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独身貴族の夕べ

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大学時代を含めると、独り暮らしもそろそろ10年くらいになるのかな。
身の回りのことは、すっかり板についている。
寂しい独身男と言うなかれ。
俺は姉ふたりよりはるかに几帳面で、
テーブルの上のリモコンはきちんと並べて置いてあるし、
2DKの部屋の床には塵ひとつない。
料理だって、お手の物だ。
担任している2年生のデザイン科のクラスは、
成績こそ高くはないが、運よく問題を抱えた家庭が
少なく、今のところ、家庭訪問などをする必要がない。
このまま大過なく1年が過ぎればいいと思う。

部活がなければ、たいてい定時に帰れるが、
職員室には同年代の先生も多いし、
よく呑みに誘われる。
俺はつきあいの悪いほうではないが、自炊をしているので、
週末だけご一緒させてもらう。
今夜も週末に下ごしらえをしておいた肉や野菜で
簡単な夕食を調えた。
小さな缶ビールで、晩酌だ。

シャワーを浴びて、さっぱりしたところで、
俺様至福の創作タイムのはじまりである。
今は取り立てて描くことがないので、専ら
INPUTに時間を割いているけどな。
見逃した映画をDVDで観たり、本を読んだり。
カノジョいない歴は年齢と同じ、ではない。
ひとりで居る時間を滅法愉しんでしまっているので、
殊更恋人願望も結婚願望もない。
姉ふたりのところに姪やら甥やら、イマドキ珍しく
ざくざくいるので、寂しくなったら遊びに行くと、
子守りに重宝される。

そもそも。
これがいかんという気もするが、学校というところが、
ある種ファミリーを形成してしまっていて、
それこそ校長や教頭が親で、同僚は親戚、
生徒たちがきょうだいや、子どもみたいだから、
独身の侘しさをかこつ理由がないのだ。

そして、姉の友人のゲイ専門の看護師さんから
(なんだ、その専門性!?だが)
学校はゲイ人口が高くて、だから結婚しないひとも多い
という話を聴いたことがある。
ほんまかいな。
教育現場のダイバーシティはどこよりも先端で
あるべきだから、ゲイ・フレンドリーなら
喜ばしいことだが、俺の知る限り、明らかにセクマイ
というひとに出会ったことはない。
まあ、俺たちガチ・ストレートが「ストレートです!」と
喧伝しないのと同様、彼らもいちいち言う必要ないからな。
言わないのと言えないのとでは、雲泥の差であろうけれども。
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