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22.思慕の情に突き動かされ、か細い少女はアシスの手をそっと握った
しおりを挟む当のアシスはロッドと先ほどの巨大邪炎アリュクスについて話し込んでいた。ちょうどミーアたちに背を向けた形となっていたので、先ほどミーアの身を包み込んでいた紫色の光を見ることも知ることもできなかった。
極大魔法たるレガリオンの呪いは、いかばかりなのか--アシスの心に重くのしかかる。愛情を語り合った者、そして男女を問わず親しく心を交わし合った者。彼らの温かな眼差しが、一転して尖った冷たきものとなる、あの絶望感。ああ、ミーアとて忘却の呪いからは逃れられないのだから……
「あの、アシス様。アシス様っ! 聞こえているんですかっ! アシス様ったら!!」
深く沈むアシスの心の端っこで、ふわりと青い髪が揺れ、鈴の音を鳴らしたような軽やかな声が我が名を告げていた。ああ、ミーアが俺を呼んでいるんだな……って、えっ? ミーアが?
「おいアシス、こりゃ一体どうなってんだ?」
ロッドが驚きの声をあげた。なぜだか分からないが、ミーアが俺のことを覚えている。いまだかつてない事態にアシスもロッドも戸惑っていた。
「さあ、一緒に村に帰りましょう!」
ミーアが元気よく手を引っぱる。彼女の手の柔らかな温もりが、じんわりとアシスの心に伝わる。色々と疑問に思うこともあったが、今は、今だけは、その温もりをしっかりと握り締めていたかった。
村長の館への帰途、一時たりとアシスがその温もりを手放すことはなかった。
アシスと別れて自室に戻ったミーア。戦いのままの衣服であったが、構わずベットに身を投げ出した。いつもの匂いに包まれて緩やかな安らぎが訪れた途端、えもいわれぬ不安に襲われた。
「分からない。なぜなの。やっぱりアシス様のことが思い出せない……」
自分の中の大切な何かが、いつの間にか消え去っている違和感。私が私でなくなるような……そんな違和感は、自身の存在をも薄ら寒くさせるような危うい感覚だった。
一人ぼんやりと天井を眺める。しかし、不安の渦は鎮まるどころか逆に大きくなる。たまらずミーアは起き上がり、そっとアシスの部屋に忍び込んだ。
激しい戦いの疲れからだろう、アシスはランプをつけたまま椅子に深く腰掛け深い眠りについていた。だらりと垂れた黒髪が視界に入った途端、湧き上がるアシスへの想い。か細い少女の胸に収まりきれず、溢れ出した思慕の情。そんな想いに突き動かされたミーアはアシスの手をそっと握った。
彼の指先にそっと優しく触れる。それはミーアにしか分からない、アシスと過ごした時間の証し。気づかれないように、でも、しっかりとアシスへの想いを刻み込む。
ミーアには確信があった。根拠などないのだが、先ほどの戦いの後の、あの綿花の見せた紫色の光。あれはきっと………
焦りにも似た淡い恋心に駆られたミーアの一途な行動は、アシスはもちろんのこと彼の後ろ盾となる創造神すら気づくことはできなかった。
ただ、壁際に立て掛けられたロッドは静かに見守っていた。
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