断罪する側と断罪される側、どちらの令嬢も優秀だったらこうなるってお話

kouta

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第23話 新都と旧都

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 休憩を終え心身共にリフレッシュした後、リズベット達は馬車に乗り込み、ツコシヤート湖を後にする。その後パルフェはリズベットとライネルに最終目的地について話し始めた。
「これからツコシヤート湖から伸びる川沿いに進んで、新都に向かうよ」
「確かグレイシア国の主となる都は昔別のところにあったのだったかしら?」
 リズベットの問いにパルフェは頷く。
「そうだね。効率の良い塩の製造法が分かるようになってから、海沿いに都を場所を移したんだ。一番経済が回っている所にトップがいないってのも変な話だし。漁業についてはそれに伴って発展して行った感じだね。魚についても塩による保存法の確立が決め手だったみたい」
「都を移動するって大変な事だと思うけど、海があるってそれだけ凄いものなのね」
 実のところリズベットは海を見た事がない。北、東、南が隣国であるため、フローディア国では海が見れる場所がないのだ。ちなみに西に関しては厳しい山岳地帯となっており、火山も転々としているため、そもそも人が住めない土地となっている。
「旧都は旧都で今も残ってるし、あそこもあそこで趣があって良い街だよ」
 現在グレイシア国では新都が一番である事は確かである。しかし活気こそ新都と比べて落ちるが、その分落ちついた雰囲気を持つ旧都が好きと言う者も存外に多い。街に古くから刻まれた歴史がそうさせるのかもしれない。
 リズベットは興味津々と言った様子でパルフェに尋ねた。
「旧都は何が有名なのかしら?」
「んー、それこそ歴史がある街から、街並みそのものと言ってもいいのだけど。今だとかつての王城も中に入って見る事も出来るし」
「それはとても興味がそそられるわね」
「姉さんは好きそうだよね」
「私も興味はありますな。城は浪漫でありますから」
 ライネルの妙な言葉にパルフェは目を丸くする。
「浪漫って何?」
「勘違いしないで欲しいので先に言っておきますが、別に私はグレイシア国を攻めたいとかそういうわけではないのであしからず」
 そう前置きをしてライネルは話を続けた。
「我々騎士達はもしも戦争になった場合に備えて、関所や砦などの要所をどう攻略するかを学び、最後は城について学びます。攻めに行った際はどうするのか、あるいは守らなければならない場合はどうするか、など。その中でも城はまさに最後の砦で決戦の舞台、ここが落ちれば国として終わるともあれば、城はその国の最強の守りでなければなりません」
 ライネルの話を聞いて、リズベットはフローディア国の王都はどうであったかを思い出していた。リズベットはかつての王妃候補であり、その時に城についても学んでいる。専らどこかから攻められた時、どう安全に逃げるのはどうするのかがメインではあったが。そんなリズベットでも基本的な部分は分かっているつもりだ。
 フローディア国の王都はいわゆる城郭都市であり、都の周囲には高い壁がそびえており、さらにその周りには深い堀がある。これによって王都へは基本的に東西南北になる門からしか入ってこれない。
 肝心な王城はというと街の中心地の高い丘に建てられており、そこに至る道はあえて細めに設計されている。利便性を無視してまで狭くしたのはいざと言う時のために攻め辛くするためで、その両脇には櫓が等間隔に建っている。迂闊に突っ込んだら上から矢を撃たれまくるという事だ。
 知識はあれど、それが特別優れているかは専門ではないリズベットには分からない。しかしながらよく考えられているのは十分理解できた。
「私なぞは昔は腕っぷし一つだけのガキでしたので学びなど大嫌いでしたが、それでも勉強していくとですね。色んな状況を想定して作られた城は、人に例えるととてつもなく強い武人のようにも見えてきて、攻略が難しい優秀な城には憧れのなようなものが芽生えてくるのですよ」
 熱く城を語るライネルはどこか子供のような無邪気さを感じさせた。しかしリズベットとパルフェは気が気じゃない。城の機能に興味あるなんて完全に諜報者である。危ないどころの話ではない。
「おじ様、お願いだから新都に行った時にどう攻略するかとかは言葉に出さないでね」
「それ、私もやばくなりそうだから頼むよおっちゃん」
「無論それは弁えております。安心してくだされ!」
 城の攻略を考えるのは騎士としては必要な事であったであろうし、ライネルの浪漫を否定はしないが、今リズベット達は戦いに行くわけではない。ライネルの事は信用してはいるが、新都を見て不穏な事を呟き出さないか、ちょっと不安になるリズベットであった。
「食べ物とかはどうなの? 新都と旧都で違いはあるのかしら?」
 気を取り直してリズベットはパルフェに別の話題を振る。
「今だと旧都にも新都で物流はしっかりしてるからそう大差はないんだけども、旧都ならではの食べ物と言えばやっぱりヤギ肉のシチュ―かな。古くから食べられているし、歴史があるものなんだよ」
「ヤギってグレイシア国では多く生息しているものなの?」
 リズベットの言葉のニュアンスに引っかかるものを感じたパルフェであったが、程なくしてそれが何であるか思い至り、リズベットに説明する。
「何かさ? 結構フローディア国では勘違いされたままになっているのだけど、グレイシア国は結構前から狩り主体から変わって、ヤギとかは自分達で育てているんだよ。昔ながらの狩りもやってはいるけどさ」
「え、そうだったの? ごめんなさい」
「いいのいいの。うちの商会のフローディア人の連中がこぞって勘違いしていたのを思い出したよ。自国で穀物が獲れないから、餌不足で畜産は難しいのではって認識の人が大半でね。だから実際のグレイシア国を見て驚いていたもんさ」
 リズベットの認識も一緒であった。穀物を輸入に頼るグレイシア国では畜産はやりたくても出来ないのでは、と考えていたのだ。
「それでその考えに対する答えだけど、半分正しくて、半分正しくないね」
「半分ってどういう意味ですかな?」
「グレイシア国では牛とかは餌が高価すぎるから飼えない。これは事実なんだよ。でもヤギってのはなかなか逞しくてね。草さえあれば何でもいいんだ。それこそそこいらの雑草でも大丈夫。 作物の育ちにくいグレイシア国でも、雑草ならいくらでも生えているわけで、ヤギなら育てられるってわけ」
 リズベットだってヤギが牛と同等に育てられる事自体は知識としてある。だが家畜の生態までは流石に把握しておらず、全く予想していなかった事実に目を丸くした。それはパルフェ商会に属するフローディア人が皆通ってきた道であった。
「グレイシア国だって狩りだけの生活ではいずれ限界があるってのは理解していたんだよ。だから国を挙げて安定した食糧を探したんだ。そうして辿り着いたのがヤギだったってわけ。そもそもヤギは何でグレイシア国内でこんなに数がいるのか。そこから興味を持って生態を調べていったって話だね。これまでも狩りの対象ではあったから、肉の味は既に知っていたし、そういった面でも安心感があった。今でこそ塩と魚だけど、ヤギの畜産に成功した事もグレイシア国の歴史としてはとても重要なんだ」
「フローディア国の持っているグレイシア国の情報って遅れているのね。かなり昔で止まっているじゃない」
 げんなりした様子を見せるリズベットであったが、その裏には無理もない事情がある。しっかりとした餌場があるフローディア国の牛の畜産と、基本勝手にどこかで食べてくるヤギの畜産は見た目が違いすぎており、畜産のイメージが固まりすぎていたフローディア人には、それが畜産であると判断出来なかったのだ。 
「その名残で旧都の近隣の村では未だにヤギを育てているわけだけど、今でも重要な肉の供給源だし、新都にも多くのヤギ肉が送られている。ヤギ肉の味はちょっと癖は強いかもしれないけど、新鮮だと凄く美味しいし、個人的には牛にも引けは取らないと思ってるよ。それこそグレイシア国だとチーズや、ミルクもヤギのものさ。皮も丈夫で加工品に使えるし、イイコト尽くめだよ」
「そう言えば私が昔買った手提げ袋って」
「もちろんこの山羊革だよ。今では人気商品の一つさ」
 リズベットはため息をつく。話の流れで明かされた衝撃的な事実の数々は、お腹いっぱいになる程の濃厚さであった。
 知ってしまったからには旧都にも興味が湧きまくるリズベットであったが、ただでさえいきなりグレイシア国に来てしまったため、これ以上は流石にきついと自制する。これ以上と言うか、とっくの昔に手遅れであるのだが、リズベットの中ではそうでないらしい。
「話を聞いていると凄く行きたくなるのだけれど、あまり時間かけ過ぎるとユーフィリアが爆発しそうだから、今回は我慢ね」
 リズベットからユーフィリアの名前が出た事を受けて、それまでグレイシア国の良さをアピールしていたパルフェはふと真顔になった。
「姉さんの頼みを受けて連れてきた私が言うのもあれだけどさ。ユーフィリアさんって人も色々と大変そうだね」
「ユーフィリアとレナードを信用しているからこそよ。もし彼女達がフローディア国を守ってなければ、こうして私はここに来てないわ」
「美しい友情なんだろうけどねぇ」
 パルフェが問いかけるような視線を投げかけると、ライネルは苦笑で返した。
「ま、こうして姉さんやおっちゃんにグレイシア国を知ってもらうのは私も望むところだし、私は私の仕事をまっとうしますよっと」
 パルフェは得意げな笑みを浮かべて行った。
「姉さん、ツコシヤート湖も初めてだったんだ。海なんて尚更見た事ないだろう? 楽しみにしておいてくれ。私が本物の港町ってのを見せてあげるよ」
「もちろん期待しているわ!」
 リズベットが新都に大きな期待を寄せる中、馬車は新都に向けて進み始めた。
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