お嬢様として異世界で暮らすことに!?

松原 透

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奴隷商人編

18 お嬢様は逃げ出したい

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 私が奴隷商人になってから三ヶ月が過ぎた頃。
 女であるということにすっかり慣れてしまい、言葉遣いで指摘されるようなことも無くなった。
 それでも……未だに服装面などはかなりの抵抗感は残っている。

 冒険者稼業をしている奴隷達は、冒険部隊と呼ぶようにした。
 そのおかげで屋敷の資金は思いの外、というよりも予想以上の成果を上げている。
 庭に放置をしていたクロは、バナンの意向により今は冒険部隊に入っている。

 彼女はバナンの言うようにかなり強いのか、なかなかの評価を下していた。
 トパーズの冒険者ギルドランクはFからCへと、かなりの速さでランクアップしているらしい。
 日に何個も依頼をこなしているのだから、当たり前といえば当たり前なんだと思う。
 そのギルドカードを持つ本人は、何もしていないのだけど……問題にはならないよね?

「そろそろ、食堂は次の段階に向かっていきたい所だけど……」

「食堂ですか?」

「今後の発展についてだよ。バナンのおかげである程度の皆が飢えない程度には稼げているんだけど、これ以上奴隷達が増えるのなら、今のままでは到底養ってはいけないよね」

 奴隷たちは、今後の活動においてその数は必要になってくると思う。
 私が思い描くような生活をするに当たり、今の数だけでは少ない。この世界では奴隷はかなりの人数が居て、私のような奴隷商人だけでなく奴隷市場というものすら存在している。

「あの奴隷を養うというのはどういったことなのですか。私にはお嬢様の仰っていることが……」

 奴隷達を売り買いして、稼ぐのが奴隷商人だろうけど。
 私にはそんな考えはもう無い。奴隷達に仕事をできるように育て、各方面に置いて派遣する。

「私が居た世界では、奴隷なんて居なくてね。爺さんには奴隷商人をやれと言われたけど、私は別に売るなんてことはあまり考えていないの。だから、皆にはできる仕事をしてもらって報酬を集め皆でよりよい暮らしを目指している、だよ?」

「なるほど、その前に一つ訂正して頂きたいのですが。旦那様はお嬢様はお父上にあたるのですが、そのお爺様というのは……」

「え?」

「養子ですので孫ではなく娘に当たります」

「いやいや、それは知ってるのだけどね。ただ、アレがお父上ねー。私からすればただの腐れ……はっ!?」

「お言葉が過ぎるようですが?」

「ごめんなさいごめんなさい。もう言いませんだから許して、ルビー」

 前回のこともあり、ルビーを怒らせると怖いのがよく分かっている。
 あの日以降から、寝る時間が決められ私が眠るまでずっとルビーが隣りにいてくている。
 仕事が区切りの悪い時は少しだけ時間をくれるのだけど、それでも最大で十二時となりました。
 ついでに、トパーズの週一添い寝の方も無くしてくれれば有り難いところなんだけどね。

「そうですね、でしたら私のお願いを聞いて頂けたのなら、ある程度は水に流しましょう」

 トパーズならともかく、ルビーからのお願いというのは初めてよね。
 大したことでも無さそうだし、余計なことを言われるよりもずっと良いかもしれない。

「本当に? 私にできることは何でもするよ」

「有難うございます」

 私は馬鹿だった。
 この一言で私に降りかかる大きな災厄に、何も気がついていなかった。

 ルビーに連れられ、馬車に案内される。
 馬車を使うということは、街に行くというのはもはや定番になっている。とはいえ、いまルビーにどこに連れて行っているのかを聞いても答えるとは思えない。
 それでも、私は少しだけ楽しみにしていた。

 着いた場所は、何かのお店で外からだと中の様子はよくわからなかった。
 扉が開いた先に見えるのは、数々の服、服。
 私は一歩後ずさりをすると、ルビーの手が背中に当たる。
 そして、私が逃げないようにするためかそのまま服を強引に掴んでいた。

「さあ、お嬢様。どうぞ中へ」

「ここは服屋? ルビー、服なら家に一杯あるよ? なんでまた」

 普段着ている服は、部屋に置いてあるクローゼットの中にあるものを使っている。
 かなり厳選して、マシなものを用意しているが、それだけでもかなりの数がある。
 だけどそれとは別に、他の部屋にクローゼットが何個もあり、一ヶ月では一周できないほどの大量の服が掛けられている。

 それなのになぜ、服が必要なのか。

「今後必要になるかもしれませんので、その準備でございます。それとも、私との約束を反故になされるおつもりですか?」

「まあ、私もまだまだ成長期ですしこれから合わなくなってくるよね。でもね、それはまだ早いと思うのよ」

 そういうも、今度は脇を抱えられ抵抗することもなく中に強制連行されてしまう。
 ドアの閉まる音が、絶望感に代わるとは思いもよらなかった。

「グセナーレ様。お待ちしておりました」

 出迎えてくれたのは、綺羅びやかなドレスを身に纏う女性と、三人の店員らしき人は頭を下げたまま。
 見るからに少々お高そうなお店だと直感するものの、ルビーが私を離してくれることはまずありえない。

「頼んでいた物はできておられますか?」

「ええ仕上がっておりますよ。初めてお会い致しましたが、このような可愛らしいお嬢様にはぴったりですわ」

 私を他所に進められる話の内容が、明らかにおかしかった。
 頼んでいたものと、仕上がっている。その会話が何を物語っているのかは、私には容易に想像できてしまう。
 何よりも、未だに私を逃さまいと掴んで離さないルビー。
 これまでも私が嫌いものの大半は、自分が着る服。

「ルビー、私にはきっと似合わないから。作って貰って申し訳ないのだけど」

「いえいえ、お嬢様には必要なものですし、きっとお似合いですよ」

「細部の調整もありますので、一度ご試着をお願いします。お着替えは奥の部屋に用意させてますので」

「かしこまりました。さ、お嬢様こちらへ」

 促すものの、何故離してはくれないのよ……別室の扉が開かれ、赤と黒の生地をベースに作られた一着のドレス。
 あれではないと信じたいのだが、横に並ぶ女性と比べて当たらかにサイズが違う。
 肩や胸には大小のバラなどをあしらった花の数々。
 そして、その横にはキラキラと輝く装飾品が机に置かれていた。

「こ、これは……ルビー」

「なんでしょうか?」

「た、例えばよ、例えば何だけど他に……」

「他とは、何のことでしょう」

 ドレスの前にゆっくりと降ろされるが、その手は今度は肩を掴んで離さない。
 私の体に合わせたかのようなドレスを前に、立ち尽くされる。
 店主もニッコリと笑顔を絶やさない。
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