異世界真っ向!〜クジラ亜人、荒波転生録〜

牡丹鍋

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第2章

第13話:海賊島の激闘

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「見たかよあんたら。ルタイスも中々だが、モグリは噂以上だな。海戦適応にあの身体能力。ありゃ俺のギルドならBランクから登録出来るぜ。」

 海賊島に上陸し既に海賊を10数人打ちのめしたガルバンダーは、先程のルタイスとモグリの快進撃を見て機嫌が良くなっていた。ウッキウキで、ランダスやウィヌに話を振る。

「ああ。我々も負けじと先を急ごう。」
「ウィヌは相変わらず話がつまらんな、、、。」

 うんざりという表情でウィヌに舌打ちすると、背後のランダスに振り返った。ランダスは銛を握りながら、ルタイスとモグリが入っていった岩場を見つめていた。

「モグリはさて置き、、、。ルタイス、強くなったんだな。てっきり俺ぁ、女遊びばっかしてるもんだと。」
「いや、もうちょい高く見積もってやれよ。あいつはCランクの上澄みだぜ。今回の討伐の内容次第では、帰還後にすぐさまBランク昇格だろうよ。それに女遊び云々はお前さんも」
「さ、ガルバンダー。俺らも気張ろうか。」

 海賊島までの海案内役のランダスを始めとした漁師達が、銛や手前の武器を構えた。

「ここに来れない村人皆んなの想いを胸に、やられた仕返しをすんだ。いくぞお前ら‼︎」
「うおおおお‼︎‼︎」

 ガルバンダーは近くに居た冒険者に声を掛け、「何人か集めて彼らを守ってくれ。」と頼むと冒険者はグーサインしながら走っていった。ガルバンダーも両腕のガントレットを調整しながら跡をついていく。





「ウィヌ隊長。」

 海賊島の内部に入るため、ウィヌと部下の兵士達が島の建物や倉庫を手当たり次第当たり、海賊を片っ端から始末していく。

 切り掛かってきた海賊の首と胴を亡き別れにし、剣に付いた血を払ったウィヌに部下の兵士が声を掛ける。

「どうした。」
「はっ。モグリの後を付けさせますか。」
「ああ。だが、慎重にな。気付かれぬよう。」
「承知。」

 部下が引き下がると、ウィヌは倉庫の棚に置かれている酒瓶を手に取った。

「ヌラポスタ地方のぶどう酒。何故ここに。奴らの取引と流通網は、どこまで根深いのだ。略奪物だとしても遥々遠方のこの島にあるとは。栓は空いていないな、、、。」





 ウィヌが倉庫から出ると、部下の兵士や冒険者達が仕留めた海賊や拘束した海賊を島の岩壁に並べていた。

「隊長。島の内部への入り口が見つかりました。ただ内部構造が依然としてわかりません。見取り図も物もありません。」
「海賊も自分の根城をいちいち見取り図片手には歩かないだろうな。誰かに道案内を頼もうにも信用ならん。」
「如何致しましょう。」
「捕虜にした海賊は逃げられんように鎖に釘打った上に気絶させろ。ガルバンダーは何処だ。」
「その、ギルドマスターはですね、」

 部下がウィヌの背後を指差すと、内部への入り口と思われる岩の扉を破壊しに掛かるガルバンダーと冒険者達が目に映った。ウィヌは「待て待て。」と言いながら盾を構えた。

「待てガルバンダー殿。先行してくれるのはありがたいが、爆発したり待ち伏せで弾幕を張られたり、いきなり大勢で掛かって来るやもしれん。」
「そうか、そりゃ想定内だ。危険度の高いダンジョンみたいなもんだな。なあお前ら‼︎」

 ガルバンダーの呼びかけにテンションの上がった冒険者達がより一層勢いづいて岩の扉を壊し続ける。

「まあ混乱している海賊を迅速に伸していくのも一手ではある。シオサイの漁師らと警護の冒険者らは我々の後ろへ。ガルバンダー殿、侵入した後の手筈は?」
「暴れ散らかす‼︎んで、ポルボラが居たら引っ捕らえる。見つけ次第、あんたらにもすぐ伝えるよ。」
「承知した。」
「よし、そろそろ行くぞ。おんどりゃああッ」


 バガアアアアアンッッ

 ドゴオオオン......


 岩の扉が音を立てて盛大に崩れた。同時にガルバンダーを先頭に冒険者らが島の内部に流れ込んだ。ウィヌ達も程なくして海賊島の内部へ慎重に足を踏み入れた。













 一方その頃、モグリ&ルタイス。




 岩を崩して進んだ先は、海賊の抜け穴的出入り口だったようだ。小型海賊船に乗りアバルバントの船を襲撃する為に出航準備をしている海賊の集団に鉢合わせた。が、速攻でモグリとルタイスが叩きのめした。

「こりゃここから潰して正解だったぜモグリ。まだこんなにいやがった。」
「味方の船が危なかったね。良かった。で、そいつらは何か吐いた?」
「てんで駄目だ。誰もポロボラの居場所を言わない。本当に知らないのか、余程慕われているのか。」
「前者だろ。」

 2人が会話している隙に匍匐前進で抜け出そうとした海賊の背中を、ルタイスが何度も踏ん付けた。

「げはっぐほっごえっあがっぼえっ許してッ」
「許さないが?俺の居ぬ間に故郷を襲った挙句、妹を人質に取った貴様らを許す道理が無いが?」
「ごっがっ、わっ、わかっ、わかっだあ、おし、教えるからっ」
「教える?ポロボラの居場所か。」

 ルタイスは足を海賊から降ろし、地面に靴底を擦る。そして銛の切先を海賊の首元に突き立てる。

「嘘は言うなよ。もし嘘を付いたらお前の体は、」

 モグリが停泊していた小型の海賊船を次々に粉々に毟るように破壊していく。顔を真っ青に震え出した海賊の首元に、ルタイスは再度切先を突き立てる。

「こうなる。俺ぁ、、、男同士の嘘が嫌いだ。女の嘘は、好きだ。」
「やかましいルタイスも砕こうか?」
「あ、すいません。ともかく知っているなら教えろ。」
「わ、わわわわかった。ポロボラの兄貴は、島一番真ん中の最下層の部屋にいる。」
「もう少しわかりやすく説明しろ。」

 銛を海賊の首にプスッと刺すと、海賊は顔を引き攣らせた。

「こ、この、この島の内部はくり抜かれてて通路や大小様々な部屋が繋がって俺ら海賊の根城になってる。ポロボラの兄貴が居るのはオクトランスの頭の部屋でもあった地下の大部屋だ。」
「そうか。ならそこまで俺達を案内しろ。」
「と、途中までならっ、」
「は?」
「途中までしか知らねぇんだよっ、俺は下っ端戦闘員だぜ⁈丁寧な道案内ならもっと上の奴に聞けっっ。」
「そうか。モグリ、どうするよ。」

 モグリは鉄の扉を軽く手首のスナップを効かせた裏拳で殴り、一発で扉を弾き飛ばすと根城の通路の先を指差した。

「ならそこまでの案内で良い。ポロボラに近づけば取り巻きが居るだろ。そいつらから聞けば良いし、最悪一番下まで掘ってしまおう。急がないと、多分ポロボラは前回みたいに逃げるよ。」
「前回?村に来た時か。」
「うん。あいつ、潜水艇みたいなんに乗って先に逃げたらしいから。」
「じゃあ、急がないとな。ほら立て海賊。道案内の時間だぜ。」

 ルタイスが海賊の胸ぐらを掴んで立たせると、海賊は壁に寄りかかりながら歩き出した。

「そうか、、、ポロボラの、あに、、、野郎はやっぱ逃げてやがったのか。」
「あ?何言って」
「待ってルタイス。」
「あ?」

 海賊を殴ろうとしたルタイスを制止し、モグリは海賊に歩み寄る。

「ここに居るって事は村の襲撃時メンバーじゃ無いって事だ。ポロボラはお前ら海賊に何て言って帰ってきたんだ?」

 海賊は歯軋りしながら、壁を叩いた。

「あの野郎、村を押さえたって嘘付きやがった。だから宝も女子供も持ち帰らず、自分だけ帰ってきたと。今思えばおかしい話だ、味方一人も連れずに帰ってくるとは。あの野郎、嘘付いた上に仲間を見捨てやがった。やっぱオクトランスの頭に着いていくんだった。」

 ルタイスが頭を掻きながら溜め息を吐いた。

「そんな子供騙し、なんで帰ってきた時点で気付かなかったんだよ。まあお陰で、俺たち討伐隊に予想以上に狼狽えてる理由は理解したが。」
「俺はそん時その場にいなかったが、自分の部屋から広場に出てそう仲間達に言いふらしていたらしい。」
「、、、まずいな。」

 モグリは扉の先に向かって駆け出した。ルタイスが海賊の背中を銛で叩き走るように促し、後に続く。

「海賊、早く道を教えろッ。」
「な、何をいきなり慌ててんだ。あそこの階段を降れ。」
「どうしたんだモグリ。確かに増援が来る前に急いだ方が良いが、」
「そうじゃない。ポロボラはシオサイの村を潜水艇で抜け出した後、自分の部屋から出て来たんだ。恐らくその部屋には海に繋がる脱出用の抜け穴があるんだ。急がないと潜水艇でまた逃げるぞ。」
「なるほど。逃げた場合はお前に任せるぞモグリ。」
「ああ、だがその前に捕まえよう。」
「無論だぜ。おら海賊、もっとキビキビ教えんかい。」
「わ、わわわわかった。あの右手の通路だ。」

 ひたすらに走る3人の背後から、海賊の増援が迫る。

「見つけた‼︎味方も居るが構うか、撃ち殺せ‼︎」

 海賊達が銃を次々と撃ち始め、モグリとルタイスは道案内の海賊を掴みながら手前の通路に身を隠した。島の岩で出来た壁の角が弾丸によりがたがたに崩れていく。

「おいこっからでも行けんのか。」
「無理だこの先はただの船員の部屋だ。」
「ルタイス、伏せてて。」
「は、モグリ。幾らお前でも銃弾は危ないッ。」

 モグリは近くの部屋の鉄扉を「よいしょ。」と外すと、盾にして銃弾を防ぎながら元の通路に出た。



 ガガガガンッガンガンッッガガガガガガッ‼︎



「お。意外と頑丈で助かった。あらよ。」
「わ⁈」
「ぬわあ⁈」

 モグリは鉄扉を海賊達に蹴り飛ばした。海賊達は鉄扉に押され弾かれ、叫びながら散り散りになった。モグリは海賊が落としたマスケット銃を両手に持つと、膝で半分に割った。海賊達は怯えながらも銃から武器を持ち替え、モグリに果敢に立ち向かってきた。

「あんたらのその気概は何処から湧いてくるんだ。何がそこまで、、、。」
「誰だか知らないがたかが亜人が好き勝手暴れやがってッ。」
「知らない海賊に襲われた村人達の気持ちは考えられないのか。好き勝手に言いやがって。」

 振り下ろされたサーベルを横に避け、後ろに引いた右手で海賊の顔面を殴り飛ばした。飛びかかって来た海賊を、振り下ろしてきたハンマーごと頭突きで砕いて壁にめり込ませ、同時に切り掛かってきた海賊2人をタックルで薙ぎ倒し、後頭部を床に強打させ気絶させた。残った1人は、「や、やあ~‼︎」と槍を持って突進してきたが、モグリは冷静に槍の木材の部分を片手で掴んだ。海賊は突進の勢いそのままに、槍の石突を鳩尾にめり込ませた。

「ぐうえ⁈お、げぇ。」
「お、お大事に。」

 海賊は血とゲロを吐き出しながら倒れた。モグリは槍を掴んだままその海賊から視線を外すし、背後の通路に視線を向けた。


「おいモグリ、大丈、大丈夫だよな知ってた。」

 通路から顔を覗かせたルタイスが、目の前に広がる蹂躙劇に安堵して出て来た。

「なんとかなった。けど急ごう。味方側も入ってるからそんな多く追っ手は来なそうだが、、、。」
「だな、ポロボラが逃げ出すタイムリミットが刻々と近付いてる。ほら海賊、こっちの先だったな。」
「あ、ああ。そうだ。突き当たりの階段を下だ。」
「よし急ごうぜモグリ。」
「うん。」

 





 階段を降ると、下から物騒な物音が響いてきた。

「味方が海賊と戦ってんだな。俺達が来た道からすると、ここは何処だ?」
「この下は中央広場だ。ポロボラは広場の先の大扉の先の筈。そっからは知らん。」
「本当か?」
「本当だ本当、マジだ。俺だって怒らせたお前らの相手はしたくねぇよ。」
「そうか。」

 階段を降り切ると、ルタイスは海賊の後頭部を銛で殴った。

「があ⁈⁈」

 ルタイスは倒れ込んだ海賊を近くの柱にもたれかかせた。

「海賊に同情なんて微塵もしないが、裏切られるって事象には同情してやる。ここまで道案内してくれたしな。寝てろ、戦う意志の無い奴は拘束されるだけだ。刑務所行きだがな。」
「そうか、、、そりゃいい。気をつけろ、ポロボラのお抱えは、、、ヤバいぞ、、、。がくっ。」

 海賊が気絶すると、ルタイスは広場の揉みくちゃな戦闘に目を向ける。

「ルタイス、優しいのな。」
「別に。殺しても良いが、俺は暗殺者じゃなくて冒険者だからな。冒険者も誰も、最後は義理人情ってな。」
「あっそ。で、どうする?」
「あっそってお前。えっと、あの先だろ?確かに扉の近くにやたら海賊の奴らが密集してらぁな。無理矢理突破しちまおうぜ。モグリが扉壊してくれ。邪魔してくる海賊は俺や他の冒険者に任せろ。」
「わかった。真ん中突っ切るかい?」
「当たり前だ。最短距離で行くぜッ。」

 ルタイスが銛に水を纏わせると、モグリと目を合わせて同時に駆け出した。周りで海賊と戦っている冒険者達も、突っ走るルタイスとモグリが見えると意図を理解し、2人を守る様に陣形を組み始める。

 広場は円状に広がり、吹き抜け三階分の通路や広場から放射状に繋がる四方の通路から海賊が続々と集まってきていた。

 冒険者の1人が海賊と鍔迫り合いながらルタイスに声を掛ける。

「ルタイスッ、無事だったか‼︎」
「当然。まだ報酬受け取ってないからな。」
「ははは。親父さん達とガルバンダーさん達は、海賊に捕まってた人達を保護して一旦船に戻ってる。別隊がウィヌ隊長らと組んで根城を片っ端から虱潰しにしてる。俺らはただただ奥に奥に突っ走ってたらここに来たが、この先にポロボラが居るんだな⁈」
「恐らくな‼︎」
「ならこのまま行け‼︎モグリさんルタイス、暴れてこいッ。」
「助かるぜ。」
「助かります。」
「打ち上げの宴会、ルタイスの奢りだぜ皆んな‼︎‼︎」
「は?」

 冒険者達が一斉に歓喜の雄叫びを上げる。

「は?おま、お前ら、わかったよ。なら死ぬなよお前ら‼︎」
「お前らもなぁ。おら‼︎」

 大扉の前に近付いたモグリとルタイスを、大扉を守っている海賊らが迎え撃つ。

「ここは通さないぜ、テメェら‼︎」
「水魔法、不可避のトライデント二十連撃。」
「え。」


 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッ‼︎‼︎‼︎


「ぎゃあああああああ⁈」

 ルタイスの攻撃で海賊が一瞬で仕留められた。大きな水飛沫と共に飛ばされ、床に転がった所に冒険者がとどめを刺していく。ルタイスは満足気に髪を掻き上げながら、床に銛を当て、火花を散らしながら薙上げる。その火花が瞬時に水飛沫に変わり、すぐさま波に変わった。

「モグリ、波に乗れっ。」
「助かる。」

 モグリはルタイスの作り出した波に飛び込み、その波の中で急激に加速。更にルタイスが銛を大扉に向け「はっ‼︎」と突き出した事により波自体も加速。

「ふんっ、」

 頭を後ろに引き力を貯め、腰から首、全身を使った頭突きを繰り出した。

「だあ。」


 ドッ


 ガァアアアアアアアアアアアアアンッッ


 けたたましい破壊音と共に鉄の大扉を開けながら破壊し、大扉の先の部屋に飛ばした。モグリも波に乗りながら部屋にスライディングして入室した。

 2人は部屋を隅々まで見渡す。

 赤い絨毯が引かれた広い部屋だ。豪華な金の装飾が施された家具や壁掛け。高級そうな食器がびっしり入った食器棚。部屋にはまだまだドアがあり、同じような豪華な部屋が幾つかあるようだ。差し詰め、略奪品や金品をふんだんに使用したお頭の部屋、VIPルームだろう。


「ルタイス。」
「ああ。こいつは中々。」

 吹き飛んだ大扉が、部屋の先の何者かにそれぞれ弾かれ、手前側に倒れたのだ。砂煙の中、屈強な2つの影が揺らめく。

「こいつら、道案内の奴が言っていたお抱えってのか?」
「みたいだね。」
「この体躯。オークか。」

 砂煙から出てきた巨大で強靭な体躯の持ち主。大木のような足腰に両腕。古びているが極厚の鎧。鎧の無い部分や顔の黒い緑色の肌に、尖った牙。

「オークだな。しかもハイオーク。んで使役されてる点からして厄介だな。Bランク以上、下手したらAランクだ。」
「、、、やばくない?ルタイス的には倒せる?」
「無理だね。はっきり言って無様にお漏らし案件だ。」
「え。」
「だが、クラーケンより下だぜ?クラーケンはAからSランク相当だからな。」

 キメ顔で期待の目線を向けるルタイスに、モグリは頬をポリポリと掻く。

「あれはクラーケンが美味しそうだったからで、、、オークは食欲唆られないから。」
「オークは豚肉だぞ。」
「うーん。なら豚で良いかも。」
「ならイカで良いよな⁈」

 モグリは深呼吸すると拳を構え、目の前でのしのしとこちらに近付いてくるハイオークを見据えた。

「冗談さ。やってみる。」
「頼もしいぜ英雄さん。俺もやってやらあ。」

 ルタイスも銛に水を纏わせ、体勢低く構えた。纏わせる水の出力を上げ、螺旋状に練り上げる。

「行くぜモグリ‼︎」
「ああ、ルタイス。」

 2人はそれぞれ、自分の前に立ち塞がるハイオークに向かって走り出す。2匹のハイオークが斧と棍棒を振り上げ、モグリとルタイスに振り下げた。

「うわ、やべ。」

 モグリは体躯の割に速いハイオークの攻撃を避ける隙を見出せず、猛烈な風圧と共に自身に降りかかってくる巨大な斧を、


 ぱん。


「おっと。」

 真剣白刃取りして受け止めた。風圧と衝撃が辺りに散り、モグリの足元の絨毯が破け散り床がひび割れた。ハイオークも思わず「ハイ?」と鳴いたが、直ぐに気を取り直して両手で斧を握り、モグリを縦半分に叩き割ろうと力む。

「うおっ。流石はAランク相当モンスター。普通のオークですら戦った事無いからよく分からないが、凄まじい力だな。一瞬でも気が緩んだら危なかった。危ない危ない。」

 これはゲームや物語では無いのだから。

 にしては、、、。

 海賊との命のやり取りには余り危機を感じ無かった。ある程度の緊張はしたが、生き死にの瞬間とはこんなものなのだろうか。


 モグリは頭を横に振りかぶり、斧の刃を側面から強打した。軸がズレた斧はそのままモグリの体擦れ擦れを過ぎて床に突き刺さった。同時にモグリが頭で打った斧の部分にひびが入り砕けた。斧に体重を掛けていたハイオークは体勢を前に崩し、そのハイオークに合わせてモグリは飛び上がって顎にアッパーをカチ当てた。

「ゴブッ」

 ハイオークは口から砕けた歯と血を吹き出しながら倒れる。が、床に突っ伏す直前に両手を床につけ堪えた。

「流石はAランク相当モンスター。それなら、」
「ウゴオオ」
「これならどうだ。」

 ハイオークが両手でモグリを鷲掴みしようとしたが、それよりも早くモグリがハイオークに駆け出した。そして懐に潜り込むと、まあまあの本気で腰を入れた右ストレートをハイオークの顔面にお見舞いした。

「ウg、」

 スパァン


 ゴチャアッッッッッッ


「うわあ、汚ねぇ。」


 ハイオークの脳味噌と肉片と血と、頭部を構成していた色々な全てが床と壁に豪快に飛び散った。壁には右ストレートの衝撃が走り、爆心地のような凹み方をしている。右拳や右肩からは細い煙が立ち上がり始めた。威力が高すぎて、モグリ自身は何の汚れも付いていなかったが、靴がハイオークの肉片や首から床に流れ続ける血で汚れてしまった。が、元々全身びしょ濡れなので些細な事だ。




 モグリは目の前で散らかる豚肉を見つめる。

 (改めて凄いな、この肉体。ろくに体術とか習ってないのに。単純な身体能力だけでこれか。体の使い方には気を付けないとな。)

「さて、ルタイスがこうなって無いと良いんだが。おーいルタイス、大丈夫か。」

 モグリが背後に振り返ると、ルタイスとハイオークと目が合った。ルタイスとハイオークはお互い目を丸くして棒立ちである。

「ルタイス、大丈夫?」
「あ、ああ。ってか何も始まってない。」
「手伝う?」
「、、、いや、うん。ちょっと頑張ってみたいけど、急がないとだし。お願いしようかな。」
「あ、ルタイス。」
「ん?」
「危ない。」
「は。」

 隙を見せたルタイス目掛け、ハイオークは両手に持った大剣と斧を振り下ろした。ルタイスは顔を引き攣らせながら飛び退くと、着地と同時にハイオークの側面に回り込んだ。そして一呼吸の間に鎧の隙間を狙って正確な突きを数発放った。ハイオークの左脚の腱を断ち、よろめかせた。

「ほらルタイス、危なかったね。」
「お前の尺度で落ち着いた声で知らせんな、危ねぇなッ。ってのはさておき助かったぜありがとう‼︎」
「はいよ。」

 が、片膝を付いたハイオークは怯む事なくルタイスに攻撃を浴びせる。ルタイスは全て攻撃を避けながら、次の連撃を浴びせ続ける。

「くそっ。こんなんじゃ仕留められん。大技の貯めの隙を初手で潰された。どうにかして風穴開けれればダメージが入るかぁ⁈」

 ハイオークが腕を交差させ、炎を武器に纏わせる。ルタイスはその交差する強烈な斬撃を掻い潜り、ハイオークの首元に狙いを定める。

「ここだ。水魔法、不可避の」
「ゴガア‼︎‼︎」

 ハイオークが武器を瞬時に逆手持ちに切り替え、ルタイスに向けて素早く振り上げた。

「ルタイスッ。」

 モグリが駆け出したが、ルタイスは勢いを止めない。

「いいや。俺の攻撃は不可避だ、くらえ‼︎‼︎」

 螺旋状の水の勢いが強まり、ハイオークの首元にあと一歩の距離に近付いた。しかし、ハイオークの炎の大剣と斧がルタイスの腰に迫る。

「くっ、届けええ‼︎」
「まずいルタイスっ」

 モグリが踏み込もうとしたその時、




 ヒュウッ


「っ⁈」

 冷たい風が頬を掠めた。

「なん、」


 モグリが風上に振り向いた次の瞬間。



 ザザザザザザザンッッッ

 
 ハイオークが細切れに切り飛ばされ、血飛沫が舞っていた。ルタイスは銛ごと壁に突き刺さり、モグリはハイオークを切り刻んだ冷たい風の吹いた先に視線を向けた。ルタイスは銛を壁から抜き着地すると、気まずそうに咳払いしてからハイオークを仕留めた人影に声を掛けた。

「すまない助かった。あんた誰だ。」

 視線の先のその人影は、剣に付いた血を振り払うと白い息を吐いた。そしてゆっくりと顔をこちらに向けた。モグリとルタイスは「あら?」と目を凝らした。

「あなたは、、、。」

 その人影の主は、モグリの思春期シーンに出会し、先程船で2人で目にした後に話題にした件の女性であった。

 ルタイスはその女性をまじまじと眺める。

「フード外した顔は初めて見たな。助けてくれてありがとう。俺の名はルタイス。貴女のお名前は?」

 女性は前髪を指で撫で、横髪を耳に掛けた。そしてルタイスに冷たい視線を向けながら灰色淵の白いフードを頭に掛け直した。ルタイスは苦笑いし、モグリは口元を手で押さえて笑いを堪えた。

「おや、これは失敬。最初の一文がお気に召さなかったようで。」
「ルタイスって下品だよね。」
「うるさいな。助けてもらったんだ、、、ぞ。」

 ルタイスは眼下に転がるハイオークの亡骸を見て固まった。そして真面目な表情をし、銛を握りしめる。

「あんた、一体、誰なんだ。」
「ルタイス?あ。」

 そうだ。そういえばあの女性の正体についての話をルタイスから聞きそびれていた。

「このハイオークを切った斬撃。切り口が全部、俺が付けた傷口から切ってる。ハイオークの外皮は硬いからな。この方が切りやかったんだろうがどんなスキル使ったんだ?俺は今回の討伐クエストのみ、全冒険者の情報に目を通していてな。失礼かも知れないがあんたの名前とランクは知ってる。ただの冒険者、では無いなあんた。」
「なら、」

 その女性が初めて声を出した。所々少し掠れた、繊細で透き通った声だ。女性は相変わらず睨むでも蔑むでも無く、それでいて明確にルタイスを警戒している冷たい目線を向ける。味方の冒険者同士とは思えない、異様な緊張感がこの場に走る。

「なら、何故私の名を問いた。」
「初対面なら自己紹介くらいしませんか?」
「そんな契約、クエスト受注時や昨日の会議、船でも伝えられてない。私の聞き漏らしなら謝罪した上で名を伝える。」
「は、何?なんかごちゃごちゃ、」
「けれどあなたは私の名を知っている。よって、名を明かす必要が無い。」
「なんだこの人。昨日産まれたのか?人間社会2日目かな?」

 いくら相手が女性とは言え腹が立った。が、助けてもらった手前、ルタイスはあまり強く言えずにいた。

















『君はあれだな。マッコウクジラみたいな名前してるな。』
『は?なんて?』


 初めましてなんてさ、こんなんでも






 良いんだよ。














「お名前、聞いても良いですか。」
「え。」

 2人のやり取りを置物みたいに突っ立って眺めていたモグリが、急に声を出した。

「お前が、お、お前、お前から声掛け⁈」

 失礼に驚愕しているルタイスを他所に、モグリは女性に体を向けて尋ねた。女性は相変わらず表情はそのまま。しかし明らかにルタイスに向けていた表情よりは棘を抜いた、真顔に近い表情になった。

「ですから私の名は、」
「俺はまだ聞いてません。ルタイス以外の冒険者の名前、知りません。」
「なら別に私の名も知る必要は無いでしょう。」
「友達を助けてくれた恩人に、感謝を述べたくて。」
「っ、、、。」

 顔を斜めにして真っ直ぐな瞳を向けるモグリに、女性は一瞬たじろんだ。

「冒険者も最後は義理人情らしいですよ。」
「、、、。」

 女性はフードを外し、モグリを真っ直ぐ見据えた。

「リッカ。リッカ・キャスケード。」
「ありがとうございます。俺はモグリ。改めて助かりました。」
「私はあなた達の上司では無いから、敬語は要らない。」

 ルタイスがヘラヘラしながらリッカに歩み寄る。

「じゃあ俺は討伐依頼を出した依頼主だから、敬語使ってくれるんですか。リッカ様。」
「そうですね。お怪我はありませんか、ルタイス様。」
「うわあ。こいつやばいぜモグリ。」
「2人とも俺からしたら同じ土俵だよ。」
「悪かった。ありがとなリッカさん。」
「リッカで良い。」
「ありがとなリッカ。さてさて、、、。」

 3人は気まずい空気のまま、部屋の奥に視線を移す。

「急ぎたいんだが、なんだこれ。」
「今のハイオークの比にならない。」

 この部屋の扉の先に何かを感じ取ったらしいルタイスとリッカが、警戒を強めた。

「モグリは何も感じないのか。」
「う~ん。何にも。匂い?」
「違ぇよ魔力だ。というか諸々込みの圧、かな。」
「へえ、、、。本当?わかった振りしてカッコつけてない?」
「してねぇよ。命掛かってんだぞ。」
「悪い悪い。」
「だからよモグリ、場合によってはお前は先行け。ポロボラを逃す訳にはいかねぇ。」
「わかった。」

 リッカがモグリの腕や拳を見定めるように見つめると、前に向き直った。

「あの頭潰れたハイオークはモグリが1人で片付けたの?」
「うん。危なかったけどね。」
「そう。なら逆にモグリに任せた方が良いかも。」

 ルタイスも、

「かもな。」

 と頷いた。

「どんな奴か実際会わないと判断出来ないけれど。」
「律儀に俺らが扉開けんのを待ってくれてるらしいが、モグリ。」
「おう。」

 モグリが扉を蹴破ると、リッカとルタイスが構えた。

「な、おいまじか。」
「想定以上の奴だ。」

 扉の先の相手の姿を識別した2人が、明らかに動揺し、数段深く構えた。よくわかっていないモグリも2人を真似て構える。

「想定以上ってどんな?」
「モグリ、お前あいつに名前聞いてみろ。嘘だ、冗談。絶対油断すんな。」
「落ち着けよルタイス。」
「悪い。悪いモグリ、こいつは、、、。」

 リッカが口から白い息を吹き、剣の刀身に霜を走らせる。冷静な表情のまま、柄を握る力を強める。

「奴はハイオークの更に上。」


 鎧を纏っていない赤い体に、引き締まった肉体。何より先程のハイオークと違うのは武器を持たない点と、体の大きさが人間の大人と変わらない点。ハイオークは4か5m程あった。

 が、小さいから弱いと言う訳では無いようだ。

 リッカとルタイスの言動から、それは分かる。何より、モグリにもやっと理解できた。


 奴が纏う気配。異様だ。


「奴は、グランド・ハイオーク。ハイオークの上位種。奴の等級は低くてSランク。」
「それは、、、厄介だね。」
「良いかモグリ、こいつは低くてSランクだ。なんでこんな所に居るんだよこんな化け物の中の化け物が。」
「え、低くてSって言った?」

リッカが、「ええ。」と頷いた。

「記録に残ってるだけで一番高く付けられた等級は、」





「SS。さっきのハイオークなんか、生まれる前の赤子。勿論、人間の。」



 続く。
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