てるる綴れ

てるる

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遺骸 2

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そこに暮らす人々がどんな生活をしているのか
想像もできない山間から忽然とその姿を現したのは、
意外なほどの都会だったことを後で知る。


外見は小洒落た駅舎を出ると、目に飛び込む山と河。
いかにも城下町らしい構成だ。

「地の利を活かした天然の城砦だな」

母が片頬に不敵な笑みを浮かべた。
戦国武将かい。

母がすたこらと旅の準備を進めてくれたのは、
僕のためではない。
自分の興味のないことには、いたって
腰の重い母である。
僕の学校の行事などは、たいてい嫌々で
ぶつくさぶつくさ文句を垂れながらやってくる。
子どもの追っかけをしている自子中心主義の親よりは
マシだとは思うけれども。

母のシュミの中には城廻りがある。
子どもの頃から、どこか旅に出るときは
必ず現地の城を訪れてきたそうだ。
同じように見えるものでも、ちょっとした違いや
工夫があるのが面白いらしい。
こういったディテールにこだわるのもヲタ属性の特徴だろう。
とはいえ、この母のDNAによって、僕もピアノの
音にはうるさく、だからこのド田舎にある
珍らかなグランドピアノに興味を引かれたのだけど。

駅から続く商店街は、悲しいばかりのシャッター街。
週末だというのに、ひとかげもまばらだ。
そのうえ、若者が、居ない。
ここは美人の産地だということなのに、
10代の姿はみかけない。
かつての美人が店番をしていることはあるけれど。

昭和初期から眠ったままであるような街では
あるが、そこここに歴史的な建造物が散見される。
空襲を免れたのだろうか、ひいおばあちゃんが
住んでいたような洋館や、町家が残されていて、
散々ド田舎と言って申し訳なかったけれど、
区画のきっちりした碁盤の目の通りに
城下町の気高さを感じるものである。

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