もし、魔法が使えたら。

パン大好き

文字の大きさ
上 下
14 / 25

14.束ねた青髪を揺らし、額に汗を光らせミーアは戦場へと駆けた

しおりを挟む
「私も世界の灯の守護者の血を引いています」

 束ねた青髪を揺らし、額にうっすら汗を光らせながら戦場へと駆けるミーア。

「いま戦わずして、いつ……いつ、この力を使うというのですか!」

 全速力で走り息を切らしながらも語る言葉は高まる気持ちが重ねられ語気が強くなる。その真に純なる使命感は尊重したいのだが……アシスの胸中には懸念の二文字しか浮かばなかった。

 思い出すのは初めて出会った、あの村の郊外での邪炎との戦い。彼女が繰り出した炎の魔法は確かに威力こそ申し分なかった。だがそれに見合うスピードが足りておらず、易々と邪炎にかわされていたからだ。魔法が当たらず窮地に陥っていたところをアシスの助けで切り抜けたのだった。

「ミーアは後方でサポートに徹した方がいい」

「いいえアシス様。たとえアシス様といえど、それに従うことはできません」

 ミーアは即座に、しかし、きっぱりと拒絶の意を示した。

「私は村長の娘です。民とともに邪炎と戦う責務があるのです」

「ミーアの魔法では、まだ邪炎を捉えることができない」

「いいえ、私は村人と共に戦うのです」

「意外と頑固だな……」

 心の中でのつぶやきが思わず声に出てしまった。が、幸いにしてミーアには聞こえなかったようだ。暗がりの中、柔らかな唇をきゅっと結んだ横顔が行く手を照らすカンテラの光に浮かぶ。まっすぐに村民たちを想うその気持ちを守ってやらねば。いや、必ず守ってみせる。アシスは静かに誓った。……もし、俺に妹がいたらこんな感じなのかもしれないな。ふとそんな思いを抱きながら。

「彼女が戦いたいっていうんなら、アシスがサポート役に回ればいいじゃん。それに、今回はそれほど危機的じゃないようだし」

 背中でつぶやくロッドの声は、先ほど警戒を伝えたものより幾分軽いトーンとなっていた。促されて暗闇に包まれた丘を見ると、綿花が茂る畑を赤黒く渦巻く炎で焼き尽くしながら迫る邪炎の数は、十数体ほどと思ったより多くない。あすの新月を本格侵攻の日と定めているのだろう。挨拶代わりの襲撃といったところか。

 すでにモムル率いる村民の部隊が、邪炎と戦っていた。激しい金属音と、腹の底を掻きむしられるかのような、おぞましい邪炎の断末魔が時折、野原に響きわたっていた。
しおりを挟む

処理中です...