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第41話 リズベットは気が重い
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ユーフィリア達との話を終え、自室に戻ったリズベットは窓から外を眺めていた。かなり長い時間話していたため、日はすでにとっぷりと暮れてしまっている。流石に長旅の疲労が色濃いリズベットであったが、その頭はむしろはっきりしていた。
フローディア国を愛しグレイシア国を恨む者、その者こそがリズベットの両親を、伯爵家を奪った。シュタイン家が狙われた原因はリズベットがグレイシア人と関わりを持っていたからである。
その事実は決して軽くはない。リズベットとしてはグレイシア国との友好は正しい事だと思っているし、退く気はさらさらない。だが自分のせいで両親が死んだ事はリズベットの心の重石となっていた。
公爵家令嬢暗殺を依頼したのはシュタイン伯爵であり、例えそそのかされたのだとしてもその罪は重い。しかし暗示なら話は変わってくるのではないか。暗示であるのであればシュタイン伯爵の意思ではない。だとするならば命までは奪われなくても良かったのではないか。もっとしっかり調査をすればあるいは……
そこまで考えてリズベットは頭を振った。話はそう簡単ではないのだ。
後にユーフィリアがアシュリーに暗示がかけられていた事を知ったのは、偽聖女事件そのものが怪しかった事の他に、王宮内であった事が幸いした。
フローディア国は遠い過去、傾国の魔女の魅了によって国を内から壊されそうになった経験から、王宮内は対策がされていたのだ。
匂いなどに対しては徹底した座学だ。王宮に勤める者は必ずどんな匂いが危険なのかを学ぶし、知識だけでは防ぎようもない魔術的なものに関しては、シャンデリアなど一見ただの装飾に検知する機能が備わっている。その場で色が変わったりするとばればれなので、別室にある魔石が光る仕組みだ。
魔石が置かれてからそれまで光る事など一度もなかった故、本物かどうか半信半疑の面もあったのだが、魔石の定期的な観測と手入れは、怠れば罰則があるほど厳しく定められており、当時の混乱が如何に恐ろしかったかの証明のようにも思われた。
そうした厳重な規則故、暗示の恐怖が薄れた今であっても観測係は必ずいて、今日も何も起こらないだろうなと思っていたら、急に魔石が光ったため慌てて報告に来たという。
魔石が光る原理はどうなっているか不明であり、何時どのようにして入手したのかさえ不明であるが、過去の暗示事件の後に導入されたものらしい事は分かっている。それ故に増産などは出来ず、王都の方は魔術的なものに関しては何も対策出来なかったわけだが。
アシュリーにされていた暗示は魔力的なもの、その黒幕がシュタイン伯爵をそそのかした人物と同一人物であるとしたら、シュタイン伯爵はじめ、事件の関係者に暗示が使われた可能性は大いにある。
ユーフィリアがグレイシア国の諜報員、グレッグとルリカに会う際に持って行った抗魔のアミュレットは、ミリシアン国との国交がないフローディア国では貴重品だ。アシュリーの事件の後に、事態を重く見たユーフィリアが、王宮内だけでは守りが足りないと何とか手にしたものである。
故にリズベットは考えてしまう。公爵令嬢暗殺未遂事件と偽聖女事件、この二つの順序が逆であればと。先に魔力的暗示があった事を知っていさえいれば、シュタイン伯爵の件でも暗示が発覚していたのではないかと。
しかしあの時真っ先に諦めてしまったのはリズベットなのだ。だからこそリズベットはたらればを考える資格はないと思っているし、当時の捜査した者達だって責める事は出来ない。彼らは当時出来る事の最善を尽くし、リズベットの命を救ってくれたのだから。
「私が諦めなかったら何か変わっていたのかしら? それとも……」
リズベットのその問いは闇にかき消えていく。
「グレイシア国に関しては手ごたえ感じているし、良い方向には進んでいる。それは間違いないのだけれども、どうにも悲観的ね」
こういう時は早く寝るに限るのだが、一度思考の海に浸かってしまうとなかなか抜け出せないのをリズベットは知っている。どうしたものかと悩んでいるとドアをノックする音が聞こえた。
「リズベット様、まだ起きていらっしゃいますか? アシュリーです」
「ええ、起きているわ。何かあったかしら?」
「宜しかったらハーブティーでも如何かと思いまして」
「あら、気が利くわね。ありがたく頂戴するわ」
「それではお部屋に入らせていただきますね」
アシュリーは部屋の中に入ると、手際良くお茶の準備を進めていく。お茶とは奥深いもので良い茶葉だから美味しいというわけでもなく、温度、蒸らす時間などで味が変わる。しかしながらアシュリーの動きは堂々たるものであり、自信に裏付けされたものであった。程なくして差し出されたカップにリズベットは口をつけると、じんわりと風味が広がり、甘味すら感じられるそれは見事であった。
「大したものね」
「恐縮です」
「ちょうど寝ようとしても寝られなかったからお茶はありがたかったのだけれど、あなたはユーフィリアから離れていても良いの?」
「私はルーク様とシャルロッテ様のお世話も仰せつかっておりますから。しかしながらお二方はつい先ほどお眠りになられましたので」
「私の方に来たと。なるほど」
柔和な笑みを浮かべるアシュリーにリズベットはどうしたものかと内心悩む。リズベットが王都に戻ってきて以来、顔自体は何度か合わせていたがこうして二人きりと言うのは初めてであった。
リズベットにユーフィリアの従女であるアシュリーと会話する必要はないわけであるが、そうした貴族ムーブはリズベットは好きではない。だからリズベットは実に無難な話をアシュリーに振った。
「ユーフィリアの子供達ってどういう子達なの?」
「多分リズベット様は品行方正で後に賢王になる、みたいな美辞麗句を求めているわけじゃありませんよね?」
「もちろん」
アシュリーの反応にリズベットは話が早いと笑みを見せる。こういった空気の読める者をリズベットは嫌いじゃない。
「そうですね。不敬罪に処されるのは嫌ですので、これから話す事を内密にしていただければ本音で話しますよ」
「契約成立ね。じゃあまずは息子の方から教えてくれるかしら? 顔はユーフィリア似に見えたけれども」
リズベットはウキウキした様子でアシュリーに先を施す。
「ルーク様はそうですね。一言で言うとやんちゃですよ。しょっちゅう作りかけのおやつに手を出そうとするので、いつもどう防ごうか悩んでいるんですよ」
「あら、そうなの? レナードとユーフィリア、二人の子供って考えれば想像もつかないけれど。でも二人も幼少の頃は結構やんちゃしていたのかしら?」
「ライネル様から聞いた話なんですけれども、ユーフィリア様、よく騎士団の稽古場に顔を出しては、訓練用の木剣を爛々と振っていて困ったそうですよ」
「そう言えば私達が学園に通ってた頃、騎士課の上位成績者発表の張り出しにユーフィリアの名前が載っていてビックリした事があったわ。つまりあれって本当なのね」
「私、ユーフィリア様に投げられた事ありますよ。暗示掛けられてた時なのですけれど。体が勝手に動いて止められないって思っていたら、宙を舞っていて、何が何だか分からないまま床に押し付けられて……その後はもう全く動けませんでした」
「宙を舞うって……凄いわね」
「あの時の私、確かに空を飛んでいました」
リズベットは思わず息をのむ。ありもしない事ではあるが、もしフローディア国の王子の婚約者を決めるのに、武力で競うと言う話になっていたとしたら、リズベットとしては勝ち目がなかったであろう。それこそぼっこぼこにされて終わりだ。
「ひょっとしてレナードより強かったりするのかしらね?」
「そこは聞かないであげてくださいね」
アシュリーの反応を受けてリズベットは悟った。レナードは結構気にしているのだと。
「やんちゃであるルークって子はきっと性格もユーフィリア似なのでしょうねぇ。じゃあシャルロッテの方は?」
「ルーク様に負けず劣らずってところですか」
「あらら」
「シャルロッテ様はまだ幼いので、元の性格かはまだ分からないのですけれど、あの頃の子供って人の真似をしたがるんですよね」
「あー、お兄ちゃんの悪い癖を模倣しているってわけね」
「ですね」
「ふふ、二人とも実に子供らしいわね。私は嫌いじゃないわ」
「侍女の私が言うのも烏滸がましい話なのでしょうけれど、将来は二人とも国を導かねばならなくなるのでしょう。私はここに来てからユーフィリア様とレナード様をずっと見てきました。お二人がどれ程尽くしてきたかを知っていますし、その重責の重さに苦しんでいる姿も知っています。だからルーク様もシャルロッテ様も、せめて子供の頃だけは自由に過ごしていただきたいと思っているのです」
「烏滸がましいなんて事はないわ。王族だって人だもの。二人を王族ではなく一個人として見てくれるあなたをユーフィリアはありがたく思っているはずよ」
「そうだとしたら嬉しい限りですね」
「でも子供か……持てば可愛いのでしょうけども」
そこまで言ってリズベットは大きなあくびをした。
「そろそろお眠りになられますか?」
「そうさせてもらおうかしら。しかしあなたのお茶は利くわね。一気に眠くなってきたわ」
「働きすぎるユーフィリア様に寝てもらうため、ずっとリラックス出来るハーブティーを研究してきましたから」
「ふふ、あなたも苦労しているのね。また時間あるときにこうしてお茶を飲みながら話してもいいかしら?」
「喜んで」
アシュリーは笑顔で答えると、空になった茶器を片づけ始める。音もたてずに綺麗になっていく様を見て、やはり見事だと思いつつリズベットはアシュリーに言った。
「ありがとうね。ちょっと心が軽くなったわ」
「少しでも元気になってくれたのであれば来た甲斐がありました。ごゆっくりお休みくださいね」
アシュリーが部屋を出ていった後、リズベットの眠気は一気に膨れ上がる。脳がやっと己の中の不安より、体の疲れを優先し始めたのだ。何も直接悩みを相談したわけじゃない。ただ雑談しただけの事。でもそれこそが良かった。
あえて触れない優しさが心にしみた。
「そんなに顔に出ていたのかしら?」
リズベットは自分自身、別にポーカーフェイスがうまいとは思わないが、己が不安を抱えていると自覚したのは部屋に戻った後である。だというのにアシュリーはやってきた。直接聞いてはいないが十中八九確信犯であろう。
「ユーフィリアも本当に良い子見つけたわね」
リズベットはアシュリーに対し、心からの賛辞を贈る。
その後、頭のもやが晴れたリズベットは深き眠りへと誘われた。
フローディア国を愛しグレイシア国を恨む者、その者こそがリズベットの両親を、伯爵家を奪った。シュタイン家が狙われた原因はリズベットがグレイシア人と関わりを持っていたからである。
その事実は決して軽くはない。リズベットとしてはグレイシア国との友好は正しい事だと思っているし、退く気はさらさらない。だが自分のせいで両親が死んだ事はリズベットの心の重石となっていた。
公爵家令嬢暗殺を依頼したのはシュタイン伯爵であり、例えそそのかされたのだとしてもその罪は重い。しかし暗示なら話は変わってくるのではないか。暗示であるのであればシュタイン伯爵の意思ではない。だとするならば命までは奪われなくても良かったのではないか。もっとしっかり調査をすればあるいは……
そこまで考えてリズベットは頭を振った。話はそう簡単ではないのだ。
後にユーフィリアがアシュリーに暗示がかけられていた事を知ったのは、偽聖女事件そのものが怪しかった事の他に、王宮内であった事が幸いした。
フローディア国は遠い過去、傾国の魔女の魅了によって国を内から壊されそうになった経験から、王宮内は対策がされていたのだ。
匂いなどに対しては徹底した座学だ。王宮に勤める者は必ずどんな匂いが危険なのかを学ぶし、知識だけでは防ぎようもない魔術的なものに関しては、シャンデリアなど一見ただの装飾に検知する機能が備わっている。その場で色が変わったりするとばればれなので、別室にある魔石が光る仕組みだ。
魔石が置かれてからそれまで光る事など一度もなかった故、本物かどうか半信半疑の面もあったのだが、魔石の定期的な観測と手入れは、怠れば罰則があるほど厳しく定められており、当時の混乱が如何に恐ろしかったかの証明のようにも思われた。
そうした厳重な規則故、暗示の恐怖が薄れた今であっても観測係は必ずいて、今日も何も起こらないだろうなと思っていたら、急に魔石が光ったため慌てて報告に来たという。
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しかしあの時真っ先に諦めてしまったのはリズベットなのだ。だからこそリズベットはたらればを考える資格はないと思っているし、当時の捜査した者達だって責める事は出来ない。彼らは当時出来る事の最善を尽くし、リズベットの命を救ってくれたのだから。
「私が諦めなかったら何か変わっていたのかしら? それとも……」
リズベットのその問いは闇にかき消えていく。
「グレイシア国に関しては手ごたえ感じているし、良い方向には進んでいる。それは間違いないのだけれども、どうにも悲観的ね」
こういう時は早く寝るに限るのだが、一度思考の海に浸かってしまうとなかなか抜け出せないのをリズベットは知っている。どうしたものかと悩んでいるとドアをノックする音が聞こえた。
「リズベット様、まだ起きていらっしゃいますか? アシュリーです」
「ええ、起きているわ。何かあったかしら?」
「宜しかったらハーブティーでも如何かと思いまして」
「あら、気が利くわね。ありがたく頂戴するわ」
「それではお部屋に入らせていただきますね」
アシュリーは部屋の中に入ると、手際良くお茶の準備を進めていく。お茶とは奥深いもので良い茶葉だから美味しいというわけでもなく、温度、蒸らす時間などで味が変わる。しかしながらアシュリーの動きは堂々たるものであり、自信に裏付けされたものであった。程なくして差し出されたカップにリズベットは口をつけると、じんわりと風味が広がり、甘味すら感じられるそれは見事であった。
「大したものね」
「恐縮です」
「ちょうど寝ようとしても寝られなかったからお茶はありがたかったのだけれど、あなたはユーフィリアから離れていても良いの?」
「私はルーク様とシャルロッテ様のお世話も仰せつかっておりますから。しかしながらお二方はつい先ほどお眠りになられましたので」
「私の方に来たと。なるほど」
柔和な笑みを浮かべるアシュリーにリズベットはどうしたものかと内心悩む。リズベットが王都に戻ってきて以来、顔自体は何度か合わせていたがこうして二人きりと言うのは初めてであった。
リズベットにユーフィリアの従女であるアシュリーと会話する必要はないわけであるが、そうした貴族ムーブはリズベットは好きではない。だからリズベットは実に無難な話をアシュリーに振った。
「ユーフィリアの子供達ってどういう子達なの?」
「多分リズベット様は品行方正で後に賢王になる、みたいな美辞麗句を求めているわけじゃありませんよね?」
「もちろん」
アシュリーの反応にリズベットは話が早いと笑みを見せる。こういった空気の読める者をリズベットは嫌いじゃない。
「そうですね。不敬罪に処されるのは嫌ですので、これから話す事を内密にしていただければ本音で話しますよ」
「契約成立ね。じゃあまずは息子の方から教えてくれるかしら? 顔はユーフィリア似に見えたけれども」
リズベットはウキウキした様子でアシュリーに先を施す。
「ルーク様はそうですね。一言で言うとやんちゃですよ。しょっちゅう作りかけのおやつに手を出そうとするので、いつもどう防ごうか悩んでいるんですよ」
「あら、そうなの? レナードとユーフィリア、二人の子供って考えれば想像もつかないけれど。でも二人も幼少の頃は結構やんちゃしていたのかしら?」
「ライネル様から聞いた話なんですけれども、ユーフィリア様、よく騎士団の稽古場に顔を出しては、訓練用の木剣を爛々と振っていて困ったそうですよ」
「そう言えば私達が学園に通ってた頃、騎士課の上位成績者発表の張り出しにユーフィリアの名前が載っていてビックリした事があったわ。つまりあれって本当なのね」
「私、ユーフィリア様に投げられた事ありますよ。暗示掛けられてた時なのですけれど。体が勝手に動いて止められないって思っていたら、宙を舞っていて、何が何だか分からないまま床に押し付けられて……その後はもう全く動けませんでした」
「宙を舞うって……凄いわね」
「あの時の私、確かに空を飛んでいました」
リズベットは思わず息をのむ。ありもしない事ではあるが、もしフローディア国の王子の婚約者を決めるのに、武力で競うと言う話になっていたとしたら、リズベットとしては勝ち目がなかったであろう。それこそぼっこぼこにされて終わりだ。
「ひょっとしてレナードより強かったりするのかしらね?」
「そこは聞かないであげてくださいね」
アシュリーの反応を受けてリズベットは悟った。レナードは結構気にしているのだと。
「やんちゃであるルークって子はきっと性格もユーフィリア似なのでしょうねぇ。じゃあシャルロッテの方は?」
「ルーク様に負けず劣らずってところですか」
「あらら」
「シャルロッテ様はまだ幼いので、元の性格かはまだ分からないのですけれど、あの頃の子供って人の真似をしたがるんですよね」
「あー、お兄ちゃんの悪い癖を模倣しているってわけね」
「ですね」
「ふふ、二人とも実に子供らしいわね。私は嫌いじゃないわ」
「侍女の私が言うのも烏滸がましい話なのでしょうけれど、将来は二人とも国を導かねばならなくなるのでしょう。私はここに来てからユーフィリア様とレナード様をずっと見てきました。お二人がどれ程尽くしてきたかを知っていますし、その重責の重さに苦しんでいる姿も知っています。だからルーク様もシャルロッテ様も、せめて子供の頃だけは自由に過ごしていただきたいと思っているのです」
「烏滸がましいなんて事はないわ。王族だって人だもの。二人を王族ではなく一個人として見てくれるあなたをユーフィリアはありがたく思っているはずよ」
「そうだとしたら嬉しい限りですね」
「でも子供か……持てば可愛いのでしょうけども」
そこまで言ってリズベットは大きなあくびをした。
「そろそろお眠りになられますか?」
「そうさせてもらおうかしら。しかしあなたのお茶は利くわね。一気に眠くなってきたわ」
「働きすぎるユーフィリア様に寝てもらうため、ずっとリラックス出来るハーブティーを研究してきましたから」
「ふふ、あなたも苦労しているのね。また時間あるときにこうしてお茶を飲みながら話してもいいかしら?」
「喜んで」
アシュリーは笑顔で答えると、空になった茶器を片づけ始める。音もたてずに綺麗になっていく様を見て、やはり見事だと思いつつリズベットはアシュリーに言った。
「ありがとうね。ちょっと心が軽くなったわ」
「少しでも元気になってくれたのであれば来た甲斐がありました。ごゆっくりお休みくださいね」
アシュリーが部屋を出ていった後、リズベットの眠気は一気に膨れ上がる。脳がやっと己の中の不安より、体の疲れを優先し始めたのだ。何も直接悩みを相談したわけじゃない。ただ雑談しただけの事。でもそれこそが良かった。
あえて触れない優しさが心にしみた。
「そんなに顔に出ていたのかしら?」
リズベットは自分自身、別にポーカーフェイスがうまいとは思わないが、己が不安を抱えていると自覚したのは部屋に戻った後である。だというのにアシュリーはやってきた。直接聞いてはいないが十中八九確信犯であろう。
「ユーフィリアも本当に良い子見つけたわね」
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