異世界兵士は大剣振るいて戦場を駆ける

代永 並木

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魔物との対峙

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 城にある一室が勇者に与えられる

 その部屋は広く豪華な部屋、高そうな家具やベットが置かれている

「豪華ぁ」

 他の勇者達が準備を進めている中、私は部屋の中で呑気に寝転がっていた
 他の勇者と違って準備なんてしない
 魔王討伐に参加などしない

「ゴロゴロしててもやる事無いなぁ」

 扉が軽く叩かれる音がする
 そして扉が開き1人の女性が中に入ってくる

「失礼します」
「メイド?」

 メイド服のような服を着た若い女性、赤髪でかなりの美人

 ……凄っい美人

 静かに素早くベットに近付いてくる

「はい、この度勇者様の身の回りの世話をする事になりましたクレマと言います」

 メイドは先に挨拶をする

「よろしくー」
「勇者様のお名前をお聞きしても宜しいでしょうか?」
「私の名前? ユメ」
「ユメ様ですね」
「メイドを付けるなんて太っ腹だねぇ。先に言っておくけど私は不参加だから」

 先にクレマと名乗ったメイドに念押しておく
 何度も言われるのは嫌い
 何度言われてもやる気は無い

「知っています。我々は貴女方に強制する事は出来ませんので」
「そんな事言っても結局は戦うって話なんでしょ?」
「いずれはこの国も魔王軍の侵攻が来ると思います」
「戦争で他人頼りな時点で終わってんだよ。まぁ6人の勇者が倒してくれるでしょ。全員優秀な力を持ってるらしいし~」
「その件で1つ聞いてもよろしいですか?」
「私の力の事?」
「はい」
「聞いてないの?」

 身の回りの世話をすると言うのなら担当の勇者の情報は貰っていると思っていた

「聞いているのは戦闘において一切使えない力とだけです」
「ふふん、仕方ないなぁ見せてあげよう」

 私は力を行使する
 別に隠せとは言われていないし無闇に使うなと言われる程、危険な力では無い
 戦闘に一切使えない力と評された固有能力
 手のひらを上に向けて左手を前を出す
 手のひらから透明なシャボン玉が現れる

「この泡ですか?」
「そ、身体から自由にシャボン玉を出す能力、触っても大丈夫だよ」
「シャボン玉ですか? どういう効果があるのですか?」

 シャボン玉を初めて見るかのように不思議そうに見ている
 そして恐る恐る指で触れる
 指が触れたシャボン玉はぱっんと割れる
 クレマは割れた瞬間驚きビクッと身を震わせる

「数秒経ったら割れる」
「はい?」
「割れるだけで爆発するとか毒を撒き散らすとかは一切無い」

 両手をクロスさせてバツ印を作る
 クレマが触れてないシャボン玉もすぐに割れて消える

「この泡で視界を遮る等は」
「大量に出せば行けるかもだけど虚仮威し程度にしか使えないしほんの数秒で割れる」

 出来るとしても初見ではったりに使う程度の物
 視界を遮ると言っても多少見づらくなる程度の話
 このシャボン玉に敵を攻撃する力は無いし攻撃を防ぐ力も無い
 戦闘で使った所で特に何か出来る訳でも無い

「初見なら驚かせるとか警戒させるって事は出来るだろうけど正直その程度なら固有能力として得る必要が無い。石を投げる、色水を巻くとかね」
「そうですね。成程分かりました」
「そんじゃ私は二度寝するからぁ」

 私は布団を被り眠りにつく
 メイドが付いてから1週間、特に何事もなく暮らす
 飯は豪華で風呂も大きい、頼めば大抵の物は用意される
 途中で森に放り投げられる事もなく生活を続ける
 偶に訓練場を覗きに行く
 そこでは勇者達が訓練をしている
 この国に集められた理由はこの国で訓練を受ける為
 勇者達が固有能力を行使して訓練をしている

「良い調子です」
「剣の腕はまだまだですな」
「もう一本お願いします!」
「そろそろ魔物討伐に行きたい」
「そうですねそろそろ魔物討伐も視野に入れましょう」

 勇者の訓練を熟練の兵士が手伝っている

「いきなり死地へなんて事は無いのが良かったよ」
「勇者様方の中には戦闘経験の無い者が多いのでそのような真似はしません」

 どれだけ強い力を持とうとも戦闘の経験が無ければ苦戦は確定、最悪直ぐに死ぬ
 その程度でどうにかなるのなら召喚するまでも無い

「だろうねぇ~」
「皆様が居た世界はどのような世界だったんですか?」
「皆同じ世界なのか分からないなぁ。まぁ私の居た世界に魔物も魔王も居なかったけど」
「そうなんですね」
「そうだよぉ、魔物ってのを直で見た気はするけど戦争には参加したくない」
「勇者様、訓練にだけでも参加しませんか? 力を付ける事は様々な面で役に立ちます」

 兵士の1人が丁度近くを通り話しかけて来る

「確かにそうだねぇ~、でもやる気のある6人をしっかり鍛えてあげて~」
「勿論、我々が持ちうる全てを持って鍛え上げます」

 他の勇者が訓練を続け弱い魔物の討伐を行って着実に力を付けている間、私は暇を持て余していた

「暇」
「訓練がありますよ?」
「それ以外!」
「それ以外ですか。であれば城下町に出てみますか?」
「それ気になってた! 行けるの?」

 この国の人々がどのような暮らしをしているのか知りたかった

 ……この世界の文明がどのくらい進んでいるのかコミュニケーション取る為にも識字率とかも知りたいしね

「勇者様とバレないように変装しましょう。まぁバレても問題はありませんが」
「変装は得意」

 勇者だとバレないように変装してクレマと一緒に城下街へ向かう
 城を出て周りを見る

「目が痛くなる」
「貴族街は貴族達が豪邸や豪華なモニュメントを家に飾っていたりしますから……宝石などが飾り付けられた物は特に目に優しくないです」

 貴族達が住んでいる区域、城の周囲にあり他の区域とは明確に分けられている

「これ住みづらくない?」
「貴族は自身の財力を見せびらかす事で自身の地位を周りに示しているんです」
「面倒くさ」

 この国に来た時はじっくり見る事は出来なかった為、色々と見ていく

「店が一杯」

 貴族街を超えてこの国一番の大通りに出る
 色んな店が立ち並んでいる
 屋台のように外で物を並べたり家の中を店のようにして開店している所もある

 ……家が縦に長いのは城壁内が狭いからか

 城壁で囲まれていて狭い場合、住む場所を確保するには横ではなく縦に長くする事がある
 人々が歩き活気に溢れている

「昼時はいつもこのように賑やかです」
「良いねぇ~平和だねぇ~、お兄さんカエルの丸焼き1つ!」
「あいよ。100ウェルだ」
「カエル!?」

 買い食いをして店を見て回る
 見て回っていると気付いたら城壁付近まで来ていた
 この世界の国は殆どが城壁で領地を囲んでいる
 私を召喚した国も城壁で囲まれていた
 この世界の状況からしてこの城壁は主に魔物の侵攻を阻止する為と考えられる

「空に対する対策は?」
「城壁の上に対空兵器たいくうへいきが置かれています。それ以外にも城壁に蓄えられた魔力によって起動出来る防壁が侵入を拒みます」
「ちゃんと考えられてるね」
「魔物には空を飛ぶ種類が居ますから」
「空を飛ぶかぁそれは厄介だねぇ」

 空から侵入されないように城壁の上には複数の対空兵器が置かれている

「ねぇ」
「なんでしょうか?」
「兵士が持ってる武器って何?」

 兵士達は剣でもなく杖でも無い武器を持っている
 召喚された時に待機していた兵士も持っていた武器

「……あれは魔力装填式超小型砲台まりょくそうてんしきちょうこがたほうだいです」
「魔力装填……砲台?」

 ……名前めっちゃ長い。砲台って事は弾飛ばすのかな?

「勇者様方が居た世界に存在する銃と呼ばれている物に近いらしいです。魔力を込めて弾として発射する事で遠くの敵に攻撃が出来ると言う物です」
「……あれじゃ魔王無理なの?」

 話を聞く限りかなり強そうな武器
 下手に剣などの近接戦用の武器で戦うより戦いやすいだろう
 複数人で戦う場合でも味方の位置をしっかり確認すれば誤射もしない
 近接戦では上手く連携出来なければ味方に攻撃が当たってしまう可能性が高い

「強い相手ともなると効果が薄く頑丈な障壁となるとビクともしません。その上で接近されると弱いと言う弱点もあります」
「成程、一長一短って訳か」
「兵士は皆、剣と魔法と魔力装填式超小型砲台を使い分けて戦っています」
「勇者には持たせないの?」

 勇者の中には魔力を多く持つ者も居る
 それにかなりの危険が伴う近接戦闘が出来そうにない気弱な少女も居た
 そう言った人なら剣よりあの武器を持たせた方が良いだろう

「使いたい者が居れば渡しています。込めた魔力量で威力や距離も変動しますから膨大な魔力を持つ者が使えば強力な武器となります」
「成程ねぇ。名前長いし魔力銃まりょくじゅうで覚えよ」
「兵士達が使っている略称は魔超砲まちょうほうです」
「強そう」

 ……強そう

 会話をしていると男性の大声が聞こえる

「ロアベアが来やがった! 戦闘準備」
「近くの一般人は避難しろ!」
「ロアベア?」
「魔物の一種です。この国の付近には居なかった筈ですが」

 真っ黒な熊のような見た目の魔物が城門まで走ってきている
 兵士達がロアベアなる魔物に魔力銃を構えて魔力の弾を放つ
 ロアベアと呼ばれた魔物は弾を物ともせずに突っ込んでくる

「倒せるの?」
「ロアベアとなると魔力の量が多いので並の兵士では難しいかと」
「成程」

 私は最後まで聞かずに走る

「ユメ様!? 何を……早い」

 ロアベアは少ない情報でも強い魔物だと言う事が分かる
 ここの兵士のレベルがどの程度か分からないけれど戦闘に使えない固有能力を持つ私が戦える相手では無いだろう
 本来なら

「剣借りる」

 城門が閉まる前に滑り込み近くの兵士の1人から剣を奪う
 剣を奪われた兵士は発砲を辞めて驚いたように私を見る

「ちょっ、危険ですよ! 後、剣を返してください」
「これ借りる」
「ダメです! 危ないので下がってください」
「もう城門閉まってる」
「あぁ、もう……」

 兵士は頭を抱える
 目の前の少女の対応に困っている、言葉を聞かないとは言え放置する訳にも行かず

「貴女は……勇者様?」

 兵士の1人が気付く
 私は頷く、勇者だとバレた方が多少の無理なら話を通せる

「勇者様なんですか? 知らずに失礼な事を!」
「いやいや、全面的に私が悪いから気にしなくていいよ。それとちょっと試したいからあれ譲って」

 私はロアベアを指差す

「危険ですよ」
「戦闘はいつでもどんな相手でも危険だよ?」

 私は兵士の言葉に疑問を覚えて首を傾げる

「避難指示は聞く気ないですか」
「うん」
「仕方ありません、分かりました。しかし、我々は援護します」

 ロアベアへの発砲を辞めずに兵士が私の元に集まる

「要らないよ?」
「この国を守るのは我々の役目です。そして希望たる勇者様の身に何かあれば我々の首が飛びますのでそこまでは譲りません」
「物理的にか」
「はい」

 ……それじゃ仕方ないなぁ

 私にもしもの事があれば首が飛ぶとなれば意地でも死なせないように必ず動く
 それならこちらとしても援護前提で動く方が良い
 最も死ぬ気も無いし死なせる気も無い

「勇者様は危なければ直ぐに撤退を」
「優しいねぇ~」

 剣を持ってロアベアと対峙する
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