない。
コンプレックスでも無かったし、何とかしたいとも考えていなかった。
だけど、皆の視線を集めて話をするのはやっぱり嫌な事じゃなかった。
私の話す、普通の人が過ごす普通の世界とは違った場所での出来事を、皆は食い入る様に聞き、更に好奇心を刺激されていったのだろう。
そして私は、その時有頂天だった。
何よりも今まで抱え込んでいた事を皆が楽しそうに、興味津々で聞き入ってくれている。
今まで深刻に考えていた事がバカバカしい程、私の中でも色んなものが晴れて行った。
(なんだ……なんだ! 別に隠す様な事じゃなかったんだ! 話しても良かったんだ!)
安堵と興奮の中で、私の話す言葉は加速していく。
思考も興奮状態の中で、冷静とは言い難かったと思う。
だけど、皆の楽しいという気持ちは感じる事が出来た。
そして……私も楽しかった。
―――でも。
ここで止めておけば良かったんだ。
今なら分かる。
何事にも、程々と言う事がある。
行きつく所まで行ってしまったら、もう進む事も戻る事も出来ないのに。
そしてその行きついた先が、必ずしも自分の望む場所とは限らないと言うのに。
「じゃあさ、ここにもお化けっているの?」
そうなる……わよね。
散々もっともらしい事を話した私に、彼は証拠を示せと言ったのだ。
勿論そう言われるのは自然な流れで、子供の話には確証のない事が多い。
持ち上げて落とす、と言う事を意図して狙っている訳では無いだろうけど、彼も好奇心の延長で聞いたに違いなかった。
そして、その答えも想像していたに違いない。
居ない……と言えば嘘つき扱いになる。でも居る……と言っても、彼等には見えないのだ。
どっちにしろ、こう言われた時点で私に退路は無かった。どう転んでも嘘つき呼ばわりされてそれで……終わり。
ただ、その流れに悪意はない。
言うなれば、子供の世界での予定調和。私は、今回のやり玉に挙がっただけ。
少し……それも急激に目立ち過ぎたのかも知れない。
ただ、嘘つき呼ばわりされた所で、そんなものは数日で霧散する程度の事だ。
彼等の好奇心は、十分に満たされた。彼等も、嫌な気持ちにはなっていないだろう。
私がここで嘘つき呼ばわりされて話が終わった所で、私も含めて誰も傷つかない。
―――本来ならば。
ただ、私には否定する事が出来なかった。
興奮していたからだろうか。
明らかに証明出来ないだろうと踏んで投げ掛けられた彼の質問に、どうしても立ち向かいたかったのかも知れない。
程々と言う事に……思い至る事も……無く。
「いるよ」
断言する私に、彼はニヤリと笑みを浮かべてお決まりの文句を告げた。
「えぇ!? どこに居るんだよ!? そんなのどこにも見えないじゃん!」
彼は、殊更に大きめの声でそう言った。
見えないものを、実証する事なんか不可能だ。
彼の中ではその時すでに嘘つきの女の子が一人出来上がり、その子をクラス皆で囃し立てて盛り上がり楽しくなって終わり。そんな流れが出来上がっていたのかも知れない。
「いるよ」
だから私の様に、いつまでも意地を張って食い下がってくれるのは願ったり叶ったりだったと思う。
―――ほら……そこに。
一点をスッと指差す私の行動が一瞬……教室は勿論、その男の子の時間を奪った。
ゆっくりと……クラス全員の視線は……私の指し示した教室の隅に集まる。
勿論、彼等の目にはそこに何も無い。
そして、何も無い事を見て取った男の子は、安堵のため息を小さくついて再起動した。
「なんだよぉ。やっぱり何もないじゃ……」
「うわぁ――――っ!」
再度、私に口撃を加えようとしていた彼の言葉は、違う男の子の悲鳴に遮られた。
その男の子は携帯端末に付いたカメラ機能を使って、その一角を撮影したんだ。
そしてそこに映っていたものは。
―――首の無い、鎧武者の姿だった。
彼の写真を見た者から、順番に悲鳴が伝播していった。
私には何故そうなって行くのか、すぐに理解出来なかった。
何故なら私は、その霊をもうずっと以前から知っていたから。
その首の無い鎧武者の霊は、生前から子供が大好きだったんだと思う。
その姿から恐らく戦で命を失ったのだろうけど、子供好きな想いがこの世に残って、子供の声が常に響き渡るこの小学校に引き寄せられていたのだろう。
彼は子供が好きでそれを見守るだけの、全く無害な霊だった。
それどころか、他の悪さをする霊を近づけない様にしてくれていたのを知っていた。
しかしそんな事は、それを知る事が出来ない者には理解出来る筈がない。
瞬く間に伝播した恐怖の悲鳴は、教室をパニック状態に陥れた。
この教室の生徒達にとって、それは居てはいけないものだったんだ。
見えてはいけないものだったんだ。
でももう……もう遅い。
例え彼らが知る事を望んだのだとしても、本当の事は言うべきでは無かったのに。
彼等に、霊を見る事は出来ない。
しかし見えなくったってそこに居ると分かってしまっては……見えているのと変わらない。
―――そして、周囲の空気は一変した。
その時から私は、化け物扱いとなった。
霊が見えた教室の隅にある席は私の指定席となった。
私の隣や前の席に座る子は、少しでも私から離れようと席を離して座るようになった。
席替えの時なんかは本当に大変で、私の隣に決まった子等は泣き叫び、引付を起こしたぐらいだった。
誰が手配したのか盛大なお払いが行われ、あの鎧武者はどこかに消えてしまった。
私はそれが悔しくて悲しかったんだけど、それを言う訳にもそして……態度に示す事さえ出来なかった。
―――言わなければ良かった……いえ、言ってはいけない事だったんだ。
―――話さなければ良かった……いえ、話してはいけない事だったんだ。
―――だけど、全てがもう遅かった。
その時から、私の歩むべき道は決められてしまった。
小学校を卒業するまで、誰も私と話したがらなくなった事も。
中学校を卒業するまで、気持ち悪がられてイジメにあった事も。
この「私立真砂角高等学校」に入学出来たのに、未だに友達が出来ない事も。
陰では「嘘つき」「気持ち悪い」と陰口を言われ続けている事も。
―――決められてしまった事なんだ。
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