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第22話 崩れゆく城壁
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山頂を覆う光の柱が収まったとき、世界は一瞬の静寂に包まれた。吹雪も風も止み、空は深い紫を湛える。足元の雪が淡く光り、音ひとつしない景色が広がっていた。リオンはゆっくりと息を吐いた。胸に宿る竜の涙の光がまだ脈打っている。彼の周囲には、騒然と転がる瓦礫と焦げた地面が散らばっていた。
「……終わったのか?」
リナのかすれ声が背後から聞こえた。
「一時的に封じた。だが、まだ終わってはいない。」リオンは眼下に広がる風景を見下ろす。遠くには雪解けした谷が広がり、かつての王都ルディアンの遺跡が白い霧の中から姿を覗かせていた。
「最初の王国が滅びた場所……あそこに、最後の輪があるはずだ。」
カイルが剣の柄を肩に担ぎながら苦笑する。「どうせそう言うだろうと思ってたよ。だが、街はもう影だらけだろ。今度ばかりはどうする?」
「行くしかない。フィアルの本体はあそこにある。俺たちの足で終わらせるんだ。」
リナは瞳を閉じて小さく頷いた。「この空の震え方……急がなければ間に合わないわ。滅びはもう世界の根にまで浸透している。」
リオンは剣を握り直した。蒼銀の刃が震え、かすかな声を放つ。竜たちの意志がまだこの剣に宿っているように思えた。
雪解けの水を踏みしめながら、三人は山を下り始めた。空が次第に赤く染まり、地平の向こうで稲光が走る。黒い雲が渦を巻き、まるで何かを飲み込もうとするように集まっている。
険しい斜面の途中で、一行は村の廃墟に辿り着いた。家々は焼け焦げ、壁は半ば崩れ、氷のように冷たい風が吹き抜けていく。リオンが家の跡の前で立ち止まった。「ここ……どこかで見たことがある……」
リナが静かに答えた。「千年前、ルシエルが最初に滅びを生んだ村。伝承にあった場所よ。」
「つまり、俺の罪の始まりの場所……」リオンの視線が床に落ちる。
カイルが口笛を吹いた。「罪だの輪だのって言葉、もう聞き飽きたぜ。お前はその時代とは違うだろ?なら関係ねぇさ。」
「そう言えるなら、羨ましい。」リオンは小さく笑ったが、声には疲労が滲んでいた。
その時、地の底から低いうなりが響いた。地面が波打ち、黒い霧が立ち上る。瓦礫の影から、鎧を纏った亡者たちが姿を現す。目は赤い光を灯し、口からは呻き声が漏れている。
「またか!」カイルが矢を番える。
「いいえ、前とは違うわ。」リナが一歩下がり、結界を張る。「彼らは……この土地そのものに縛られた者。」
「輪の守護者か。」リオンが剣を掲げると、銀の光が空を裂いた。亡者たちは一斉に駆け寄り、黒い剣を振り下ろす。
光と闇がぶつかり、地響きが広がる。
リオンが一体を斬るたびに影が霧散し、黒い光の粒が風に溶けていく。だが、その数は減らない。
「無限再生だ!」カイルが叫ぶ。「いくら斬ってもきりがねぇ!」
「この地自体が輪の一部なの。封印を破らない限り、何度でも蘇るわ!」リナの魔法で炎が弾ける。亡者たちが光に焼かれ、一瞬だけ退いた。
リオンは剣を地に突き立て、目を閉じた。「シェリア……力を貸してくれ。」
刃から放たれた光が地面に流れ込み、広場全体を覆う。地の底から蒼き竜の声が響いた。
――この地を救うのは悔恨ではなく赦し。輪を断つには、過去を受け入れよ。
「赦すだと……?」リオンが呟く。
――彼らを滅ぼすのではない。解き放て。
リオンは大きく息を吸い、剣を横薙ぎに振った。広がった光が亡者たちを包み込む。光に包まれた彼らの顔がわずかに柔らぎ、赤い瞳が青に変わった。
「ルシエル様……」幾千もの声が同時に響く。「ようやく……あなたの罪が報われる。」
「違う、俺じゃない。だが……ありがとう。」リオンがそう告げた瞬間、亡者たちは安らかな表情で霧となり、空へ還った。
静寂が訪れる。地面の亀裂から黒い霧が消え、残されたのは柔らかな蒼光だけだった。
カイルが肩の息を整えながら呟く。「地獄みたいな場所だが、今だけは……少し救われた気がするぜ。」
リナは空を見上げた。「過去の輪が少しずつ解けていく。だけど、残る一つ……最も強い輪がまだ残ってる。」
突然、空が紅く染まった。
遠くの地平で、巨大な城壁が音を立てて崩れていく。かつての王都ルディアン、その中心の塔が黒い煙を上げながら傾いていくのが見えた。
「まさか、フィアルがもう――!」リナが息を呑む。
「動きが早すぎる!」カイルが呻いた。
リオンは剣を収め、視線を上げる。「行くぞ、二人とも。あれが最後の戦いだ。」
山から吹き下ろす風に、焼けた土の匂いが混じる。空では雷雲が渦を巻き、赤と黒がぶつかり合っている。
リナが胸元の宝珠を握り締めた。「リオン、この戦いを終えたら……あなたは……」
「分かってる。」リオンの声は穏やかだった。「だけどもう迷わない。俺がどうなっても、お前たちがいる世界が続けばそれでいい。」
カイルが拳で彼の背を叩いた。「それは違うな。お前も一緒に生き残るんだ、王様。」
リナも微笑む。「そうよ。この旅は、帰る場所を取り戻すためのものだもの。」
三人は互いの顔を見て頷くと、崩れ落ちる王都へと駆け出した。雪が風に舞い、世界が燃えるような赤に染まっていく。
岩の裂け目を抜け、彼らは広大な谷を越える。下方では、黒い霧が街を覆い、建物が次々と呑まれていた。
その中心――王城の塔の上に、黒い翼を広げた人影が立っている。フィアルだ。
リオンは立ち止まり、息を整えながら小さく呟いた。「俺のせいで作られた世界なら、俺の手で終わらせる。だが、終わりは破壊じゃない。新しい始まりにする。」
リナが目を細める。「滅びを希望に変えるのね。」
「それが俺の光だ。」
風が止まる。嵐の前の静寂。世界が息を潜めた寸刹。
リオンは剣を抜き、刃先を光へ向けた。
空に再び蒼月が現れ、その光が彼らを照らす。
「さあ、行こう。輪の果てへ――。」
雪を踏みしめ、三人は崩れゆく王都へと突入した。熱風が吹き荒れ、彼らの身体を焼く。それでも、誰ひとり立ち止まらなかった。
滅びの終着点は、いま眼前にあった。
(続く)
「……終わったのか?」
リナのかすれ声が背後から聞こえた。
「一時的に封じた。だが、まだ終わってはいない。」リオンは眼下に広がる風景を見下ろす。遠くには雪解けした谷が広がり、かつての王都ルディアンの遺跡が白い霧の中から姿を覗かせていた。
「最初の王国が滅びた場所……あそこに、最後の輪があるはずだ。」
カイルが剣の柄を肩に担ぎながら苦笑する。「どうせそう言うだろうと思ってたよ。だが、街はもう影だらけだろ。今度ばかりはどうする?」
「行くしかない。フィアルの本体はあそこにある。俺たちの足で終わらせるんだ。」
リナは瞳を閉じて小さく頷いた。「この空の震え方……急がなければ間に合わないわ。滅びはもう世界の根にまで浸透している。」
リオンは剣を握り直した。蒼銀の刃が震え、かすかな声を放つ。竜たちの意志がまだこの剣に宿っているように思えた。
雪解けの水を踏みしめながら、三人は山を下り始めた。空が次第に赤く染まり、地平の向こうで稲光が走る。黒い雲が渦を巻き、まるで何かを飲み込もうとするように集まっている。
険しい斜面の途中で、一行は村の廃墟に辿り着いた。家々は焼け焦げ、壁は半ば崩れ、氷のように冷たい風が吹き抜けていく。リオンが家の跡の前で立ち止まった。「ここ……どこかで見たことがある……」
リナが静かに答えた。「千年前、ルシエルが最初に滅びを生んだ村。伝承にあった場所よ。」
「つまり、俺の罪の始まりの場所……」リオンの視線が床に落ちる。
カイルが口笛を吹いた。「罪だの輪だのって言葉、もう聞き飽きたぜ。お前はその時代とは違うだろ?なら関係ねぇさ。」
「そう言えるなら、羨ましい。」リオンは小さく笑ったが、声には疲労が滲んでいた。
その時、地の底から低いうなりが響いた。地面が波打ち、黒い霧が立ち上る。瓦礫の影から、鎧を纏った亡者たちが姿を現す。目は赤い光を灯し、口からは呻き声が漏れている。
「またか!」カイルが矢を番える。
「いいえ、前とは違うわ。」リナが一歩下がり、結界を張る。「彼らは……この土地そのものに縛られた者。」
「輪の守護者か。」リオンが剣を掲げると、銀の光が空を裂いた。亡者たちは一斉に駆け寄り、黒い剣を振り下ろす。
光と闇がぶつかり、地響きが広がる。
リオンが一体を斬るたびに影が霧散し、黒い光の粒が風に溶けていく。だが、その数は減らない。
「無限再生だ!」カイルが叫ぶ。「いくら斬ってもきりがねぇ!」
「この地自体が輪の一部なの。封印を破らない限り、何度でも蘇るわ!」リナの魔法で炎が弾ける。亡者たちが光に焼かれ、一瞬だけ退いた。
リオンは剣を地に突き立て、目を閉じた。「シェリア……力を貸してくれ。」
刃から放たれた光が地面に流れ込み、広場全体を覆う。地の底から蒼き竜の声が響いた。
――この地を救うのは悔恨ではなく赦し。輪を断つには、過去を受け入れよ。
「赦すだと……?」リオンが呟く。
――彼らを滅ぼすのではない。解き放て。
リオンは大きく息を吸い、剣を横薙ぎに振った。広がった光が亡者たちを包み込む。光に包まれた彼らの顔がわずかに柔らぎ、赤い瞳が青に変わった。
「ルシエル様……」幾千もの声が同時に響く。「ようやく……あなたの罪が報われる。」
「違う、俺じゃない。だが……ありがとう。」リオンがそう告げた瞬間、亡者たちは安らかな表情で霧となり、空へ還った。
静寂が訪れる。地面の亀裂から黒い霧が消え、残されたのは柔らかな蒼光だけだった。
カイルが肩の息を整えながら呟く。「地獄みたいな場所だが、今だけは……少し救われた気がするぜ。」
リナは空を見上げた。「過去の輪が少しずつ解けていく。だけど、残る一つ……最も強い輪がまだ残ってる。」
突然、空が紅く染まった。
遠くの地平で、巨大な城壁が音を立てて崩れていく。かつての王都ルディアン、その中心の塔が黒い煙を上げながら傾いていくのが見えた。
「まさか、フィアルがもう――!」リナが息を呑む。
「動きが早すぎる!」カイルが呻いた。
リオンは剣を収め、視線を上げる。「行くぞ、二人とも。あれが最後の戦いだ。」
山から吹き下ろす風に、焼けた土の匂いが混じる。空では雷雲が渦を巻き、赤と黒がぶつかり合っている。
リナが胸元の宝珠を握り締めた。「リオン、この戦いを終えたら……あなたは……」
「分かってる。」リオンの声は穏やかだった。「だけどもう迷わない。俺がどうなっても、お前たちがいる世界が続けばそれでいい。」
カイルが拳で彼の背を叩いた。「それは違うな。お前も一緒に生き残るんだ、王様。」
リナも微笑む。「そうよ。この旅は、帰る場所を取り戻すためのものだもの。」
三人は互いの顔を見て頷くと、崩れ落ちる王都へと駆け出した。雪が風に舞い、世界が燃えるような赤に染まっていく。
岩の裂け目を抜け、彼らは広大な谷を越える。下方では、黒い霧が街を覆い、建物が次々と呑まれていた。
その中心――王城の塔の上に、黒い翼を広げた人影が立っている。フィアルだ。
リオンは立ち止まり、息を整えながら小さく呟いた。「俺のせいで作られた世界なら、俺の手で終わらせる。だが、終わりは破壊じゃない。新しい始まりにする。」
リナが目を細める。「滅びを希望に変えるのね。」
「それが俺の光だ。」
風が止まる。嵐の前の静寂。世界が息を潜めた寸刹。
リオンは剣を抜き、刃先を光へ向けた。
空に再び蒼月が現れ、その光が彼らを照らす。
「さあ、行こう。輪の果てへ――。」
雪を踏みしめ、三人は崩れゆく王都へと突入した。熱風が吹き荒れ、彼らの身体を焼く。それでも、誰ひとり立ち止まらなかった。
滅びの終着点は、いま眼前にあった。
(続く)
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