てるる綴れ

てるる

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年の差10はナシですか 2

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先生と初めて出会ったのは、新入学、新学期の教室。

俺たちは体育の後で、気分が高揚していた。

工業高校のことだから、新学期は鬼のような
集団行動訓練である。
運動場で延々と行進をさせられ、何度も何度も気を付け、休めを
繰り返し、さながら全体主義国家の軍事調練だ。
俺たち男子は阿呆だから、ありあまるエネルギーを
こういうバカみたいなことで発散するのは
嫌いじゃない。

着替えを済ませ、姿勢を正して、国語の先生が
現れるのを待った。
さっきやった休め、気を付け!からのあいさつを
したくてわくわくしながら。

始業のチャイムが鳴って、間もなく、
古い引き戸をきしませて体を滑り込ませてきたのは、
小さなカワウソのような女の子だった。

いかにも工業高校らしいいかつい男の先生ばかりではなく、
女の先生も居たのか!
とりあえず、女性だというだけで色めき立ってしまう
バカな男子クラスだ。
教室がざわつくのに構うことなく、その小さな女の子は
山となった副教材を抱えて、のちのちと
教壇に上がった。
上がったが、なんだかサイズ感があまり変わらない。
そして、小ぶりな体にしては意外な音量で

「あいさつをお願いします!」

と、教室にその声を涼やかに響かせた。

級長が号令をかけ、調子乗りの俺たちは
運動場の集団行動と同じようにあいさつをした。

「今年の1年生も活きがいいですねえ」

まだ高校1年とはいえ、むさくるしくなりつつある
男子集団を前に、女の子が教壇にひとり。
なんとも違和感しかない光景だが、先生は
ふくふくと笑って、まったく動じる様子がない。

新卒かと思っていたら、なんともう勤めて丸3年だという。
そして、小さい小さいと思っていたが、実のところ
158㎝とかで、平均くらいの身長はあるのだと威張り、
他の男先生たちが、180㎝前後のひとばかりなので、
相対的に小さく見えるのだろう、と付け加えた。

俺と15㎝差くらいか。


キスするのにちょうどいい身長差


前に女子が言っていなかったっけ。

そんなことを思い出してしまった自分に
驚いた。


ひと目惚れのようにして、恋に落ちたらしい。

クラスの他の連中もじきに骨抜きになっていき、
体育やら実習やらの厳しい授業の合間の
癒しを先生に求めるようになった。


「楽だと思ってるんでしょ?」

先生は頬を膨らませた。
みんなはそれを見て喜んだ。

俺は、いい成績を取って、先生に認められよう。
俺にだけ向けられる笑顔を俺は見たい。
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