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学園編
96 お嬢様と異質なウェイトレス
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あの人達は、料理を作っているときが本当に楽しそうにしているのだけど、今の屋敷では人は少ないし作りがいがないとかぼやいていたしね。
だったらどれだけ作れば満足するのか知りたい所だよ。
「ありがとうね。皆にも伝えておくよ。でも、今度からはお金はちゃんと払うからね」
「ふふふ。御冗談を……それでは、私は奥の方に戻ります。ごゆっくり」
ということは、今日の料理も無料提供するつもりなの?
王都にまで来たというのに、流石にアレを継続させるわけにはいかないよね。
「イクミ様。奴隷達がここを利用した場合。少額を皿の下に隠すというのはいかがでしょう?」
「今更そんな事できるわけ無いでしょ。奴隷たちがここを利用する場合は、名札を外すように伝えておいて」
「はあ。せっかく驚かせようと思っていたのに……まさか、イクミ様のお知り合いだったなんて」
「驚きはしたよ。私だって久しぶりに女将さんが作った料理を食べられるのだから……定番になっているのはやっぱりとんかつとフライだよねー」
しかし、開いたメニューには私の知らない、正確には知っているのだけどこの世界では見たこともない物が書かれていた。
アメリカンドッグ……この世界でアメリカンってなんなの?
ドーナツ? 原材料は似てる……のか?
「うどんすらあるのだけど……ラーメンまで?」
「こちらの料理は、イクミ様がお教えになったのでは?」
私にそこまでの料理知識なんて無い。とんかつは、よく行っていたお店の大将と仲が良かったから、話しながら作業を見ていたから知っているだけ。
フライだって似たような手順だから何となくできただけで、炊飯器を持たない私が知るわけ無いでしょ!
「ご注文決まりましたか?」
「ラーメンって本当にあるの?」
「はい、ありますよ。鶏ガラで出汁をとって、調味料で味を整えたものです」
クレアが驚いたのも分からなくない。
まさかそんな本格的な物が作られていたとは……女将さん恐るべき創作力ね。
「ですけど、醤油があれば一番いいのですけどね」
「「醤油!?」」
「もしかしてお二人は……醤油といえば?」
「卵かけご飯とかかしら?」
「ああ、TKGですね」
ティーケージィー?
またよく分からない単語が出てきたのだけど……どういうことなの?
このウェイトレスは、一体何を言っているのかしら?
「え? えっと、私は、お醤油? お刺身でしょうか?」
刺し身も良いねー。冷酒なんかがあれば最高なんだけど……この世界だと生で食べる習慣というか、魚は港町に行かないと食べられないのよね。
今の状態で、お酒を飲むことは絶対に無理ね。ルビーが居るし、この世界も飲酒は二十歳なのよね。殆どはぶどう酒なんだけど、パーティーとかで誰だけ我慢をしたことか……
「なるほど……では、エンドレスワルツはご存知ですか?」
「え、なに? え?」
「あなたといつまでも……」
「申し遅れました、私はメルティア・レイネフォン。レイネフォン子爵家の四女にございます。よろしくお願いします、クレアローズ・ソルティアーノ様」
この人はクレアの事を知っている?
そんなことよりも、貴族の令嬢がウェイトレスを何でやっているの?
「クレアの知り合い?」
クレアは私から視線をそらし、否定も肯定もしない。
知っている程度なのかもしれないわね。子爵令嬢なのだから、貴族感での何かしらの繋がりがあるのだと思う。
例えクレアがよく思っていなくても、女将さんにはお世話になっているので、彼女に対して私がどうこう言うこともできない。
危害を加えてくるのなら話は別だけど……
「私は、イクミ・グセナーレ。よろしくね」
「なるほど、貴方様でしたか、ラードとフライの発案お見事でした」
女将さんから私の事を聞いたのだろうけど、醤油のことと言いこの人もクレアと同じように、この世界へとやってきた人なのかもしれない。
それはともかく、彼女が自己紹介をしてからというもの、クレアの表情が暗く顔色も悪いようにも思える。さっきまであんなにも楽しそうにしていたと言うのに。
早めにこの人には退散を願うしかないわね。
「クレア、大丈夫? 気分でも悪くなった?」
「あ、いえ。なんでもありません」
「ソルティアーノ様を呼び捨てとは、大胆な方ですね」
「クレアとは友達だからね。貴方だって、子爵家のご令嬢なのでしょ? そんな人がなんでここで働いているの?」
「ああ、それはですね。私来年から学園に通うのですが、卒業したら家を出る予定なのです。元々、料理は好きでしたからここは気に入ってるのです」
結構すごいことを言っているにも関わらず、彼女はそんな事を気にもとめずけらけらと笑ってさえいる。
メニューへと視線を戻し、注文を取りに来ているのだからさっさと決めてしまおう。
テーブルを叩いても、クレアは私を見ようともせず目を固く閉じている。
「クレア! 本当に大丈夫?」
「申し訳ございません。イクミ様」
私が大きな声を上げると、ようやく我に返ったクレアは視線が落ち着かない様子で、まるで何かに怯えているようにも思える。
手を差し伸べると、私の手は振り払われ、店から飛び出していった。
「クレアローズ様!」
「クレア!」
一体彼女と何があったのだろう……
だったらどれだけ作れば満足するのか知りたい所だよ。
「ありがとうね。皆にも伝えておくよ。でも、今度からはお金はちゃんと払うからね」
「ふふふ。御冗談を……それでは、私は奥の方に戻ります。ごゆっくり」
ということは、今日の料理も無料提供するつもりなの?
王都にまで来たというのに、流石にアレを継続させるわけにはいかないよね。
「イクミ様。奴隷達がここを利用した場合。少額を皿の下に隠すというのはいかがでしょう?」
「今更そんな事できるわけ無いでしょ。奴隷たちがここを利用する場合は、名札を外すように伝えておいて」
「はあ。せっかく驚かせようと思っていたのに……まさか、イクミ様のお知り合いだったなんて」
「驚きはしたよ。私だって久しぶりに女将さんが作った料理を食べられるのだから……定番になっているのはやっぱりとんかつとフライだよねー」
しかし、開いたメニューには私の知らない、正確には知っているのだけどこの世界では見たこともない物が書かれていた。
アメリカンドッグ……この世界でアメリカンってなんなの?
ドーナツ? 原材料は似てる……のか?
「うどんすらあるのだけど……ラーメンまで?」
「こちらの料理は、イクミ様がお教えになったのでは?」
私にそこまでの料理知識なんて無い。とんかつは、よく行っていたお店の大将と仲が良かったから、話しながら作業を見ていたから知っているだけ。
フライだって似たような手順だから何となくできただけで、炊飯器を持たない私が知るわけ無いでしょ!
「ご注文決まりましたか?」
「ラーメンって本当にあるの?」
「はい、ありますよ。鶏ガラで出汁をとって、調味料で味を整えたものです」
クレアが驚いたのも分からなくない。
まさかそんな本格的な物が作られていたとは……女将さん恐るべき創作力ね。
「ですけど、醤油があれば一番いいのですけどね」
「「醤油!?」」
「もしかしてお二人は……醤油といえば?」
「卵かけご飯とかかしら?」
「ああ、TKGですね」
ティーケージィー?
またよく分からない単語が出てきたのだけど……どういうことなの?
このウェイトレスは、一体何を言っているのかしら?
「え? えっと、私は、お醤油? お刺身でしょうか?」
刺し身も良いねー。冷酒なんかがあれば最高なんだけど……この世界だと生で食べる習慣というか、魚は港町に行かないと食べられないのよね。
今の状態で、お酒を飲むことは絶対に無理ね。ルビーが居るし、この世界も飲酒は二十歳なのよね。殆どはぶどう酒なんだけど、パーティーとかで誰だけ我慢をしたことか……
「なるほど……では、エンドレスワルツはご存知ですか?」
「え、なに? え?」
「あなたといつまでも……」
「申し遅れました、私はメルティア・レイネフォン。レイネフォン子爵家の四女にございます。よろしくお願いします、クレアローズ・ソルティアーノ様」
この人はクレアの事を知っている?
そんなことよりも、貴族の令嬢がウェイトレスを何でやっているの?
「クレアの知り合い?」
クレアは私から視線をそらし、否定も肯定もしない。
知っている程度なのかもしれないわね。子爵令嬢なのだから、貴族感での何かしらの繋がりがあるのだと思う。
例えクレアがよく思っていなくても、女将さんにはお世話になっているので、彼女に対して私がどうこう言うこともできない。
危害を加えてくるのなら話は別だけど……
「私は、イクミ・グセナーレ。よろしくね」
「なるほど、貴方様でしたか、ラードとフライの発案お見事でした」
女将さんから私の事を聞いたのだろうけど、醤油のことと言いこの人もクレアと同じように、この世界へとやってきた人なのかもしれない。
それはともかく、彼女が自己紹介をしてからというもの、クレアの表情が暗く顔色も悪いようにも思える。さっきまであんなにも楽しそうにしていたと言うのに。
早めにこの人には退散を願うしかないわね。
「クレア、大丈夫? 気分でも悪くなった?」
「あ、いえ。なんでもありません」
「ソルティアーノ様を呼び捨てとは、大胆な方ですね」
「クレアとは友達だからね。貴方だって、子爵家のご令嬢なのでしょ? そんな人がなんでここで働いているの?」
「ああ、それはですね。私来年から学園に通うのですが、卒業したら家を出る予定なのです。元々、料理は好きでしたからここは気に入ってるのです」
結構すごいことを言っているにも関わらず、彼女はそんな事を気にもとめずけらけらと笑ってさえいる。
メニューへと視線を戻し、注文を取りに来ているのだからさっさと決めてしまおう。
テーブルを叩いても、クレアは私を見ようともせず目を固く閉じている。
「クレア! 本当に大丈夫?」
「申し訳ございません。イクミ様」
私が大きな声を上げると、ようやく我に返ったクレアは視線が落ち着かない様子で、まるで何かに怯えているようにも思える。
手を差し伸べると、私の手は振り払われ、店から飛び出していった。
「クレアローズ様!」
「クレア!」
一体彼女と何があったのだろう……
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