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第6章 沢田くんと夏の恋花火
沢田くんと討ち入り
しおりを挟む私は浴衣の袖で涙を拭いた。
拭いても拭いても涙が出てくる。
「麦茶、飲んでく?」
「……ごめんなさい。私もちょっと行かなくちゃいけないところがあるのを思い出したので──失礼します」
私は沢田くんのお母さんに頭を下げた。その肩越しに沢田くんのお父さんの優しい微笑が見える。
戻ろう。沢田くんが待ってる。
沢田くんは、きっとあそこに。
***
……残念ながら、いなかった。
「おう、よく来たな小野田……。歓迎するぜ」
空はその頃、小野田の勘違いで白鳥橋ではなく小林の家に乗り込んでいた。
「まさか二日連続で来るとはお前もいい度胸だな。友達まで連れてきやがって。二人ともオレンジジュースでいいか?」
スキンヘッドの小林が前歯の欠けた顔でニタリと笑う。
小野田は鬼のような顔をした。
「勘違いすんな。こいつはただの友達じゃねえ。俺の親友だ!! ……コーラにしてくれ」
「分かった。オレンジな」
「コーラで」
「果汁100%だぞコラア!」
小林と小野田が額を突き合わせてメンチを切る背後で、空はブルブルと拳を震わせて叫んだ。
「コーラもオレンジもいらないから……佐藤さんを出してください!!」
「ああん? なんだとコラア。果汁はいらねえから砂糖を出せってどういうことだコラア! 太りてえのかコラア! 将来糖尿で泣くぞコラア!」
訳のわからないことを言う小林に、空の怒りは頂点に達した。
「いいから、佐藤さんを早く出してくださいって言ってるんですよゆでたまご頭の人!!」
あたりが一瞬シーンと静まり返った。
小林の瞳から溢れた涙が、つぅと彼の頬を伝い落ちる。
「さ、沢田……! ゆでたまごはさすがに言い過ぎだぞ?」
小野田に言われ、空はハッと気がついた。
「すみませんちょっと言い過ぎました。ごめんなさい、たまご頭の人」
空はペコリと頭を下げた。
「いや、ゆでてあるかの問題じゃなくね⁉︎」
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