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第26話 帰郷
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「着いたねノーちゃん」
「実物を見たのは初めてだけど、これは……すごいね」
「でしょう?私もここに来たのは子供の時以来だけど、この景色は1度も忘れた事はないよ」
はらはらと白い雪が舞い散る中眼前に横たわる端の見えず、対岸もうっすらとしか見えない淡い青色の光を湛えたクレバスを前に、青い模様の描かれた白い民族衣装に身を包んだ二人はそう声を漏らす。
「これが氷晶大峡谷、私達の村のさらに北にあるカルラドアコアの中央を南北に割る超巨大なクレバスだよ」
「正直、ちょっと周り込めば向こうに渡れるくらいだと思ってた」
「ふふっ。凄いでしょう?向こう岸までの幅も広いから光がクレバスの中にも差し込んで、それを氷が反射する事でこんな景色になるんだよ。でも……」
「でも?」
首を傾げるノートゥーンを横目に、丁度よく足元にあった石を峡谷へとルシィーナは投げ込む。
その石は吸い込まれるように谷へと落ちていき─────
「……ねぇシィー、石が底に当たった音が聞こえないんだけど……」
その落ちた石が人の目では分からない程小さくなった頃に、ノートゥーンはルシィーナの方を振り向きそう谷底を指さしながら聞き返す。
「光が氷で反射してるせいで深さが分かりにくいけど、まぁ落ちたら助からない高さだから気をつけてね?ノーちゃん」
「……ふぁい」
ぴゃっと飛んでぴゅっと向こう岸に行くつもりだったノートゥーンは、こうしたルシィーナの実演により慎重にこの谷を超えようと決心するのだった。
二人がなぜこの大峡谷の先へと行こうとしてるのか、それは数日前へと遡る─────
ーーーーーーーーー
「ふぅ……今日はこんなもんか」
「だいぶ温度も下がってきたからな、ここらで上がるとしようぜ」
膝まで積もった雪の中、白地に青い模様の描かれた民族衣装に身を包み、大きな石や丸太を運んでいた二人の大男はそう言うと荷物を下ろす。
「だな。そういや、今日の月はなんだったかな?」
「今日か?今日は確か満月だったはずだぞ」
「となるとあの満月からもう12回か……」
「早いもんだなぁ……あの子達は元気にしてるといいんだが」
「だなぁ……っとん?誰かいねぇか?」
「おーーい!おじさーん!おっちゃーん!」
「あれは……まさか……!」
「おじちゃーん!おっちゃーん!」
「「シィーナ!」」
遠くに見えた手を振る人影を見て、二人は驚いたように目を見開くと、そう言ってその一年ぶりに帰ってきた二人を迎え入れたのであった。
「シィー!元気してたか?後で俺の所にも来いよ!」
「うん、後でねおじちゃん!」
「ノートゥちゃんほらお肉よ~♪」
「んむっ!んんっ!おいしー!」
「いやぁーまさか、あれから殆ど丁度一年の今日にルシィーナとノートゥーン、お主ら2人が帰ってくるとは」
「突然の里帰りだったのに、こんな豪華なおもてなししてくれてありがとうございます村長」
「そんちょーありがとー」
「はははっ!この村は皆が家族、家族が帰ってきたら皆で食卓を囲み話に花を咲かせるのは当然じゃろう?それに、面白い土産話も沢山聞けたしの」
冷たい雪と風を防ぐことの出来る本来は避難用の洞窟の中、焚き火を中心に賑やかな輪の中でノートゥーンはお姉さん方に餌付けされながら翼と尻尾を伸ばし、ルシィーナは村長達と話をしていた。
「さて、二人の里帰りは嬉しいが二人の目的はそうでは無いんじゃろう?」
「はい。実は子守唄の事で聞きたい事がありまして」
「ふむ、子守唄か……確かに、あれには竜が出ておったな。それでお主らはその竜を見つけるべく戻ってきたという訳か」
「うん。ようやく見つけた僕達でも手が出せるかもしれない場所の竜だもん。絶対に倒す」
「なるほどのぅ……分かった、話そう。確信とは行かんが、実は一つ心当たりがあるんじゃ。話してくれたがルシィーナは魔術を会得し、ノートゥーンは自身の力に磨きを掛けた。今の二人なら氷晶大峡谷の向こうでもやって行けるはずじゃ」
「村長……!」
「じゃが、一つだけ約束しておくれ。必ず、必ず2人揃ってこの村へと帰ってくるんじゃ。分かったか?」
村長が子守唄の場所に心当たりがあると聞き、笑顔を浮かべた二人へと村長はそう真剣な表情で尋ね、それを見た二人は顔を見合わせ、一緒に頷く。
「勿論、僕はシィーの事を絶対に守るから」
「私も、もう守られるだけじゃありません」
「そうか……分かった。なら約束通り主らに場所を教えよう」
二人の真剣な互いを守るという意志を受け、村長は満足気に頷くと自分の知っている子守唄についての情報を二人へと話すのだった。
そして次の日の朝。
「さて、それじゃあ行こうか」
「うん」
「二人共早いのぅ」
「あ、村長」
お日様が登り始め、真っ白な雪原を朝日の色に染め上げる中、荷物を背負い出発しようとしていた二人へと村長から声がかけられる。
「昨日はありがとうございました。おかげで息抜きも出来ました」
「構わん構わん。それより二人共、少しばかり時間を貰ってもよいかの?」
村長にそう言われ首を傾げた二人は、とりあえず先に歩き始めた村長の後をついて行く。そして村長に続いて歩く事数分、村の外れにある丘の上へとたどり着く。
そこには黒い岩で出来た石碑が静かに立っていた。
「これは……」
「あの後、お主らが旅立ってから村の皆で建てた皆の墓じゃよ。これから大冒険へ出るんじゃ、その前に両親に挨拶しておいてもバチは当たらんじゃろ」
「そう……ですね。ありがとうございます。ノーちゃん、お墓の雪を払って貰ってもいい?」
「うん、分かった」
村長にそう言われ、込み上げるものを耐えながらルシィーナはノートゥーンにそう頼み、ノートゥーンは言われた通り翼を広げて羽ばたかせる事で石碑の雪を払い落とす。
「お母さん、お父さん。私達の事見守っててね」
そして綺麗な姿になった石碑に向かい、ルシィーナは手を組み合わせてそう呟くのだった。
「村長、ありがとうございました。お母さん達の、皆のお墓を作ってくれて」
「村の者は皆家族、大切な家族の墓くらいは用意せんとな。さて、それじゃあこれから冒険へと出る二人にはこれを」
そう言って村長が二人へと差し出したのは白い布地に青い模様の刺繍が施された、本来ならばこの村で成人した者にのみ与えられる上着であった。
「これって……いいんですか?村長」
「勿論じゃ。白い布地は我らが母なる純白の雪原を、青の模様は極北を示す青い雪を、一年もの旅路で様々な事を学び経験した二人はもう立派な大人じゃ」
「ありがとうございます、村長」
「ありがとう村長!」
「あぁ。さ、今日は珍しいくらい天気がいい。引き止めてしまっておいてあれじゃが、天気がいい内に早く行くといい」
「いえ、お墓参りできて私も嬉しかったです!」
こうして、二人は短いながらも里帰りを済ませ、次なる目的地である氷晶大峡谷へと歩みを進めたのだった。
「実物を見たのは初めてだけど、これは……すごいね」
「でしょう?私もここに来たのは子供の時以来だけど、この景色は1度も忘れた事はないよ」
はらはらと白い雪が舞い散る中眼前に横たわる端の見えず、対岸もうっすらとしか見えない淡い青色の光を湛えたクレバスを前に、青い模様の描かれた白い民族衣装に身を包んだ二人はそう声を漏らす。
「これが氷晶大峡谷、私達の村のさらに北にあるカルラドアコアの中央を南北に割る超巨大なクレバスだよ」
「正直、ちょっと周り込めば向こうに渡れるくらいだと思ってた」
「ふふっ。凄いでしょう?向こう岸までの幅も広いから光がクレバスの中にも差し込んで、それを氷が反射する事でこんな景色になるんだよ。でも……」
「でも?」
首を傾げるノートゥーンを横目に、丁度よく足元にあった石を峡谷へとルシィーナは投げ込む。
その石は吸い込まれるように谷へと落ちていき─────
「……ねぇシィー、石が底に当たった音が聞こえないんだけど……」
その落ちた石が人の目では分からない程小さくなった頃に、ノートゥーンはルシィーナの方を振り向きそう谷底を指さしながら聞き返す。
「光が氷で反射してるせいで深さが分かりにくいけど、まぁ落ちたら助からない高さだから気をつけてね?ノーちゃん」
「……ふぁい」
ぴゃっと飛んでぴゅっと向こう岸に行くつもりだったノートゥーンは、こうしたルシィーナの実演により慎重にこの谷を超えようと決心するのだった。
二人がなぜこの大峡谷の先へと行こうとしてるのか、それは数日前へと遡る─────
ーーーーーーーーー
「ふぅ……今日はこんなもんか」
「だいぶ温度も下がってきたからな、ここらで上がるとしようぜ」
膝まで積もった雪の中、白地に青い模様の描かれた民族衣装に身を包み、大きな石や丸太を運んでいた二人の大男はそう言うと荷物を下ろす。
「だな。そういや、今日の月はなんだったかな?」
「今日か?今日は確か満月だったはずだぞ」
「となるとあの満月からもう12回か……」
「早いもんだなぁ……あの子達は元気にしてるといいんだが」
「だなぁ……っとん?誰かいねぇか?」
「おーーい!おじさーん!おっちゃーん!」
「あれは……まさか……!」
「おじちゃーん!おっちゃーん!」
「「シィーナ!」」
遠くに見えた手を振る人影を見て、二人は驚いたように目を見開くと、そう言ってその一年ぶりに帰ってきた二人を迎え入れたのであった。
「シィー!元気してたか?後で俺の所にも来いよ!」
「うん、後でねおじちゃん!」
「ノートゥちゃんほらお肉よ~♪」
「んむっ!んんっ!おいしー!」
「いやぁーまさか、あれから殆ど丁度一年の今日にルシィーナとノートゥーン、お主ら2人が帰ってくるとは」
「突然の里帰りだったのに、こんな豪華なおもてなししてくれてありがとうございます村長」
「そんちょーありがとー」
「はははっ!この村は皆が家族、家族が帰ってきたら皆で食卓を囲み話に花を咲かせるのは当然じゃろう?それに、面白い土産話も沢山聞けたしの」
冷たい雪と風を防ぐことの出来る本来は避難用の洞窟の中、焚き火を中心に賑やかな輪の中でノートゥーンはお姉さん方に餌付けされながら翼と尻尾を伸ばし、ルシィーナは村長達と話をしていた。
「さて、二人の里帰りは嬉しいが二人の目的はそうでは無いんじゃろう?」
「はい。実は子守唄の事で聞きたい事がありまして」
「ふむ、子守唄か……確かに、あれには竜が出ておったな。それでお主らはその竜を見つけるべく戻ってきたという訳か」
「うん。ようやく見つけた僕達でも手が出せるかもしれない場所の竜だもん。絶対に倒す」
「なるほどのぅ……分かった、話そう。確信とは行かんが、実は一つ心当たりがあるんじゃ。話してくれたがルシィーナは魔術を会得し、ノートゥーンは自身の力に磨きを掛けた。今の二人なら氷晶大峡谷の向こうでもやって行けるはずじゃ」
「村長……!」
「じゃが、一つだけ約束しておくれ。必ず、必ず2人揃ってこの村へと帰ってくるんじゃ。分かったか?」
村長が子守唄の場所に心当たりがあると聞き、笑顔を浮かべた二人へと村長はそう真剣な表情で尋ね、それを見た二人は顔を見合わせ、一緒に頷く。
「勿論、僕はシィーの事を絶対に守るから」
「私も、もう守られるだけじゃありません」
「そうか……分かった。なら約束通り主らに場所を教えよう」
二人の真剣な互いを守るという意志を受け、村長は満足気に頷くと自分の知っている子守唄についての情報を二人へと話すのだった。
そして次の日の朝。
「さて、それじゃあ行こうか」
「うん」
「二人共早いのぅ」
「あ、村長」
お日様が登り始め、真っ白な雪原を朝日の色に染め上げる中、荷物を背負い出発しようとしていた二人へと村長から声がかけられる。
「昨日はありがとうございました。おかげで息抜きも出来ました」
「構わん構わん。それより二人共、少しばかり時間を貰ってもよいかの?」
村長にそう言われ首を傾げた二人は、とりあえず先に歩き始めた村長の後をついて行く。そして村長に続いて歩く事数分、村の外れにある丘の上へとたどり着く。
そこには黒い岩で出来た石碑が静かに立っていた。
「これは……」
「あの後、お主らが旅立ってから村の皆で建てた皆の墓じゃよ。これから大冒険へ出るんじゃ、その前に両親に挨拶しておいてもバチは当たらんじゃろ」
「そう……ですね。ありがとうございます。ノーちゃん、お墓の雪を払って貰ってもいい?」
「うん、分かった」
村長にそう言われ、込み上げるものを耐えながらルシィーナはノートゥーンにそう頼み、ノートゥーンは言われた通り翼を広げて羽ばたかせる事で石碑の雪を払い落とす。
「お母さん、お父さん。私達の事見守っててね」
そして綺麗な姿になった石碑に向かい、ルシィーナは手を組み合わせてそう呟くのだった。
「村長、ありがとうございました。お母さん達の、皆のお墓を作ってくれて」
「村の者は皆家族、大切な家族の墓くらいは用意せんとな。さて、それじゃあこれから冒険へと出る二人にはこれを」
そう言って村長が二人へと差し出したのは白い布地に青い模様の刺繍が施された、本来ならばこの村で成人した者にのみ与えられる上着であった。
「これって……いいんですか?村長」
「勿論じゃ。白い布地は我らが母なる純白の雪原を、青の模様は極北を示す青い雪を、一年もの旅路で様々な事を学び経験した二人はもう立派な大人じゃ」
「ありがとうございます、村長」
「ありがとう村長!」
「あぁ。さ、今日は珍しいくらい天気がいい。引き止めてしまっておいてあれじゃが、天気がいい内に早く行くといい」
「いえ、お墓参りできて私も嬉しかったです!」
こうして、二人は短いながらも里帰りを済ませ、次なる目的地である氷晶大峡谷へと歩みを進めたのだった。
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