嵌められ勇者のRedo Life

綾部 響

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5.運命の岐路に

再会は敵同士

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「ぐえっ!」

 物陰から飛び出して来た戦闘員の剣を、まるで条件反射であるかのように手に持つ倭刀で弾き飛ばし、文字通り返す刀で胴を薙ぐカミーラ!
 敵はその一撃で意識を断ち切られ、その場に倒れて動かなくなった。

 彼女の得物は倭刀「閃」。
 青味がかった美しい刀身に、綺麗な刃紋は互の目。
 冒険序盤のこの街では、決して手に入れる事の出来ない業物だ。
 彼女の身に付けている装備一式は、俺が東国に赴いた時に手当たり次第に購入した「侍装備」だった。
 その時点で俺には不要の物だったが、資金的に余裕のあった俺は初めて目にする装備はとりあえず買うと言う行為を繰り返していた。
 それが今、役立っている結果となっていたのだ。
 もっとも今は峯打ちで相手を打ち据えているんだから、その切れ味を存分に発揮する事は出来ていない。
 それでもそれを振るうカミーラの表情は、どこか嬉しそうだ。

 積み上げられた木箱の上から、弦を引き絞る音が聞こえた!
 俺達では手の届かない場所から、弓矢による遠隔攻撃を試みる兆候だった……のだが!
 突如、弓を構えていた男が倒れ込む。
 その直後に聞こえる大きなイビキ……。
 弓人アーチャーを無力化したのは、即座に「睡眠の雲ドルミル・ヌベ」の魔法を使用したサリシュに依るものだった。
 弓を引き絞った態勢のアーチャーより早く魔法を発動出来たのは、間違いなく俺が貸し与えた装備のお蔭なのだが、それでもサリシュはその発動時間と効果の手応えにはっきりと分かる笑みを浮かべていた。
 もっとも俺と目が合うと視線を逸らして口元を引き締めるんだが、それでも目元がほんのりと赤く染まるまでは抑えきれない様だった。

「うおりゃ―――っ!」

 不意に、隠れていた男が剣を振りかぶって攻撃して来た! 
 刃渡りが太く、大きく反り返ったその剣はカットラスと呼ばれ、主に船乗りが好んで使う武器だ!
 隊の真ん中を歩くサリシュを狙った攻撃は、彼女と男の間に割り込んだ戦士の楯によって防がれた!
 勿論、その戦士とはマリーシェである。
 最後尾を歩く彼女には、こういった不意打ちに対処する役割を命じてあった。
 本人は大いに不満だったろうが、カミーラとのレベル差を考えればそれも仕方ない事であるし、何よりも最後尾を護る事の大切さを説明し何とか納得させる事が出来た結果だった。

 パーティで前進すれば、自ずとその注意は前方に集中する。
 そうなれば、後方左右からの不意な攻撃に対処が遅れてしまうのだ。
 退路を確保すると言う一点だけを考えても、彼女の役目は決して前衛に劣るものじゃ無いんだけど、まだまだ若い彼女には中々本心から理解してもらえない様だった。

「こんの―――っ!」

 マリーシェは左手の楯で攻撃を受け止め、武器を持った右手でその男の胴をした!

「グェッ……グガ―――……」

 マリーシェの持つ片手棍「スリープクラブ」の能力が発動し、胴を痛打されたはずの男は倒れる前に眠ると言う器用な真似を披露していた。
 そしてその効果は、男が倒れ込んでも解除される事は無かったんだ。
 スリープクラブは、攻撃した相手を一定確率で睡眠にする片手持ちの棍棒武器だ。
 睡眠の効果が発動するのはランダムだが、一度発動すればその効果が切れるまで多少の衝撃を受けても目覚める事は無い。
 その確率も、相手とのレベル差があればあるほど高くなる。
 “今の”マリーシェなら、高確率で発動させることが可能な筈だった。
 本来彼女に渡す予定だった鋼の剣「烈」は、攻撃力は申し分ないもののその刃は両刃であり、相手を殺す事無く無力化させるには向いていなかった。
 そこで今は片手棍を使ってもらい、「烈」は俺が持っている。

 そして俺はと言えば、気配をマリーシェの影に隠れる様な位置を取りながら彼女達に追従していた。
 本気を出せば、今の俺でも気配を殆ど消す事が出来る筈だ。
 そうすれば彼女達を楯にする様な動きを取らなくても、恐らくは敵に狙われる事など無い。
 認識される事も無かった筈だった。

 ただ、今俺がそうしなかったのは、この技能が敵味方に知られる事を避けたからだ。
 そもそも、まだ15歳で駆け出しの冒険者……な筈の俺が、それ程見事な気配のコントロールなんか見せれば逆の意味で余計な注目を集めかねない。
 それにこういった技能は、敵であれ味方であっても知られない方が後々都合が良い事を俺は知っていたからだった。
 だから完全に気配を消すのではなく、程よく周囲から気にされない程度にしておく。
 これなら、「若い割には中々の技術」程度の認識で済むはずだ。
 実際、マリーシェ達がこの事で不審を抱いた様な素振りは無かった。
 もっとも、立て続けに襲い来る無法者を相手にしている現状では、俺の事に意識を向ける事は無かったけどな。



「何なにナニ―――っ!? 頭数揃えても、あれだけの人数を足止めする事も出来ないの―――っ!?」

 突然、前方から威勢の良い少女の声が響き渡った。
 その声はやや低めながらも、女性と言い切るにはまだ幼いと思わせるものだ。
 俺達は知らず、前方に注意を向けた。
 そしてそこに、巨大な戦斧を片手で持って肩に担いだ少女と、その後ろに控えるローブの少年を見止めたんだ。

 少女は燃えるような赤い髪を、まるで男の子の様に刈り上げている。
 顔つきも精悍さを湛えており、一目見れば少年と見紛う風貌をしていた。
 ただ、彼女の身に付ける露出の高い……言うなればビキニの様な防具が、自身を女性であると猛烈にアピールしていたんだ。
 もっともその姿は、セクシーとか目のやり場に困ると言った雰囲気を湛えていない。
 引き締まった体……と言えば聞こえも良いが、クッキリと割れた腹筋に至る所で盛り上がる筋肉は、到底女性らしさを感じさせるものでは無かった。
 如何にも重量のある戦斧を持つ腕もモッコリと筋肉が盛り上がり、女性の柔らかさなんて微塵も感じさせなかったのだ。

「大の大人が揃いも揃ってなっさけないっ! 退いてなっ! あたいがこいつらを仕留めてあげるからっ!」

 そして、野性味あふれる啖呵もその印象に一役買っていた。
 彼女の姿を見れば、分かる者ならば納得していた事だろう。

 ―――彼女は、アマゾネス族なのだと言う事に……。

「……中々に手練れの様だぞ。油断は禁物、少しでも危ないようならばすぐに退く事も視野に入れるべきだ」

「なんだいっ、シラヌスッ! あたいが奴らに後れを取るって言うのかいっ!?」

 慎重論を唱えるシラヌスに、不快感を露わにした言葉を投げつけたのは間違いなくグローイヤだった。

「あんた達っ、何なのよっ!? その恰好に、そのメダル……。冒険者が何だって犯罪者集団に手を貸してるのよっ!」

 今にも口論を始めそうなグローイヤ達に割って入ったのは、後衛から一歩前に飛び出したマリーシェだった。

「はぁ? 何言ってんの? そんなの……金になるからに決まってるじゃない」

 そんな彼女の口上に、グローイヤは如何にも馬鹿にしたような目を向けてそう言い放った。
 それは間違いなく、俺の記憶にあるグローイヤの物言いそのままだった。
 そうだよ……グローイヤは結構早くから、金銭に執着してたんだよなぁ……。

「あ……あんたこそ何言ってんのよっ! 冒険者なら、冒険者らしくしなさいよねっ!」

 それでもマリーシェは、グローイヤの言った言葉が理解出来ない様だった。
 それは彼女が、彼女だけが冒険者に抱いている理想に近いものだ。
 いや……ひょっとすれば、サリシュやカミーラもそう考えているのかもしれない。

 それがどの様な幻想なのかは分からないが、きっと冒険者とは冒険する者の事を指しているんだろうな……。
 それは高潔であり、気高い理想だとは思う。
 俺もその考えには賛成だ。

 でも現実はそれ程単純でも、ましてや綺麗なものでもない。
 寧ろグローイヤ達の様な考えの方が主流だと、いずれ知る事になるだろう……。
 何故なら、今俺達が叩き伏せてきた無法者達も冒険者登録をし、神の祝福を受けているんだ。
 マリーシェ達は己の正義を信じる余り、その事実に気付いていない。
 マリーシェの反論を聞いたグローイヤは、ある意味絶句して即座の反論が出来ないでいたんだが。

「あ……あっはははははっ! 何を言うかと思えば……一体、どこの甘ちゃんだいっ!?」

 再起動を果たしたグローイヤは、マリーシェの〝理想論〟を大声で笑い飛ばす。
 彼女の後ろでは、シラヌスも声を殺して「ククク」と失笑を溢していた。

「あっ……甘ちゃんっ!? あ……あたしが甘ちゃんなら、あんたはクズ冒険者じゃないっ!」

 自分の言葉を一笑に付されたマリーシェは、みるみる顔を真っ赤にしてそう反論した。
 正しく子供の様な口喧嘩。
 売り言葉に買い言葉の見本の様なやり取りだった。
 だがお互い「子供」と言うには年齢も、そして身に付けている力もけた違いだ。

「……へぇ。……お嬢ちゃん……死にたいんだ?」

 マリーシェの言葉を受けたグローイヤの雰囲気が、不穏なものへと変わって行く。
 マリーシェの放った言葉が、グローイヤの琴線に触れてしまった様だ。
 彼女の表情が、瞬く間に良くない……邪悪なものへと変貌する。
 それを見て取ったマリーシェやカミーラ、サリシュに一層の緊張が高まる!

「はぁ―――っ!」

 臨戦態勢を見て取ったグローイヤが、何の前触れもなく手に持つ巨斧を振り上げて跳躍した! 
 驚くほど素早いその動きが狙う先は、前衛で並んで立つマリーシェとカミーラだ!

「……っ!」

「来たっ!」

 その動きに反応したカミーラとマリーシェは、二人同時に左右へと飛び退いた! 
 彼女達のいた場所へ僅かの後にグローイヤが振り下ろした戦斧が着弾し、地面に巨大な穴を穿つ!

「……へぇ。……あんた等、あれを躱せるんだ? こりゃあ、楽しめそうだね―――」

 喉の奥で笑い声を鳴らしたグローイヤの表情は、新しい玩具を見つけた様な嗜虐的な笑みを湛えていたのだった。

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