チョウチョ革命☆大一文字挑!!

eden

文字の大きさ
36 / 41

第21挑☆大統領の秘密兵器 オオムラサキ現る 後

しおりを挟む
「ぐっ」



 俺は両腕を交差させて、巨大な拳を受け止めた。正面からの衝撃と、床に叩きつけられる衝撃。床は拳の圧に耐え切れずに割れた。



「くっ……」



 床の割れ目の奥に沈む。普通の奴だったら、全身の骨が砕けてるとこだ。そう、普通の奴だったらな。



 男は拳をもとに戻し、がれきの中にいる俺を見下ろした。



「なに……っ⁉」



 まあ、びっくりするだろうな。俺のガードが崩れてねえことに。俺は意識も奪われてねえし、まだ立ち上がれるってことにな!



 毒手も生きている。俺はゆらりと立ち上がり、唇の端から滴り落ちる血を拳で拭った。



「まあまあ効いたぜ。小2のときと中2のときに車にかれてもピンピンしていた俺でも、潰されるかと思ったぜ」



「中2んときは、車と正面衝突して空を舞ってましたけどね。あれでかすり傷って、俺の中じゃチョーさん伝説ベスト10に入ってます」



 カイソン、てめーは安全な場所で何を言ってんだ。



 黒袴の男は、苦虫を嚙み潰したような表情をしてやがる。



 次の瞬間、男の頬が膨らんだ。また酸を飛ばす気だな!



 俺は、毒手を思い切り振って毒液を飛ばす。男が噴射した酸と、毒液がぶつかり、弾ける。飛び散る酸と毒液で、互いに少しずつ身体に傷を作りながら、俺と黒袴の男が接近する。



 黒袴の男は、俺の攻撃を受け流す戦闘スタイルだ。俺の力を受け流し、倒そうとする。



 だったら、俺から攻撃することは悪手だ。黒袴の男に攻撃をさせる。そのときに隙を見極める!



「どうした、疲れてきたのか」



 へっ、わざと攻撃を緩めてることに気付いてねえみてえだな。こいつ、能力高ぇし面倒くせえけどよ、戦闘センスは関根や赤鬼のほうがずっと上だ。



 だったら、待ってたら来るよな。



「そろそろとどめだ」



 拳を巨大化させる技! このとき、拳のせいで相手の姿から視線が外れやすい。だからこそ、拳を巨大化させた張本人は隙だらけだ。まさか、この拳を突きおろそうとするときに、懐めがけて飛び込んでくるなんて思わないもんな!



「なっ⁉」



 それが、いるんだよ。俺だ。



 俺は、巨大化した拳の下をかいくぐり、黒袴の男の顎をめがけて右腕を突き上げた。



「おらああああ!」



 男の顎が割れ、血しぶきとともに歯が数本飛ぶ。男の拳は力を失い、身体は仰向けに倒れた。



 毒手で思い切りアッパー食らわせたんだ、顔面半分破壊したぜ。黒袴の男は血の泡を吹いて倒れている。



 ふと右方向を見ると、もうひとりの黒袴の男の首が飛んでいた。関根の風刃切りが炸裂したんだ。



 関根が涼しい顔でこっちを見た。なんだよ、自分はたいしてダメージ食らわずに勝ったって言いてえのかよ。俺だってまだまだ動けるぜ。



 次の瞬間、赤鬼が俺と関根の間を通過し、部屋の入り口まで下がって来た。それは、自ら後方に下がったというより、敵の攻撃を受けて吹き飛ばされてきたという感じだ。



「赤鬼⁉」



 名前を呼んだが、赤鬼は野太刀を前にかまえたまま、こちらのほうを見向きもしねえ。赤鬼は今、目前の敵――羅忌のことしか見てねえ。



 関根が羅忌に向かってかまえたとき、



「手出し無用」



赤鬼がそれを制した。



 羅忌は巨大な扇子を閉じた状態で立てて、唇だけで笑ってやがる。黄色い瞳の奥は冷たい。あれは、戦いだけを楽しむ奴の目――相手の命を奪うことをなんとも思ってねえ、自分が勝てばそれでいいって奴の目だ。



「あらあら、いいんですよ、3対1でも。私が優勢であることに変わりありませんから」



 マジで余裕ぶっこいてんな、こいつ。



 俺と関根が羅忌ににらみを利かす。だが、赤鬼だけは冷静だった。



「家屋の中で技を使うのは、無駄な被害を生むだけと思い、控えていたのだがな」



 赤鬼の声に反応するように、赤鬼の頭上をアカオニシジミが羽ばたく。その赤い身体は炎に包まれた。



 次の瞬間、アカオニシジミが天井を突き破り、夜空に舞い上がる!



「おやおや、屋根を壊しましたか。では、私ももう、お咎めなしですね!」



 羅忌が扇子のかなめを床に打ち付ける。ドンッという音とともに、オオムラサキが巨大な羽根をゆっくりと羽ばたかせて、アカオニシジミが開けた穴を大きく広げて空に舞い上がった。



 アカオニシジミが真っ赤に輝く。その光は強く、まぶしい。だが、その光に対し、オオムラサキの影が大きく広がる。



「これでもっと、自由に戦えます」



 羅忌は扇子を全開にして、扇面の上にふわりと乗り、夜風に乗って舞い上がった。



「逃がさん」



 赤鬼が野太刀を握りしめる。野太刀の刃が赤く光る。やべっ、なんか大きい技がくる!



 俺はとっさにカイソンと藤花がいるほうに下がった。関根も赤鬼の後ろに下がっている。



 赤鬼が野太刀をふるう。同時に、野太刀から無数の炎の玉が放たれる! その炎の玉は羅忌を燃やすべく飛んでいく。



 だが、羅忌は扇子に乗ったまま縦横無尽に飛び回り、炎の玉をすべて避けてしまった。炎の玉が止めば、次に始まるのは羅忌のカウンター。



「小虫は潰すに限ります」



 刹那、空中で扇子が閉じた! 羅忌は扇子の天に片手を置き、逆立ちしている。扇子が閉じ、棒状になる。と同時に、広間の柱の数倍太く、巨大化した。



「なにっ」



 扇子が高速で降ってきた。俺とカイソンで藤花を庇ってガードする。俺とカイソンの前には、モコがいる。関根は、扇子を避けるようにして俺たちの近くに飛んできた。



 次の瞬間、広間の床は完全に破壊された。扇子が落ちた中央は陥没し、深い穴が開いた。この穴に落ちるだけでも死にそうだ。



 赤鬼は、穴の外に立っていた。この状況で、空から降りてきて扇子の天の上に立っている羅忌をじっと見ている。



「これを避けましたか。しかし、もうこの広間を通過して大統領のもとに行くことはできなくなりましたね」



 羅忌はくすくす笑ってやがる。



 そのとき、藤花が俺とカイソンの間から出て、羅忌に向かって叫んだ。



「もうやめてください!」



「何をおっしゃっているのです。今、あなたを救い出そうとしているのですよ? 建物の修繕費用でしたら、何の心配もいらないでしょう。せっせと農民たちが稼いでくれますから」



「そういう……そういう、人を見下すような考えが、私は嫌いです」



 藤花は声を震わせた。



「この誘拐は、すべて私が計画したもの。すべて、でっちあげです。この人たちは、何も悪くありません!」



「藤花⁉」



 このタイミングで、ばらすのか⁉ まだ、大統領を引きずり出してねえんだけど!



 俺たちは驚いて、藤花を見た。



「この人たちを傷つけないでください」



「ふむ……そうはいっても、私の従者を2人も殺しているんですけどね。その罰は受けてもらわないと困りますが」



「それは……」



「屋敷に侵入したことは、千歩譲って藤花様の命令だったとしても、こちらの警備の者を負傷させた罪もありますよ。それに、ここまで大事にしてしまったのです。犯人を殺す以外に、幕引きはないと思いますが」



「ダメです。私は、……私は、国の在り方を変えたかっただけです! 国民をこれ以上苦しめないように、国民が夢を持って生きられるように。大統領に、変わってほしかっただけです」



 藤花が「大統領」と言った。「パパ」じゃねえ。親父相手じゃなく、大統領を相手に話がしたかったという意思表示だ。



「あっははははははは」



 羅忌が声を上げて笑った。



「そんなの、無理に決まっているでしょう。どこの間抜けが、そんな話を聞きますか?」



 ……なんだと。



「人は、生まれた瞬間から差別化されるものです。金持ちの子は金持ちの子、貧乏の子は貧乏の子。体格的に恵まれている者、恵まれない者。知能の高い者、低い者。それぞれ、自分の身分をわきまえて生きるしかないんですよ。



藤花様、あなたは大統領の娘です。何不自由なく育ってきて、今もカンダの国で悠々自適に暮らしていらっしゃる。いったい何がご不満なのですか?」



「私だけが自由なんて……おかしいです」



「では、農民の暮らしをしたいのですか⁉」



「そういう意味ではなくて! みんなが……みんなが幸せになる道はないのですか」



「ありません」



 羅忌は言い切った。



「誰かの犠牲の上に誰かの幸せが成り立つ。みんななんて綺麗事、仮にも大統領の娘が言うものではありませんよ」



 藤花が押し黙った。小さな手を胸の前で握りしめて、唇を嚙んでいる。



 ……羅忌の野郎、勝ち誇った顔しやがってよ。



「……夢や理想を描けなくなっちまったらよ、なんで生きているのかもわかんなくなっちまうだろうが」



 俺は羅忌に向かって怒鳴った。



「今すぐ大統領を出せ! でないと、藤花を殺す。脅しじゃねえ!」



「ちょっと、チョーさん⁉」



「藤花の言ったことはほんの少し嘘だ。俺たちは、本気で藤花を誘拐した。藤花にも考えがあったんだろうがな、そんなもんは関係ねえ。俺が、大統領に要求してんだ。国を変えろってな!!」



 羅忌は笑うのを止めた。



「ふむ。せっかく藤花様が庇ってくださったのに、死にたいってことですか」



「死ぬのはてめーだよ」



 俺は毒手をかまえた。赤鬼が、「おい」と言いかけたが、関係ねえ。



「とっととこいつを片付けて、大統領を引きずり出そうぜ」



 俺が言うと、関根も羅忌に向かってかまえた。赤鬼は仕方がないという代わりに、野太刀をかまえた。



「小虫は集まっても小虫でしかありません」



 羅忌が飛び上がると扇子が開く。羅忌は再び扇面に乗って飛び上がった。



 今度は赤鬼だけじゃねえ。俺と関根も参戦だ。第2ラウンドといこうじゃねえか!

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗
ファンタジー
俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵
ファンタジー
 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...