嵌められ勇者のRedo Life

綾部 響

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1.プロローグ

死の間際にて

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 仄暗い石造りの室内は、戦闘の熱気を帯びても尚、どこかヒンヤリと肌寒く感じる。
 戦闘の熱気……って言ったけど、それもついさっきまでの事。
 今は、俺達パーティの身に起きた余りの事に、俺自身も、そして俺の、僅かな声すら漏らせずにその場で佇み、「その時」が来るのを待つしか出来なかった。
「魔王の間」は今や、死の臭いが立ち込める、何とも嫌な雰囲気に浸食されていた。



 さて……言うまでも無く、俺達は全滅の危機に瀕している。
 長い旅路の果て、漸く辿り着いた魔界の深淵……魔王城。
 その最上階に位置する「魔王の間」へと、魔族の王「魔王」と決戦を挑むべく乗り込んだは良いけど、善戦しただけで結局は敗北しようとしているのが現状だった。

 俺達は弱くない。少なくとも人間の世界では……だけどな。
 そして俺は「勇者」だ。
 正確に言えば、勇者と言う職業に転職する事が出来た者……となるのかもしれないが……。
 ただこの世界では、「勇者」と言う職業は最上位職とされており、世界中の人々から尊敬の念を抱かれる存在となっている。
 勿論、名誉職と言う訳でもない。
 高い攻撃力と防御力、そして現存する職業の中で最も優れた退魔力を有していて、魔族と相対するのにこれ以上適している職業は無いと言われているほどだった。

 勇者と言う「職業ジョブ」へと「転職クラス・チェンジ」するのだって、そう易々とはいかなかった。
 高いレベルは勿論、幾つもの「上級職ハイクラス・ジョブ」を「履修マスター」する必要があるし、様々な「依頼クエスト」を熟す必要があった。
 その過程で、本当なら倒す必要も無い程面倒な「怪物モンスター」を倒し、手に入れるのも困難な「希少品レア・アイテム」を幾つも揃えなければならなかった。
 ただ、勇者にクラスチェンジする為の条件は明確に分かっておらず、俺達も手探り状態ながら、色々と目途を立てて「遂行クリア」して来たんだけどな。
 兎も角、そう言った少なくない努力の結果、俺は何とか勇者になる事が出来たんだ。

 勇者になれば、色んな「特典」が付いて来る。
 何よりも勇者は、世界中に散らばる「冒険者達」の憧れ的存在。
 勇者になったと言うだけで一目置かれ、各国の城や街では歓待を受ける事が出来る。
 それに「魔王討伐」を名目に、貴重なアイテムや情報を優先的に得る事が出来る。
 これも勇者になった特典だと言っても良いだろう。
 そして残念ながら、俺が勇者になった理由はだったんだ。



「……ア……アレックスッ! な……何とかならないのかよっ!?」

「……何ともならねぇよ……」

「ったくよぉっ! 役に立たねぇクソ勇者だなっ!」

 何も出来ず、ただ次々と倒れて行く同行者達を横目に見ながら、俺の近くにいた女戦士グローイヤがそう悲鳴を上げた。
 そんな事を言われても、どうしようもないんだから仕方が無い。
 いくら俺が勇者だからと言って、出来ない事は出来ないなんて、そんな事はもう分かり切ってるだろうに。
 そもそもこの魔王討伐だって、恩賞金額と、その他の褒賞に目が眩んだグローイヤのごり押しにより決行されたんだ。
 もっとも、その事に反対する声なんて上がらなかったけどな。
 結果論だけど、どう考えても準備不足の情報不足。
 まさか魔王がを使って来るなんて、俺達には思いも依らなかった。

「やはり……もう少し慎重に事を成すべきであった……」

 そう声を掛けてきたのは、今や賢者へとクラスチェンジを果たしているパーティの頭脳、シラヌスだった。

「勇者の情報を流し……他の勇者の誕生を待って……そのパーティを当て馬にしてでももう少し情報を集め、我等も今少しレベルアップを図るべきであった……。そうすれば……ぐぬっ!」

 まるで他人事の様にそう語るシラヌスを黒い魔力が覆いつくしたかと思うと、彼は心臓の辺りを抑えて呻き声を上げた。
 それは先程から何度も見た光景であり、俺とグローイヤは魔王が魔法を発動したと即座に理解した。

 ―――ドサッ……。

 そしてほんの数秒後、シラヌスは石床の上へと受け身も取らず倒れ込んだ。言うまでも無く既に息絶えていた。



 戦闘が始まって、俺達は比較的優勢に事を進めていた。
 魔王を守護するモンスターは後からどんどんと現れてキリがなかったけど、それでも倒せないレベルじゃなかった。
 魔王自身も、俺達とレベル差が大きく開いている訳では無く、俺達の攻撃は魔王の体力HPを確実に削っていたんだ。
 でも、魔王がある魔法を使い出してから、形勢は一気に逆転してしまった。

 ―――魔王が使い出した魔法、それは……「即死魔法デス」。

 俺達が初めて目にする魔法であり、その対処方法なんか誰も知らなかった。
 魔法を封じる事も、そして防ぐ事も出来ずに、真っ先にやられたのはパーティの回復役であった高僧ハイ・プリーストのスークァヌだった。
 治療も回復も全て彼に頼っていた俺達は、当然の様に回復アイテムなど揃えていなかった。
 だって、俺達のレベルで通用する様なアイテムって、軒並み高いからな。
 手持ちのアイテムじゃあ、回復した所で即座に攻撃を受けて結局戦闘不能になるのがオチだ。
 滅茶苦茶に高価な「完全蘇生回復アイテム」でもあれば話は別だったんだが……。
 手元にあるただの蘇生薬程度じゃあ、回復させたところですぐに攻撃を受けてやられるのがおちだ。
 何度も死を味わう分、それはもう拷問に近いだろうな。

 結果としていの一番にスークァヌがやられてしまい、戦線は崩壊。
 手持ちの回復アイテムじゃあ、俺達が敵モンスターから受ける一撃のダメージだって回復しきれない。
 無限の収納が可能な「魔法袋」には、もう何年も使ってない様々なアイテムがそれこそ捨てる程入ってる。
 でもそんなアイテムをどれ程駆使した所で、魔王相手にはなんら効果を発揮しない。
 腐る程入ってる「薬草」や「回復薬ポーション」も、もう使う事も売る事さえしなくなって久しい。
 手に入れたって使わないし売らない、捨てるのも忍びないって事で、無限に収納出来るのを良い事に次々と魔法袋へと放り込んでたっけ。

 兎に角、俺達が所持しているアイテムには、魔王が使う「デス」に対抗する手段はない。そして防ぐ事も出来なかった。
 何とか詠唱を止めようにも、仲間が倒れ戦力が低下してしまってる俺達では、魔王の護衛を倒しきる事さえ出来なかった。
 魔王のデスによってまず高僧のスークァヌが、次に武闘家のヨウ・ムージが息の音を止められた。
 そして今、賢者のシラヌスが息絶えた。
 残ったのは俺とグローイヤのみ……。
 脳筋コンビじゃあ、どうあがいても魔王を倒せる算段や、助かる見込みなんてありゃあしなかった。

「ぐっ……ふぅっ……!」

 そんな事を考えてるうちに、魔王のデスはグローイヤへと襲い掛かっていた。
 胸元を掻きむしって苦しみ出した彼女は、片膝をついてその最期を迎えようとしていた。

「ほ……ほんっと……。このパーティを組んで碌な事なんてありゃあしなかったよ……。最悪……」

 そう今際の言葉を残して、グローイヤも息絶えて石床に突っ伏した。
 ったく、勝手な事ばかり言いやがる。
 でもまぁ、確かに油断もあった。
 レベル的には魔王と互角程度に上がっていたんだけど、それでも慎重を期すべきだったんだ。
 いつもは神経質なほど慎重なシラヌスがグローイヤの提案に賛成した時、誰かが慎重論を唱えるべきだったんだ。……今更だけどな。
 強くなるって事は、自分達の足元を錯覚させるって事でもある。
 注意して注意して……最後の最後で肝心な事を見落としていたってのは間抜けな話だった。



「ぐ……ぐぅ……」

 そして、とうとう俺の番が来たようだ。
 いきなり心臓を鷲掴みにされる様な感覚……。
 これが……デスか!
 正常に機能しているものを強引に止められるような感覚は、到底耐えれるものじゃあない。
 ハッキリ言って不快そのものだった。
 それが死を告げるものなら尚更だ。
 俺はその場に立っていられなくなって、ゆっくりと片膝をついた。
 心臓を握られてるんだ。
 いずれはこのまま握り潰されてしまうんだろう。
 助かる見込みなんか、僅かでも残されていなかった。
 俺は最後に、この部屋で横たわる同行者達を見回した。

 ……グローイヤ。……シラヌス。……スークァヌ。……ヨウ・ムージ。

 俺達は決して仲間じゃあなかった……。
 お互いの利害を満たす為だけにここまで一緒に旅して来ただけの、言わば「協力者」だった。
 こいつらとパーティを組んで、楽しいと思った事なんて一度もない。
 グローイヤは守銭奴宜しく、金の為なら何でもするような奴だったし、シラヌスはその行為に知恵を与えて、余計に質を悪くしていた。
 ヨウ・ムージは自分のこと以外に興味はなく、普段から話す事も無かった……。
 スークァヌは、布教と他宗教の弾圧にのみ必死だったな……。
 そういう俺も碌なもんじゃなかった……。
 こいつらのやる事に嫌気はさしていても、それを止める事も、注意する事さえしなかったんだから。

 ―――ドチャッ……。

 意識が薄れて行く……。
 もうすでに「デス」は完成されていて、俺の心臓は見えない魔手によって握り潰されている。
 急激に薄れてゆく意識の中で、俺はその場に倒れ込みながら、それでも考えを止めなかった。

 ……でも……大丈夫だ。

 ……俺達はまた会う事が出来る。

 ……どうしようもない奴らで組まれた、どうしようもないパーティだったけど。

 ……それでも魔王の前に立つほどまでとなったんだ。

 ……悪いばっかりじゃなかったよな……多分。

 ……また……会おうぜ。

 俺の記憶が留めていたのはそこまでだった。
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