お嬢様として異世界で暮らすことに!?

松原 透

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聖女編

192 お嬢様の成長の秘密?

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「お待たせしました。お嬢様」

「ありがとうございます。それでは、いただきます」

 クレアから発せられるその声に、少し沈んだ私を和ませてくれる。
 運動をした後だからお腹が減っているのだろうけど、所作に変わりがないのは何ともクレアらしいわね。

「あの子は……何先に食べているのよ。イクミちゃんも行くわよ」

「そうね」

 メルは私の手を取り、テーブルへ歩みを進めていく。
 私達は、学園でも屋敷でもいつも一緒だ。なにより二人のおかげで、毎日が少し楽しい。
 以前のテラスでは、テーブルを角に置いて庭を眺めたりしていたっけ。
 いつも私一人だけが座っていたのに、今では必ずと言っていいほどに二人がいる。

「美味しいです」

「私にも一口頂戴」

 メルは料理部にレシピを叩き込み、あれ以来新しいものは作ってはいない。
 今はそれどころじゃないのだろうけど……和食が懐かしいわね。
 材料が揃わないのだから、メルに言ったところでただの無い物ねだりでしか無い。

「イクミ様も如何ですか?」

「私はこれだけで十分だよ」

「本当にあまり食べないですよね」

 私に用意されるお菓子は少ない。元々あまり食べないからこの領で十分に満足になる。
 しかし、ケーキスタンドに目を輝かせ、どのケーキも美味しそうに食べているクレア。
 組んだ足の上に本を置き、眺めながら紅茶と飲むメル。とはいえルルがいれば、その隣で本ではなく妹を見ていただろう。

「クレアみたいに、運動をしているわけじゃないから、これで十分なのよ」

「イクミちゃんは前に……ここに来る以前の屋敷の話ね。その時からあまり食べていなかったの?」

「いや、普通に食べていたよ」

 一日三食は食べていたと思う。
 朝を抜くことはたまにあったりするぐらいなものよね。

「貴方の侍女さんからは、とてもそんな風にも見えないのだけど?」

 ルビーは、目を伏せ首を横に振っている。
 いやいや、食べていたよね?
 量は少ない方だったけど、ちゃんと食べていたよね?

「私の見た目からして、食べれる量が少ない事ぐらい分かると思うのだけど?」

「食べていないから、成長しなかったのじゃないの?」

「え……?」

 メルの言葉に、クレアとルビーが頭を縦に振る。

「お嬢様の少食には、私共はいつも心配をしておりました。ただでさえ、夜遅くまで起きられているというのに……朝食を抜かれることもしばしば」

「仕方ないでしょ、あの頃は今のように余裕がなかったのだから」

「もしかして、徹夜とかはしていないわよね?」

 していないと答えたとしても、ルビーが間髪を入れずに反論をしてくると思う。
 メルの様子からして、完全に疑いの眼差し。

「全く、そんな生活をしているから成長しないのよ」

「私が小さいのは……夜ふかしや、朝ご飯を食べなかったことが原因だと言うの?」

「それだけじゃなくて、運動量も圧倒的に少ないんじゃないの。机に向かっていたのに太っていないとか、飲み物ぐらいしか取っていなかったの?」

 私に反論できることもなく、くどくどと説教が双方から始まる。
 クレアはとばっちりが怖いのか、何も言葉を発することもなく黙々とケーキを頬張っている。
 昔の話というのなら、私なんかよりもおかしなことをしていたのはクレアだと思う。

 それを本人も分かっているから、ああやって蚊帳の外にいるに違いない。
 私と目すら合わさないのも、自分が標的になるのを恐れているから……だったらクレアもこっちに引きずり込むしか無いわね。

「くれ……」

「そうでした、お姉さま。来週にお茶会をすることになったのですが、参加してくれますか?」

 私がクレアの名前を呼ぼうとした途端。クレアの方がよく分からない提案が始まった。

「お茶会?」

 メルは腕を組み何やら考え込んでいる。
 クレアは私の方を見てニッコリと微笑んでいる。私は彼女を巻き込もうと考えていたのに、まさか助け舟を出されるとは思いもよらなかった。

 さっきまで、文句を言っていたメルは大人しくなり、ルビーもいつもの表情に戻っている。
 どうやら私は聖女クレアのおかげで助かったようだ。

「いいわよ。私だけじゃなくて、イクミちゃんも参加してくれるから」

「お茶なら今しているのに、どういうことなの?」

 家でやるよりも、何処かのお店に行きたいということなのかもしれない。私のような出不精からすれば、特の理由もなく行くことはないわね。
 女将さんの所は忙しいから、彼女たちが好きそうなお店……考えただけで、あまり行きたくはない。

「私は別に行くとは言っていないでしょ?」

「前に、私と約束したわよね。今度お茶会する時は来るようにってね。忘れているみたいだけど……ルビーさんは覚えているよね?」

 ルビーの方へと視線をずらし、その澄ました表情からは判別ができない。
 そんな事をなかったにせよ、ルビーのことだから……私が今拒否をしても無理そうね。

「もちろん覚えております。ソルティアーノ公爵家に出向いた時ですね」

「クレアの実家ってこと? そんな話あったかしらね」

「お嬢様はお忘れのようですが、メルティア様のご提案を了承されておりました」

 腕を組んで思い出そうにも……全くもって欠片すら出てこない。
 そもそも、さっきまで言い合っていた二人なのだから、でっち上げている可能性のほうが高いぐらいだ。

 何処かでお茶することなのに、なんでそんなこじつけをしてまで誘うことなのよ。
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