28 / 222
奴隷商人編
28 お嬢様のドレス姿
しおりを挟む
ついにこの時が来てしまった。
「はぁ……」
出さないように心がけているつもりだけど、ため息は漏れてしまう。
あの日から忘れようと心の奥に潜めていた悪夢がやってきた。
「お嬢様お綺麗ですよ」
「はい、イクミ様ほどお美しい淑女は居ないかもしれません」
ルビーだけでなく手伝ってくれた使用人たちは私のことを褒めてくれるが、その言葉が何故か私には響かない。
というか、淑女って何よ?
私としてはこんなに可愛くはなりたくもなかった。
鏡の前に立つ美少女……それが今の自分の姿でなければどんなに良かった。
すぐにでも脱ぎ捨てたい。そう思っても、そんな事を実行できるはずもない。
「褒め過ぎだよ。それに十歳の子供に淑女の魅力なんてあるわけ無いでしょ?」
まぁ、一部にはそれを良しとするものも居るけどね。
これから行く所には、そんな奴が居るかもしれないからこそ、こんな姿にはなりたくなかった。
私の中に残っている、男の自覚が今の異様な姿に抵抗をしている。
鏡に手を置き、その動作がやっぱり自分の動作であることにため息しか出てこない。
可愛いのは認める、それに異論はない。
スカートもだいぶ抵抗はなくなっている。普段の服装も対して気にもしなくなりつつあった。しかしながら、今までよりも女の子女の子している今の姿を認めたくないのだ。
それにしても、女の化粧っていうものは化けるわね。
普段の私とはまるで別人にしか見えない。いや、これはもはや別人だよ。
「そういえば、領主の名前ってなんだっけ」
「ラズバード・レフォストール様です。くれぐれもお間違えの無いように」
ん? 今なんて?
「ラズード・レフォール?」
「ラズバード・レフォストール様でございます。お嬢様の場合おそらく問題はないと思いますが」
覚えにくい名前をしている。
問題があった場合は、名前を間違えただけでも不敬罪とかにされたりする?
私は、紙に名前を書き残して馬車へ乗り込んだ。
最近では、座席を改良したこの馬車にも慣れたものだと感心する。
現実逃避をしていたが、ここ最近やたらと厳しいダンスの授業はこのためだったよね。
お陰でふくよかにならずにすんでいる。少食というのもあるのだろうけど。
ドレス姿にクロとルビーは、未だに私のことで盛り上がっている。
私としてはこのまま帰りたいのだけどね。
馬車の周りには冒険部隊の半数が固めており、要人警護にしては度が過ぎているようにしか見えない。
領主の屋敷は、いつも行っている街を超えていくのだけど、思っていたほどは遠くはなかった。
とはいえ、この格好で馬車に揺られ続けるのは正直辛い。
普段のように座席に、だらりと寝そべることは禁止されている。
それもこのドレスのせいである、領主の屋敷で着替えるなんてこともできないのだろうしね。
「うちと比べてやっぱり大きいね」
「お嬢様、足元にも注意をしてください。上ばかり見ていると転びます」
「はいはい。わかってるよ」
会場の中には思っていたよりも人が少なかった。
領主の誕生パーティーだったと思うのだけど?
早く来すぎたということ?
「やぁ、ルビー。久しいね」
「ラズバード様。お久しぶりにございます」
ラズバードこの人が?
領主ってもっと年を取っているのかと思ったけど、意外と若い人も居るんだな。
三十後半、華美な服装でもないし今の所は警戒することもなさそう。
あれ、フルネームなんだっけ……?
「ラズバード様、はじめまして。イクミ・グナセーレでございます」
ドレスを広げルビーに言われたとおりに挨拶ができた。
ただ、少し離れた所から私を見る視線が少しだけ気にはなる。
この辺りに住む貴族たちだろうか、見た目の判断で数人はあまり話したくもない。
向こうも私を警戒しているのか、それとも領主が目の前にいるからか話をかけてくる様子はない。
「うん、はじめまして。君の活躍は聞き及んでいるよ。魔物討伐も進み領内は安泰だ」
「有難うございます」
「そちらの女性は?」
「私の護衛で、クロと言います」
「そうか、よろしく頼むよ」
そう言うとクロと握手を交わしている。
獣人に対して差別もなさそうで私としては安心かも。
「ほぅ。獣人が護衛か……」
「どうかお収めください。そのようなお戯れはお嬢様にとって、害になると思われますので」
それにしても、貴族のパーティーだと言うのに来場している人の数はかなり少ない。
「おや、これは失礼。イクミの護衛は優秀な方のようだね」
「へ? 有難うございます、ラズバード様。申し訳ございません、じじ、じゃなかった、久しぶりに父を見かけましたのでご挨拶をと」
「ああ、そうだね。行こうか」
領主の挨拶よりも、久しぶりに見かけた爺さんのほうが気になってしまい、歩き始めたのだけど……なんで領主様も来るの?
私に気がついた爺さんは、小さく手を振っていた。
「おと……」
「父上。お久しぶりです」
「おお、ラズバード。それにイクミも一緒か」
あれ……握手を交わしているのが、私ではなくラズバード様。
父上って何?
お父さん?
「はぁ……」
出さないように心がけているつもりだけど、ため息は漏れてしまう。
あの日から忘れようと心の奥に潜めていた悪夢がやってきた。
「お嬢様お綺麗ですよ」
「はい、イクミ様ほどお美しい淑女は居ないかもしれません」
ルビーだけでなく手伝ってくれた使用人たちは私のことを褒めてくれるが、その言葉が何故か私には響かない。
というか、淑女って何よ?
私としてはこんなに可愛くはなりたくもなかった。
鏡の前に立つ美少女……それが今の自分の姿でなければどんなに良かった。
すぐにでも脱ぎ捨てたい。そう思っても、そんな事を実行できるはずもない。
「褒め過ぎだよ。それに十歳の子供に淑女の魅力なんてあるわけ無いでしょ?」
まぁ、一部にはそれを良しとするものも居るけどね。
これから行く所には、そんな奴が居るかもしれないからこそ、こんな姿にはなりたくなかった。
私の中に残っている、男の自覚が今の異様な姿に抵抗をしている。
鏡に手を置き、その動作がやっぱり自分の動作であることにため息しか出てこない。
可愛いのは認める、それに異論はない。
スカートもだいぶ抵抗はなくなっている。普段の服装も対して気にもしなくなりつつあった。しかしながら、今までよりも女の子女の子している今の姿を認めたくないのだ。
それにしても、女の化粧っていうものは化けるわね。
普段の私とはまるで別人にしか見えない。いや、これはもはや別人だよ。
「そういえば、領主の名前ってなんだっけ」
「ラズバード・レフォストール様です。くれぐれもお間違えの無いように」
ん? 今なんて?
「ラズード・レフォール?」
「ラズバード・レフォストール様でございます。お嬢様の場合おそらく問題はないと思いますが」
覚えにくい名前をしている。
問題があった場合は、名前を間違えただけでも不敬罪とかにされたりする?
私は、紙に名前を書き残して馬車へ乗り込んだ。
最近では、座席を改良したこの馬車にも慣れたものだと感心する。
現実逃避をしていたが、ここ最近やたらと厳しいダンスの授業はこのためだったよね。
お陰でふくよかにならずにすんでいる。少食というのもあるのだろうけど。
ドレス姿にクロとルビーは、未だに私のことで盛り上がっている。
私としてはこのまま帰りたいのだけどね。
馬車の周りには冒険部隊の半数が固めており、要人警護にしては度が過ぎているようにしか見えない。
領主の屋敷は、いつも行っている街を超えていくのだけど、思っていたほどは遠くはなかった。
とはいえ、この格好で馬車に揺られ続けるのは正直辛い。
普段のように座席に、だらりと寝そべることは禁止されている。
それもこのドレスのせいである、領主の屋敷で着替えるなんてこともできないのだろうしね。
「うちと比べてやっぱり大きいね」
「お嬢様、足元にも注意をしてください。上ばかり見ていると転びます」
「はいはい。わかってるよ」
会場の中には思っていたよりも人が少なかった。
領主の誕生パーティーだったと思うのだけど?
早く来すぎたということ?
「やぁ、ルビー。久しいね」
「ラズバード様。お久しぶりにございます」
ラズバードこの人が?
領主ってもっと年を取っているのかと思ったけど、意外と若い人も居るんだな。
三十後半、華美な服装でもないし今の所は警戒することもなさそう。
あれ、フルネームなんだっけ……?
「ラズバード様、はじめまして。イクミ・グナセーレでございます」
ドレスを広げルビーに言われたとおりに挨拶ができた。
ただ、少し離れた所から私を見る視線が少しだけ気にはなる。
この辺りに住む貴族たちだろうか、見た目の判断で数人はあまり話したくもない。
向こうも私を警戒しているのか、それとも領主が目の前にいるからか話をかけてくる様子はない。
「うん、はじめまして。君の活躍は聞き及んでいるよ。魔物討伐も進み領内は安泰だ」
「有難うございます」
「そちらの女性は?」
「私の護衛で、クロと言います」
「そうか、よろしく頼むよ」
そう言うとクロと握手を交わしている。
獣人に対して差別もなさそうで私としては安心かも。
「ほぅ。獣人が護衛か……」
「どうかお収めください。そのようなお戯れはお嬢様にとって、害になると思われますので」
それにしても、貴族のパーティーだと言うのに来場している人の数はかなり少ない。
「おや、これは失礼。イクミの護衛は優秀な方のようだね」
「へ? 有難うございます、ラズバード様。申し訳ございません、じじ、じゃなかった、久しぶりに父を見かけましたのでご挨拶をと」
「ああ、そうだね。行こうか」
領主の挨拶よりも、久しぶりに見かけた爺さんのほうが気になってしまい、歩き始めたのだけど……なんで領主様も来るの?
私に気がついた爺さんは、小さく手を振っていた。
「おと……」
「父上。お久しぶりです」
「おお、ラズバード。それにイクミも一緒か」
あれ……握手を交わしているのが、私ではなくラズバード様。
父上って何?
お父さん?
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)
ラララキヲ
ファンタジー
乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。
……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。
でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。
ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」
『見えない何か』に襲われるヒロインは────
※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※
※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※
◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる