49 / 83
山小屋④
しおりを挟む
午後19時、決まった時間に晩御飯を食べる。実母の姉である「母親」と、「母親」の夫である「父親」、「両親」の息子の「兄」といっしょに。
食事中は誰もしゃべらない。母親が、食事の最中に会話をすることを嫌っているからなのもあるが、永遠はそうでなくても話す気になれない。食事中以外だって、いつだって。
「……ごちそうさま」
永遠が席を立ち、自分の部屋に戻ろうとすると、母親が引き留めた。
「永遠、食器くらい洗ってから自分の部屋に戻りなさい」
永遠は冷めた目でちらっと母親を見た。母親は不機嫌そうな表情でこちらを見ている。
ため息が出そうになるのを我慢して、永遠は自分の食べたあとの食器を重ねて、キッチンに持って行った。
食器を洗っていると、兄が自分の茶碗や皿を持ってきた。
「ついでにやっとけよ」
「はあ?」
永遠が嫌そうな声を出したにも関わらず、兄は食器をシンクの中に置いた。兄のものだけでなく、父親と母親の食器も運んできて、シンクに置く。
「やっとけよ」
兄はそう言って、キッチンから出て行った。
永遠は茶碗に向けて泡だらけのスポンジを投げつけた。泡が飛んで、自分の頬につく。
ムカつく。
兄が食器を洗っているところなど、一度も見たことがない。掃除、洗濯、何一つとっても、兄はやらない。全部母親がやっている。その母親も、家事の手伝いを要求するのは永遠に対してだけだ。
今時男だから、女だからってことじゃないよね。私は実の子じゃないから。世話なんてしたくないんだよね。
食器洗いを終えて、永遠は自分の部屋に戻った。
ベッドの上に寝転がり、食事の前までやっていた曲作りの続きを再開した。ブルートゥースでつないでいるイヤホンを耳に着けて、スマホの画面を見る。
永遠の鼻歌が、廊下まで漏れ聞こえていた。
ドン!!
ふいにドアを殴るように叩かれて、永遠は身体を震わせた。スマホをベッドに置いて、ドアを開け、廊下を見た。
兄が自分の部屋に入ろうとしていた。
「何すんのよ」
永遠が怒気をはらんで言うと、兄は永遠を睨んだ。
「うるせえからだよ」
永遠が言い返す前に、兄は自分の部屋に入り、ドアを閉めた。永遠も自分の部屋に戻るしかなかった。ただ、やり場のない怒りが残った。
何よ、あいつ……あんなやつ!!
大嫌いだ。
自分の部屋の中にいても、歌うことも自由にできないなんて。
こんな世界、居場所なんかない。
永遠はベッドに座り、スマホを手に取った。怒りに任せて、先程まで作っていた歌を、音楽投稿サイト【muzinamusica】に投稿した。
『作りかけだけど吐き出し。もう無理。誰もこんなの聴かないよね』
投げやりなコメントも添えて。
それからスマホを枕の横に投げて、自分自身も横になった。
学校が嫌い。桜子が嫌い。クラスの人間が嫌い。人間が嫌い。家の中にいる人間も嫌い。全部、全部吐き気がする。
みんな見下す相手がほしい。優しいフリしてマウント取りたい。「母親」ぶってるやつは、私を引き取ることで「良い人」になれた。引き取ってあげただけ感謝しなさいってこと。その、あんたの息子はさ、あんたの目を盗んで、私を犯したこと知らないだろ。小学2年生の夏休みだった。いきなり部屋に入って来て、試させろって言って。私を四つん這いにさせて、いきなり自分のモノをつっこんできたんだよ。痛くて悲鳴を上げたら「静かにしてろ!」て怒鳴られた。私は唇を噛んで、早く終われって念じてた。とげだらけの棒で身体の内側から壊されていくような感じだった。痛くて熱くてたまらなかった。
あれがどういう行為だったか理解したときに、どんな気持ちになったか、わかる?
えらそうに母親ぶるな。母親の言うことしか聞けない父親なんて他人以外の何物でもないし、兄なんてただの犯罪者だ。
そして、私は汚れた人間になった。
誰とも関わりたくない。誰とも関わる資格もない。生きていたくないの。
でも、学校に行けば、ネットを見れば、「命の大切さ」を説かれるじゃない?
そういう「善」が、「正しさ」が、私の心を殺すんだよ。
食事中は誰もしゃべらない。母親が、食事の最中に会話をすることを嫌っているからなのもあるが、永遠はそうでなくても話す気になれない。食事中以外だって、いつだって。
「……ごちそうさま」
永遠が席を立ち、自分の部屋に戻ろうとすると、母親が引き留めた。
「永遠、食器くらい洗ってから自分の部屋に戻りなさい」
永遠は冷めた目でちらっと母親を見た。母親は不機嫌そうな表情でこちらを見ている。
ため息が出そうになるのを我慢して、永遠は自分の食べたあとの食器を重ねて、キッチンに持って行った。
食器を洗っていると、兄が自分の茶碗や皿を持ってきた。
「ついでにやっとけよ」
「はあ?」
永遠が嫌そうな声を出したにも関わらず、兄は食器をシンクの中に置いた。兄のものだけでなく、父親と母親の食器も運んできて、シンクに置く。
「やっとけよ」
兄はそう言って、キッチンから出て行った。
永遠は茶碗に向けて泡だらけのスポンジを投げつけた。泡が飛んで、自分の頬につく。
ムカつく。
兄が食器を洗っているところなど、一度も見たことがない。掃除、洗濯、何一つとっても、兄はやらない。全部母親がやっている。その母親も、家事の手伝いを要求するのは永遠に対してだけだ。
今時男だから、女だからってことじゃないよね。私は実の子じゃないから。世話なんてしたくないんだよね。
食器洗いを終えて、永遠は自分の部屋に戻った。
ベッドの上に寝転がり、食事の前までやっていた曲作りの続きを再開した。ブルートゥースでつないでいるイヤホンを耳に着けて、スマホの画面を見る。
永遠の鼻歌が、廊下まで漏れ聞こえていた。
ドン!!
ふいにドアを殴るように叩かれて、永遠は身体を震わせた。スマホをベッドに置いて、ドアを開け、廊下を見た。
兄が自分の部屋に入ろうとしていた。
「何すんのよ」
永遠が怒気をはらんで言うと、兄は永遠を睨んだ。
「うるせえからだよ」
永遠が言い返す前に、兄は自分の部屋に入り、ドアを閉めた。永遠も自分の部屋に戻るしかなかった。ただ、やり場のない怒りが残った。
何よ、あいつ……あんなやつ!!
大嫌いだ。
自分の部屋の中にいても、歌うことも自由にできないなんて。
こんな世界、居場所なんかない。
永遠はベッドに座り、スマホを手に取った。怒りに任せて、先程まで作っていた歌を、音楽投稿サイト【muzinamusica】に投稿した。
『作りかけだけど吐き出し。もう無理。誰もこんなの聴かないよね』
投げやりなコメントも添えて。
それからスマホを枕の横に投げて、自分自身も横になった。
学校が嫌い。桜子が嫌い。クラスの人間が嫌い。人間が嫌い。家の中にいる人間も嫌い。全部、全部吐き気がする。
みんな見下す相手がほしい。優しいフリしてマウント取りたい。「母親」ぶってるやつは、私を引き取ることで「良い人」になれた。引き取ってあげただけ感謝しなさいってこと。その、あんたの息子はさ、あんたの目を盗んで、私を犯したこと知らないだろ。小学2年生の夏休みだった。いきなり部屋に入って来て、試させろって言って。私を四つん這いにさせて、いきなり自分のモノをつっこんできたんだよ。痛くて悲鳴を上げたら「静かにしてろ!」て怒鳴られた。私は唇を噛んで、早く終われって念じてた。とげだらけの棒で身体の内側から壊されていくような感じだった。痛くて熱くてたまらなかった。
あれがどういう行為だったか理解したときに、どんな気持ちになったか、わかる?
えらそうに母親ぶるな。母親の言うことしか聞けない父親なんて他人以外の何物でもないし、兄なんてただの犯罪者だ。
そして、私は汚れた人間になった。
誰とも関わりたくない。誰とも関わる資格もない。生きていたくないの。
でも、学校に行けば、ネットを見れば、「命の大切さ」を説かれるじゃない?
そういう「善」が、「正しさ」が、私の心を殺すんだよ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
終焉列島:ゾンビに沈む国
ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。
最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。
会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし
響ぴあの
ホラー
【1分読書】
意味が分かるとこわいおとぎ話。
意外な事実や知らなかった裏話。
浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。
どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
私の居場所を見つけてください。
葉方萌生
ホラー
“「25」×モキュメンタリーホラー”
25周年アニバーサリーカップ参加作品です。
小学校教師をとしてはたらく25歳の藤島みよ子は、恋人に振られ、学年主任の先生からいびりのターゲットにされていることで心身ともに疲弊する日々を送っている。みよ子は心霊系YouTuber”ヤミコ”として動画配信をすることが唯一の趣味だった。
ある日、ヤミコの元へとある廃病院についてのお便りが寄せられる。
廃病院の名前は「清葉病院」。産婦人科として母の実家のある岩手県某市霜月町で開業していたが、25年前に閉鎖された。
みよ子は自分の生まれ故郷でもある霜月町にあった清葉病院に惹かれ、廃墟探索を試みる。
が、そこで怪異にさらされるとともに、自分の出生に関する秘密に気づいてしまい……。
25年前に閉業した病院、25年前の母親の日記、25歳のみよ子。
自分は何者なのか、自分は本当に存在する人間なのか、生きてきて当たり前だったはずの事実がじわりと歪んでいく。
アイデンティティを探る25日間の物語。
意味がわかると怖い話
邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き
基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。
※完結としますが、追加次第随時更新※
YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*)
お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕
https://youtube.com/@yuachanRio
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる