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3.魔王との邂逅
魔王、その姿
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そのまま放っておくと際限なくワイワイと騒がしいクリーク達をドルフの村へと送り返して、俺は漸く静寂の中でベッドに横になる事が出来ていた。
プリメロの街を発つ直前に挨拶へとやって来たイルマから、今回レベルが上がったのはクリークとイルマだけだと言う事を聞かされた。
これで彼等のレベルは、クリークが13、イルマが14、ソルシエ14、ダレン15となった訳だ。思った通り、ダレンとソルシエがクリークとイルマを待つ構図となっている。
もっとも彼等のレベルはまだまだ低い。
極端にレベル差があったならばパーティ構成に問題ありと言えるが、これ位の差ならば許容範囲だろう。いずれは4人のレベルも同じくらいになる筈だ。
「ふぅ……」
大きく息を吐いて、俺はベッドの感触を楽しんだ。深く沈んでゆくような感覚に、思わず睡魔が襲ってくるようだった。
俺の身体はあれだけ寝たというのに、まだ眠り足りないと見える。もっとも、それだけ心身ともに疲労していると言う事なんだけどな。
肉体的精神的疲労を感じているのは、勿論勇者たる俺の切り札「勇敢の紋章」を使用した後遺症なんだが、それ以外にも俺を悩ませる問題があったからに他ならない。
それは……あの戦いの後……。現れた魔王と初めて対峙した事から由来している。
俺はゆっくりと眼を閉じて、あの時の事をもう一度頭の中で反芻していた……。
「お……お前が……魔王だってっ!?」
「如何にも……私がこの魔界を統べる者……お前達が『魔王』と呼ぶ者だ」
問いかけた俺だったが、目の前の人物が魔王……そうでなくとも魔界最強の戦士だと言う事は言われなくても分かった事だった。何よりも身に纏う雰囲気が、他の魔族と段違いだ。
魔王はゆっくりと歩み出し、俺の方へと歩を進めだした。
「魔王様!」
それを、ナダと呼ばれていた魔族が引き留めようと声を掛けた。
それはそうだろう。魔界を治める者が、その魔界に攻め入って来た勇者の前に身を晒すなんて本当は避けるべき事だ。魔王が死んでしまっては、魔界の命運も尽きると言う事だからな。
「よい……。お前達はここで待機しておれ。良いな? ナダ……。ハオス……。ウムブラ……。ザラーム……」
「「「「ハッ!」」」」
そんなナダに対して、魔王は穏やかと思われる口調で答えた。
だが優しく感じるのはその語調だけ。そこに含まれる威圧感は、彼等をして有無を言わせぬ程のものだった。
部下達を宥めた魔王は再び俺の方へと歩み出し、距離を5m程取った所で止まり相対したんだ。
―――こいつが……魔王か……。
俺のこめかみを、何とも嫌な汗が一筋流れた。
対峙すればわかる……こいつの……魔王の強さが。
全身から発せられる雰囲気は、正しく「最強」の名に相応しいものだ。自然体でありながらも、隙らしい隙が無い。
しかし俺が魔王から目を離せなかったのには……別の訳がある。
魔王は……女性だった。
美しく長い赤紫色をした髪。
それと対を成す様な、宝石のように綺麗な青紫色の瞳がこちらを見つめている。
切れ長の瞳と整った顔立ち……俺は今までに、これほど美しい女性を見た事は無いだろう。
そしてそれよりも何よりも俺の目をくぎ付けにして離さないのは……その装束だ。
黒く艶のある如何にも逸品だと思わせる鎧は、彼女の身体に誂えた様にピッタリと張り付いている。
そのラインから、彼女が如何に素晴らしいスタイルをしているのかが窺い知れようと言うものだ。
何よりもその鎧は、大きく前がはだけていた。
首元より下腹部まで大きく露出しており、辛うじて膨よかな双丘を覆い隠している。それでも彼女の胸は、激しい動きをしようものならばすぐにでも零れ落ちてしまいそうである。
そしてそのまま露出された腹部は、引き締まった腰を強調している。
つまりは、これ以上ないって程の美人が扇情的なスタイルで俺の前に立っているって事なんだ。
「こ……こら。余りジロジロと見るでない」
そんな俺の邪な視線に感づいて、魔王は恥ずかしそうにマントで前を隠したんだ。そんな仕草もまた、何とも愛らしいという表現がぴったりだった。
「あ……ああ、すまん」
何とも拍子抜けする言葉に、俺もまた慌ててそう返したんだ。
何だ? これから戦うかもしれないというのにこの雰囲気は?
「こ……この鎧は、そなたの鎧と同じ「聖霊の力」が宿されているものなのだが……どうにも露出が多くてな……」
頬を赤らめてそう説明する魔王は、そこだけを見れば普通の女の子みたいに見える。
もっとも……魔族は総じて長命な種族が多いからな。
彼女も見た目ならば24,25歳の女性なんだが、実際は俺よりも遥かに年上……と言う事も考えられる。
それに、あの鎧はこの世界の聖霊様「闇の聖霊様」が与えたものなのか。
成程、非常に美しく妙に露出の多い出立にも関わらず恥ずかしがり屋だったあの聖霊様らしいと言えばらしいな。
俺が得心していると、魔王の方から再び口を開いたんだ。
「さて、人界の勇者よ。もしもそなたが望むならば、私はそなたとの会談の場を所望するのだが……如何か?」
体裁を取り戻した魔王は、軽い咳ばらいを1つしてそんなを提案して来た。
その申し出は、正しく俺が望んでいた事に他ならない。
―――普段であったならば……だが。
今までの魔王城攻略だったなら、俺はこの提案を受けていただろう。しかし今回は、2つ返事で受け入れる事が憚られた。
何故ならば俺は、切り札を使い切ってしまっている。更に言えば、明日になれば指1本動かす事が出来なくなるのが確定的に明らかなんだ。
そんな俺が時間稼ぎとも思える会談に応じれば、下手をすればそのまま捕まり命を取られかねないんだ。
だが、だからと言ってすぐに拒否する事も出来ない。魔王が此処まで俺の前に姿を現して歩み寄った提案をして来た事は、正しく僥倖と言って良い。
もしも日時をずらせば、魔王の気持ちが変わってしまうかも知れないんだ。
その場合は再び魔王城を攻略しなければならないし、切り札を晒している俺は下手をすれば敗れる事になるだろう。
俺が即座の回答を躊躇していると、魔王の方から更に提案が齎された。
「そなたの思案も当然だと思う。故に先に、これを渡しておこう」
何も答えていないのに魔王は、俺の考えを看破して見せた。そんなに俺の表情って読みやすいのかな?
そんな事を考えていると、ゴソゴソと何かを取りだした魔王がそれを差し出して来た。魔王の手には、綺麗な宝石の付いたネックレスが握られていた。
「これを使えば、この魔王城の外へ一瞬で転移する事が出来よう。そなたが望むならば……または話を打ち切りたいのならば、これを使って私の前から去れば良い。我等は今回に限り、そなたを追撃しないことを明言しておく。またこの魔王城内からならば、どの場所にでも転移する事が出来る。これでそなたは、再び魔王城門から昇ってくる必要はなくなるであろう」
俺は恐る恐る、ゆっくりとそのネックレスを受け取った。勿論、不意打ちや呪いの類は十分に警戒して……だ。
幸いと言って良いのか、そのネックレスにはすさまじい魔力が込められてはいるもののこちらを攻撃する様な機能は付いていなかった。
「何故……これを俺に? 本当にこれを使って逃げるかもしれないんだぜ? それにどこにでも出現出来るってんなら、寝ているあんたの寝首を掻くかも知れないんだぜ?」
俺は殊更に意地悪く、厭らしい笑顔を浮かべて問い返した。俺の顔を見た魔王は、若干体を隠す様にして後退った。
あれ……? 俺ってそんなに邪悪な顔をしてたのか?
「ま……まずはこちら側が誠意を見せねば、そちらとしてもこちらを信じられはせぬであろう?」
その誠意が魔王城の何処でも……それこそ魔王の間から寝室まで行く事が出来るネックレスを俺に与えるだなんて、かなり思い切った事をして来たな。
でもだからこそ……気に入った!
「分かった。その申し出、有難く受けようと思う」
俺の返答に、魔王は何とも可愛らしい笑みを浮かべて応えたんだ。
プリメロの街を発つ直前に挨拶へとやって来たイルマから、今回レベルが上がったのはクリークとイルマだけだと言う事を聞かされた。
これで彼等のレベルは、クリークが13、イルマが14、ソルシエ14、ダレン15となった訳だ。思った通り、ダレンとソルシエがクリークとイルマを待つ構図となっている。
もっとも彼等のレベルはまだまだ低い。
極端にレベル差があったならばパーティ構成に問題ありと言えるが、これ位の差ならば許容範囲だろう。いずれは4人のレベルも同じくらいになる筈だ。
「ふぅ……」
大きく息を吐いて、俺はベッドの感触を楽しんだ。深く沈んでゆくような感覚に、思わず睡魔が襲ってくるようだった。
俺の身体はあれだけ寝たというのに、まだ眠り足りないと見える。もっとも、それだけ心身ともに疲労していると言う事なんだけどな。
肉体的精神的疲労を感じているのは、勿論勇者たる俺の切り札「勇敢の紋章」を使用した後遺症なんだが、それ以外にも俺を悩ませる問題があったからに他ならない。
それは……あの戦いの後……。現れた魔王と初めて対峙した事から由来している。
俺はゆっくりと眼を閉じて、あの時の事をもう一度頭の中で反芻していた……。
「お……お前が……魔王だってっ!?」
「如何にも……私がこの魔界を統べる者……お前達が『魔王』と呼ぶ者だ」
問いかけた俺だったが、目の前の人物が魔王……そうでなくとも魔界最強の戦士だと言う事は言われなくても分かった事だった。何よりも身に纏う雰囲気が、他の魔族と段違いだ。
魔王はゆっくりと歩み出し、俺の方へと歩を進めだした。
「魔王様!」
それを、ナダと呼ばれていた魔族が引き留めようと声を掛けた。
それはそうだろう。魔界を治める者が、その魔界に攻め入って来た勇者の前に身を晒すなんて本当は避けるべき事だ。魔王が死んでしまっては、魔界の命運も尽きると言う事だからな。
「よい……。お前達はここで待機しておれ。良いな? ナダ……。ハオス……。ウムブラ……。ザラーム……」
「「「「ハッ!」」」」
そんなナダに対して、魔王は穏やかと思われる口調で答えた。
だが優しく感じるのはその語調だけ。そこに含まれる威圧感は、彼等をして有無を言わせぬ程のものだった。
部下達を宥めた魔王は再び俺の方へと歩み出し、距離を5m程取った所で止まり相対したんだ。
―――こいつが……魔王か……。
俺のこめかみを、何とも嫌な汗が一筋流れた。
対峙すればわかる……こいつの……魔王の強さが。
全身から発せられる雰囲気は、正しく「最強」の名に相応しいものだ。自然体でありながらも、隙らしい隙が無い。
しかし俺が魔王から目を離せなかったのには……別の訳がある。
魔王は……女性だった。
美しく長い赤紫色をした髪。
それと対を成す様な、宝石のように綺麗な青紫色の瞳がこちらを見つめている。
切れ長の瞳と整った顔立ち……俺は今までに、これほど美しい女性を見た事は無いだろう。
そしてそれよりも何よりも俺の目をくぎ付けにして離さないのは……その装束だ。
黒く艶のある如何にも逸品だと思わせる鎧は、彼女の身体に誂えた様にピッタリと張り付いている。
そのラインから、彼女が如何に素晴らしいスタイルをしているのかが窺い知れようと言うものだ。
何よりもその鎧は、大きく前がはだけていた。
首元より下腹部まで大きく露出しており、辛うじて膨よかな双丘を覆い隠している。それでも彼女の胸は、激しい動きをしようものならばすぐにでも零れ落ちてしまいそうである。
そしてそのまま露出された腹部は、引き締まった腰を強調している。
つまりは、これ以上ないって程の美人が扇情的なスタイルで俺の前に立っているって事なんだ。
「こ……こら。余りジロジロと見るでない」
そんな俺の邪な視線に感づいて、魔王は恥ずかしそうにマントで前を隠したんだ。そんな仕草もまた、何とも愛らしいという表現がぴったりだった。
「あ……ああ、すまん」
何とも拍子抜けする言葉に、俺もまた慌ててそう返したんだ。
何だ? これから戦うかもしれないというのにこの雰囲気は?
「こ……この鎧は、そなたの鎧と同じ「聖霊の力」が宿されているものなのだが……どうにも露出が多くてな……」
頬を赤らめてそう説明する魔王は、そこだけを見れば普通の女の子みたいに見える。
もっとも……魔族は総じて長命な種族が多いからな。
彼女も見た目ならば24,25歳の女性なんだが、実際は俺よりも遥かに年上……と言う事も考えられる。
それに、あの鎧はこの世界の聖霊様「闇の聖霊様」が与えたものなのか。
成程、非常に美しく妙に露出の多い出立にも関わらず恥ずかしがり屋だったあの聖霊様らしいと言えばらしいな。
俺が得心していると、魔王の方から再び口を開いたんだ。
「さて、人界の勇者よ。もしもそなたが望むならば、私はそなたとの会談の場を所望するのだが……如何か?」
体裁を取り戻した魔王は、軽い咳ばらいを1つしてそんなを提案して来た。
その申し出は、正しく俺が望んでいた事に他ならない。
―――普段であったならば……だが。
今までの魔王城攻略だったなら、俺はこの提案を受けていただろう。しかし今回は、2つ返事で受け入れる事が憚られた。
何故ならば俺は、切り札を使い切ってしまっている。更に言えば、明日になれば指1本動かす事が出来なくなるのが確定的に明らかなんだ。
そんな俺が時間稼ぎとも思える会談に応じれば、下手をすればそのまま捕まり命を取られかねないんだ。
だが、だからと言ってすぐに拒否する事も出来ない。魔王が此処まで俺の前に姿を現して歩み寄った提案をして来た事は、正しく僥倖と言って良い。
もしも日時をずらせば、魔王の気持ちが変わってしまうかも知れないんだ。
その場合は再び魔王城を攻略しなければならないし、切り札を晒している俺は下手をすれば敗れる事になるだろう。
俺が即座の回答を躊躇していると、魔王の方から更に提案が齎された。
「そなたの思案も当然だと思う。故に先に、これを渡しておこう」
何も答えていないのに魔王は、俺の考えを看破して見せた。そんなに俺の表情って読みやすいのかな?
そんな事を考えていると、ゴソゴソと何かを取りだした魔王がそれを差し出して来た。魔王の手には、綺麗な宝石の付いたネックレスが握られていた。
「これを使えば、この魔王城の外へ一瞬で転移する事が出来よう。そなたが望むならば……または話を打ち切りたいのならば、これを使って私の前から去れば良い。我等は今回に限り、そなたを追撃しないことを明言しておく。またこの魔王城内からならば、どの場所にでも転移する事が出来る。これでそなたは、再び魔王城門から昇ってくる必要はなくなるであろう」
俺は恐る恐る、ゆっくりとそのネックレスを受け取った。勿論、不意打ちや呪いの類は十分に警戒して……だ。
幸いと言って良いのか、そのネックレスにはすさまじい魔力が込められてはいるもののこちらを攻撃する様な機能は付いていなかった。
「何故……これを俺に? 本当にこれを使って逃げるかもしれないんだぜ? それにどこにでも出現出来るってんなら、寝ているあんたの寝首を掻くかも知れないんだぜ?」
俺は殊更に意地悪く、厭らしい笑顔を浮かべて問い返した。俺の顔を見た魔王は、若干体を隠す様にして後退った。
あれ……? 俺ってそんなに邪悪な顔をしてたのか?
「ま……まずはこちら側が誠意を見せねば、そちらとしてもこちらを信じられはせぬであろう?」
その誠意が魔王城の何処でも……それこそ魔王の間から寝室まで行く事が出来るネックレスを俺に与えるだなんて、かなり思い切った事をして来たな。
でもだからこそ……気に入った!
「分かった。その申し出、有難く受けようと思う」
俺の返答に、魔王は何とも可愛らしい笑みを浮かべて応えたんだ。
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