世界の果てを越えてみた

ゆづ

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第1章

世界の果て①

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 エアバイクを走らせ、セイシロウが向かったのは『世界の果て』だった。
 正確に言えば、『世界の果て』の手前にある森だ。
『世界の果て』とセイシロウたちが住むイーストエンド区の間には、未開の森と呼ばれるエリアが何万キロにも及んでいる。そこへ迂闊に入り込むと必ず迷い込んでしまう。
 
 何百年もの間、その森を抜ける研究が行われているのだが、世界の果てまで辿り着いて生きて帰った人間はいない。どれほど科学技術が進もうと、いまだに森の深さが何万キロであるか正確に探ることもできないのだ。
 原因は、樹齢数千年クラスの巨木で視界が覆われているため、一度中に足を踏み入れれば空も見えなくなることと、強力な磁場が発生していて持ち込んだ計器類がことごとくイカれてしまうことにあった。
 飛行機で飛び越えようとしても上空にも磁場が影響して必ず墜落する。

 危険すぎるので誰も近づかない。
 だが、そんな森に先祖代々挑み続ける一族がいた。それがコージーの一族だ。
 彼らが発明してきた数々の道具は、森を攻略するために生み出されたものがほとんどだった。
 コージーも日々未開の森攻略のための研究を重ねており、新作道具が完成したとあれば森に探索に行く。行かざるを得ないという調子である。

「『世界の果て』の向こうに何があるのか、僕はただそれが知りたいんだ」

 以前、コージーはそうセイシロウに漏らしていた。

「『世界の果て』の向こうは、マジカントだろ」
「そう言われているけど、マジカントが実在する証拠なんて文献の中だけじゃないか。本当にあるかどうかはこの目で見て確かめないとさ」

 マジカントがあるとしたら、どんな文化でどんな人が住んでいるんだろう。コージーと話していると必ずそんな話題になる。

 コージーが『世界の果て』を越えるなんて、同級生の誰もが夢物語だとバカにして本気にしてはいなかったが、セイシロウだけは違った。
 コージーならやれるかもしれない。そう思っていた。

 しかし、それが今日だとは微塵も思っていなかった。
 

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