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6.世界の真実
障害となるもの
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とりあえず現状を報告し終えた俺達は、さっきまで口にした次なる問題に取り組む事とした。その問題とは……。
「今後、人選が進んだとすれば魔族が人界へ、人族が魔界へと訪れる事になると思うんだ。その時問題となるのが……」
「……ふむ。容姿……だな」
途中まで話して、リリアは俺が何を言わんとしているのか即座に看破して見せた。
うむ、正しく「ツーと言えばカー」と言う奴だ。こうも理解が早いと、こちらとしても非常に助かるんだよなぁ。
「ああ。人族は兎も角として、魔族がその姿のままで人界へと来れば間違いなく混乱が生じる。下手をすれば迫害の対象になるかも知れない。そうなれば、互いに友好な関係を築く事も儘ならないだろうな」
俺がそこまで言うと、リリアは顎に手を遣り深く考えだしたんだ。
彼女もまた、この事の重要性を確りと認識している様だった。……そして。
「その事で、人界で問題となるのは魔族の容姿だけだろうか……?」
何か案でも浮かんだのか、リリアが質問……と言うか確認を込めた物言いで問いかけて来た。
「そうだな……。今のところは、容姿さえ恒常的に変える事が出来るなら問題は起きないと思う。勿論、こちらとそちらで考え方や作法などの違いはあるだろうが……。それはその都度、対応すれば済むくらいだと認識している」
俺の方も、既に考えてあった返答を口にしたんだ。
勿論、俺の考えている事が全てでも無ければ、リリアの思い至る事が全部と言う訳でも無いだろう。
ただ人族と魔族が戦い以外で交流すると言う事は、俺を除けば全てが初めての事だと言っても過言じゃあない。
遠からず問題は起こるだろうし、それは俺達が思いもつかない事が発端となるかもしれないんだ。
「そうか……。それならば、幾つかの方法を考えついた。『変化のマント』や『姿隠しの指輪』の効能を応用して、少し違うアイテムを考案してみよう」
そして彼女から返って来た答えは、正しく俺が思い描いていたものと同じだったんだ。
俺がリリアから貰った「魔王城のネックレス」を見て思いついた事がある。魔族には、新しい魔法のアイテムを作り出す技術が少なからず存在していると言う事だった。
それは人界には存在しない……非常に稀有な技術だと言って良いだろうな。
人界にも、幾つもの魔法のアイテムは存在している。だがしかし、それらの中に人族が作り出した物は非常に少ないんだ。
遥か昔から存在していたアイテムが発見され、それを模倣して量産する技術は数多ある。
ただ全く新しい物を作り出せる者も、そんな技術も殆ど無いと言って良い。
それに対してこの魔界には、それを可能とする者や技術があると言う事が彼女の言葉で確信出来たんだ。
もっとも。
「ただしその為には、こちらでは希少鉱物とされるものが必要になるかも知れない。恐らくは〝魔法石〟が必要だろう」
その様な技法や技術があったとしても、それを簡単に行使する状況にはない様だけどな。
しかしそのお蔭で、人族は未だに安泰だと言って良い。
もしも強力で危険なアイテムなんかが簡単に、且つ大量に作られでもしたら……考えるだけでも恐ろしい……。
「わかった。魔法石については、俺が必要なだけ用意しよう。時間が掛かるかもしれないが……」
リリアの要望に、俺はそんな安請け合いをしたんだが。実際の処は、そんなに簡単に手に入る様なものじゃあない。
魔法石」は、確かに人界の技術で作り出されている数少ない鉱物だと言って良い。
原石が何時、何処で見つけられたのかは定かじゃあ無いけど、今じゃあ材料さえ揃える事が出来れば、比較的容易な方法で生産することが可能なんだ。
そして幸いなことに、「魔法石」は魔界では発見されていない。当然の事ながら、その生成方法も知られてはいないんだ。
魔界と対峙していた人界の事を思えば、本当だったら余りこの石を魔界へと流出させるのは喜ばしい事じゃあないだろう。
でもこれからは、そんな過去の柵に縛られるべきじゃあないんだ。双方が可能な限り協力して、人材も情報も技術だって出来得る限り流通させる必要があるだろうな。
だから……これは、切っ掛けだ。
魔法石の提供が人界と魔界双方にとって有益なら、多少の秘密漏洩は必要コストだと考えるべきだろうな。
「ふむ……。どの様な材料を必要とするのかは知れないが、さしもの勇者と言えども集めるのは容易ではないと言う事か……」
そんな俺の返答を聞いたリリアが、可笑しそうに笑みを浮かべて呟いた。
ただしその言葉から受ける印象とは裏腹に、その表情は楽しそう……と言うよりもどこか面白そうと言った感じだ。
「そりゃあそうさ。いくら俺が勇者だからって、何でも簡単に手に入れられる訳じゃあないからなぁ」
そして俺の方も彼女に応える様に、殊更におどけた声音で返した。もっともそれは本音が半分、そして冗談が半分と言った処か。
人界では、勇者は随分と優遇されているからなぁ……。
普通で考えれば手に入れるのが困難な物でも、勇者が必要としていると言うだけでその難易度がかなり低くなるんだ。
恐らくだけど俺が必要としているという旨を王様や貴族、豪商に伝えればかなり率先して協力してくれるんじゃあないだろうか?
……ただし。
かつて地上を荒らしまわっていた〝魔王〟が俺達に倒されて十数年……。今や地上では、魔族の脅威が殆ど感じられないと言うのが実情だ。
そんな中で、過去の英雄が一体どれ程の待遇を受けられるのかは……定かじゃあないけどな……。
悲しい話だが、人族と言うのは良くも悪くも過去に起こった悲劇を忘れる……いや、思い出さない様に努力する種族だ。
前に向かって進む為にはその事も必要だろうけど、その中には「教訓」やら「感謝」やらも含まれている。
だから過去に俺が成した偉業だって一体どれ程の人達が未だに感謝し、そして協力してくれるのか怪しいものだ。
まぁ、協力を得られないならばそれでも良い。多少手間でも材料は自力で集め、精製はマルシャンにでも相談すれば良い事だ。
「ああ……それから……」
一先ず、話すべき事は全て話した。
今はまだ俺もリリアも行動を開始したばかりだし、即座に目に見えて収穫を得られる筈も無い。それはリリアの方も分かっている様で、俺達の間にどこか弛緩した空気が漂っていたんだが。
「これは……これからの事には関係ないんだが……」
だから彼女にしても、まさかこのタイミングで俺の口からこんな質問を投げ掛けられるなんて思いもよらなかったのかも知れない。
「この間ここを訪れた時なんだが……帰る間際に、俺に何かを話したよな?」
だからかも知れない。
此処まで俺が口にすると、暫し思考を停止させたように呆けていたリリアはまるでボフッと音でも出しそうな勢いで赤面したんだ。
冗談抜きで頭から勢いよく湯気を立ち昇らせた彼女は、今まで見た事も無い程顔を真っ赤にして……勢いよく俯いた。
「あの時俺は『勇敢の紋章』を使用した後遺症で意識が朦朧としていてな……。君が何を話していたのか、てんで思い出せないんだ。もし良かったら……話して欲しいんだが……?」
言い訳染みた俺の話が終わっても、リリアは顔を上げようとしなかった。それどころか彼女の肌は顔と言わず耳から首筋から、その手に至るまで……見える部分は全て真っ赤っかと言って良かった。
……あれ? 俺……何か不味い事を聞いたのか?
いやしかし待て。
先日、俺がこの部屋を去る間際に話し掛けてきたのは確かに……彼女の方だ。
ならばこれは、詮索と言う様な事ではない筈……だよな?
俺……悪い事なんてしていない……よな?
余りにもリリアが赤面して声を発しないので、俺はなんだか妙な罪悪感に囚われだしていたんだが。
「ゆ……勇者……。その……今から話す事を……おち……落ち着いて聞いて欲しい……」
漸くリリアが、その重くなった口を開いてくれたんだ。
いや……落ち着くのはまず、リリアの方じゃあないのか?
俺はそう考えながらも、彼女が次に発する言葉を、息を呑んで待ち構えていたんだった。
「今後、人選が進んだとすれば魔族が人界へ、人族が魔界へと訪れる事になると思うんだ。その時問題となるのが……」
「……ふむ。容姿……だな」
途中まで話して、リリアは俺が何を言わんとしているのか即座に看破して見せた。
うむ、正しく「ツーと言えばカー」と言う奴だ。こうも理解が早いと、こちらとしても非常に助かるんだよなぁ。
「ああ。人族は兎も角として、魔族がその姿のままで人界へと来れば間違いなく混乱が生じる。下手をすれば迫害の対象になるかも知れない。そうなれば、互いに友好な関係を築く事も儘ならないだろうな」
俺がそこまで言うと、リリアは顎に手を遣り深く考えだしたんだ。
彼女もまた、この事の重要性を確りと認識している様だった。……そして。
「その事で、人界で問題となるのは魔族の容姿だけだろうか……?」
何か案でも浮かんだのか、リリアが質問……と言うか確認を込めた物言いで問いかけて来た。
「そうだな……。今のところは、容姿さえ恒常的に変える事が出来るなら問題は起きないと思う。勿論、こちらとそちらで考え方や作法などの違いはあるだろうが……。それはその都度、対応すれば済むくらいだと認識している」
俺の方も、既に考えてあった返答を口にしたんだ。
勿論、俺の考えている事が全てでも無ければ、リリアの思い至る事が全部と言う訳でも無いだろう。
ただ人族と魔族が戦い以外で交流すると言う事は、俺を除けば全てが初めての事だと言っても過言じゃあない。
遠からず問題は起こるだろうし、それは俺達が思いもつかない事が発端となるかもしれないんだ。
「そうか……。それならば、幾つかの方法を考えついた。『変化のマント』や『姿隠しの指輪』の効能を応用して、少し違うアイテムを考案してみよう」
そして彼女から返って来た答えは、正しく俺が思い描いていたものと同じだったんだ。
俺がリリアから貰った「魔王城のネックレス」を見て思いついた事がある。魔族には、新しい魔法のアイテムを作り出す技術が少なからず存在していると言う事だった。
それは人界には存在しない……非常に稀有な技術だと言って良いだろうな。
人界にも、幾つもの魔法のアイテムは存在している。だがしかし、それらの中に人族が作り出した物は非常に少ないんだ。
遥か昔から存在していたアイテムが発見され、それを模倣して量産する技術は数多ある。
ただ全く新しい物を作り出せる者も、そんな技術も殆ど無いと言って良い。
それに対してこの魔界には、それを可能とする者や技術があると言う事が彼女の言葉で確信出来たんだ。
もっとも。
「ただしその為には、こちらでは希少鉱物とされるものが必要になるかも知れない。恐らくは〝魔法石〟が必要だろう」
その様な技法や技術があったとしても、それを簡単に行使する状況にはない様だけどな。
しかしそのお蔭で、人族は未だに安泰だと言って良い。
もしも強力で危険なアイテムなんかが簡単に、且つ大量に作られでもしたら……考えるだけでも恐ろしい……。
「わかった。魔法石については、俺が必要なだけ用意しよう。時間が掛かるかもしれないが……」
リリアの要望に、俺はそんな安請け合いをしたんだが。実際の処は、そんなに簡単に手に入る様なものじゃあない。
魔法石」は、確かに人界の技術で作り出されている数少ない鉱物だと言って良い。
原石が何時、何処で見つけられたのかは定かじゃあ無いけど、今じゃあ材料さえ揃える事が出来れば、比較的容易な方法で生産することが可能なんだ。
そして幸いなことに、「魔法石」は魔界では発見されていない。当然の事ながら、その生成方法も知られてはいないんだ。
魔界と対峙していた人界の事を思えば、本当だったら余りこの石を魔界へと流出させるのは喜ばしい事じゃあないだろう。
でもこれからは、そんな過去の柵に縛られるべきじゃあないんだ。双方が可能な限り協力して、人材も情報も技術だって出来得る限り流通させる必要があるだろうな。
だから……これは、切っ掛けだ。
魔法石の提供が人界と魔界双方にとって有益なら、多少の秘密漏洩は必要コストだと考えるべきだろうな。
「ふむ……。どの様な材料を必要とするのかは知れないが、さしもの勇者と言えども集めるのは容易ではないと言う事か……」
そんな俺の返答を聞いたリリアが、可笑しそうに笑みを浮かべて呟いた。
ただしその言葉から受ける印象とは裏腹に、その表情は楽しそう……と言うよりもどこか面白そうと言った感じだ。
「そりゃあそうさ。いくら俺が勇者だからって、何でも簡単に手に入れられる訳じゃあないからなぁ」
そして俺の方も彼女に応える様に、殊更におどけた声音で返した。もっともそれは本音が半分、そして冗談が半分と言った処か。
人界では、勇者は随分と優遇されているからなぁ……。
普通で考えれば手に入れるのが困難な物でも、勇者が必要としていると言うだけでその難易度がかなり低くなるんだ。
恐らくだけど俺が必要としているという旨を王様や貴族、豪商に伝えればかなり率先して協力してくれるんじゃあないだろうか?
……ただし。
かつて地上を荒らしまわっていた〝魔王〟が俺達に倒されて十数年……。今や地上では、魔族の脅威が殆ど感じられないと言うのが実情だ。
そんな中で、過去の英雄が一体どれ程の待遇を受けられるのかは……定かじゃあないけどな……。
悲しい話だが、人族と言うのは良くも悪くも過去に起こった悲劇を忘れる……いや、思い出さない様に努力する種族だ。
前に向かって進む為にはその事も必要だろうけど、その中には「教訓」やら「感謝」やらも含まれている。
だから過去に俺が成した偉業だって一体どれ程の人達が未だに感謝し、そして協力してくれるのか怪しいものだ。
まぁ、協力を得られないならばそれでも良い。多少手間でも材料は自力で集め、精製はマルシャンにでも相談すれば良い事だ。
「ああ……それから……」
一先ず、話すべき事は全て話した。
今はまだ俺もリリアも行動を開始したばかりだし、即座に目に見えて収穫を得られる筈も無い。それはリリアの方も分かっている様で、俺達の間にどこか弛緩した空気が漂っていたんだが。
「これは……これからの事には関係ないんだが……」
だから彼女にしても、まさかこのタイミングで俺の口からこんな質問を投げ掛けられるなんて思いもよらなかったのかも知れない。
「この間ここを訪れた時なんだが……帰る間際に、俺に何かを話したよな?」
だからかも知れない。
此処まで俺が口にすると、暫し思考を停止させたように呆けていたリリアはまるでボフッと音でも出しそうな勢いで赤面したんだ。
冗談抜きで頭から勢いよく湯気を立ち昇らせた彼女は、今まで見た事も無い程顔を真っ赤にして……勢いよく俯いた。
「あの時俺は『勇敢の紋章』を使用した後遺症で意識が朦朧としていてな……。君が何を話していたのか、てんで思い出せないんだ。もし良かったら……話して欲しいんだが……?」
言い訳染みた俺の話が終わっても、リリアは顔を上げようとしなかった。それどころか彼女の肌は顔と言わず耳から首筋から、その手に至るまで……見える部分は全て真っ赤っかと言って良かった。
……あれ? 俺……何か不味い事を聞いたのか?
いやしかし待て。
先日、俺がこの部屋を去る間際に話し掛けてきたのは確かに……彼女の方だ。
ならばこれは、詮索と言う様な事ではない筈……だよな?
俺……悪い事なんてしていない……よな?
余りにもリリアが赤面して声を発しないので、俺はなんだか妙な罪悪感に囚われだしていたんだが。
「ゆ……勇者……。その……今から話す事を……おち……落ち着いて聞いて欲しい……」
漸くリリアが、その重くなった口を開いてくれたんだ。
いや……落ち着くのはまず、リリアの方じゃあないのか?
俺はそう考えながらも、彼女が次に発する言葉を、息を呑んで待ち構えていたんだった。
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