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第十二章
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第十二章
2016年7月27日 (水曜日)
午前4時16分
まだ日の出前であった。
由紀は突然ベッドで目眩を感じた。横になっていながら、くらくらするような気分に襲われた。しかしだんだん意識がはっきりしてくるにつれ、それが目眩ではなく体全体が楕円状にグルグルと水平に動いていることに気がついた。遊園地にあるティーカップの中で寝そべって乗っていたらこんな感じだろうか。しばらくしてそれが自分だけでなくベッドも床もそして家全体も揺れている事に気付いた。カタカタとチェストの上の小瓶が音を立て始めた。
(これは地震だ)
由紀が隣のベッドに寝ている吾郎に声をかけようとした瞬間、家の激しく軋む音と家具が揺れる音に、“ゴーッ“という低い地響きの音が加わった。
「キャー!地震よ、地震!」
吾郎は一瞬何が起きているのか分からないままベッドから起き上がろうとしたが、激しい揺れで二つのベッドの間に放り投げだされて床に転がった。
この瞬間に事態が把握できた。
「地震だ!布団をかぶって床に伏せるんだ!お~い!優太!!地震だ!布団をかぶって隠れろ!」
果たしてこの轟音の中で隣の部屋の優太に声が届いているだろうか。吾郎と由紀は二つのベッドの間にありったけの布団を引っ張りこみ身を寄せた。家が大きく軋む音を立て、チェストや棚の上の全ての物が床へと散って行った。ベッドでさえも脚が交互に持ち上げられていた。とにかく物凄い揺れで全ての物が動き出した。
優太も信長も激しい揺れに驚き飛び起きた。
前後左右上下あらゆる方向に揺れ、そして“ズドーンッ”という振動と共に下から突き上げられるような激しい揺れが何度となくやって来た。
未来は何が起こるか信長の常識では計り知れなかった。
(しかしさすがに家までは突然動き出すことはあるまい。これは地震じゃ)
家具が揺れる音、倒れる音、物が落ちる音、家が軋む音に混じって二階から悲鳴が聞こえた。
あらゆる物が音を立てながら凄まじい勢いで揺さぶられている。
信長は立ち上がって外に逃げようとしたが、その前に箪笥が引き出しを吐き出しながら倒れ、窓のガラスは全て畳の上に粉々に散り、その行く手を阻んだ。激しい揺れで真直ぐに歩くことさえ出来ない。
優太の部屋ではベッドのそばの北側の窓ガラスがピシッと音をたてて全面ひび割れた。這うようにベッドを離れ両親の部屋に向かおうとドアに向かったが、激しい揺れでドア枠が軋んでいるためか開かない。ドアノブに手をかけたまま体が宙に揺さぶられていた。
「おとうさーん!おかあさーん!」
優太は思わず叫んだが、自分の叫び声すらもこの部屋の中でかき消されてよく聞こえない。壁一枚を隔てているだけの場所にいながら両親の元へ行くことができない。一人で恐怖に怯えながら涙が出てきた。そして学校の避難訓練で習ったように勉強机の椅子をどかし、机の下にもぐりこんで膝を抱えた。しかしその机すらゴトゴトと音を立てて揺れながら前後左右上下の動きを止めない。机に据え付けられた本棚の本は全て床に散乱していった。
四人ともなす術もなく、ただ地震が収まるまでそれぞれの場所でじっと待つ以外なかった。いつ天井が崩れてくるかもわからない、いつ家が倒壊するかもしれない、そんな恐怖のなかで長い時間揺れに身を任せていた。
それでも揺れは収まる様子も無く、更にグワン、グワンと揺れ続け、背中にパラパラと天井の部材が降りかかって来た。
(何て揺れだ。一体いつになったら収まるんだ。優太は大丈夫か)
吾郎は頭に布団をかぶりつつも周囲の様子に気を配った。
大きな衣装ダンスがベッドにもたれ掛るように傾いていた。部屋の中の引き出しという引き出しが全て飛び出していった。家の軋む音に交じって、外から“ドーン、バリバリッ“という鈍い音が振動と共に伝わってきた。
布団に包まり身を守りながらひたすら揺れの収まる時を待ち続けた。
ようやく少しずつ横揺れが小さくなってきたような気がした。
(いくら何でももうそろそろおさまる頃だろう)
まだ揺れはしていたが優太が気懸かりでならない。ふらふらする中で障害物を避けながら部屋を出ようとした瞬間である。
“グワーン”、“ズドーン”、“ドーン”
再び下から突き上げるような激しい衝撃が襲ってきた。
吾郎の体は一瞬宙に浮き、真後ろに放り出された。
“ゴーッ”という地鳴りと共にまたもや前後左右上下の激しい揺れが始まった。転がるようにベッドの間に逃げ込むとタオルケットと布団で震える由紀と共に身を隠した。
外からも何の音かわからないが、様々な激しい音が聞こえてくる。
(何という地震だ。普通の地震ならもうとっくに収まってもいいはずだ)
吾郎は五分そして十分たっても依然として揺れ続けている様子に、これはただの地震では無いのではないかと疑い始めた。
(いきなり戦争かテロが勃発して都心に爆弾が投下されたか、巨大な隕石がどこかに落ちた可能性も十分ある)
もしこれが地震であれば恐らく有史始まって以来の大きさに違いない。この長時間にわたる揺れの間に、様々な憶測と心配が頭の中に充満していった。
(優太は大丈夫だろうか?
下に居る殿は無事か?
車庫のむら雲は?)
この超激震は二十分以上続いただろうか、正確な時間は今はわからない。体には依然揺れが残っていたが地面の揺れは収まったようだ。長時間にわたる恐怖と緊張で早朝にもかかわらず既にクタクタだった。
午前4時40分
吾郎も由紀も必死に耐えるだけで早朝から体力を使い果たし放心していた。二人とも船酔いの気持ち悪さを感じつつ、揺れが落ち着いたとみるや大急ぎで優太の部屋へ向かった。
“ドン、ドンッ”
「お~い、優太、大丈夫か!」
優太の部屋のドアが固くて開かない。
「ドアから離れていろよ」
二人掛かりでドアに体重を思いっきり乗せ、ようやく30cmほどの隙間がドアとの間にできた。そこから体を滑り込ませると、優太は大きく移動した机の下で頭を抱えながら青ざめていた。
「二階にいたら危ないから下に降りよう」
三人は明らかに傾いた階段を注意深くおりると、信長も部屋から抜け出し呆然と廊下に立っていた。
「地震か?」
「多分。でもまだ何が起きたか分かりません。戦争が起きた可能性もあります」
「戦だと?」
「いや恐らくは地震でしょう。この辺はいつ地震が来てもおかしくない状況にあるんですけど、こんなに長く揺れた地震は初めてです。恐らくこの反動で再び大きな余震がやってきます、注意しながら外に出ましょう。由紀と優太はドアを開けたままで玄関にいて。僕らで外の様子を見てくるから」
吾郎と信長は恐る恐る外に出た。初動の消防自動車の警鐘の音とパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。
空を見上げると晴れているのか曇っているのかさえ判らないが、既に東の方角は明るい。しかしいつもの鳥の鳴き声は一切聞こえない。湿気を含んだ南風が吹いていた。庭の中央付近まで出て周りを見渡してみると、北側の一番高い木が大きく傾き、家にもたれ掛かっている。周囲の電柱はみなバラバラの方向へ傾き、電線が弛み地上を這っている箇所もある。家の外壁は半分以上が剥がれ落ち、窓は金属ワイヤー入りの窓ガラス以外は無残に砕け散っていた。
近所の人々の声が聞こえる。周囲の家を見渡す限り、全壊までの家は無く、火事が起きている様子も無かった。すぐ隣のマンションの壁には幾筋もの太いひびが醜く入っているものの、窓ガラス以外はこの二十分程の激震を経た後とは思えないほど毅然と建っていた。免震システムがよほどうまく稼動していたに違いない。その住人達がマンションから飛び出し敷地の中で右往左往している様子が聞きとれた。
この付近は東京の中でも比較的地盤が固いことは知っていた。幸い庭に限っては心配していた液状化現象は起きていない。道路に出てみると表面のアスファルトは大小の固まりに砕け散り、路面には亀裂が入り、いびつに隆起している箇所が多々見られた。一つ道を挟んだ先の道路ではむき出しになった地面から、マンホールが筒ごと大きく飛び出していた。これではとても車が通れない。
一通り庭の周辺まで見渡して、家の中よりも外に居たほうが安全だと判断した吾郎は由紀と優太に外に出るように言った。
午前5時30分
吾郎は余震を警戒しながら家の中のリビングルームへと向かった。壁にもたれ掛かったテレビを起こして電源を入れみたが予想通り停電で何も映らない。それだけ確認すると今度はテーブルに置いたはずの車の鍵を床に見つけ、それを握り締めて再び庭に出た。
信長は既にむら雲を車庫から連れ出し手綱を木にくくりつけていた。むら雲はおびえた目つきで落ち着かない様子だった。
車庫は自重が軽いせいか、屋根のたわみ以外は何も被害を受けずに建っていてくれた。
吾郎は車に大きな破損が無いことを確認すると、エンジンをかけてカーナビをテレビモードにした。が、やはり全チャネルとも放送が中断されていて状況がつかめない。
テレビは諦め、次にラジオを試したがFM放送はやはり全滅だった。
AM放送に切り替え、手動で丁寧にチューニングしていると幾つかの放送局を捉えることができた。
いずれも緊急放送として関東で大地震があったことを伝えている。詳細情報に関しては未だ分からないという。
(とうとう関東に大地震がやって来たか)
各地の地震情報は通常数分と待たずに寄せられるはずだが今回は関東を除くその周辺地域からの地震情報だけが伝えられていた。
静岡、諏訪、小諸、高崎、前橋、佐野、小山、つくば、成田で震度六強、その外側でも震度六弱、名古屋や仙台でも震度四の揺れを観測している。しかし自分達が住む肝心の東京の様子が分からない。今回の地震は関東を中心に本州全体が揺れたのではないかと思えた。とすると、東京の震度は一体どの位だったのだろうか。
吾郎はラジオを点けたままにして車の窓を開けると一旦降りた。
「我々を取り囲む周辺の地域で震度六が記録されているそうです。これは相当広範囲で大きな被害が出ているに違いありません」
「震度六、相当大きな揺れか?」
「尋常では無い揺れです。相当な被害がでますよ」
「暫くどうなっちゃうんだろう」
不安げに由紀が呟いたが、今は誰もわからない。
その時、「また来た!」 吾郎が叫んで三人を見た。
再び地面がグラグラと揺れだし、周辺の家々からも一瞬悲鳴があがった。
四人は車庫へと駆け込み、木々の揺れを見ながら余震が収まる時を待った。
だがあの大地震の余震としては極端に小さく、ものの数十秒地面を揺らしただけですぐに収まった。
その後も何度か小さな揺れは繰り返したものの大きな余震らしき揺れは来る事が無かった。
吾郎は車庫に置いてあるキャンプ用の簡易テーブルとディレクターズチェア四脚を持ち出すとそれらを組み立てて庭に置いた。
家から非常用に備えてあった懐中電灯付きラジオを持ち出すと、テーブルに置いて先程の放送局に合わせてみた。しかしそこからは先程と同じ内容が繰り返されるばかりで最新情報はまだ入手出来ていないようだった。
信長は自分自身も初めて体験したこの大地震で、未来人が一体どう対処していくのか興味を抱いた。
(これだけの文明を創り出してきた未来人じゃ。大自然の送りつけた試練など何も無かったかのごとく平然と対処するかもしれん)
午前6:00
大きな余震に備えて外で過ごしているものの未だその気配がない。とりあえず優太を外に残して三人で着替えのために一度家に戻ることにした。優太の着替えは由紀が用意し、吾郎は冷蔵庫から牛乳と水を取り出し、テーブルから転げ落ちたバナナとロールパンを拾い上げてきた。水のボトルを見つめながら“はっ”と思いついたように吾郎は、庭にある水道の蛇口をひねってみた。十秒ほど水は流れ出たものの見る見る水流が細りやがて出なくなった。
(大変だ)
吾郎は慌てて近所のコンビニに走っていった。歩いて二分とかからないコンビニは、店の上に掲げてある青と白の看板パネルが大きくひび割れ、入り口のドアが半開きのまま窓ガラスは粉々に割れていた。店内には馴染みの店主が入り口に背を向けて棚から零れ落ちた商品を次々と買い物カゴに入れていた。深夜担当のアルバイトはこの非常事態に帰したのか、自分で勝手に帰ったのか、いない。
商品の大半は床に散乱しワインやウィスキーの瓶が割れたのであろう、アルコールのツンと鼻にくる臭いが漂っている。店主は店に入った吾郎の顔も見ずに黙々と作業を続けていた。
「無事でしたか。すごいことになりましたね」
「あ~、とんでも無い事が起きたもんだ」
「店の中もひどい状態になっちゃいましたね」
吾郎も床の商品を拾いながらカゴに放ってみた。
「商品をカゴに入れてどうするんですか?」
「一度全部倉庫にしまうんだよ」
相変わらず吾郎の顔などまともに見ようともしない。
「大変な時に申し訳ないんですが、水と食料を分けてもらえませんか?」
それでも手を止めずに商品を複数のカゴに入れ続けた。
「それはできん」
店主は昨日迄とは打って変わり、極めて無愛想な態度で即答してきた。
「そこにまだ沢山あるじゃないですか。緊急時なんだからお願いしますよ」
吾郎は努めて冷静な態度で店主に頼み込んだ。
「だめだ、だめ。こんなことになって、これからどうなるかまだ分からないんだ。まず自分達の分を充分確保するまでは売ることなどできんよ」
その口調は地震がまるで吾郎のせいでもあるかの様だった。
「少しくらい分けてくれてもいいでしょう?二日もすれば救援物資だってやってくるはずじゃないか」
「いくら言っても今はだめだ。帰れ、帰れ。だめなものはだめだ」
しばらく押し問答が続いたが店主の意思は変りそうに無かった。吾郎は心の中で大いに憤って店を後にした。店外の自動販売機は、いずれも停電で使えない。緊急時用の自動販売機は停電時にも使えるがこの辺には無い。
乾パン、水、缶詰等は一階の収納庫の奥に備蓄してあったがとても十分の量とは言えなかった。当面の食料品と水は出来る限り多く確保しておきたい。時間をおいて別の店に行ってみようと考えながら家に戻った。
午前7:00
ラジオ放送は相変わらず同じニュースを繰り返していた。
「ちょっとみんなで若宮小学校まで行ってみよう」
吾郎は緊急避難場所に行けば何か新しい情報があるかもしれないと思い、近くの小学校へ四人で出かけた。芝生が敷かれた校庭には既に多くの人々が集まっていた。大人達は互いの無事を確認すると、たった今皆同じ体験をしてきたにもかかわらず、それぞれが地震で如何にパニックに陥っていたかを伝え合っていた。子供達は早朝にもかかわらず元気に校庭を走り回り、携帯を使えない若者達は手持ち無沙汰でただ座って膝を抱えたまま友人同士でボソボソと話をしていた。町内会の長老達は声高に今後のことを話し合っていたが、区からの指示が無いことにはまだ何も動けない様子だった。想定内の緊急事態であれば、警察、消防署のいずれかの署員がやってきて緊急避難の指示を住民にするはずであったが、その範囲を超えていた。あまりに広範囲すぎて一つ一つの拠点まではとても手が回る状況ではなかった。期待してここへ来てはみたものの新しい情報も如何なる指示も無さそうだった。
国の対策本部もこの時点では本部自体が設置されているかどうかも定かでない。都の対策本部もしかりである。よってそこからの指示を待って動くはずの地域担当者達は機能出来ずにいた。
八時を過ぎても何等状況は変わらず、埒が明かないと思った人々は三々五々避難場所を後にしていった。吾郎たちもあきらめて一度家に戻ることにした。
庭に出した椅子に座りながらラジオを聴き続けていると信長が話しかけてきた。
「こういう緊急事態には誰が指揮を執るんじゃ?」
「政府が緊急災害対策本部をすぐに設置することになっていますが、今機能しているかどうかはわかりません。首相官邸、内閣府、防衛省、気象庁も今は彼らの設備の復旧作業の最中だと思いますよ。悪いことにこの十月の衆議院選挙を控えて、大臣クラスも含めて国会議員の多くは皆地方に出かけているはずなんです。対策本部を設置してもヘリコプターを使って参集するには時間がかかるし、それより敢えてこの危険地帯に対策本部を設置するかどうかも疑問ですけどね。」
この時点では内閣総理大臣による警戒宣言も区長による避難勧告も出ていなかった。
2016年7月27日 (水曜日)
午前4時16分
まだ日の出前であった。
由紀は突然ベッドで目眩を感じた。横になっていながら、くらくらするような気分に襲われた。しかしだんだん意識がはっきりしてくるにつれ、それが目眩ではなく体全体が楕円状にグルグルと水平に動いていることに気がついた。遊園地にあるティーカップの中で寝そべって乗っていたらこんな感じだろうか。しばらくしてそれが自分だけでなくベッドも床もそして家全体も揺れている事に気付いた。カタカタとチェストの上の小瓶が音を立て始めた。
(これは地震だ)
由紀が隣のベッドに寝ている吾郎に声をかけようとした瞬間、家の激しく軋む音と家具が揺れる音に、“ゴーッ“という低い地響きの音が加わった。
「キャー!地震よ、地震!」
吾郎は一瞬何が起きているのか分からないままベッドから起き上がろうとしたが、激しい揺れで二つのベッドの間に放り投げだされて床に転がった。
この瞬間に事態が把握できた。
「地震だ!布団をかぶって床に伏せるんだ!お~い!優太!!地震だ!布団をかぶって隠れろ!」
果たしてこの轟音の中で隣の部屋の優太に声が届いているだろうか。吾郎と由紀は二つのベッドの間にありったけの布団を引っ張りこみ身を寄せた。家が大きく軋む音を立て、チェストや棚の上の全ての物が床へと散って行った。ベッドでさえも脚が交互に持ち上げられていた。とにかく物凄い揺れで全ての物が動き出した。
優太も信長も激しい揺れに驚き飛び起きた。
前後左右上下あらゆる方向に揺れ、そして“ズドーンッ”という振動と共に下から突き上げられるような激しい揺れが何度となくやって来た。
未来は何が起こるか信長の常識では計り知れなかった。
(しかしさすがに家までは突然動き出すことはあるまい。これは地震じゃ)
家具が揺れる音、倒れる音、物が落ちる音、家が軋む音に混じって二階から悲鳴が聞こえた。
あらゆる物が音を立てながら凄まじい勢いで揺さぶられている。
信長は立ち上がって外に逃げようとしたが、その前に箪笥が引き出しを吐き出しながら倒れ、窓のガラスは全て畳の上に粉々に散り、その行く手を阻んだ。激しい揺れで真直ぐに歩くことさえ出来ない。
優太の部屋ではベッドのそばの北側の窓ガラスがピシッと音をたてて全面ひび割れた。這うようにベッドを離れ両親の部屋に向かおうとドアに向かったが、激しい揺れでドア枠が軋んでいるためか開かない。ドアノブに手をかけたまま体が宙に揺さぶられていた。
「おとうさーん!おかあさーん!」
優太は思わず叫んだが、自分の叫び声すらもこの部屋の中でかき消されてよく聞こえない。壁一枚を隔てているだけの場所にいながら両親の元へ行くことができない。一人で恐怖に怯えながら涙が出てきた。そして学校の避難訓練で習ったように勉強机の椅子をどかし、机の下にもぐりこんで膝を抱えた。しかしその机すらゴトゴトと音を立てて揺れながら前後左右上下の動きを止めない。机に据え付けられた本棚の本は全て床に散乱していった。
四人ともなす術もなく、ただ地震が収まるまでそれぞれの場所でじっと待つ以外なかった。いつ天井が崩れてくるかもわからない、いつ家が倒壊するかもしれない、そんな恐怖のなかで長い時間揺れに身を任せていた。
それでも揺れは収まる様子も無く、更にグワン、グワンと揺れ続け、背中にパラパラと天井の部材が降りかかって来た。
(何て揺れだ。一体いつになったら収まるんだ。優太は大丈夫か)
吾郎は頭に布団をかぶりつつも周囲の様子に気を配った。
大きな衣装ダンスがベッドにもたれ掛るように傾いていた。部屋の中の引き出しという引き出しが全て飛び出していった。家の軋む音に交じって、外から“ドーン、バリバリッ“という鈍い音が振動と共に伝わってきた。
布団に包まり身を守りながらひたすら揺れの収まる時を待ち続けた。
ようやく少しずつ横揺れが小さくなってきたような気がした。
(いくら何でももうそろそろおさまる頃だろう)
まだ揺れはしていたが優太が気懸かりでならない。ふらふらする中で障害物を避けながら部屋を出ようとした瞬間である。
“グワーン”、“ズドーン”、“ドーン”
再び下から突き上げるような激しい衝撃が襲ってきた。
吾郎の体は一瞬宙に浮き、真後ろに放り出された。
“ゴーッ”という地鳴りと共にまたもや前後左右上下の激しい揺れが始まった。転がるようにベッドの間に逃げ込むとタオルケットと布団で震える由紀と共に身を隠した。
外からも何の音かわからないが、様々な激しい音が聞こえてくる。
(何という地震だ。普通の地震ならもうとっくに収まってもいいはずだ)
吾郎は五分そして十分たっても依然として揺れ続けている様子に、これはただの地震では無いのではないかと疑い始めた。
(いきなり戦争かテロが勃発して都心に爆弾が投下されたか、巨大な隕石がどこかに落ちた可能性も十分ある)
もしこれが地震であれば恐らく有史始まって以来の大きさに違いない。この長時間にわたる揺れの間に、様々な憶測と心配が頭の中に充満していった。
(優太は大丈夫だろうか?
下に居る殿は無事か?
車庫のむら雲は?)
この超激震は二十分以上続いただろうか、正確な時間は今はわからない。体には依然揺れが残っていたが地面の揺れは収まったようだ。長時間にわたる恐怖と緊張で早朝にもかかわらず既にクタクタだった。
午前4時40分
吾郎も由紀も必死に耐えるだけで早朝から体力を使い果たし放心していた。二人とも船酔いの気持ち悪さを感じつつ、揺れが落ち着いたとみるや大急ぎで優太の部屋へ向かった。
“ドン、ドンッ”
「お~い、優太、大丈夫か!」
優太の部屋のドアが固くて開かない。
「ドアから離れていろよ」
二人掛かりでドアに体重を思いっきり乗せ、ようやく30cmほどの隙間がドアとの間にできた。そこから体を滑り込ませると、優太は大きく移動した机の下で頭を抱えながら青ざめていた。
「二階にいたら危ないから下に降りよう」
三人は明らかに傾いた階段を注意深くおりると、信長も部屋から抜け出し呆然と廊下に立っていた。
「地震か?」
「多分。でもまだ何が起きたか分かりません。戦争が起きた可能性もあります」
「戦だと?」
「いや恐らくは地震でしょう。この辺はいつ地震が来てもおかしくない状況にあるんですけど、こんなに長く揺れた地震は初めてです。恐らくこの反動で再び大きな余震がやってきます、注意しながら外に出ましょう。由紀と優太はドアを開けたままで玄関にいて。僕らで外の様子を見てくるから」
吾郎と信長は恐る恐る外に出た。初動の消防自動車の警鐘の音とパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。
空を見上げると晴れているのか曇っているのかさえ判らないが、既に東の方角は明るい。しかしいつもの鳥の鳴き声は一切聞こえない。湿気を含んだ南風が吹いていた。庭の中央付近まで出て周りを見渡してみると、北側の一番高い木が大きく傾き、家にもたれ掛かっている。周囲の電柱はみなバラバラの方向へ傾き、電線が弛み地上を這っている箇所もある。家の外壁は半分以上が剥がれ落ち、窓は金属ワイヤー入りの窓ガラス以外は無残に砕け散っていた。
近所の人々の声が聞こえる。周囲の家を見渡す限り、全壊までの家は無く、火事が起きている様子も無かった。すぐ隣のマンションの壁には幾筋もの太いひびが醜く入っているものの、窓ガラス以外はこの二十分程の激震を経た後とは思えないほど毅然と建っていた。免震システムがよほどうまく稼動していたに違いない。その住人達がマンションから飛び出し敷地の中で右往左往している様子が聞きとれた。
この付近は東京の中でも比較的地盤が固いことは知っていた。幸い庭に限っては心配していた液状化現象は起きていない。道路に出てみると表面のアスファルトは大小の固まりに砕け散り、路面には亀裂が入り、いびつに隆起している箇所が多々見られた。一つ道を挟んだ先の道路ではむき出しになった地面から、マンホールが筒ごと大きく飛び出していた。これではとても車が通れない。
一通り庭の周辺まで見渡して、家の中よりも外に居たほうが安全だと判断した吾郎は由紀と優太に外に出るように言った。
午前5時30分
吾郎は余震を警戒しながら家の中のリビングルームへと向かった。壁にもたれ掛かったテレビを起こして電源を入れみたが予想通り停電で何も映らない。それだけ確認すると今度はテーブルに置いたはずの車の鍵を床に見つけ、それを握り締めて再び庭に出た。
信長は既にむら雲を車庫から連れ出し手綱を木にくくりつけていた。むら雲はおびえた目つきで落ち着かない様子だった。
車庫は自重が軽いせいか、屋根のたわみ以外は何も被害を受けずに建っていてくれた。
吾郎は車に大きな破損が無いことを確認すると、エンジンをかけてカーナビをテレビモードにした。が、やはり全チャネルとも放送が中断されていて状況がつかめない。
テレビは諦め、次にラジオを試したがFM放送はやはり全滅だった。
AM放送に切り替え、手動で丁寧にチューニングしていると幾つかの放送局を捉えることができた。
いずれも緊急放送として関東で大地震があったことを伝えている。詳細情報に関しては未だ分からないという。
(とうとう関東に大地震がやって来たか)
各地の地震情報は通常数分と待たずに寄せられるはずだが今回は関東を除くその周辺地域からの地震情報だけが伝えられていた。
静岡、諏訪、小諸、高崎、前橋、佐野、小山、つくば、成田で震度六強、その外側でも震度六弱、名古屋や仙台でも震度四の揺れを観測している。しかし自分達が住む肝心の東京の様子が分からない。今回の地震は関東を中心に本州全体が揺れたのではないかと思えた。とすると、東京の震度は一体どの位だったのだろうか。
吾郎はラジオを点けたままにして車の窓を開けると一旦降りた。
「我々を取り囲む周辺の地域で震度六が記録されているそうです。これは相当広範囲で大きな被害が出ているに違いありません」
「震度六、相当大きな揺れか?」
「尋常では無い揺れです。相当な被害がでますよ」
「暫くどうなっちゃうんだろう」
不安げに由紀が呟いたが、今は誰もわからない。
その時、「また来た!」 吾郎が叫んで三人を見た。
再び地面がグラグラと揺れだし、周辺の家々からも一瞬悲鳴があがった。
四人は車庫へと駆け込み、木々の揺れを見ながら余震が収まる時を待った。
だがあの大地震の余震としては極端に小さく、ものの数十秒地面を揺らしただけですぐに収まった。
その後も何度か小さな揺れは繰り返したものの大きな余震らしき揺れは来る事が無かった。
吾郎は車庫に置いてあるキャンプ用の簡易テーブルとディレクターズチェア四脚を持ち出すとそれらを組み立てて庭に置いた。
家から非常用に備えてあった懐中電灯付きラジオを持ち出すと、テーブルに置いて先程の放送局に合わせてみた。しかしそこからは先程と同じ内容が繰り返されるばかりで最新情報はまだ入手出来ていないようだった。
信長は自分自身も初めて体験したこの大地震で、未来人が一体どう対処していくのか興味を抱いた。
(これだけの文明を創り出してきた未来人じゃ。大自然の送りつけた試練など何も無かったかのごとく平然と対処するかもしれん)
午前6:00
大きな余震に備えて外で過ごしているものの未だその気配がない。とりあえず優太を外に残して三人で着替えのために一度家に戻ることにした。優太の着替えは由紀が用意し、吾郎は冷蔵庫から牛乳と水を取り出し、テーブルから転げ落ちたバナナとロールパンを拾い上げてきた。水のボトルを見つめながら“はっ”と思いついたように吾郎は、庭にある水道の蛇口をひねってみた。十秒ほど水は流れ出たものの見る見る水流が細りやがて出なくなった。
(大変だ)
吾郎は慌てて近所のコンビニに走っていった。歩いて二分とかからないコンビニは、店の上に掲げてある青と白の看板パネルが大きくひび割れ、入り口のドアが半開きのまま窓ガラスは粉々に割れていた。店内には馴染みの店主が入り口に背を向けて棚から零れ落ちた商品を次々と買い物カゴに入れていた。深夜担当のアルバイトはこの非常事態に帰したのか、自分で勝手に帰ったのか、いない。
商品の大半は床に散乱しワインやウィスキーの瓶が割れたのであろう、アルコールのツンと鼻にくる臭いが漂っている。店主は店に入った吾郎の顔も見ずに黙々と作業を続けていた。
「無事でしたか。すごいことになりましたね」
「あ~、とんでも無い事が起きたもんだ」
「店の中もひどい状態になっちゃいましたね」
吾郎も床の商品を拾いながらカゴに放ってみた。
「商品をカゴに入れてどうするんですか?」
「一度全部倉庫にしまうんだよ」
相変わらず吾郎の顔などまともに見ようともしない。
「大変な時に申し訳ないんですが、水と食料を分けてもらえませんか?」
それでも手を止めずに商品を複数のカゴに入れ続けた。
「それはできん」
店主は昨日迄とは打って変わり、極めて無愛想な態度で即答してきた。
「そこにまだ沢山あるじゃないですか。緊急時なんだからお願いしますよ」
吾郎は努めて冷静な態度で店主に頼み込んだ。
「だめだ、だめ。こんなことになって、これからどうなるかまだ分からないんだ。まず自分達の分を充分確保するまでは売ることなどできんよ」
その口調は地震がまるで吾郎のせいでもあるかの様だった。
「少しくらい分けてくれてもいいでしょう?二日もすれば救援物資だってやってくるはずじゃないか」
「いくら言っても今はだめだ。帰れ、帰れ。だめなものはだめだ」
しばらく押し問答が続いたが店主の意思は変りそうに無かった。吾郎は心の中で大いに憤って店を後にした。店外の自動販売機は、いずれも停電で使えない。緊急時用の自動販売機は停電時にも使えるがこの辺には無い。
乾パン、水、缶詰等は一階の収納庫の奥に備蓄してあったがとても十分の量とは言えなかった。当面の食料品と水は出来る限り多く確保しておきたい。時間をおいて別の店に行ってみようと考えながら家に戻った。
午前7:00
ラジオ放送は相変わらず同じニュースを繰り返していた。
「ちょっとみんなで若宮小学校まで行ってみよう」
吾郎は緊急避難場所に行けば何か新しい情報があるかもしれないと思い、近くの小学校へ四人で出かけた。芝生が敷かれた校庭には既に多くの人々が集まっていた。大人達は互いの無事を確認すると、たった今皆同じ体験をしてきたにもかかわらず、それぞれが地震で如何にパニックに陥っていたかを伝え合っていた。子供達は早朝にもかかわらず元気に校庭を走り回り、携帯を使えない若者達は手持ち無沙汰でただ座って膝を抱えたまま友人同士でボソボソと話をしていた。町内会の長老達は声高に今後のことを話し合っていたが、区からの指示が無いことにはまだ何も動けない様子だった。想定内の緊急事態であれば、警察、消防署のいずれかの署員がやってきて緊急避難の指示を住民にするはずであったが、その範囲を超えていた。あまりに広範囲すぎて一つ一つの拠点まではとても手が回る状況ではなかった。期待してここへ来てはみたものの新しい情報も如何なる指示も無さそうだった。
国の対策本部もこの時点では本部自体が設置されているかどうかも定かでない。都の対策本部もしかりである。よってそこからの指示を待って動くはずの地域担当者達は機能出来ずにいた。
八時を過ぎても何等状況は変わらず、埒が明かないと思った人々は三々五々避難場所を後にしていった。吾郎たちもあきらめて一度家に戻ることにした。
庭に出した椅子に座りながらラジオを聴き続けていると信長が話しかけてきた。
「こういう緊急事態には誰が指揮を執るんじゃ?」
「政府が緊急災害対策本部をすぐに設置することになっていますが、今機能しているかどうかはわかりません。首相官邸、内閣府、防衛省、気象庁も今は彼らの設備の復旧作業の最中だと思いますよ。悪いことにこの十月の衆議院選挙を控えて、大臣クラスも含めて国会議員の多くは皆地方に出かけているはずなんです。対策本部を設置してもヘリコプターを使って参集するには時間がかかるし、それより敢えてこの危険地帯に対策本部を設置するかどうかも疑問ですけどね。」
この時点では内閣総理大臣による警戒宣言も区長による避難勧告も出ていなかった。
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