嵌められ勇者のRedo Life

綾部 響

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7.エピローグ

パーティーの形

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「それでは―――っ! 無事、依頼クエスト完遂クリアと―――、レベルアップを祝して―――……」

 グラスを手に持ち席から立ち上がってそう口にしたマリーシェが、随分とタメを作ってもったいぶる。

「それからついでに―――っ! アレクの生還もお祝いして―――っ!」

 更には、言わなくて良い事まで口にしやがった。
 まぁ確かに、九死に一生を得た訳だから、俺には十分祝ってもらう資格があると言えばあるんだが……。
 しかしこうやって改めて言われると、どうにも気恥ずかしくなるよな。

「かんぱ―――いっ!」

「「「かんぱ―――いっ!」」」

 俺が照れる様に身を捩っているのをニヤニヤと見ていたマリーシェの音頭で、俺達はグラスを掲げて大きくそう声を上げた。

 傍から見れば、レベルの低い者が初めてのクエストクリアに浮かれていると思えなくもない光景だ。
 そして実際、その通りだ。
 俺達がパーティを組んでクリアしたクエストは、未だ「幽霊屋敷の死霊退治」だけだった。
 低レベルの者が取り組む比較的難易度の低いクエストをクリアしただけで、わざわざこの騒ぎ様は大げさすぎる……と誰もが思うかもしれない。

 ―――しかしその内容は「簡単な」とは済まされない程、難度に大きな齟齬がある……。

 俺の知る限りでは、中級冒険者でさえクリアが困難なミッションだったと思えた。
 実際、いくら低レベルだと言え、無数の冒険者たちが躯と化していたんだからな。
 それ程に、あの「黒い人型」は手ごわい存在だったんだ。
 真正面から相対すれば、俺達の実力では間違いなく全滅……。あいつらと同じ運命をたどっていたろうな……。
 あの「人型」が油断し、こちらが全力を引き出したから退ける事が出来たんだ。
 俺の想像では、あの「人型」には隠された力がまだまだ存在しているだろう。
 もっとも、戦いの基本は「相手に全力を出させず、こちらは全力で倒す」にある。
 そう言った意味で俺達は最善策を取り、それを活かす事が出来た「作戦勝ち」だったとも言える。

 それに俺達が浮かれているのは、単にクエストのクリアとあの「人型」を退けたからだけじゃない。
 マリーシェが言った様に、俺達はレベルアップも同時にする事が出来たんだ。
 マリーシェはレベル7から9に。
 俺もレベル5から7に。
 カミーラはレベル10から11に。
 そしてサリシュは……なんとレベル7から10に上がったんだ!
 基本的に、レベルが2つも上がると言う事は稀中の稀だ。
 それは比較的レベルの上がりやすい、低レベル者でも例外じゃない。
 それが俺とマリーシェは2つ、サリシュは3つも上がったんだからこれは喜ばずにはいられない事実だった。

「ん―――……。でもなんでサリシュだけ3つも上がったのさぁ……」

 だが、この結果にマリーシェは不満を上げていた。
 同じ時に、同じ場所で、同じ敵に相対していたのだから彼女が述べる不満もあながち的外れとは言えない。

「……まぁまぁ……気ぃ落とさんとぉ……。また頑張ればええねんからいいんだから……」

 突っ伏して不平を溢すマリーシェに、横からサリシュが慰めの言葉を掛ける。

「ほんっと、良い性格してるわねぇ……あんた」

 しかしそう声を掛けているサリシュには言葉ほどの神妙さは無く、どこか優越感を思わせる笑みが含まれている。

 だが、結果からすれば、これは妥当と言えるレベルアップだ。
 あの時最も力を絞り出したのはサリシュであり、俺達はその援護の影で攻撃したに過ぎない。
 接敵したのは俺達だし、危険度で言えばこちらの方が高かったかもしれない。
 それゆえの「2レベルアップ」だと考える事が出来る。
 ただ、自身の生命を燃やし、命を落とす危機を顧みず限界を引き出した行動を取ったと言えば、サリシュの方が遥かに勝っていたのだ。

「あぁあ……。でも、皆無事でほんっ……とうに良かったわねぇ……」

 サリシュが本気で嫌味を言っていないのが分かるマリーシェだから、彼女はその事を根に持つ様な事も無く即座に話題変換を図った。

「……でも、アレクはほんまに……死んでんけどなぁ……」

 マリーシェの言葉にサリシュが身も蓋もない合いの手を続け、俺は乾いた苦笑いしか浮かべる事が出来なかった。
 俺としては、あの結果は想像の範囲内で、だからこそ蘇生アイテムを皆に手渡していたと言う経緯がある。
 それに、攻撃を受けたのがマリーシェでなく俺で、本当に良かったと今でも思っていた。「死ぬ経験あんなおもい」は、例え生き返ると分かっていても体験しなくていいならする必要はない。

「……でもまさか。……マリーシェがあそこまで錯乱するやなんて……想定外やったわぁ」

 俺の意識が失われている間のやり取りを、サリシュがシレッと暴露した。

「なっ……あっ……あんただって、蒼白な顔してたじゃないっ! 涙まで浮かべちゃってさっ!」

 顔を真っ赤に茹で上がらせたマリーシェが、お返しとばかりにサリシュの事もやり玉に挙げる。

「……うん。本当ほんまに怖かったから……。助からんのちゃうかって思ったら……悲しかったし……」

 でもマリーシェの目論見は、僅かに頬を赤らめただけで動揺も無くそう答えたサリシュによって見事に打ち砕かれていた。
 確かに俺が意識を取り戻した時、真っ先に飛び付いて来たのは大粒の涙を浮かべ鼻血も拭いていないサリシュだったからな……。
 サラッとサリシュにそう答えられ、反論出来なくなったマリーシェは彼女から矛先を変えた。

「でももっと意外だったのはカミーラよねぇ……。まさかあそこまで取り乱すなんてねぇ……」

「なっ……!? そ……それはっ!」

 マリーシェに半眼で横目に見つめられて、カミーラは顔を真っ赤にして絶句していた。
 それも俺の知らない間に行われた一幕で、俺としてはなんとも居心地の悪い暴露大会だった。



 因みに俺達には、レベルアップのほかにも改めて冒険者ランクを上げたいという要請がギルドから来ていたんだ。
 それも、1ランク上の金石ゴールドではなく、更にUPさせた真珠石パールにとの要望だったんだ。
 その理由は、新人冒険者たちを虐殺したあの「黒い異形種」を退けたからに他ならなかった。
 実は、俺たちが「幽霊屋敷」のクエストを受けて出発したすぐ後に、あの屋敷から命からがら逃げてきた冒険者が、事の顛末をギルドに報告していたらしい。
 この周辺では見る事の無い異形の者の出現にプラスして、圧倒的な力で冒険者たちをにした事実を聞いて、ギルドは慌てて「特別依頼コア・クエスト」を発動したようだった。
 どうりで、後続組の姿は勿論、そんな気配さえ感じなかったわけだな。
 あれほどのレベルであれだけの殺傷能力を持っていたんだ、ギルドが狼狽するのも仕方なかったろう。
 もっとも。
 血気盛んな若者たちに、問答無用で襲い掛かられれば、どんな奴でも応戦するだろうな。……実際はどうだったのかは分からないが。
 敵を見て、その強さを把握し、やばいと思ったら逃げる。
 これもまた、生き延びるために大事な技能スキルの一つだ。
 そういった事を繰り返し、そのスキルを昇華させ、高いレベルの危機察知能力を身に付けてゆくもんなんだ。……本当ならな。
 でも、それを身に付ける前に、そうと気付かずに無謀な戦いへと身を投じてしまえば……待っているのは……な。
 だから、あの場で倒されてしまった冒険者たちは、ある意味でカミーラのとばっちりを受けてしまって不運だったとも言えるし、また別の意味では……力量を図り切れなかった自分たちの未熟によるところ……とも言えるんだ。
 もしもあそこにいたのが奴ではなく「希少種レア・モンスター」であったとしても、彼らの運命は同じだったのではないだろうか。
 結局、今回も俺は……俺たちは、ランクの昇格を見送ったんだ。
 まだまだ、パーティとして未熟な俺たちが、ランクだけ駆けあがるというのはデメリットしか思い浮かばなかったからな。
 レベルはともかく、ランクは自身に見合ったものを。それが俺の考えだったんだ。



 どうにも言葉に困る彼女たちの掛け合いに、聞いてる俺の方が照れちまったよ。
 しかし嫌な気分は無く、寧ろ嬉しさすらあった。
 強大な敵に力を併せて立ち向かい、その成果に一喜一憂する。
 仲間を助けるのに打算や計算は無く、皆が一致団結して取り組む。
 それだけを聞けば当たり前のように聞こえるかもしれない。
 でも、そんな事は「基本的に」有り得ないのが冒険者と言う職業だ。
 俺達のやっているのは、決してごっこ遊びでもなんでもない。
 本当に命がけの、死と隣り合った冒険なんだ。
 何よりも優先すべきは、自分の命。
 その命題を前にすれば、他者の命なんて例えパーティメンバーで在ろうと親友であっても二の次になる。
 死んでしまえば、そこで終わり。
 今回は俺がたまたま蘇生アイテムを持っていたから良い様なものの、本来ならばカミーラを置いて逃げ出してもおかしくない事案だった。
 それに蘇生にしても、必ずしもそれを行使してくれるとは限らない……と言う事を、俺は前回の冒険で痛いほど体験しているからな。
 如何に咄嗟の行動だったとはいえ自らの命を他人に委ねるなんて、俺の甘さは未だに抜けきっていないと見える。

 それでも、命を懸けて仲間を護ると言う事を言葉だけではなく行動で示した彼女達に、俺は嬉しさと喜びを感じずにはいられなかった。
 そしてその判断が間違っていなかったと実感できるこの瞬間が、何よりも俺を満足させていたんだ。

 ―――そうだ、これが俺の求めていた冒険だ……。

 もう15年以上も昔……と言っても、今の俺からすれば数か月前か……。
 村を飛び出した時の気持ちは、今俺が感じている想いそのままだった筈なんだ。
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