てるる綴れ

てるる

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日曜学校の思ひ出 2

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茶色っぽいブロンドに眼鏡をかけたシャイな
女の子である。

そのときの会話などはまったく思い出せないのだが、
30年近く経った今も、その聖書はわたしの手許にある。


忖度という言葉はわたしの辞書にはなく、
かつまた、当時は子どもでもあったから、
その少女が何を思って、わたしに自分の聖書を
寄越したのかわからなかった。


今も、わからない。

だから、わたしは想像する。

彼女の思いを、自分の聖書をくれた意味を。

記憶の糸をたぐれば、どうも彼女は引っ越しをすることに
なっていたのではなかったろうか。
そもそも日曜学校で面識がある程度のおつきあいであったように
思う。
そんな薄い間柄であったにも関わらず、彼女は何らかの
興味を持ち、自分の思い出の代わりに、わたしに
彼女の聖書をくれたのだろう。

きっとそれはとても大切なものであったろうに。


もう名前はおろか、顔もよく思い出せない。
記憶の中に生きる女の子だ。


今日のように、デヂタルでつながる世界ではない。
子ども時代は、こんな出会いと別れの繰り返しだった。


わたしは毎年クリスマスになるとその聖書の存在を
思い出しては、手に取ってみる。

そして、一度別れたら再びまみえることのない出会いがあることを
思い出すのだ。
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