のんびり異種女子日本旅

こたつ

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四国編

第二十三話 理常の戦い

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「ふっ!」

「はっ」

「スターバレット!」

 ガジャン!

「ノルン!」

「これでもくらうのです!」

 ロクラエルの蹴りをしゃがんで避け、ヘグレーナの魔法の射線に鎖を張り防御した男に、ロクラエルの後ろから急に姿を表したノルンが銃撃を放つ。しかし────

「弾け」

 男がそう呟くと銃弾は突然あらぬ方向へと飛んで行き、男に傷を与える事はできずに終わる。

「ちっ、やはり神の相手は辛いのぉ」

「でも現世に降りてきてる。倒せない相手じゃない」

「世界の理を自在に操れる、その能力の隙さえつければいいのですけど……というか、あの方々で利点が無いのに世界を捨てないなんて、普通ありえないのです」

「確かに水無月の世界で言うならあ奴らは感情の無い機械の様な奴らじゃが、実はそうとも言いきれぬぞ。少ないが人やそれに近い種族から至った者も確かに居るからな」

「それに加えて、あの鎖が厄介」

「あの鎖はこの大陸に繋がっていたのと同じ物じゃな、となると壊すのは無理があるのぅ」

「試したのです?」

「まぁの。妾と同類の力を感じたから興味本位で殴って見たんじゃが、ビクともせんかったわ。元は同類の力で出来た物だったのが変質でもしたんじゃろうな」

「じゃあヘグレーナはその同族よりも弱いのか」

「う、うっさいわい!夜であれば妾の方が────」

「いつまで雑談してるつもりだ?」

 一度距離を取った三人が男の使ってくる鎖やこの世界に固執する理由を話し合っていると、そう言って男が腕を突き出すと三人の居た位置を鎖が貫く。

「ちっ!ゆったり作戦会議すら貰えぬか!」

「敵の目の前で作戦会議する方がおかしいのでーすっ!」

 魔法を打つ為にヘグレーナが距離を取れるよう、そう言ってノルンが援護がてら手榴弾を尻尾で男の方へ叩き飛ばし、その手榴弾の爆風でヘグレーナは距離を取る。
 そして爆発で舞った土煙が四人を覆い隠し、男が鎖を振ってその土煙を晴らすとそこにはロクラエルの姿だけがなく、何かを察し男が頭上に鎖を張り巡らせた所で頭上から落下速度を乗せたロクラエルの蹴りが鎖に直撃する。

「ほう、理常の鎖を撓ませるか。だが、まだ足りん」

「いーや、これで充分じゃ!暗夜に飲まれよ「極夜」!」

 そう言ったヘグレーナの足元には、ロクラエルの攻撃に男が気を取られた一瞬の隙に編み出された巨大な魔法陣があり、ヘグレーナが手を空に翳すと魔法陣が更に広がり、塔の近く一帯の時間を夜へと変える。

「時間が夜に……?」

「短時間じゃがの、これでようやく妾が本気を出せるというものじゃ!振れよ星々「星辰」!」

「ぐっ……能力由来の固有魔術か、厄介な」

「世界に由来しない力、そして────」

 ダァン!

「がはっ?!」

「認識外からの破格の威力を誇る攻撃なら、実体化している神では防ぎきれないのです!」

 ヘグレーナの魔法による大規模な攻撃を受け、周囲に鎖を張り巡らせながらもダメージを軽減しきれずに怯んだ男の胸を、夜闇に隠れて背後を取ったノルンによる鎖の合間を縫った対物ライフルの一撃が貫く。
 しかしその一撃を受けてなお、膝をついた男は立ち上がろうとする。

「これでもまだ立ち上がるか」

「ならば今の内にもう一撃────」

「二人共ちょっとまってなのです!」

「なんじゃノルン、また立て直されると厄介じゃぞ!」

「それは分かってるのです!でも、弱ってる今だからこそ話を聞いてくれると思うのです。それに、絶対殺さないと歪みは直らないって決まったわけじゃないのです!」

「ヘグレーナ……」

「……だぁー!もうわかったわかった!好きにやるがよい!何とかなるじゃろ!」

「二人共、ありがとうなのです!……さて、聞こえてるのです?」

「……」

「聞こえてるですね。教えて欲しいのです、何故貴方はこの世界に固執するのです?」

「答える義理は……ない」

「確かにないのです。でも、少なくともアタシ達はこの世界を滅ぼす訳でも、貴方の守る大切な人達を傷つける訳でもないのです。ただ、出来るなら貴方の力になりたいのです」

「……この世界は、俺の生まれた世界に似てた。それだけだ。あの村人達も、たまたま助けただけだ」

「それは本当に、たまたまなのです?」

「何が言いたい」

「本当に助けたかったのは、世界では無くあの人達だったのではないのです?」

「んな馬鹿な……神が人間の為に己が身を削る訳ないじゃろう。地に堕とされると分かっていながら助ける神なんぞいる訳が────」

「だとしても……」

「ん……?」

「だとしても、例え地に堕とされようと、私は!私の愛した者達を守る!」

 男がそう言い放つと、突如幾つもの鎖が地面から飛び出し彼女達へと襲いかかり、ヘグレーナとロクラエルは逃げれたものの男の近くに居たノルンは逃げ遅れてしまい、その場で何とか回避しようとする。
 しかし全ての鎖を避ける事はできず、幾つかの鎖に当たってしまい耳につけていた通信機を落としてしまう。

「っつ!通信機がっ!」

『ノルンちゃん、通信機はそのままでいいよ』

「へ?みーちゃん?」

『神よ!もうお止め下さい!』

「?!」

「今のは!」

『我々は、我々はもう、貴方様に手を差し伸べて頂いた、これだけでもう救われているのです……!』

「……」

『ヘグレーナちゃん。悪いけど通信機の音量大きくして神様の前に投げてくれる?』

「お、おぉ。わかった」

『お初にお目にかかります、この世界の神よ。通信機越しに失礼ですが、私はその三人の保護観察者である水無月といいます。この度は貴方にこの世界の住人の移住について説明させて頂きます』

「移住……だと?」

『はい。貴方様の世界に残された数少ない住人の方々、我々が責任を持って移住のお手伝いをさせて頂きます』

「移住だと?貴様らの様な得体のしれない輩に民を任せることなど────」

『その民が願ったのです。我らが神よ。貴方は優しい、終わりを迎えるだけの我らに貴方は手を差し伸べて下さいました。しかし貴方も知っての通り我々には未来がない。そんな我々に優しい貴方の力を浪費させたくはないのです』

「……」

『……とはいえ、異界より来た我々を他の世界を知る貴方は安易に信用出来ないでしょう。しかし、我々の世界は既に他の世界の住人を迎えております。それが今、貴方の目の前に居る彼女達なのです』

「そうなのか……?」

「そうじゃな。今は状況が状況なだけに唯一対抗手段を持つ妾達がこういった事をしておるが、前までは本当に穏やかな生活を送らせてもらっていたものじゃよ」

『そう言う事で、我々は貴方を解放する為、この方々と共に新たな世界へと旅立たせて頂きます』

「そうか……お前達が望むのならば、俺はもう何も言うまい」

 ヘグレーナの投げた通信機越しに村長や水無月の声を聞き、最後の村長の一言を受けた男は膝を立てたまま座り込みそう呟いたのだった。
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