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学園編
92 お嬢様も間に入りたい
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あの決闘以降、私は平穏と呼ぶには少し遠いけど、普通の生活へと戻っていった。
差別的に見られるというのではなく、私の機嫌を損ねると何があるか分からないと言った噂を耳にしている。
学生達が道を塞いでいたとしても、私の姿を見ただけで壁に背を向けて頭を下げていたり。
落とし物で呼び止めただけで、泣いて命乞いをされる始末。
そんな私の隣にいるクレアは、公爵家のご令嬢で近寄りがたい存在が、イクミ・グセナーレの友人ということが、更に人を遠ざけているようにも思える。
「あの、クレア?」
「何でしょうか?」
私の執務室で優雅に紅茶を飲みつつ寛いでいる。
ダンジョンの探索も、順調に進んでいる。
念の為にクロを護衛に戻しているので、最近ではクレアとクロとルキアの三人で楽しく会話が弾んでいる。
「私は雑務があるし、そこに居てもつまらないとは思うのよね……私的にも時間を無駄にさせているようで申し訳なく思うし」
「お気になさらないでください。それに、イクミ様がお仕事をされているお姿を見ているだけで私は安心できるのです」
私とクレアの間で何かずれてる気がする。今のは会話になっていないし。
私としては、クレアが屋敷に来るのは良いのだけど、敢えてここに居なくても良いとは思うし……決して、目の前でルキアが楽しそうにしているのが気に入らないということではない。
話をするだけであれば、外のテラスでもいいと思うのだけどね。
「お嬢様。少し良いですか?」
「トパーズ。ええっと、何かな?」
トパーズがやって来たことで、体が勝手に身構えてしまう。
「あの、こちらの書類なのですが。ここですよ、ここ。ちゃんと見てください」
そういうのなら、わざわざ頬同士をくっつける必要はないよね。
引き剥がそうにも、私の力ではどうしようもないので、体を反らす程度の抵抗しかできない。
ルビーがトパーズの額を叩いてくれた所で、この毎度とも言える茶番が終わる。
トパーズは相変わらずこういう事をしてくる。しかし、私も抵抗するものの嬉しい話ではないのだけど、慣れつつあるわね。
「普通に手渡してくれるだけでいいのに……」
郊外に居る奴隷達の書類か……ダンジョンの収入も安定しているから、そろそろ拡張を進めても言いようね。
これだと、明後日は休みになるし久しぶりにいい仕事ができそうね。
「お嬢様は分かってないですね。こういうのも目の保養になるんですよ?」
「何を訳の分からない事を言っているのよ。トパーズの場合、どう考えても目の保養じゃないよね」
「百合百合って言うんですから」
ユリユリ? どういう意味?
トパーズのことだから、きっと何かの妙な言い回しみたいね。
碌でもないのはいつもの事いつもの事。相手にしているだけ無駄よね。
「い、イクミ様!」
「びっくりした。どうしたのよ、クレア」
「もしよろしければ、明日の放課後。イクミ様とご一緒にお出かけしたいのですが……いかがでしょう?」
放課後……明日はあまり良くはない。
なぜならこの書類という仕事の誘惑がある。王都に来てからというもの、こういう話はなかなか出てこなかったからね。
実践をして、間違いや問題を改善していく、あの素晴らしい日々が目の前にあるというのに……クレアと遊びに行く時間がもったいない。
できることなら、来週、いや再来週に伸ばしても良い。
「かしこまりました。ソルティアーノ様のお願いであれば、こちらも無下には出来ません。ですが、クロとルキア、二人の同行となりますがよろしいですか?」
「それは当然です。むしろ心強いですわ」
「あの……当の本人の意志って何処にあるの?」
「イクミ様がお嫌であれば……私は」
ルビーには、持っていた全ての書類を取り上げられる。それなりに長い付き合いなのだから、私の思考を読み取ったのだろうか?
しばらく睨み合いが続き、観念したルビーはクレアに対して深く頭を下げていた。
「ソルティアーノ様、大変申し訳ございません。お嬢様には後できちんと、せっ……ご納得して頂くようにお話をいたしますので……」
これかなりやばめのやつだ。
私だってルビーのことを分かっているつもりよ。
「行くよ! 行かないなんて言ってないよ? クレアと街に出かけるのなんて初めてだから、すごく楽しみだよ」
「はい、明日を楽しみにしております」
悔しいが、ルビーはさっきわざと言い間違えている。
私に仕事をさせないように、きっと良くないことをやらされるに違いない。
教会なんてもう行きたくはないよ……仕事させてよ!
「い、イクミ様……お、お逃げください」
「どうしたの?」
窓の外にはフェルがこちらを見ていた。
そういえば、クレアがフェルを見るのは初めてか……今日はクロが居ないと思ったら、フェルを連れてきてくれたのね。
フェルのおかげでダンジョンも良い成果が出ているし、いつもより良いものを上げよう。
「ルビー、休憩するから私にも飲み物と、少し良いおやつも持ってきて貰えるかしら?」
「かしこまりました。では、多めに準備しますね」
「何を悠長に……」
「お願いね」
テラスの窓を開けると、フェルは寝室側の広い所へと歩いていく。
クレアを手招きをして、呼び寄せるが流石に魔獣ということもあって怯えている。
差別的に見られるというのではなく、私の機嫌を損ねると何があるか分からないと言った噂を耳にしている。
学生達が道を塞いでいたとしても、私の姿を見ただけで壁に背を向けて頭を下げていたり。
落とし物で呼び止めただけで、泣いて命乞いをされる始末。
そんな私の隣にいるクレアは、公爵家のご令嬢で近寄りがたい存在が、イクミ・グセナーレの友人ということが、更に人を遠ざけているようにも思える。
「あの、クレア?」
「何でしょうか?」
私の執務室で優雅に紅茶を飲みつつ寛いでいる。
ダンジョンの探索も、順調に進んでいる。
念の為にクロを護衛に戻しているので、最近ではクレアとクロとルキアの三人で楽しく会話が弾んでいる。
「私は雑務があるし、そこに居てもつまらないとは思うのよね……私的にも時間を無駄にさせているようで申し訳なく思うし」
「お気になさらないでください。それに、イクミ様がお仕事をされているお姿を見ているだけで私は安心できるのです」
私とクレアの間で何かずれてる気がする。今のは会話になっていないし。
私としては、クレアが屋敷に来るのは良いのだけど、敢えてここに居なくても良いとは思うし……決して、目の前でルキアが楽しそうにしているのが気に入らないということではない。
話をするだけであれば、外のテラスでもいいと思うのだけどね。
「お嬢様。少し良いですか?」
「トパーズ。ええっと、何かな?」
トパーズがやって来たことで、体が勝手に身構えてしまう。
「あの、こちらの書類なのですが。ここですよ、ここ。ちゃんと見てください」
そういうのなら、わざわざ頬同士をくっつける必要はないよね。
引き剥がそうにも、私の力ではどうしようもないので、体を反らす程度の抵抗しかできない。
ルビーがトパーズの額を叩いてくれた所で、この毎度とも言える茶番が終わる。
トパーズは相変わらずこういう事をしてくる。しかし、私も抵抗するものの嬉しい話ではないのだけど、慣れつつあるわね。
「普通に手渡してくれるだけでいいのに……」
郊外に居る奴隷達の書類か……ダンジョンの収入も安定しているから、そろそろ拡張を進めても言いようね。
これだと、明後日は休みになるし久しぶりにいい仕事ができそうね。
「お嬢様は分かってないですね。こういうのも目の保養になるんですよ?」
「何を訳の分からない事を言っているのよ。トパーズの場合、どう考えても目の保養じゃないよね」
「百合百合って言うんですから」
ユリユリ? どういう意味?
トパーズのことだから、きっと何かの妙な言い回しみたいね。
碌でもないのはいつもの事いつもの事。相手にしているだけ無駄よね。
「い、イクミ様!」
「びっくりした。どうしたのよ、クレア」
「もしよろしければ、明日の放課後。イクミ様とご一緒にお出かけしたいのですが……いかがでしょう?」
放課後……明日はあまり良くはない。
なぜならこの書類という仕事の誘惑がある。王都に来てからというもの、こういう話はなかなか出てこなかったからね。
実践をして、間違いや問題を改善していく、あの素晴らしい日々が目の前にあるというのに……クレアと遊びに行く時間がもったいない。
できることなら、来週、いや再来週に伸ばしても良い。
「かしこまりました。ソルティアーノ様のお願いであれば、こちらも無下には出来ません。ですが、クロとルキア、二人の同行となりますがよろしいですか?」
「それは当然です。むしろ心強いですわ」
「あの……当の本人の意志って何処にあるの?」
「イクミ様がお嫌であれば……私は」
ルビーには、持っていた全ての書類を取り上げられる。それなりに長い付き合いなのだから、私の思考を読み取ったのだろうか?
しばらく睨み合いが続き、観念したルビーはクレアに対して深く頭を下げていた。
「ソルティアーノ様、大変申し訳ございません。お嬢様には後できちんと、せっ……ご納得して頂くようにお話をいたしますので……」
これかなりやばめのやつだ。
私だってルビーのことを分かっているつもりよ。
「行くよ! 行かないなんて言ってないよ? クレアと街に出かけるのなんて初めてだから、すごく楽しみだよ」
「はい、明日を楽しみにしております」
悔しいが、ルビーはさっきわざと言い間違えている。
私に仕事をさせないように、きっと良くないことをやらされるに違いない。
教会なんてもう行きたくはないよ……仕事させてよ!
「い、イクミ様……お、お逃げください」
「どうしたの?」
窓の外にはフェルがこちらを見ていた。
そういえば、クレアがフェルを見るのは初めてか……今日はクロが居ないと思ったら、フェルを連れてきてくれたのね。
フェルのおかげでダンジョンも良い成果が出ているし、いつもより良いものを上げよう。
「ルビー、休憩するから私にも飲み物と、少し良いおやつも持ってきて貰えるかしら?」
「かしこまりました。では、多めに準備しますね」
「何を悠長に……」
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テラスの窓を開けると、フェルは寝室側の広い所へと歩いていく。
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