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第6話 地下

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「ここだ」

「「「うわぁ……」」」

 ウィーギンティーに案内され地下へと入った一行は、暫く降りた先にあった壁面にパイプや鉄格子の足場が張り巡らされた底の見えない穴を前に思わず声を上げる。

「確かに近道が無いのかとは聞いたが……どこまで続いてんだこれ?」

「薄らとしか覚えてないが、壁面がほぼ氷の場所もあったから……多分永久凍土の中、もしくは下まではある」

「マジかよ……これ行って戻るだけで何週間かかるんだ」

「素直に降りるのは馬鹿のやる事だぞハグラァド」

『そうだよ。さっさと最下層行きたいから早く乗ってよね』

 直接頭に声をかけられたようなそんな不思議な声を聞き、ハグラァドとウィーギンティーがノートゥーン達の方へ振り向く。
 するとそこには金色の爪を持つ、白い鱗に覆われた四足歩行の白いシャープな竜がいた。

「も、もしかしてノートゥーン……なのか?」

「凄いな、そんな姿にもなれるのか」

『そんな姿って言うよりは、これも僕なんだけどね。ほら、二人とも早い所背中に乗って』

「お、おう」

「……落とさないよな?」

『大丈夫だよ。それじゃあ皆、一気に降りるからしっかり捕まっててねっ!』

 そう言ってバサリと一つ羽ばたくと、ノートゥーンは皆を乗せてそこの見えない穴へと勢いよく飛び込む。
 そして翼を畳んで身に寄せる事で、出来るだけ空気抵抗の無い高速飛行する際の姿になったノートゥーンは、物凄い速度で穴の底へ向かって落ちていったのだった。

「そういやなんだが、竜ってどんなのが居るんだ?散々竜なら出来るって言ってたが、実際どんな力を持ってるか気になるんだが」

『え?知らないの?御伽噺とかに書いてあったりするんじゃないの?シィーから僕御伽噺聞かされた事あるんだけど』

「俺もガキ共と同じで生まれてこの方この地下の奥底から出た事がなくてな。知らない事ばっかりなんだ」

「そうだったんですね……でも御伽噺の竜のお話は曖昧な物が多いし、ノーちゃんやっぱり説明してあげて?」

『仕方ないなぁ。じゃあまず竜の数だけど、竜は全部で15体この世界に居て、それぞれ様々な自然現象を司ってるんだよね』

「おう」

『んで、その中でもその自然現象、例えば災害や自然現象とかそんな事を起こす原因にもなる現象を司る力を持つ竜を五行って呼ぶの』

「待ってくれ、こういう仕事柄言い伝えとか御伽噺は散々知ってるが五行の竜なんて聞いた事ねぇぞ」

『そりゃそうさ。絶対に人前には出ない竜なんだもん。御伽噺は勿論伝承なんかに残るわけない』

 懇切丁寧にウィーギンティーに説明していたノートゥーンの言葉に割り込んで来たハグラァドに、ノートゥーンは当たり前とでもいう雰囲気でそう答える。

「で、そいつら五行の司る力っていうのはなんなんだ?」

『火、水、風、雷、土、本来生き物が関与できない自然の力だよ』

「火に水、風に雷、そして土か……案外身近な物なせいでそこまで驚きが無いな」

『人間以外は火が出たら逃げて、水が猛威を震えば離れ、暴風が吹けば身を隠し、雷が自分に落ちない事を祈り、地形に従って生きる。本来生き物にとって自然の五行は手を出せない存在なんだよ』

「成程な。それで、他の残り10体にはどんなのが居るんだ?」

『天候を司ったり、明暗を司ったり、振動を司ったり、ほんと色々居るよ。まぁ僕はその中に含まれてないみたいだけれど』

「そうなのか?俺はてっきりノートゥーンも何か司ってるもんかと」

『僕はイレギュラー的に生まれた新しい竜だよ。ただ一応司る物はあるみたいだけれど』

「それはなんなんだ?」

 容赦なく聞いてくるウィーギンティーとハグラァドにおいおいと思いながらも、ここまで来て隠す事では無いとノートゥーンは考え正直に自分の司る物を伝える。

『突然変異、先があろうと無かろうと、どんな形どんな物であろうと変化して先に進める力だよ』

 ま、幾ら知ってたとしてもそんな能力だから対応は難しいだろうし、ばらした所で問題は無いんだよね。
 さて話してたおかげでだいぶ落ちたとは思うけれど底はまだ見え────

『スピード落とす!衝撃注意!』

「うおっ?!」

「きゃっ!」

「ぬぅ!」

 穴の底に突然写った自分の姿を見たノートゥーンはそう言うと翼を大きく広げるだけでなく、大きく広げた足の間に皮膜を作り出し更に落下速度を落とす。

 くそっ、暗くて把握が出来てなかった、でも……よし!何とか速度を殺せた!

「んもー、びっくりしたなぁ。で、ノーちゃんいきなりどうしたの?」

『ごめんごめん、まだ余裕があるけど穴の底に僕が写ってびっくりして止まっちゃった』

「なんだそういう事だったのかてっきり俺はその竜が……って底?もうついたのか?穴に潜ってまだ数分程度だろう?」

『でも水貼ってるし、多分もう底だと思うんだけど……』

「いや、まだ底じゃない。多分その水は永久凍土とその下を隔てる隔壁が閉じてそこに溜まった水だ」

「そうなの?」

「あぁ、俺達が上がってくる最中見たから確かだ。おいガキ、底の水近くについたら少し出っ張ってる足場の所に着地しろ」

『わかったって、初めて僕の名前呼んだと思ったらガキ呼ばわり?!』

「ガキをガキと呼んで何が悪い。分かったならさっさと行け」

『ぐぬぬぬぬ、後で覚えてろぉ……』

 ウィーギンティーにガキ呼ばわりされたノートゥーンはそうボヤきながらも水面近くまでゆっくりと降り、言われた通り少し出っ張ってる足場へと着地するのだった。
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