25 / 89
第3章
脱出
しおりを挟むアズは涙をこぼした。
「ああマリウス……私のせいだわ……」
「さあ、皇女様。マリウス殿を無事に返して欲しければ、おとなしく我々の魔法にかけられてくださいませ」
杖を構えた集団がアズを取り囲もうと彼女に意識を向けた。
怯えた表情を見せるアズの別の方向で、剣の柄を握る音がした。
セイシロウが重力魔法にかけられたまま、戦う意志を取り戻していたのだ。
「なんだか良く分かんねえ修羅場に巻き込まれたみてえだが──この俺から武器を取り上げずに放置してたことがてめえらの運の尽きだ」
「所長! この男、まだ動きます!」
ローブの男が叫んだ時には、もう杖ごと彼は吹き飛んでいた。
「うわああっ!」
一人分の魔法が消えると、セイシロウの力はさらに加速した。地を這うような姿勢から、彼らの足元を払うように横に一閃に振る。目に見えない刃に襲われ、白いローブの男たちは悲鳴とともに後方へと吹き飛んでいった。
「あいつ、まだこんな力が!」
「ゴズマック所長!」
彼がセイシロウの方へ目を向けた隙にアズもハッと杖を握り直し、「ストーム!」と詠唱した。
魔法が飛んだ先はゴズマックだ。
彼は強烈な風に吹き飛ばされ、リーダーを失って陣形が崩れたローブの集団はそれぞれに慌てふためいた。
「逃げるぞコージー!」
セイシロウはぐったりしたコージーを背負い、同時にアズを見た。
「お前も来い!」
「えっ⁉︎ でも、私は……」
「狙われてるんだろ⁉︎ 早く!」
マリウスが囚われた水晶を見て戸惑うアズの手首を掴み、セイシロウは割れた窓から外へと飛び出した。
「ソーディア人が脱走した! 皇女を連れ去るぞ!」
研究所にサイレンが響き渡り、全職員がそのアナウンスに驚愕した。
『緊急事態発生、実験場からソーディア人二名が脱走した! 直ちに外殻ゲートを閉じ、二人を拘束せよ! 彼らはアズ皇女を攫い、敷地内を逃走中! 彼らは我が国マジカントを襲撃せんとやってきた侵略者である! 生死は問わない。どんな手を用いても構わない! 奴らを決して外へは逃がすな!』
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
9
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる