異世界真っ向!〜クジラ亜人、荒波転生録〜

牡丹鍋

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第1章

第3話:転生したらクジラの亜人なんだが。②

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「マッコウクジラの亜人⁈」

 艾理がそう悲痛な顔で叫ぶと、艾理を囲んでいる男達は互いに目線を合わせて困惑している。艾理は自身の体を確認しようと目線を下げるが、全身縄の上から鎖を隙間無く巻かれており一部分も見えなかった。

「見えない、、、」
「見えないも何も自分の事だろう。待て。まさかお前、砂浜に打ち上がっていたよな。」
「え、はい。」
「記憶が無いのか?」
「え。」

 男達の神妙な顔と聞き方に、艾理も固唾を飲んだ。そうか、俺、記憶無いように見えるのか。確かに砂浜に傷だらけで打ち上げられていて、自分の姿を知らないならそう見えるか。

「で、お前。名前は。」
「名前、、、。」

 名前は覚えているが、ここで名前が言えれば記憶が無いという状態の認識が薄れるだろう。記憶が無い設定の方が異世界から転生してきた艾理には色々都合が良いだろう。もし記憶がある設定なら、この先今いる世界についての細々を知らないフリが出来なくなる。身元も忘れた設定にする事にした。が、それはそうとして艾理にはそんなことより大事で気になる事柄がある。俯いたまま黙りこくっている艾理に、真ん中の男性が声を掛けた。

「名前もやはり思い出せないのか。」
「はい。すいません。俺が誰で何処から来たのか、全てさっぱり。」
「そうか。まあ、一旦そういう事にして置こう。我々を騙している可能性もあるからな。」
「そう解釈して貰ってかまいません。(ギクゥ)」
「だが身元が分からないとなると、、、」
「あ、あのう、、、」

 艾理がそう控えめに尋ねると、男性は

「なんだ。」

 と腕を組み直した。

「すいません。鏡とかありませんか?自分の姿を確認したいのですが、、、。」
「ん?ああ、なんかお前、自分の見た目に納得して無いみたいだしな。それに自分の姿を確認したら記憶が少しでも戻るかも知れない。おい、誰か大きめの鏡持ってきてくれ。」



 男性の仲間が全身鏡を部屋に運び入れ、艾理の前に置いた。

「お前の身元が分からない以上、拘束を解く訳にはいかないが顔だけでも見えれば確認出来るだろう。ほら、見たまえ。」
「ありがとうございます。どれどれ俺はどんな顔、、、、、、。」

 艾理は全身鏡に写った自分の顔を、目をガン開いて刮目した。


 黒に近い紺色の肌に、つぶらな瞳。そして何より、大きく四角く前に伸びた頭。左側のみに付いた鼻。これらの特徴は間違いなく、マッコウクジラの特徴であった。


 そう。マッコウクジラなら良かった。


 問題は、自分の体が部屋に収まって人と話せて椅子に座れている点だ。マッコウクジラの体は雄の大人の個体なら平均15m程ある筈。まだこの部屋にいる人間達が15m級の大型巨人である可能性は捨て切れないが、望み薄だろう。

「1つ、質問良いですか?」
「良いぞ。」
「あなたの身長はおいくつですか。」
「俺か?178だ。」
「なるほど。」

 はい、望み無し。

「そうですか、、、。」

 艾理は目を閉じて深呼吸した。そして思い切り目と口を大きく開いた。

「あああああのヘッポコ神イイイイイイイイイイイイイイイッッ」

 血相を変えて大声で吠え散らかした艾理に、艾理を囲っていた男性達がひっくり返りすっ転んだ。全身鏡にひびが入り、後ろに倒れると音を立てて鏡の全面が割れ床に飛び散った。

「だあああああ⁈(俺はマッコウクジラになりたいって頼んだんだ。なのになんだこれ、本当にマッコウクジラの『亜人』じゃねぇかッ。あの神自体もやばい奴やんけ、なんかあいつ他の神が失敗しただけでぇ~💦みたいな態度だったよな、なんだこれふざけんな。)ふざけんなあああ‼︎‼︎」 

 鏡を見てからずっと吠え散らかしている艾理に、男達は立ち上がると再度武器を向けて近付いた。

「おいなんだお前ッ。突然叫び出してイかれてんのか⁈」
「海洋哺乳類亜人の叫び声、我々を転ばし鏡を割る力。まさか今のは超音波攻撃⁈」
「落ち着けお前ら‼︎」

 真ん中にいた男性が、今にも艾理を刺そうとする男性達を宥める。

「おい亜人さんよ、静かにしてくれ。一体どうしたんだ。」
「ああああ、、、あ。」

 艾理は落ち着きを取り戻し、周囲を見渡した。冷静な真ん中の男性以外、艾理を睨みながら武器を構えにじり寄ってくる。もしここで転生だ女神だマッコウクジラだの件を話しても、事態を混乱させるだけだろう。艾理は次の自身の発言を思考する。男性が艾理の顔を覗き込むように窺う。 

「して、何か思い出したか?」
「あ、、、。な、名前。名前を思い出しました。それで叫んでしまいました。」
「お。それは良かった。割れた鏡も浮かばれる。」
「俺の名前は、艾理。艾理です。」
「モ、モグリ?」

 男性達は顔を見合わせ、一斉に笑い出した。

「だははは‼︎」
「はは、変わった名前だな。」
「ピッタリの名前じゃないか。」

 艾理は男性達に笑われ顔を赤くして項垂れた。転生前なら変わった名前だねで済んだが、今の姿なら見た目と相まって笑われても仕方ないだろう。これも全て、あの転生を司るだか、天ぷらを売り捌くだかの神のせいだ。笑うな、と暴れたいところだが拘束され武器を向けられているこの現状では冗談にならない。今はとにかく我慢だ。

「いや笑って失礼。しかしモグリか。良い名前だな。」
「笑って失礼したのに無理あるだろ。」
「次は私の名前を言う番だな。私はランダス。この村の漁師だ。」
「漁師。」
「言葉は通じるようだが、文字は読み書き出来るのか?」
「読み書きは、わかりません、、、。」
「そうか。誰か絵本とか簡単な内容の本持ってきてくれ。」

 ランダスに言われ男性の1人がドアを開けようとした時、向こう側からドアが開けられ誰か人が入ってきた。

「ランダス、大変だ。」
「そんなに慌ててどうした。」
「今さっき、漁から帰ってきた奴らが沖合で海賊に鉢合わせたらしいんだ。潮の流れが変わったのと、船影が見えたのが遠かったお陰で襲われなかったみたいだが。船笛での威嚇と海賊の乗組員による恫喝はあったと。」
「沖合、、、?それは海賊と取り決めた我々の海域内だよな。」
「ああ。あの島より先には行っていない。潮や風に流されてすぐ様引き返しただけならまだしも、恫喝と来た。これは制約違反だ。」
「元々海賊の奴らに制約もクソも無いって事だ。皆、怪我は無いんだろうな。何処にいる。」
「村役所に集まって会議するところだ。皆も来てくれ。」
「わかった。」

 ランダスはモグリに向き直ると組んでいた腕を崩した。

「モグリ、我々は一旦外す。部屋の外に見張りを付けて置くから喉が渇いたら呼ぶと良い。」
「え、俺は拘束されたまま?」
「悪いが、お前がまだ海賊の手先の可能性は捨て切れない。記憶が無い演技をしながら村に潜伏し、海賊に情報を流す魂胆かも知れんしな。実際どうなんだ?覚えていない、か。」
「あ、あは、いや、そんな事してない。です。」

 半分合っている点、モグリは気まずそうに顔を背けた。

「拘束を解いても良いがその時は敵意があると見なす。それでは。」
「そんな、え、待っ」

 ランダスは仲間達を引き連れて部屋を後にした。長時間拘束して座らされ、身体中バキバキのモグリは拘束を解いてもらいたかったがランダス達が一瞬にして居なくなった為、口をもごもごして終わった。ランダスの話から、見張りにお願いしても無駄だろう。それにモグリ自身が得体が知れず海賊の仲間と村に怪しまれているなら、無理に解いてくれとせがむのも悪手だと判断した。

「え、、、。まじか。」

 モグリはひとまず大人しく我慢することにした。





 シオサイ村 役場会議室にて

 ランダスが仲間と役場に着くと、件の漁船に乗っていた漁師らと村の人達、役場の人と村長が会議室の席に着いていた。ランダスは海賊と鉢合わせた漁師仲間に駆け寄り、肩に手を置いた。

「怪我は無いか大丈夫か?」
「平気だランダス。君の方こそ、クジラ亜人だっけか。どんな奴なんだ。」
「中々訳有りな感じだ。、、、関係あるかもな。」

 村長は会議室に集まった面々を見渡すと、姿勢を正して手を組んだ。村民らは村長に合わせて静粛になり、村長に視線を集める。

「皆、休みたい夕暮れ時に急集まってもらってすまない。もう耳にしていると思うが、今日、我々が海賊と制約した海域に海賊が侵入し威嚇してきた件。そしてクジラの亜人と見られる亜人が砂浜に打ち上がった件、穏やかではない件が同日に起きた。まずは海賊の件だ。」

 村長が目配せすると、漁船の乗組員の1人が立ち上がりボードまで歩き、村周辺の海図を指差して説明を始めた。

「結論から述べると、我々は海賊と決めた海域から出ていない。によって今回の海賊の対応は制約違反だ。我々は断じてミラエッテ島から沖合に出ていない。実害は出ていないが、警笛や海賊からの恫喝は明らかな被害と受け止めている。」
「恫喝ってのは具体的に何を言われたんだ。」
「よくある海賊の下劣な鳴き声さ。魚渡せだの出ていけだのここは俺らの海だの襲っちまうぞだの。」
「出ていけ、、、だと?」

 ランダスは机を握り拳で叩き歯軋りした。

「あいつらと決めた、いや。あいつらが無理矢理決めた海域だろう。年々狭まり、献上として要求してくる魚量や金額もじわじわと増やされて、我々をどこまで侮辱する気だ海賊共めッ。」

 ランダスの荒れた口調と態度を誰も咎める事無く、皆拳を握りしめ唇を噛んでいた。


 海に浮かぶシオサイ島のシオサイ村。然程大きな島では無いが、近くに海流同士がぶつかる海があり豊富な海産資源による漁や養殖漁業、それによる近くの島々や大陸との貿易で栄えていた。

 近くの島に海賊が拠点を置くまでは。

 数年前、シオサイ島の近くの島にとある海賊が拠点を構えた。シオサイ村への貿易船を妨害したり、乱獲による漁業や自然への悪影響。しまいにはシオサイ村に物品や金目の物を集りに来る始末。

 シオサイ村は治安維持を目的に、属するアバルバント領に帝国海軍による海賊の退治を依頼したが、アバルバントから海賊への厳格注意のみで留まってしまった。アバルバント側の言い分としては、帝国領アバルバントに属するシオサイ村の海域は、アバルバントのものでありシオサイ村の一存で判断する事柄では無い為現在慎重に議論している為、そして海賊を刺激して村や他のアバルバント領へ危害が出る可能性がある為。

 一体、何の為の海軍だろうか。

 帝国側にまで情報が行っていないところを見るに、アバルバントで意図的に堰き止められたのだろう。そして数日の内に示し合わせたように海賊がシオサイ村に現れとある制約を持ちかけてきた。今後、他の海賊からシオサイ村を守る代わりに定期的に海産物と金目の物を献上する事。そして、シオサイ島と海賊が構える島の間にある小島を互いの不可侵海域の境界とする事。これはシオサイ村が先祖代々守り使ってきた海域の過半数を奪われたと当然である。

 制約を持ちかけてきた、と述べたがその実、脅迫されたが正しい。もし制約を破れば村を襲い、村の人々の命は保証しないと。この一切をアバルバントや帝国に密告しても同じだと。それからシオサイ村は海賊に従い怯えながら生活してきた。今回、それを海賊側から破ってきたという訳だ。


「海賊が何を考えているか知らないが、これは明らかな挑発行為だ。これ以上愚弄されるのは我慢ならん‼︎」

 村人の1人がそう言いながら席から立ち上がると、数人の村人達も立ち上がった。
「そうだ。このまま我々の伝統と海を奪われてたまるか。」
「俺らの海を取り戻すぞ‼︎」
 会議室の多数が立ち上がり騒がしくなったのを静観していた村長が、
「静まれッッ」

 と一喝すると場が静まり返った。

「勘違いするな。海は我々のものではない。海は海、自然じゃ。我々はその恵みを分けて頂いているに過ぎん事を夢々忘れるな。」
「ッ、、、村長。申し訳ありません。し、しかし」
「わかっている。それでも奪われた海を取り戻したい気持ちは儂も同じじゃ。しかし、挑発に乗って海賊をこちらから刺激すればあちらは大義名分やらなんやら言って島を奪いに来るだろう。そして今回のこれは、、、」
「それを狙っている。だな、親父。」
「ああ。その通りだランダス。」
「海賊はアバルバントの何かしらと繋がりがあると見て間違いないだろう。こちらから海賊にけしかけたとて、助けは来ないと判断した方が良い。あちらから来た場合もな。」

 ランダスの発言に、座り直した村人が再度立ち上がりランダスを睨む。

「ならどうしろと言うのだランダス‼︎達観した口ぶりで偉そうに、このまま黙って島を奪われるしかないと言いたいのか‼︎」
「そうは言っていない。早急に直接アバルバント軍に応援を頼まなければ。次の貿易船着船の日はいつだ。」
「3日後。」
「ならその時に俺と仲間で知り合いのアバルバント行きの船に乗り込む。直談判なら海賊の介入前に公の目に付くだろう。無視は出来ない筈だ。」
「その隙に海賊が襲来したらどうする。」 
「耐えてくれ。それしか無い。俺らが必ず、海軍を連れてくる。」
「無責任なッ。」

 ランダスの提案に納得出来ない村人達がランダスを囲み、ランダスの仲間と一触即発の雰囲気になる。

「無責任だと⁈ランダスは危険を顧みずアバルバントに」
「逃げるつもりだな、逃げるつもりだ‼︎そうやって村を捨てて」
「何⁈」

 ランダスが立ち上がり、今の発言をした村人の胸ぐらを掴んだ。

「もう一度言ってみろ。誰が何を見捨てるだと?俺がこの島と村と仲間と、家族を捨てると言ったかお前。」
「ッ、、、今の状況じゃあそう取られてもおかしく無いぞ。少なくともそう思ったのは俺だけじゃ無い筈だ。」

 周りの村人達数人がランダスから目を逸らした。ランダスは胸ぐらから手を離して席に座り直した。

「夜明けまでにこの話を纏めて置く。俺も勝手に話を決めるつもりは無い。海を取り戻したい気持ちは同じだ。」
「、、、俺らもだ。どちらにせよ、村を守る手立てを考えんとな。」
「そうだな。」



「して、ランダス。次はクジラの亜人の件だ。わかっている点を教えてくれ。」
「ああ。彼は男性のマッコウクジラの亜人で、名前はモグリ。それ以外の情報は無いな。自分が何処の誰で何故砂浜に打ち上がっていたのか、全てわからないらしい。まあどこまで本当かわからないがな。」
「海賊のスパイかも知れないという事か。」
「そうだ。記憶が無いフリして、村の情報を海賊に流すのが目的かもな。海棲亜人で海賊の奴は多い。もしかしたら、、、。」
「なるほどな。海棲哺乳類の亜人は珍しい。幹部クラスの可能性もあるな。八潮圏。」

 村人の1人が身を乗り出し、

「なら奴を尋問しよう。色々と聞き出さなければ。」

 と提案した。が、ランダスは腕を組んで唸った。

「そうしたいが、一つ気になる点がある。マッコウクジラの亜人が砂浜に打ち上げられるのはおかしくないか?」
「え?クジラが砂浜に打ち上がるなんて、まあ毎日ある訳じゃ無いがそんな珍しい事じゃ無いだろ。」
「あの拠点からか?俺らが船で1時間程度で着くあの島から、クジラの亜人が傷だらけで溺れるか?」
「確かにな。だが、それも芝居の内では?」

 が、その村人は何かに気付きハッと顔を上げた。

「待て。マッコウクジラ、の亜人と言ったか。」
「そうだ。」
「なら、、、。」

 村長が咳払いし、村人達が再度視線を集める。

「ランダス。彼は本当にマッコウクジラの亜人か。」
「十中八九な。親父が自分で見た方が早いぜ。俺より詳しいだろ。」
「そうしよう。会話が出来るのなら、儂も直接話したい。この後同行してくれ。」
「承知した。警備を増やしておく。」




 と、会議室の外が騒がしい。村人がドアを開けて廊下を確認するとすぐに誰かを連れて部屋に入ってきた。

「どうした。」
「ランダス、お前だ。」
「俺?」

 ランダスがドアの方を向くと青ざめたミエラが息を乱して駆け込んできた。

「あなた、コユが何処にもいないの‼︎目を離した隙に家を飛び出したみたいで。今ご近所さん達が手分けして探してくれているのだけれど、あなたの所にいない?」
「何?こんな時間にか。いないぞ一度も見ていない。」
「そんな、、、。あの子どうしたのかしらッ。」
「天真爛漫が過ぎるな。あそこじゃないか。亜人を見つけた場所。あの子なら興味本位で行きかねない。暗い海辺は危ない、急いで見に行ってくれ。」
「わかったわ。ごめんなさい大事な会議中に。」
「ランダス。」

 村長がランダスに声を掛ける。

「こっちは一旦いい。お前も探しに行け。ミエラも危なかろう。」
「わかった。そうする。すまんな皆んな。」
「構わない。それより俺らも何人か探しに行くよ。頭悪くて話し合いについて行けない奴等でな。行くぞ‼︎」
「それ全員か?」
「ほぼな。しかしコユ、天真爛漫な子だが聞き分けは良い筈。なぜこんな事を、、、。」


 その時。


『カンカンカンカンカンカンッッッ』



「ッ‼︎‼︎警鐘だと、まさかっ。」
「海賊か⁈⁈」

 村長が立ち上がり、

「警戒体制を敷け、この音は北の灯台からだ。連絡を取り海岸線に武器を持たせた男達を集めて灯りを集めろ‼︎年寄り子供をこの役場に集めよ。急げ‼︎」

 と命令すると村民達は

「はっ‼︎」
 と声を揃えて返し、すぐ様行動を開始した。ランダスは壁に立て掛けた銛を仲間から受け取るとミエラを呼んだ。

「ミエラ。コユは俺が連れ戻す。お前はここで親父と一緒に避難してくる人々を頼む。」
「そんな、私も行くわッ。亜人を見つけたのは北の砂浜よ。コユがそこにいるなら危ないわ。」
「だからだ。頼む。俺ならコユを抱きながら走ってもお前より早くここに戻れる。何より、お前まで危険な目に遭わせる訳にはいかない。頼む。」

 ミエラは最初こそ渋っていたが、力強く自分を見つめるランダスの瞳に頷いた。

「わかったわ。気をつけて。」
「ああ。コユは必ず助ける。」

 ランダスは仲間と共に会議室を後にして、役場を飛び出した。村全体に警鐘が鳴らされ、人々が慌てふためいている。

「ランダスッ、クジラの亜人がこの機に乗じて暴れるかもしれん。やむを得ない、来たのがあの島の海賊と判断出来次第、刺し殺す。良いな⁈」
「やむを得ないな。頼んだ。」
「ランダス‼︎お前らにも馬を貸す、自警団の後に続いて北に急げッ」
「助かる。急ぐぞお前ら‼︎」
「おうっ。」



 
 ランダスが北の砂浜へ向かって馬を走らせていると、北の灯台から赤い光が灯った。あの島の海賊が来た時の合図だ。ランダスは手綱を握り締め、前方に集中する。

「すまないが性善説もクソもない。死んでくれモグリ。無実なら恨んでくれ。」





 一方その頃、地下室のモグリ。

「腹減ったあ。」

 水分は取らせて貰えたが、食事は駄目らしい。モグリ側も村人を刺激しないように最低限のコミュニケーションに留めた為、交渉も出来ていない。何より、長時間の拘束により身体中が痛い。痣も出来ているだろうし、背伸びしたいし寝っ転がりたいし色々助けて欲しい。眠ってしまえば楽だろうが、痛さと姿勢のせいで眠気が一切訪れない。

「俺、ここで終わんのかなあ、、、。」

 と、その時。モグリの部屋にも警鐘がくぐもりながらも、けたたましく響き渡ってきた。地上の喧騒も次第に聞こえ、モグリは事態を把握出来ずにキョロキョロと地下室で狼狽えた。


「もう朝なのかな。」

 モグリがそうぼやいたのと同時に、地下室のドアの向こう側に数人の村人が降りてきたよいだ。見張りの村人と何やら話し合っている。

「この警鐘にお前らの装備、どうした。ランダスさんは一緒じゃないのか。」
「そうだ。簡潔に話す。海賊が北の港の方角に現れた。ランダスの娘のコユがどうやら行方不明で、恐らく北の砂浜にいる可能性が高い。ランダスは警備とコユ捜索を兼ねて北の砂浜にすっ飛んで行った。で、モグリとか言うクジラの亜人を海賊を手引きした罪で今から殺す。」
「うわ、そうか。わかった今ドアを開ける。念の為構えろ。」
「頼む。構えろッ。」

 会話をドア越しに聞いていたモグリは顎を外す勢いで口をあんぐりと開け、目をまん丸にし、こう声を漏らした。

「は⁇⁇⁇⁇⁇⁇⁇⁇」




 続く
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