月影の剣士と白き竜の約束 〜滅びの王国をめぐる旅〜

usako

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第16話 砂の都の襲撃

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黒竜ヴェルトとの死闘から三日が過ぎた。骸の山を越えた先に広がっていたのは、砂と風に支配された大地だった。どこまでも続く金色の砂丘。その果てに、蜃気楼のように揺らぐ巨大な都市の影が見える。そこが――砂の都バルタリア。かつて王国に次ぐ賢者と商人の都として栄えた場所だ。  
「思ってたより……生きてる感じの街だな。」カイルが呟く。  
「戦火を避けた少数民族の集落が集まって、再建したらしいわ。」リナが地図をたどりながら言う。「でも最近、影の軍勢が出没しているって噂もある。油断は禁物ね。」

リオンは馬の歩を止め、遠くの空を見つめた。青いはずの天に、薄黒い筋がいくつも走っている。あれは竜の瘴気――ヴェルトの残り香だった。戦いの影響はまだ世界に残っている。  
「竜の力がなくなったわけじゃない。」リオンの声には静かな決意があった。「滅びの輪を切っただけで、世界はまだ揺らいでる。だから俺たちは……もっと先へ行く。」  
「でも、血を吐くような戦いはこれきりにしてほしいな。」カイルが笑う。「次はもう少し、のんびり仕事がしたい。」  
リナも微笑み、リオンの肩に手を置いた。「休息もまた旅の一部よ。今だけは、少し息をつきましょう。」

夕刻、三人はバルタリアの城門をくぐった。砂の風が街路の隙間を走り抜け、香辛料と鉄の匂いが混じる。市場は活気に満ち、旅人や行商人たちの声が賑わいを生んでいた。  
「よぉ、外界から来た連中は久しぶりだ!」陽気な行商人がリオンの腕を掴んだ。「王都はどうなった?まさか竜が本当に現れたって話は信じてはいねぇが!」  
「竜は確かに現れた。」リオンは軽く答え、男は口を閉ざした。冗談じゃなかったのだと理解した瞬間、周囲の空気がわずかに冷えた。  

宿を取り、簡易な食事をとりながらリナが話す。「この街には“砂の賢者”がいると聞いたわ。彼は古代の魔法体系を研究していて、王国成立以前の伝承にも詳しいらしい。」  
「その賢者が、次の手がかりを知っているかもしれないな。」リオンがうなずく。  
「なら、明日向かおう。」カイルがパンを千切りながら言った。「ただ、俺たちが来たことを嗅ぎつけた連中がいなきゃいいが。」  

その夜、風が急に荒れた。宿の窓を叩く砂の音が響き、遠くから金属のぶつかる音が聞こえてきた。リナがベッドから跳ね起き、魔光石を灯す。外は暗く、風に混じって人の叫び声が聞こえた。  
「何か起きてる!」彼女が叫ぶと、リオンはすでに剣を掴んでいた。  
「城門の方だ。行くぞ!」  

外に出ると、街は混乱に包まれていた。黒ずんだ影が砂煙の中から現れ、人々を襲っている。甲冑を纏った影の兵――黒月騎士団の残党だった。燃え上がる火が風に煽られ、空へと舞う。  
「まさか、生き残りがいたとは!」カイルが矢を構える。  
リオンは剣に光を宿す。「まだ“滅びの輪”を信奉する者がいるんだ。放っておけない!」  

戦いが始まった。リオンの刃が閃き、蒼い軌跡を描いて影を切り裂く。だが敵の数は多い。影は倒れても霧のように再生し、幾度も立ち上がる。リナが詠唱を唱え、地面に魔法陣を展開した。  
「光よ、砂を浄め、闇を裂け!」  
砂の粒が浮かび上がり、周囲に光の雨が降り注ぐ。影が光に晒され、苦悶の声をあげて消えていく。  
「助かった、リナ!」リオンが叫ぶが、彼女は疲労で膝をついた。  
カイルが影の指揮官と思しき男の兜を矢で撃ち抜く。「長くはもたねぇぞ、早く止めを刺せ!」  

リオンが最前線に躍り出たそのとき、突如空から黒い閃光が落ちた。地面が爆ぜ、砂が吹き飛ぶ。そこに現れたのは、黒い外套を纏ったひとりの男――杖を持つ長身の影。  
「あれは……!」リナの声が震える。「影の使い……フィアル!?」  
リオンは目を見開いた。  
「どうしてお前がここに……!」  
フィアルは冷たく笑った。「リオン。いや、滅びの王ルシエル。お前が輪を断った瞬間、世界は均衡を失った。黒竜を眠らせたことで、闇は主なきまま膨張を始めたのだ。」  
「嘘だ……俺は――」  
「お前が救ったと思ったもの、その裏で新たな滅びが生まれている。バルタリアはその最初の礎だ。」  

彼の杖から放たれた黒い光線が街を薙ぎ払う。建物が砕け、砂煙が舞う。人々の悲鳴が渦のように響いた。リオンは仲間を庇いながら地面に倒れた。  
「フィアル、お前……何を企んでいる!」  
「滅びを完成させることだよ。真なる王の再臨――それこそがこの世界の正義だ。」  

黒い光が再び集束し、彼の背に巨大な影の翼が広がる。  
リナが立ち上がり、杖を構えた。「あなたも……輪に縛られた者なのね!」  
「違う。私は“輪”の外にいる者だ。そして、滅びの王を再びこの手に還す。」  

「そんなこと、させない!」リオンが立ち上がり、剣を構える。剣の光が闇を裂き、二人の魔力がぶつかる。空が轟き、砂の嵐が街全体を飲み込んだ。  

戦いの風の中、フィアルの声だけが響く。  
「リオン、目を覚ませ。滅びの王は死なない。お前自身が――滅びなのだ。」  

光と闇の爆発が街を包み、夜空が裂けた。次の瞬間、全ての音が消え、世界が白い光に覆われた。  

静寂の後には、瓦礫と粉塵だけが残った。遠くで燃える火の中から、リオンの姿がゆっくりと現れる。手の中の剣は砕け、光を失っていた。  
リナとカイルが駆け寄る。「リオン!無事なの!?」  
「俺は……大丈夫。」リオンが息を荒げながらも立ち上がる。「だが……フィアルは逃げた。」  

カイルが拳を握りしめた。「あの野郎、街を滅茶苦茶にしやがって!」  
リナが震える声で言う。「フィアルは言ってた。新たな滅びが生まれてるって……まさか……」  
リオンは空を見上げた。雲の切れ間から赤い光が滲み、まるで血のように夜を染めている。  
「滅びは終わっていない。まだ、輪は閉じていないんだ。」  

燃える街を背に、三人は静かに立ち尽くした。熱風が頬をなで、遠くで瓦礫が崩れる音がした。  
リオンは砕けた剣の欠片を拾い上げ、握りしめる。  
「もう一度、鍛え直すさ。この火の中から。フィアルを止めるために。」  
「次の戦いは、きっとこれまでで一番厳しい。」リナの声が静かに響く。  
「それでも進むさ。俺たちの選んだ道だから。」リオンは小さく笑った。  

黒い煙が空を覆う中、遠方に光の線が走る。まるで新たな運命が呼んでいるかのように。  
砂の都の夜はまだ終わらない。滅びの輪の真実が、次の地でついに明かされようとしていた。  

(続く)
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